第150号
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産業に根を下ろし、スマート製造の「花」を咲かせる

2019年3月27日 侯樹文/王春(科技日報記者)

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 実験室から生まれた技術成果を、産業とマッチングさせることは難しく、企業の製品研究開発水準が世界最先端の水準についていけていないというのが、科学技術成果の実用化の足かせとなっている。にぎやかな市内から離れた上海の臨港地区に、上海スマート製造研究院が設けた上海スマート製造研究開発・実用化機能型プラットフォーム(以下「スマート製造機能型プラットフォーム」)があり、産業の第一線の力と、大学の最先端科学研究チームをマッチングさせて、産業に根を下ろし、体制・構造の障壁を超えて、スマート製造の分野の成果の実用化という分野で、新天地を開拓している。

 上海スマート製造研究院の習俊通常務副院長は、「科学研究成果が実験室を出て市場化することは、産学研のさまざまなチェーンに関わることで、成果の実用化実施を方向性として、科学的に組織の枠組みを設計することがそのカギとなる」と指摘する。スマート製造機能型プラットフォームは、大学の科学研究成果を業界や企業の需要とマッチングし、市場における成果の可能性検証をサポートするほか、研究開発チームの産業化プロジェクト実施をサポートし、企業運営を対象にしたサービスを提供し、成果のインキュベーション、商品のパイロットスケール試験などの実用化サポートを展開して、研究開発チームのウィークポイントを補っている。

製造に根を下ろし、「論文を作業場で書き上げる」

 上海の臨港地区は、上海汽車集団股份有限公司やドイツのシーメンス、米テスラなどの製造業企業が集まる産業団地で、スマート製造技術研究開発とその実用化が「花」を咲かせるための肥沃な土壌がある。上海スマート製造研究院の科学研究チームが臨港テクノロジーシティに進出したのは、成果の実用化の過程における技術と産業の距離を縮めるためで、まさに「論文を作業場で書き上げる」ことを実現している。

 製造業において、技術のウェイトが大きく、スマート化が進んでいる自動車産業は、スマート製造の重要な応用分野であり、突破口でもある。しかし、中国国内の工作機械生産企業の精度の高さ、加工の信頼性、技法の適応性、生産ライン集積可能性などは、海外の企業に及ばず、これも、中国製のハイエンドコンピュータ数値制御工作機械が、中国国内の自動車メーカーにはなかなか採用されてこなかった原因である。

 スマート製造機能型プラットフォームにある上海交大智邦テクノロジー有限公司(以下「交大智邦」)は、上海交大産業投資管理(集団)有限公司や上海臨港経済発展(集団)有限公司などが共同出資して設立され、その科学研究チームは、自動車パワートレインキーパーツのスマート製造集積検証ラインを使って、その難題解決に取り組んでいる。自動車の動力のキーパーツは、自動車メーカーの厳しい基準に基づいて、加工、試験を繰り返して性能を向上させ、メーカーの要求を満たさなければ採用されることはない。その過程において、科学研究者は、工業界の要求に基づいて、基礎・応用研究を展開し、作業場で実践を重ねながら、少しずつ「論文」を書いていくことになる。

 上海通用汽車有限公司などの上汽集団の中核企業は、交大智邦に、技法計画、工作機械研究開発、生産ライン集積、応用モデルなどのサポートを提供しているほか、シーメンス、リープヘル、ファナック、華中数控、阿里巴巴(アリババ)など、中国国内外の工作機械、ロボット、測量、自動化、工業ソフトウェアなどの大手と提携している。

 習常務副院長は、「交大智邦の1万平方メートルの工場内で、研究者やエンジニアが、国産コンピュータ数値制御システムの加工データモニタリングシステムの調整を進めている。その傍らでは、スマート視覚ロボットが、シリンダーヘッドを運んでベルトコンベアーにのせている。自動車メーカーがパーツの未加工品と技法のサポートを提供し、中国国内外の製造装置企業がソフトウェア・ハードウェアを提供し、上海交通大学がコア技術をめぐる難題解決に取り組むという、技術集積検証ラインが産学研のさまざまな部分をマッチングさせている」と説明する。

 上海交通大学科学技術発展研究院の金隼副院長によると、「この検証ラインは、規格の異なる製品を同じラインで製造できるスマート化全自動無人生産ラインで、エンジンとシリンダーヘッド、変速機のバルブボディを同じラインで生産できる。またエンジンとシリンダーヘッド、バルブボディを全自動フレキシブルで切り替えて生産し、技法と設備、物流の動的再構成と全自動抜き取り検査も実現している」という。

 検証ラインは、自動車製造産業チェーンの最先端の力を集中制御し、検証結果を企業にフィードバックすることで、技術をさらに磨き、産業の技術成果を実用化し、それをまた産業に戻している。

体制・構造の課題を克服し、スマート製造の「花」を咲かせる

 技術ソースと産業使用の間に溝があり、体制・構造が足かせとなって成果の実用化を難しくしている。プラットフォームは公益性を備えている一方で、参加している企業は利益を求めており、その矛盾をどのように解決するか、プロジェクト運営の維持を促進する構造をどのように作るかなどが課題となっている。

 上海交通大学の技術研究開発成果と産業応用プロジェクトに基づいて、同大学を卒業後、長年にわたり精密製造技術研究に従事している藍樹槐氏は上海治臻新能源装置有限公司(以下「治臻」)を、李紅涛氏は上海治宸新能源科技有限公司(以下「治宸」)を設立した。2社が立ち上げた研究プロジェクトチームの持ち株比率は60%以上で、プラットフォーム・カンパニーの持ち株比率は15%以下、その他の株式は市場や社会の主体に開放している。このような株式の枠組みにより、創始チームは経営の主導権を確保することができるほか、研究院やプラットフォーム・カンパニーの優位性を誇る資源を十分に活用することができる。

 治臻は、中国国内で初めて燃料電池の金属プレートを専門に製造する企業だ。同社が開発した中国初で、独自の知的財産権をもつ金属プレート生産ラインは、高性能、高精度の金属ダブルプレートの形状設計から、技法チェーン・加工までの一体化引き渡し能力を実現し、その製品は、上汽集団、新源動力股份有限公司、中国船舶重工集団有限公司、中国東方電気集団有限公司、武漢理工新能源有限公司など、中国国内の主な企業が採用しており、中国国内の燃料電池金属プレート市場のシェア90%以上を占めている。

 治宸のコア技術は、上海交通大学のチームが10年以上かけて研究し、形成した理論や蓄積した技術が基になっている。同社設立後、30キロワットと60キロワットの自動車用燃料電池スタックの試作機の開発に成功し、その主要性能は中国で最先端となっている。1.6キロワットの小電力スタックシステムや、それを搭載したドローンはすでに製品化開発が進み、販売されている。その過程で、スマート製造機能型プラットフォームは、企業の需要に合わせて、企業の発展のために、インキュベーション、育成、基盤技術などの面でサポートを提供し、プロジェクトがスムーズに実用化、応用されるよう促進している。

 スマート製造機能型プラットフォームの水素燃料電池スマート製造産業チェーンにおいて、治臻や治宸のような、混合制株式構造企業はほかにもたくさんある。上海交通大学が基礎理論と科学問題研究を提供し、スマート製造機能型プラットフォームが製造技法と装置研究を提供し、上汽集団が燃料電池のキーパーツを仕入れるという、固体水素材料、機械設備・電力設備(極電と電堆)、スタック、高性能膜電極、システムインテグレーションの産業チェーンが形成されている。

 体制・構造の革新により、技術と産業を結ぶ科学研究実用化ロードが開通し、スマート製造技術の成果が、航空・宇宙飛行、自動車製造、新エネルギー自動車、原子力発電設備などの分野にも応用されるようになっている。

 ここ数年、スマート製造機能型プラットフォームで、自動車のパワートレインハイエンドスマート製造、航空エンジンのテスト・検証、燃料電池、軽合金材料、原子力発電のテスト装置などの分野が大きな「花」を咲かせてきた。世界の製造業のスマート化、モデル転換、革新が勢いよく進む中、科学研究チームや産業界が大きな力を注いできたスマート製造の分野で、「花」が咲き、独特の香りを放っている。

産学研融合新体制構築に取り組む機能型プラットフォーム

 上海市スマート製造研究開発・実用化機能型プラットフォームは、上海臨港テクノロジータウンにあり、1万2000平方メートルの研究エリアと6万平方メートルの産業化拠点がある。2015年12月、上海スマート製造研究院は、同タウンに正式に進出し、スマート製造機能型プラットフォームの構築に取り組んできた。臨港集団と上海交大産業集団が共同で出資して立ち上げられた上海交大智能製造創新科技公司は、プラットフォーム上で産業にサービスを提供する役割を果たしている。これにより2017年、上海スマート製造研究院を基礎とした、上海市スマート製造研究開発・実用化機能型プラットフォームが設立され、上海市で認可を受けて設立された第一陣の機能型プラットフォームの一つとなった。

 同プラットフォームは、イノベーション・技術を源とし、産業の応用を基本とし、スタイルのイノベーションを優先する、産学研融合新体制の構築に取り組んでいる。「イノベーション・技術を源とする」とは、研究開発技術を厳選し、最も実力があり、産業応用の前途が最も明るい大学のプロジェクトを選んで、プラットフォームで実用化、産業化を進めるという意味だ。「産業の応用を基本とする」とは、実用化プロジェクトの目標を明確にし、3年から5年以内に、市場の応用の需要を明確にし、産業化するという意味だ。そして「スタイルのイノベーションを優先する」とは、チームをいろんな分野から集め、「教授・リーダー的人材+エンジニアリング開発チーム+エンジニアリングサービスチーム」の総合性工科応用チームを作り上げると同時に、資金源も多様化し、政府資金の申請を積極的に行い、ベンチャーキャピタルを広く呼び込み、管理チームが株主になり、プロジェクトカンパニーを設立するという意味だ。

 現在、プラットフォーム上で初めて政府の認可を受けた中国・ドイツスマート製造プロジェクトセンターが臨港に進出し、民用航空エンジンテスト・検証センター、自動車パワートレインハイエンド加工装置国産化・スマート製造システム検証モデル拠点、燃料電池金属プレート製造、原子力発電設備テスト・検証拠点、軽合金材料・製品スマー熱製造の五大産業化プロジェクトが実施されている。


※本稿は、科技日報「扎入産業土壤 育出智能制造"五朶金花"」(2019年3月14日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。