第149号
トップ  > 科学技術トピック>  第149号 >  イノベーションシティ:「六朝古都」南京に新しい代名詞

イノベーションシティ:「六朝古都」南京に新しい代名詞

2019年2月7日 張曄(科技日報記者)

img

南京越博動力系統股份有限公司が自主研究開発した自動車の制御ユニット自動化生産ライン(撮影:金芳芳)

 南京というと、多くの人は「六朝古都(六朝時代の6つの王朝がここで政権を建てる)」、「十朝都会(歴史上10の国が都とした)」を連想するだろう。そんな南京には今、「イノベーションシティ」と いう新たな代名詞ができている。

 1年前、南京は、世界的に影響力を持つイノベーションシティを構築するために、人員を動員し、2018年1号文書「関于建設具有全球影響力創新名城的若干政策措施( 世界的に影響力を持つイノベーションシティの構築に関する若干の政策・措置)」を発表した。そして、1年後の2019年の1月2日、南京は「イノベーションシティ構築推進大会」を開催し、一号文書「 テクノロジーイノベーション業務へのフォーカス」を発表した。

 また、南京はテクノロジーイノベーションで、目を見張る成果を上げている。

 南京市党委員会の張敬華書記は、「中国内外の人々に、南京といえばイノベーションが盛んな都市、イノベーションといえば南京、と連想してもらえるようにしなければならない。イノベーションを、南 京の最も鮮明な都市の特徴、最も際立った都市のシンボルにしなければならない」と話す。

テクノロジー型企業がイノベーションの主戦場に進出

 1905年、スイス人の電気化学者のユリウス・ターフェルが有名な「ターフェル式」を発表し、電気化学速度論の幕開けとなった。

 2018年、南京市江寧経済技術開発区にあるターフェルの名前が入ったある企業では、スマート化された製造ラインで黒い「箱」がどんどん生産されている。その箱は「リチウムイオン蓄電池」だ。

 同社の姚世鏡・副総経理は「現在、当社の重量エネルギー密度は235Wh/Kgで、1回の充電でのの航続距離は約500キロ。2020年にはエネルギー密度が300Wh/Kgに達するだろう。充 電は多くの人が一番心配する点であるが、当社は目下12分で80%の高速充電を実現できた。実験室のデータでは6分で100%にすることが可能で、ガソリンスタンドで並んで給油するより速い」と説明する。 

 わずか4ヶ月で建設から生産開始までこぎつけた同社は年間を通してフル回転しており、2019年の受注分はすでにいっぱいになっている。

 ハイテク企業の数はその地域のテクノロジーイノベーション力やテクノロジーイノベーションの重視度合いを示している。2018年、南京ではハイテク企業が1282社増えた。前年比で8.7倍の数字だ。 

 2018年のハイテク企業育成の取り組みにより、南京市は新たに届け出たハイテク企業の増加幅、ハイテク企業を目指し育成中の企業数、省級ハイテク企業育成資金、新たに増加したハイテク企業数―――の 4つの分野で江蘇省ナンバー1となった。南京のハイテク企業は急速に発展し、成果を挙げているのだ。

 一連の克服不能と見られる困難や容易には達成できない指標、達成が難しいミッションなども、考え方や方法、手段をイノベーションすることで、課題を克服することができる。その実現には、系 統的なトップダウンデザインが必要だ。南京では「121戦略」が目標や位置付けを明確にし、一号文書がサポートや保障の源となり、「10大プロジェクト」が実施を後押しし、市 場化メカニズムがイノベーションの原動力と起業の活力を刺激している。

 南京市の藍紹敏市長は、「現在、イノベーションシティの建設は既に重要な時期に入っている。企業家や科学研究機関の責任者、テクノロジー人材などが積極的に政策に注目し、それをじっくり検討し、十 分にうまく活用して、南京のイノベーションを原動力とした発展の波に乗ってもらいたい」と呼びかける。

新型研究開発機関が成果の実用化の懸け橋に

 2017年末、高翔氏は、南京大学生物医薬研究院の院長を辞め、一教授として出資し、ヒト化模型・ドラッグスクリーニングイノベーション技術研究院を立ち上げた。高 氏率いるチームが株式の80%を保有している。

 一年かけて、同研究院は企業4社をインキュベートし、総売上高は4669万元に達した。体制の束縛から解き放たれたチームは、秘めていたイノベーション能力を存分に発揮しているのだ。

 南京には大学が53校、大学生は83万人おり、国立研究開発プラットフォームが120以上、中国科学院中国工程院の院士が82人いる。しかし、長年、そ れら膨大な科学教育資源はイノベーションを牽引する「機関車」のような存在にはなっていない。それら科学教育の分野の優位性を、いかに発展の優位性に変えるかが、南京の解決すべき課題となっている。

 南京市の蒋躍建副市長は、「南京のイノベーション資源は多いが、それをテコ入れして活用することができていないと指摘する。

 テクノロジー成果の実用化が最後までスムーズに進むようにと、南京は市場指向性に合わせて政策を制定し、市場がイノベーション資源の配置の面でリーダー的役割を果たすようにした。また、サ ポート対象は企業とハイレベル人材を、新型研究開発機関は企業化実施を、テクノロジーサービスは仲介機関提供をメインに、人材とプロジェクトは市場決定を、イノベーション投入は社会資本を、それぞれメインにした。 

 2017年9月から、南京は、テクノロジー成果プロジェクトの実施、新型研究開発機関の誘致、大学と地域の融合発展に力を注ぎ、新型研究開発機関の建設推進を加速させることを突破口としている。

 「政策は人材チームが株式を保有し、研究開発機関を完全に『自分の会社に』にしなければならないと規定している」。中国工程院の院士である周廉氏ら院士6人は、この枠組みに基づいて、資金を調達し、南 京增材粉体材料研究院を立ち上げた。ここ1年で、ノーベル賞受賞者3人、中国国内外の院士55人が南京でイノベーションを起こし、起業した。

 伝統的な大学や研究機関とは異なり、新型研究開発機関は、混合所有制に基づいて立ち上げられ、継続してイノベーション企業を「孵化」させる「親鳥」のような存在になっている。江北新区を例にすると、4 0の新型研究開発機関が企業163社をインキュベート・誘致し、テクノロジーイノベーションの強力な牽引力となっている。

 政府が第一線に出ることはないが、政策による奨励・補助、環境づくり、サービスの最適化などの面で、力強くサポートしている。政府は、最高で出資收益の50%を奨励として人材チームに給付するほか、運 営状態の良い新型研究開発機関には最高で500万元、テクノロジー成果の実用化を促進している仲介機関には最高で50万元の奨励を給付している。このトップダウンデザインにより、科 学研究機関やテクノロジー仲介機関、社会のベンチャーキャピタル投資などが全て活性化された。

15のハイテクパークが一致団結

 支付宝(アリペイ)の顔認証システムを利用した決済や、手の動きで空調の温度を調整したり、言葉でロボットに指示を出す等の、既に広く知られている人工知能(AI)が、南 京新港ハイテク産業開発区でも研究開発されている。現在、人工知能企業が約80社あり、4000人以上の研究開発スタッフが働いている。

 阿里巴巴(アリババ)の江蘇本社、小米のテクノロジー華東本社、有品のO2O全国本社、網易有道の江蘇本社、字節跳動、今日頭条......。南京河西に位置する建鄴ハイテクエリアの目玉となる「シンボル」は 何なのだろう?それは、間違いなく各業界のイノベーション型企業の本部からなる強大な「モーメンツ」だ。

 「チップの街」、「遺伝子の街」、「新金融センター」......。南京で最も若い江北新区は、壮大な志を抱き、「未来型都市」がそこに築かれている。台積電(南京)公司では12インチ・ウ ェハーがすでに量産され、およそ140社の集積回路企業が産業チェーンの川上・川下をカバーし、先声薬業、緑葉思科などの生命・健康分野の各企業およそ700社がそこに集まり、さらに、遺 伝子関係のリーディングカンパニーもそこで起業している。

 2017年11月、南京は市内の産業パーク83ヶ所を、ハイテクパーク15ヶ所へと整理した。それから1年の間に、ハイテクパーク15ヶ所の規模は小さくなることはなく、質は向上し、少 しずつ南京のイノベーションシティ建設の先頭に立つようになっている。

 2018年、南京市のハイテクパークのハイテク産業の売上高が市全体のそれに占める割合は75%以上となり、一定規模以上のハイテク製造業(年売上高2000万元以上の企業)の 売上高は市全体の91%を占め、一定規模以上のハイテクサービス業の売上高は市全体の73.31%を占めた。中国科技部(省)火 炬センターが発表している中国全土の国立ハイテクパーク157ヶ所の最新総合ランキングで、南京のハイテクパークは27位から20位に順位を上げた。

 南京市科学技術委員会の副主任、同市121戦略推進弁公室の専職副主任の陳為生氏によると、南京は今後、「一圈・双核・三城・多園」の構造を構築し、全 てのハイテクパークと科学教育資源を一つに結び合わせる計画だ。


※本稿は、科技日報「創新名城:"六朝古都"南京有了新名片」(2019年1月30日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。