第150号
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貴州省のテクノロジーイノベーション・バウチャー―「使える」うえに「値打ちがある」

2019年3月25日 洪永/何星輝(科技日報記者)

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視覚中国より

 貴州省の企業イノベーション資源不足と、イノベーション能力が低いという問題を解決するため、貴州省科技庁は財政資金の投入方法を変え、企業にテクノロジーイノベーション・バウチャーを配布する一般恩恵方式をとり、企業が大学や研究機関などによるテクノロジーイノベーションサービスや技術成果の購入を促すことで、科学技術研究成果の移転、実用化を効果的に進め、企業のモデル転換と高度化をサポートしている。

研究開発をサポートし、科学研究プロジェクトの実施を促進

 塩は中国で最も不足している非金属鉱産物で、西南地区には、非水溶性カリウム鉱石資源が豊富にある。貴州省銅仁市における調査ですでに明らかになっている非水溶性塩化カリウムの埋蔵量は35億トンで、推定埋蔵量は50億トン以上に達するとみられている。これは中国全土の調査で明らかになっている埋蔵量の40%を占める。中国で重要な非水溶性カリウム鉱石資源の生産地であり、一部の鉱区ではカリウムの含有量が12%以上に達するため、工業開発の見通しは明るい。

 カリウム鉱石資源をうまく開発し、利用することができれば、銅仁市、特に資源枯渇型都市である万山特区の潜在能力を掘り起こすことができるのは間違いない。しかし、非水溶性カリウム鉱石の開発・応用は世界的な難題で、現有の技術開発技法では、エネルギー消費量が多く、それにより生じる環境汚染も深刻なため、大量生産には至っていない。中国科学院過程工程研究所の趙偉博士が開発した新型混合溶融塩消化--水洗--結晶ショートプロセス新技法は、投資が少なく、操作が簡単で、環境にやさしく、製品の川下市場の容量が大きいなどのメリットがあり、ローグレードの非水溶性塩化カリウムの工業化生産に、効果的な技術的サポートを提供している。

 銅仁市科技局のマッチングを通して、趙博士のプロジェクトが、同市で実施されている。趙博士は銅仁市高新匯智科技孵化管理服務有限公司と共同開発契約を交わし、貴州省科技庁を通じてテクノロジーイノベーション・バウチャーを申請し、研究補助金40万元(1元は約16.60円)を取得した。

 趙博士は、「貴州省科技庁と銅仁市科技局のサポートの下、私と私のチームは、100キロ級のロータリーキルンの実験に成功した。エネルギー消費量を極めて少なくし、現有の技術ロードマップのウィークポイントを避けているため、現在、中国で少しずつ問い合わせが増えている。新技法に基づいて千トン級の生産ラインを建設した場合の設備投資は600万元以下で、鉱石1万トン当たりの費用対効果は255万元となる。塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの製品、セラミックガラス、吸音材などの新型材料の開発に総合的に利用できる」と説明する。

 そして、「1千トン級のモデルプロジェクトは、鉱山の採掘権や経営権などの一連の政策的問題に関わるため、関連当局に届け出て、正式に開業しなければならないほか、初期段階の設備投資、川下製品市場の調査研究などの商業的問題にも関わるため、プロジェクト実施に向けて積極的に、調整、計画を進めている。各級の主管当局がプロジェクトを銅仁市で実施できるよう積極的にサポートし、中西部地区の『過剰生産』というレッテルをはがし、西部地区が特色あるオリジナルイノベーションの新天地を切り開くことを願っている」と語った。

コスト削減を通して企業のモデル転換と高度化をサポート

 2015年、貴州省科技庁と銅仁市科技局が開催した政策説明会で、銅仁市紐泰克農業科技有限公司(以下「紐泰克」)は、テクノロジーイノベーション・バウチャー政策について知り、イスラエルのGrowponics社から、技術開発サービス「野菜成長環境モニタリングシステム」を100万元で購入した。2015年末、科技庁の評価と認定を経て、紐泰克はテクノロジーイノベーション・バウチャーを利用して、50万元の補助金を獲得した。

 紐泰克の王孝利・総経理は、「イノベーション・バウチャーにより、企業はコストを大幅に削減でき、元々の予算・資金を使って、他のプロジェクトの研究開発を進めることができるため、企業が積極的にイノベーションを進めるよう刺激することができる。プロジェクト実施後、当社の主な栽培方法は変わり、農産品の生産量も質も大幅に向上した。わずか1年の間に、生産量は4--5倍増え、年間生産額は600万元、利益も120万元増加した。同社は銅仁市の農業産業化の面で、リーディングカンパニーとなった」とその成果を強調する。

 現在、紐泰克は年間900トン以上の野菜・果物を生産し、効率の高い現代農業栽培プロジェクトを毎年平均2件実施している。、同技術は2015年に導入した技術と比べ、栽培システムの統一した計画や作物データの分析処理などの面で一層優れており、灌漑やデータ分析システムに基づく自動施肥などの機能が加わっている。この技術は現在、山東省や甘粛省、西蔵(チベット)自治区などでも採用されている。

 おおまかな統計だが、貴州省では、テクノロジーイノベーション・バウチャーが企業の科学技術研究成果の実用化を促進し、直接サポートした企業は売上高が新たに約5億元増、利益と納税額約8000万元増を実現し、中小・零細企業の成長を促し、省内の専業合作社84社のイノベーション発展を導き、約3,000軒の農家が増収となり、多くの企業がハイテク企業となったとしている。そのうちの1社である貴州国塑科技管業有限責任公司は、貴州省材料産業技術研究院から、技術開発サービス「高性能ポリエチレン波付管専用材料」を購入し、プロジェクトにより成果の実用化により、年間生産額が280万元、利益と納税額が80万元、それぞれ増加した。

 その他、テクノロジーイノベーション・バウチャーの導入により、貴州省の大学や研究機関などのテクノロジーイノベーションサービス機関の研究成果の技術移転・実用化が加速し、科学研究者の積極性を刺激している。貴州省水稲研究所は、貴州卓豪農業科技有限公司から、22万5,000元で米の品種「『Y両優585』の育種技術」を譲り受けた。貴州大学は、瓮福(集団)有限責任公司に、「リン鉱石に付属するヨウ素資源の回収・利用の特許技術」を400万元で譲渡し、貴州省における大学科学研究成果の譲渡額としては最高額をたたき出した。

 中国技術市場管理促進センターの統計によると、貴州省は中国全土で、導入した技術による成果の実用化、運用の成長が最もスピーディな地域の一つになっている。2018年1--8月期、同省の技術契約は2,032件、契約総額は前年同期比95.0%増の101億2,300万元に達した。うち、省外から呼び込んだ技術契約が1,281件で、契約総額は前年同期比76.8%増の73億3,300万元に達した。

古いスタイルを打破し、より科学的な管理体系を構築

 貴州のテクノロジーイノベーション・バウチャー配布は、一般恩恵方式を採用し、企業の登録時期や規模、産業の属性などは問わない。貴州省で登録・登記している企業でさえあれば、テクノロジーイノベーションサービス機関から、テクノロジーイノベーションサービスや技術成果を購入した場合、イノベーション・バウチャーの発行申請を行うことができる。また、テクノロジーイノベーション・バウチャーは、プロジェクトが企業のニーズにあわせて進むようサポートし、企業の発展に必要なイノベーションにおける切迫した難題の解決や成果の実用化における難題を中心にし、企業とテクノロジーイノベーションサービス機関の市場化方式で取り決めた技術開発、技術譲渡、技術コンサルティング、技術サービスの4分野のイノベーション行為に対して、支援を提供している。技術ロードマップ、イノベーションポイントは企業が自主的に決め、昔からの「こうしなければならない」という考え方は捨て去っている。

 しかし、テクノロジーイノベーション・バウチャーの発行に何のハードルもないというわけではない。

 企業は、イノベーション・バウチャーを利用したプロジェクトの実施中、イノベーションサービス機関に、イノベーション・バウチャーの発行額以上の費用を支払わなければならず、この原則が守られない場合、企業が実際に支払った金額に基づいて補助金額が引かれることになる。このようなスタイルは、中国では初めてだ。

 貴州省が中国で初めて、企業とイノベーションサービス機関が交わした技術契約をイノベーション・バウチャー発行の根拠とするという方式を導入した点は注目に値する。これにより、一部の地域に存在するイノベーション・バウチャーで支払いができない問題を解決し、「市場経済」が行われている。技術契約の規定事項が実行されたことが確認されて初めて、イノベーション・バウチャーの現金化を申請することができる。現金化は、契約条項と規定に照らして厳格に行われ、第三者による技術・経済証明書類や関連の領収書、銀行の入金証明などを提出しなければならない。これにより、科学技術研究成果の実用化の効果を別の角度から検証することができる。

 貴州省生産力促進センター技術市場サービス部の熊婧部長は、「貴州省はイノベーション・バウチャー管理のため、第三者機関を招き、意思決定や執行、監督相互制約のプロジェクト管理メカニズムを構築している。同センターと貴州省テクノロジー評価センターが中心となって設置されたイノベーション・バウチャー管理センターは、イノベーション・バウチャーの日常管理業務を担当し、イノベーション・バウチャーの申請から発行、現金化などの事務的な業務を行っているほか、第三者機関の専門家を招いてイノベーション・バウチャープロジェクトの実施状況を評価してもらい、動態的なプロジェクト管理監督メカニズムを構築している。このスタイルを採用することにより、テクノロジー関連の行政機関の伝統的なテクノロジー計画管理機能と分離することができる。そして、昔からのテクノロジー管理当局のトップダウン型のプロジェクト管理体制を打破し、より科学的で、高効率かつ規範化されたクリーンな管理体系が構築される。この管理体系は、成果の実用化の面で有益なチャレンジだ」と説明する。


※本稿は、科技日報「貴州科技創新券 不僅"花得出去",而且"買得値"」(2019年3月7日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。