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「診療」から「大健康」へ―ターニングポイントを迎えたインターネット医療

2019年1月22日 趙一葦(『中国新聞週刊』記者)/脇屋克仁(翻訳)

 この秋公布された3本の中央法規――「オンライン診療管理弁法(試行)」「インターネット病院管理弁法(試行)」「遠隔医療サービス管理規範(試行)」で、ようやくルールと方向性がみえてきた中国インターネット医療。しかしネット医療を実体医療の補助と位置付けるこれらの新法規は、この分野における企業の役割をかなり限定することになるものだ。企業は今後どのようなビジョンを描けばよいのか。ネット医療業界のセカンドステージが始まった。

 新法規では、まず医療分野におけるインターネットの活用とそこで提供されるサービスは、コア業務とノンコア業務の2つに峻別することを明確にした。さらに、診断や治療におよぶコア業務として遠隔医療・オンライン診療・ネット病院の3つをあげ、国が求める医療水準を厳守しなければならないとしている。他方、健康コンサルティングや情報サービスを主とするノンコア業務はあくまで補助・支援業務に属するものとし、ネットでは診療などのコア業務を展開してはならないとした。

 これにより、早くからネット医療の代名詞にもなってきた「軽問診」〔日常的な健康・医療相談〕は管理が厳しくなる。また、実体医療機関を持たない企業は、診療関連の業務を一段と縮小していかざるを得ない。こうした企業は、健康コンサルティングや公衆衛生サービスを柱とする「大健康」産業へと次第に方向転換していくことになるだろう。

 業界内には「これほど細かく指針を定めた法規はいままでなかった」「サービスの方向性や企業の進むべき道が明確になった」との意見もあるものの、多くの企業からは「規範化が進むという点では間違いなく意義深いが、個別具体的ルールは依然として実情を無視している。業界のイノベーションにとって足かせになる」という憂慮の声も聞かれる。たしかに現状をみる限り、新法規は企業の次なる成長モデルに難題を突きつけたかっこうだ。インターネット医療の業界地図も一度は必ず塗り替えられることになるだろう。

急成長の反動で一時は存立の危機に

 生みの苦しみから突然の「大ブレーク」まで4年近くを要したインターネット医療。しかし、その後はバブル崩壊の沈滞期が続いていた。

「モバイル医療元年」といわれる2014年。この年、中国モバイル医療の市場規模は30億元に達した。

翌年、「インターネット+」の長期計画のひとつに「インターネット+医療」が組み入れられると、管理政策も市場も未成熟ななか、この分野に膨大な資本が投入され、モバイル医療関連の企業が雨後の筍のように誕生した。2012年からの4年間、インターネット医療の年平均成長率〔CAGR〕は38.7%、2016年の市場規模は109億元となった。

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 敷居が低かったので次から次へと業者が参入、その数が増えるにしたがって市場は混沌の度を増していった。

 それでも明確な規範は出されなかった。そのため、インターネット医療業界は「グレーゾーン」だと思いつつも手さぐりで進むしかなかった。違法すれすれの行為も多かった。

 「軽問診」の看板をかかげ、「オンライン医師」「医療コンサルタント」「医療サービス」をうたい文句に悪質な「客引き」をおこなう「ネット医託」、不正なリスティング公告やニセ医師、ニセ薬の告発が当時は後を絶たなかったという。やがて世論はネット医療正常化へと傾き始め、目が覚めたのか資本投資も急速に冷え込み、業界は一気に窮地に立たされた。

 こうして2016年下半期、市場は厳寒期に突入した。翌年には1000にものぼるネット医療関連企業が登記を抹消された。この淘汰の嵐を生き延びた企業は50にも満たない。「一時的な熱病がバブルを生み出した」。そう語るのは丁香園の創業者・李天天(リー・ティエンティン)氏だ。「資本力とテクニカルなサービスだけで生きていける世界ではない。確固とした医療地盤や独自のビジネスモデルを持たない企業は消えていく定めにある」

 投資の撤退が業界に理性を取り戻させたのだとすれば、昨年5月に明らかになった国家衛生・計画生育委員会の新法規「草案」が業界の大再編を一気に促進させることになったといえよう。

 オンライン診療を管轄する地方部門、実際に診療に携わる医師、さらには診療の中身や対象にまで規制の手を広げたこの「草案」は「歴史上最も厳しい方案」といわれた。それによれば、ネット医療機関はそれまでに得た開業許可をいったんすべて取り消され、15日以内に新ルールに基づき再認可を申請するよう義務付けられる。しかも、慢性病の再診以外はいかなる診療行為もおこなってはならないとされた。

 もしこの「草案」の通りに新法規が施行されていれば、インターネット医療企業の先駆者たちがこれまで積み上げてきたものはゼロに帰していただろう。

 実際、草案の内容が明らかになると、資本はよりいっそう二の足を踏むようになり、すでに準備段階に入っていたネット病院の開業はいったんストップ、体力のない小規模企業の倒産も相次いだ。

 幸いにも、新法規は「草案」のように実情を無視してすべてを禁止するものにはならなかった。「政府の姿勢にある種の包容力を感じとることができた。数多くの企業が事前の検討会に呼ばれ、採用された意見も少なくない。こうしてできた新法規は、ネット医療業界のこれまでの努力を真摯に受け止めたものになっている。これは企業にとっては励みになる。条件が備わっていれば果敢にチャレンジしていいということだ」(李天天氏)

「ツール化」――企業の前に立ちはだかる壁

 新法規のなかで最も業界が敏感に反応したのは次の2点だ。1つは、インターネット病院は実体のある医療機関に依拠して設置されねばならないという点。もう1つは、初診患者に対しオンライン診療を実施してはならないという点だ。

「ツール化をさらに進めるということだ」。そう語るのは清華大学医療管理センターの曹健(ツァオ・ジエン)氏。つまり、新法規は「病院のIT化」を随所で強調し、ネット医療の「インフラ化」を求めているという。「医療サービスの手段・方法や医療資源のマッチングモデルをグレードアップし、医療効率を上げる。ネット医療企業にはそのためのツールとなってほしいということだろう」

 しかし現状では、「ツール化」はネット医療企業の主たる成長ロジックにはなりえない。利益回収が難しいツール化された事業を柱にする企業は決して多くないのだ。

 阿里健康はツール化事業の代表格として、早くから医療機関のための情報プラットフォーム構築に力を注いできた。しかし、オフライン病院と提携してプラットフォームを建設するこの協力モデルはまだ試験段階で、まったく儲からないという。

 阿里健康の財務報告をみると、24億元を超える前会計年度の総収入のうち、実に23億元は医療品ネット通販関連の売上である。近年広く関心を集めている医療トレーサビリティや健康イノベーションに関連する事業は依然として初期段階にあり、膨大なコストを投じてはいるが収益は微々たるものだ。

 「医療品ECが盤石な収入源になっているからこそ、トレーサビリティや健康イノベーションなどにも十分な資金フローが確保できる」。阿里健康の担当者はそう話す。阿里健康の事業計画はすでに次の段階に入っており、医療情報プラットフォームの構築や医療分野での人工知能の活用に重点を置くことになるという。

 しかし、この計画に話が及んだ際、同担当者は率直に語ってくれた。「医療ビッグデータの設計、オフライン病院との提携によるツール化の推進、プラットフォーム建設――こうしたことに弊社ほどの資源と財力、モチベーションを投じているネット医療企業はほかにない。莫大なコストがかかるし、技術的ハードルも高い。しかも利益は不透明。企業の取るべき道としてはふさわしくないと思うのが普通だろう」

 本来不可欠であるはずの、既存医療機関との協力も壁になっている。「昔からの病院」は企業との提携にきわめて消極的だからだ。

 「ただの医療サービスのためのツール型プラットフォームは、ネット医療企業が期待し、期待されている新たな医療モデルではない」。そう語る李天天氏は、ネット医療と既存医療との関係を「2つのライン上に並ぶ同盟軍」と理解すべきだという。「ネット医療業界の価値は、既存の医療システムでは処理できない問題を解決するところにある。ネット医療と既存医療にはそれぞれの責任と強みがあり、両者は重ならない。互いに協力してすべてを網羅する産業チェーンをつくっていくべきだ」

 しかし、と同氏は続ける。「企業と病院の提携においては病院の方が強い立場にある。病院サイドは自分の持っている資源のうち、コアな部分、自身の強みに相当する部分はオープンにしたがらないのが普通だ。その結果、病院との提携を望むネット医療企業は、せいぜい診察予約システムや問診レベルでの援助しかできないことになる。コアな医療サービスにはタッチできないし、有効なビジネスモデルもまったくつくれない。結局、たくさんの病院と簡単に契約できても、実際にはできることがなにもないというジレンマに陥ることになる」

 曹健氏も「契約は簡単だが、資源を得ることは難しい」という。「企業と病院の提携が表面的なレベルに留まっていることは、実際には珍しくない。例えば、提携の要ともいえるデータ共有だが、現実にはほとんど進んでいない。技術や制度が未成熟な段階でのデータ共有に、病院サイドはきわめて保守的な態度をとっている。自分たちの優位性を守るためでもあるし、患者の個人情報を保護するためでもある」

難しい線引き、転換を迫られる企業

 既存医療機関の資源やノウハウを使ってオンラインで診療活動を展開する――新法規の公布で、ネット医療企業はもはやこのビジョンだけに頼ることができなくなった。自己の立ち位置を再定義する新たな理念が必要になった。それが「治療」から「予防」すなわち「健康の指南役」への転換だ。

 春雨医生はその先駆者といえるだろう。健康コンサルティングを入り口にして、そこからすそ野を開拓ていくことが、いま春雨医生の事業の中心になっている。

 「新法規の大部分は弊社と関係ないものだ」。春雨医生の広報課長譚万能(タン・ワンノン)氏はそう言いきる。健康コンサルティングを自己の立ち位置にしているため、実体医療機関を持たず、オンライン診療活動に該当する事業を展開していない。新法規に定められたインターネット医療に関する細則のほとんどが無関係というわけだ。

 とはいえ、春雨医生が展開する健康コンサルティングサービスのすべてが無関係というわけではない。唯一、縮小を余儀なくされる恐れがあるのは、春雨医生ならではともいえる瞬間マッチングシステムだ。「3、4分で適切な医師がみつかる」を売り文句にしたこのサービスは、文字通り4分以内に患者と専門医との正確なマッチングをおこなうものだ。しかも、コンサルティングのときに患者はこれまでの診断記録を医師に提示し、意見を求めることができる。症状からどのような病気だと考えられるか、何科にかかる必要があるのか、そうした説明も要求できる。

 しかし、曹健氏は次のように指摘する。「その医師が本物の医師であるという確認はどうやってするのか。コンサルティングと問診とをどのように線引きするのか。最も重視すべき問題はそこだ。3級甲等病院〔中国で最もレベルが高いとされる病院〕の専門医にもなれば多数のネット医療サービスと契約している。多忙ゆえに助手やインターンが問診を代行することもかつてはあった。短時間のやりとりで医師の身分を確かめるのは難しい」。しかし問題はそれだけではないという。「実際の患者と医師のやりとりでは、コンサルティングと問診との区別はかなり曖昧になる。それが問診上のアドバイスなのか、それとも診断結果なのか、一般の患者は区別できない。意図的にせよそうでないにせよ、患者を間違った方向に導く危険性が依然としてある」

 この点について、李天天氏は、オンライン診療における医師の話術も、区別を可能にする手段の1つになりうると考えている。例えば、症状の程度のアドバイスならコンサルティング、薬や治療方法の説明なら診療の範疇といったことだ。

 一方、初診をオンラインで実施る重大な弊害も指摘されている。曹健氏は流行性感冒を例にあげ、次のように説明している。「流感の初期症状は普通の風邪と同じ。対面での診療、検査なしに診断を下すことはきわめて危険だ。初期に適切な治療をしなければ、流感は重篤な結果を引き起こす。しっかりとした検査プロセスがあってはじめて誤診は防げる」

 李天天氏は、「初診の患者にオンライン診療を実施してはならない」という規定は、線引きの問題を再度明確にするよう企業に迫るものだという。

 「総論でいえば、医療品質保証の観点から管理監督部門がいろいろと考えるのはよくわかっている。オンライン診療の誤診率は、基礎情報の把握不足による根拠のない診断や処方のせいで上昇してきた。制度と技術が未成熟な現段階では、『初診禁止』が最も安全なやり方だろう」

 ただ、同時に李氏は期待をこめて次のように語る。「条件の整った地域では病種を限定してオンライン初診を解禁し、試験的取り組みを実施するなど、再検討の余地は残してほしい。新法規ができて、企業のコンプライアンス意識もおのずと向上するだろう。しかし、その一方で、実践のなかで遭遇する新たな問題、新たな状況およびその解決案を適時、政府にフィードバックし、政府もそれを受けてタイムリーな政策を出す――企業サイドはそういう状況を望んでいる。硬直的な禁止ルールはできるだけ少なくしてもらいたい」

 オンライン診療に携わる医師は専門の研修を受けるべきだと李氏は考える。患者がわかりやすく正確に自身の病状を伝えることができれば、誤診のリスクはある程度減る。患者をそこに導くのは医師の役割だということを理解してほしい。研修がその助けになればよい。将来、プラットフォームの管理水準が向上し、医師の能力が十分にレベルアップしたあかつきには、オンライン診療でも初診が実施できるようになるだろう。李氏はそう考える。

「大健康」産業に未来を託して

 新法規ができたことで、ネット医療は今後、「大健康」産業へと発展していくといわれている。

 「大健康産業には広範なニーズがあり、高成長を維持している。市場の前途は非常に明るい」(譚万能氏)。春雨医生にとって健康コンサルティングは入り口に過ぎない。ニーズのすそ野はそこから広がっていく。すそ野の広がりに応じて、具体的なニーズも細かく正確に把握できるようになる。その全体が「大健康」産業だ。そこには禁煙、ダイエット、健康器具、個人個人にあったライフスタイルの提案なども含まれる。

 フロリスト&サリバン社のレポートによると、医療・健康にかかわるオンラインコンサルティングのアクセス数が、近年中国では急速に伸びているという。2012年時点で2980万だったアクセス数が2016年には1憶4840万に達した。CAGRは実に49.4%、今後の予想も39.8%で、2026年のアクセス数は42億に達すると予想されている。同時に認知度も0.4%〔2012年〕から1.8%〔2016年〕に上昇しており、これも2026年には29.2%に達するという。

 インターネット医療の重要な構成要素としては、これ以外に薬品のB2C販売がある。

 フロリスト&サリバン社は次のように予測している。健康商品ECの普及、製薬会社のプレゼン拡大、処方箋公開化の大きな流れ、電子処方箋の普及――これらに伴い、中国の薬品B2Cチャンネルは49.9%の高いCAGRを維持し、2026年には6723億元の水準にまで到達するだろう。

 「既存の病院から患者を奪うつもりはない。われわれの顧客のニーズは病院でも解決できない。要するに互いに補いあう関係ということだ」(李天天氏)

 現段階では、オンライン診療システムの新法規だけでインターネット医療のすべてが見えてくるわけではない。「インターネット医療はあくまで情報技術に属する」と強調するのも、実体医療とネット医療との融合を図る必要が現実にあるからであり、これをそのままネット医療の将来的成長モデルに適用することはできない。今後、より全面的で体系的な「インターネット+医療」の綱領が完成したときにはじめて、インターネット医療業界は成熟し多様性に富んだビジネスモデルを自由に追求していけるのかもしれない。

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全国各地から集まった肝臓病専門医が上海市の患者に集団遠隔診療を実施。浙江省嘉興市の烏鎮インターネット病院遠隔診療ステーションにて。2016年9月10日。写真/視覚中国


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年1月号(Vol.83)より転載したものである。


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