第148号
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天津:若手研究者が基礎研究の助成金を受けやすい環境に

2019年1月18日 孫玉松(科技日報記者)

 南開大学生命科学学院の陳凌懿氏は、「細胞外シグナル調節キナーゼ(Erk)コントロールの多能性とテロメア長の分子メカニズム」という課題で、天津市の科学技術関連当局に、100万元(1元=約16円)の科学研究助成金を申請し、取得した。これは、陳氏の科学研究人生において得た助成金としてははじめての大きな金額の助成金だった。以前なら、そのような基礎系研究課題の場合、助成金を申請が難しかったばかりでなく、取得できたとしても最高で6万元しか取得できなかった。

 このような変化が起きているのは、基礎研究を行う若手が科学研究助成金を取得しやすい政策が打ち出されていることが背景にある。現在、この政策が機能し、天津の大学や研究機関が若手科学者が基礎研究に打ち込めるようサポートし、若手がイノベーションの模索を奨励することのできる良いムードを作り出している。

助成金の4割は若手に交付

 応用系科学研究と比べると、基礎研究はあまり人気がない。研究周期が長いわりに、交付される科学研究助成金が少ないため、若手研究者がしり込みする原因になっている。以前、天津青年科学基金は35歳以下の若手科学技術人材だけを対象に助成金を交付し、助成人数は年間最多で150人、助成金は1人当たり最高で6万元だった。2018年12月29日、天津市科技局基礎研究処の金双龍・処長は、「毎年、助成を受けられる人数は多いものの、1人当たりの助成金が少ないため、思い通りの研究成果を得ることは難しかった。基礎研究の分野の若手研究者は、科学研究の蓄積、助成金調達などの能力が低く、じっくりと我慢して研究を続けるよう、彼らを励ますためには、科学技術関連当局が長期にわたってサポートしなければならない。」と指摘した。

 そのため、天津市は、「薬味」のような科学研究助成金の交付方法を改革し、2017年から、助成範囲を縮小する一方で、一つの研究課題に対して交付される助成金を大幅に増やした。特定項目資金を年間3000万元確保し、厳選した30人に、一人当たり100万元を交付するように取り決めた。

 金処長は、「基礎研究の面で既に際立った成績を収めている若手研究者を、重点的にサポートする。助成するプロジェクトに、ハードルや特定の方向は設定されていない。申請する若手研究者は、課題や研究の方向性を自分で選んで、イノベーション、研究を展開することができる」と説明する。

 政策が実施されているのを背景に、天津は毎年、若手研究者サポートのための科学研究助成金が、基礎研究経費全体の45%以上を占めるようになっており、2019年にはその割合が大幅に増加すると見られている。

若手のためにグリーンチャンネル(簡便なルート)を切り開く

 南開大学化学学院の牛志強教授は、「カーボンフレキシビリティエネルギー貯蔵デバイス」という研究課題で、助成金を申請し、2018年度天津傑出青年基金を取得した。課題研究の関係で、牛教授は他の学校を訪問したり、出張に行ったりしなければならず、とても忙しく、疲れるものの、出張費が規定を越えないかなどを心配する必要は全くない。

 科学研究助成金の申請や管理、使い方の話になると、牛教授は、「助成金の使い方は、自分たちで決めることができる」と絶賛した。

 限りある科学研究助成金が、牽引的役割を存分に発揮できるよう、天津市科技局はその申請や使い方、監督、管理など全体を最適化し、改めた。

 天津市科技局基礎研究処の副調研員・郭彤氏は、「当局の目標は一つ、助成金の使い道が大きく道を逸れないことを前提に、研究業務や課題研究をできるだけスムーズに行うことだ」と説明し、それを「若手学者のためにグリーンチャンネルを切り開くこと」と表現する。

 「博士号や一定の肩書があり、年齢が40歳未満で、天津市が管轄する区内の大学、研究機関、企業に正式に招聘されて、現在正規の人員として働いている科学技術者で、さらに、プロジェクトが実施されている期間、少なくとも年間9ヶ月出勤していれば、申請することができる。天津傑出青年基金は、オンラインで簡単に申請することができ、誰かと面会する必要はなく、(オンライン上の)質問に答えて、認可されれば、助成金全額が一括で交付される」と説明する。

 取材では、助成金の申請はとても簡単であるばかりでなく、若手研究者の研究への情熱を刺激するため、天津市科技局は、助成金の監査・管理などの面でも、若手研究者のために「特別待遇」を準備していることが分かった。郭氏によると、助成プロジェクトは、客観的な原因や特別な状況が発生したために、研究課題が期日までに終了しなかった場合、責任者は延長申請をして、主管当局の審査を通れば、1度限り、1年未満で延長することができる。その他、科学研究助成金の会議費や出張費、国際協力・交流費の3項目の費用は、別々に上限を定めるのではなく、総額が直接費の10%を超えないことを前提に、プロジェクト責任者が、予算の根拠を提出する必要はない。さらに、科学研究プロジェクト関連の国際協力・交流費は『三公経費(財政予算から支出される海外への出張費、公用車の購入・維持費、公務としての接待費)』には盛り込まれない」とのことである。

 このような管理方法は、若手研究者が基礎研究に打ち込むための熱意を大きく刺激し、良い成果を生んでいる。2018年12月、助成金を受ける牛教授は、セパレーターを調節して、窒化インジウムナノワイヤをリチウム・硫黄電池に採用し、リチウム・硫黄電池のシャトル効果を抑制し、電池のサイクル寿命を顕著に向上させた。

若手が「主役」に

 南開大学の若手研究者・貢紅日氏、許傲氏は指導教員の指導の下、結核菌エネルギー代謝の謎を解明し、新しい抗結核薬を研究開発するための新たな道を切り開いた。天津大学化工学院の謝沢雄助教授は、初めて自主設計・合成した5号出芽酵母環状染色体の遺伝子組み換えを行い、環状染色体の構造変異や機能の研究に新たな考えの筋道や型を提供した。天津理工大学の丁軼教授ら9人は、2018年国家傑出青年基金の助成対象に選出され、基礎研究のモノレイヤボロフェンの成長、表面修飾膜の研究などの分野でブレイクスルー的成果を挙げ、酵母常染色体の的を絞ったカスタム合成は、中国科技部の「2017年度中国科学十大進展」の一つに選出された。

 若手研究者が助成を受けやすい政策が打ち出され、より多くの若手研究者が基礎研究分野の「主役」になれるようになっており、天津の基礎研究全体のレベルの向上を促進している。

 天津市科技局の戴永康局長は、「政策を借りて優れた研究者を厳選して、自主的に課題を選び、自由に研究するよう提唱することにより、研究に専念できる雰囲気、科学研究に没頭できる環境づくりができており、天津はハイレベルの若手学術チームの育成ができるようになっている。そして、関連の学科の発展と繁栄を牽引するのみならず、優位性を誇る学科が発展して世界一流になれるよう促進すると同時に、手薄だった学科を強化し、新興の学際的研究を育成し、さらに、ハイレベルの研究成果の誕生を促している」と評価している。


※本稿は、科技日報「天津:基礎研究経費向青年人傾斜」(2019年1月2日付1面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。