第150号
トップ  > 科学技術トピック>  第150号 >  スマート化中国ブランド 自動車メーカーの突破口

スマート化中国ブランド 自動車メーカーの突破口

2019年3月27日 劉珊珊/桑山未央(翻訳)

「車載スマートネットワークの分野で、中国はすでに自らの優位性を築き上げている。それが、中国自動車業界の『弯道超車』、つまり、新たなターニング・ポイントにもなるだろう」

「巨大ではあるが強大ではない」。それが中国の自動車産業を一貫して悩ませてきた難問だった。しかし、いまの中国の自動車業界は「四化(電動化、スマート化、Eコマース化、シェアリング化)」を足掛かりに、「弯道超車」〔直線ではなかなか追いつきにくい先進国を追い抜く絶好のカーブ〕のチャンスを迎えているのかもしれない。

  先日、中国汽車工程研究院(以下「中国汽研」)主催でおこなわれた「i-VISTAスマートコネクテッドカー国際フォーラム2018」において、中国のスマートカーに関する第三次指数評価の結果が公表された。それによると、評価対象の25車種のうち、五大系統全体で得点率の上位を占めたのは、長安汽車の「CS75」、ベンツの「Cクラス」、長城汽車の高級SUVブランド「WEY」の「VV5」、一汽フォルクスワーゲンの「マゴタン(Magotan)」、第一汽車の高級車ブランド「紅旗」の「H5」だった。中国汽研の周舟副総経理によると、運転支援システムの製品性能に関しては、中国ブランドも海外ブランドに引けを取っていないという。

「現在、車載スマートネットワーク分野で、中国は自らの優位性を築き上げている。それが、中国自動車業界の『弯道超車』、つまり、新たなターニング・ポイントにもなるだろう」。全国乗用車市場情報連絡会の崔東樹事務局長はそう語る。

img

写真①:スマートコネクテッドカー大会で展示されたコンセプトカー。写真/視覚中国

さらに開拓、スマート化

 近年、中国ブランドがスマート化関連の研究開発をこぞって進めており、また一定の成果を収めている。業界の著名な専門家団体であるSAEインターナショナル(米国自動車技術者協会)が示した自動運転に関する指標によると、現在、自動運転技術はレベル0からレベル5までの6段階に分けられている。いまや量産車種の多くでレベル1(運転支援)を実現しており、一部の量産車種に至っては、レベル2(部分自動運転)が搭載されていることもある。

 今回の評価試験では、長安汽車・長城汽車などの中国ブランドが優れたパフォーマンスを見せた。これは、各社のスマート化分野での長期的な取り組みに大きく関係している。去る11月28日、長安汽車は「自動運転車による世界最大規模のパレード走行」にチャレンジし、見事ギネス世界記録を達成した。今回のチャレンジでは、同社のSUV系車種「CS55」計55台が整然と隊列を組み、計3.2㎞の自動運転による等速走行をおこなった。

 聞くところによると、センシング面では、長安汽車は横方向(ステアリング)のズレを20㎝から5㎝程度に、同じく縦方向(ブレーキとアクセル)のズレを1mから10㎝程度に改良したという。また、制御判断についても、応答の誤差率を従来の5%から1%程度に向上させた。アメリカの電気自動車メーカー・テスラの「モデルS」が搭載している自動運転支援技術の「オートパイロット」は、現在レベル2に分類されているが、長安汽車の「CS75」と新型「CS55」も、そろってレベル2をマークしているという。

 スマート化分野の開拓をおこなっているのは長安汽車だけではない。去る11月29日、長城汽車は河北省保定市の「長城汽車徐水試験場」で、「国家スマートカー・スマートトラフィック(北京市・河北省)モデル地区」のオープニングセレモニーを挙行した。特筆すべきは、同モデル地区の新設試験道路(5㎞)と同試験場内の既存道路(45㎞)を合わせると、閉鎖型試験道路として中国国内最長の走行距離になり、また全国初の「LTE V2X」を配備した高速環状道路になったことであろう。同時に、閉鎖型試験区として全国で初めて5Gネットワークが整備され、また都市部の道路事情もそのなかで再現されている。

 長城汽車は、事実上2009年から自動運転技術の開発に取り組んでいる。2015年に開催された「第5回長城汽車科学技術フェスティバル」では、自動運転レベル3のデモンストレーションを初めて社外向けにおこなった。また2017年初頭には、中国、アメリカ、インドの3地域で共同開発した「i-Pilot(スマートパイロット)」という自動運転システムを正式にリリースしている。

 「スマートカーの成長が緒に就いたばかりなら、その評価方法もスタート地点に就いたばかりだ」。前述の中国汽研の周舟副総経理によると、同研究院では2019年にスマートカーの総合評価試験を実現するとしている。それと同時に、DOW(ドアオープン警告システム)やLKA(レーン・キープ・アシストシステム)、TJA(渋滞時走行支援システム)など、現在の市場で大量生産されているレベル0~レベル2の主要運転支援システムについても、2019年にはその試験評価基準を示し、スマート指数による全体評価を導入するとしている。さらに2020年には、エネルギーの消費や効率に関する指標体系について、相応の評価をおこなうとしている。

実際の車道に適用する際の障害

 自動車のスマート化の最高位は「レベル5」。これは完全な自動運転を意味するが、本当の意味での無人運転を幅広く実現するには、解決しなければならない問題はまだまだ多い。「スマート化をどう実現していけばよいか。それはシステム・ソリューションだ、というのが我々の主張だ」。先日開催された「中国企業家ボアオフォーラム」で、華人運通技術有限公司の創業者であり、董事長兼CEOでもある丁磊氏はそう語った。丁CEOはさらに「クルマそのものの自動化だけをやっていたら、仮にそれがどんなに高度なものであったとしても、問題を解決することにはならない。安全やモラルの問題を視野に入れるべきだ」とも述べている。

 全ての障害物を、たとえばそれが人なのか、あるいはイヌやネコなのかを判断できるレベルにするには高コスト化は避けられない。実際、丁CEOは「現在の技術水準でレベル4の自動運転車を一台製造しようとしたら、100万人民元以下ではとても太刀打ちできないだろう」と話す。

img

写真②:昨年10月20日、北京で開かれた「2018年世界スマートコネクテッドカー大会」。ナショナル・コンベンションセンター近くに設けられた自動運転乗車体験エリアでは、多くの来場者が列を作り、無人運転のエクスペリエンスを楽しんでいた。

 同CEOによると、同社のソリューションは「クルマ」と「道路」がセットになったものであり、「道路」と「市街地」双方の自動化を進めることであるという。なぜなら、車載センサーで検知できるのは車から十数メートルの範囲内である一方、道路そのものにセンサーを取り付ければ、数キロメートルの範囲での検知が可能になるからだ。

 しかも、国が変わればスマートカーの置かれる交通事情もまったく異なってくる。同済大学の朱西産教授は「欧米諸国でフィットするスマートカーが、中国の道路事情や交通事情に必ずしもフィットするわけではない」と話す。

 中国汽研スマートカー試験評価センターの陳濤氏は、中国国内の交通事情や走行シーンは得てして複雑なものが多く、国の基準に依拠するのみであってはならない、と述べている。事実、同研究院では全国6都市で駐車に関する計68要件の検証をおこなっているが、その際、実際の駐車時の駐車スペースは、基準よりも0.3~0.5m程度小さかったことが判明した。したがって、試験基準の法的検討をおこなう場合は、こうした実際の情況を考慮に入れる必要がある。

 中国工業情報化部の辛国斌副部長は、「スマートコネクテッドカー道路試験管理規範」に関する記者会見の席上で、次のように述べている。「クルマ社会は、交通安全・道路渋滞・エネルギー消費・大気汚染などの問題に直面している。スマートコネクテッドカーは、こうした問題を解決するための重要な手段であるだけでなく、自動車産業が今後モデルチェンジを図っていくための突破口となり、またグローバル自動車産業が技術革新を遂げるための戦略的重要ポイントにもなり得る。しかも、スマートカーについては国内外を問わず全ての自動車メーカーが新たなスタートラインに並んでいる状態で、技術的な囲い込みがまだ生じていない。これは『弯道超車』の絶好のチャンスでもある」


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年4月号(Vol.86)より転載したものである。