第148号
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天津:経費管理を円滑化しイノベーションに活気もたらす

2019年1月29日 孫玉松(科技日報記者)

 経費を支出するときは毎回報告を書き、精算するときは複数の担当者にサインしてもらわなければならないことも多い。以前の財政科学研究経費管理の方法では、知らず知らずのうちに研究者を縛り、研 究開発に対する熱意を削いでいた。そこで、天津市のテクノロジー関連当局は2018年の春から積極的に「引き算」を実施し、財政科学研究プロジェクト資金の管理プロセスを減らすよう改革し、研 究者に伸び伸びと研究を行ってもらえる一連の激励措置と方法を講じている。現在、科学研究経費の分野で、「放管服改革(行政のスリム化と権限委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化)」を継続的に実施し、研 究者がイノベーションに打ち込めるようサポートするほか、科学研究成果の転移を加速させている。その甲斐あって、最近開催された中国国家科学技術奨励大会で、天津は9つの賞を獲得した。

科学研究経費の使用が簡単に

 南開大学化学学院の李偉教授は最近、担当する研究課題に、新しい器具、設備が必要であるため、リストをオンラインで申請したところ、わずか一週間でそれらを購入することができた。以前なら、同 様の大型器具、設備を購入するには、1ヶ月、長い時にはそれ以上待つ必要があった。同じように、天津財経大学の教師・馮博氏も最近、約1,800元(1元=約16円)の科学研究参考書を購入。領 収証を提出してから半日で、立替金が返ってきた。馮氏は取材に対して、「以前なら、このような経費は、研究機関、大学、学部など4-5の部門サインが必要で、少なくとも一週間以上待たなければならなかった」と 話した。

 この2人の研究者は、所属する大学の財政科学研究経費プロジェクト管理の改革、整備の受益者だ。天津財経大学を例に挙げると、科学研究経費の使用効率を向上させ、経費の運用プロセスを短縮するために、2 018年から、科学研究プロジェクト経費に、プロジェクト責任者制を導入し、支出が3,000元以下の場合、プロジェクト責任者のサインさえあれば、財務部に直接立替金の精算を申請できる。南開大学では、研 究者がプロジェクトにかかった費用すべてを、自分でオンライン申請することができるようになったため、研究者が各部門に足を運ぶ時間が省けた。

 天津市科技局の調査によると、同市の科学研究経費管理は「行政のスリム化と権限移譲」の政策の下、2018年12月の時点で、天津南開大学天津大学、ほとんどの市属大学、プ ロジェクトを担当する多くの研究機関が、実際の状況に基づいて関連の内部制度を制定、改定し、研究機関と研究者がプロジェクト経費を自主的に管理する権限を拡大し、多 くの研究者がイノベーションや業務に熱心に打ち込むことができるように促している。

規則の簡略化

 取材では、プロセスをさらに円滑化し、経費予算管理と調整の権限移譲のために、天津市はプロジェクト資金管理弁法を2項発表し、13の予算科目を10科目に削減し、資金の配分、使 用などの面でブレイクスルーを実現した。1月8日、南開大学科技処の責任者・王氷氏は取材に対して、「以前は科学研究経費を使う時、『醤油を買うお金で、酢を買う』ことはできなかった。で も今はもっと臨機応変に使えるようになった。今までは、経費を使う時は、まず、予算を決める時に、用途を示す必要があり、突発的な協力・交流などの場合、使える額に制約があった」と説明した。しかし、新 しい政策が実施されて以降、財政科学研究経費が支給されてからは、会議費、出張費、国際協力・交流費の3項目に分けるだけでよく、総額が直接費用の10%を超えないことを条件に、プ ロジェクトを担当する機関は予算の根拠を提出する必要がなくなった。また、科学研究プロジェクトのうち国際協力費は三公経費(海外出張費・公務接待費・公用車経費)の統計には盛り込まれなくなった。

 このほか、天津は全国に先立ち、「間接費用を増やし、成果が出るようサポートを強化する」という科学研究経費使用管理方法を打ち出した。現在、天 津は公開競争スタイルを採用している研究開発系プロジェクトに対して、一定の割合で間接費用を設定している。うち、直接費用から設備購入費を差し引いた総額が500万元以下の場合20%、500万‐1 000万元の場合15%、1000万元以上の場合13%と設定されている。

 市級財政性資金から助成される市級自主イノベーションプロジェクト計画の中のソフトサイエンス研究プロジェクト、ソフトウエア開発プロジェクト、コンサルタント系プロジェクト、イノベーション・哲学・社 会・科学プロジェクトの成果支出の割合は、プロジェクト経費から設備設置費を差し引いて最大60%となっている。1月8日、天津市科技局条件財務処の邢向東処長は取材に対して、「間接費用は主に、プ ロジェクトを担当する機関のコスト、研究者の成果に対する奨励に用いられる。成果支出は、研究者のプロジェクト業務における実際の貢献に応じて交付されるべきで、成果給与総額とは別にしておくべきだ。現在、プ ロジェクト予算の制定から実行、経費支出の完了までの全てのプロセスがほぼ開通し、研究者と機関に十分の自主権が与えられている。改革により、研究開発の規律を守りながら、非 研究業務などの科学研究に対する足かせを最大限なくし、収入などの面でポジティブインセンティブを実施し、研究者がもっと研究に没頭できるようにする」との見方を示した。

研究者が研究に多くの時間を使えるようサポート

 天津大学精儀学院の劉琨教授が担当する光ファイバーセンサー技術をめぐるプロジェクトでは、天津天地偉業公司と連携し、中国で初めて、それを広く応用できる精度の高いセキュリティ・プ ロテクションシステムを開発した。また、七所高科技有限公司が担当した科学研究課題は実用化に成功した後、中国のレキシブルロボットをめぐる技術の空白を埋ることに成功した。科 学技術の深化とプロジェクト資金管理改革などの対策実施により、研究者のイノベーションや起業に対する積極性が向上しているほか、天津のテクノロジー成果の実用化も間接的に促進されている。昨年だけを見ても、天 津の技術取引市場では、各種実用化・権利譲渡の契約が1万2000件に達し、取引総額は650億元以上と、2.6倍増加した。

 研究者は今、負担が減り伸び伸びと研究できるようになっており、天津の科学技術研究成果の市場化、実用化のクオリティ向上という新しい局面が急速に形成されている。天津市科技局の戴永康局長は、「 2019年、天津のテクノロジー関連当局は、『1ヶ所でも足を運ばなければならない部門を減らし、待ち時間を1日でも減らし、必要なサインを1つでも減らす』ことを改革の目標に掲げ、科 学研究管理において細かく煩わしい規則や手続きをさらに削減するよう取り組み、研究者の足かせとなっているものや煩わしい雑用を減らし、科学研究や自由な探求により多くの時間を使える」としている。


※本稿は、科技日報「天津:簡化経費管理 釈放創新活力」(2019年1月16日付1面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。