第151号
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千年商都広州 グローバル化4.0への挑戦(その2)

2019年4月17日 蔡如鵬(『中国新聞週刊』記者)/江瑞(翻訳)

その1よりつづき)

グローバリゼーション4.0を目指して

 第4次産業革命は広州にとって最大のチャンスであり、同時に最大のチャレンジでもあると考えている人は少なくない。

 いわゆる第4次産業革命、即ちインダストリー4.0とは、工業の発展段階に基づく区分の1つだ。現時点での共通認識では、インダストリー1.0は蒸気機関の時代、インダストリー2.0は電化の時代、インダストリー3.0は情報化の時代、そしてインダストリー4.0はITに立脚した産業改革の時代、つまりIoT化の時代とされている。

 クラウス・シュワブは、IoT化に象徴される第4次産業革命が、未曾有の技術進歩をもたらし、医療、交通、通信、生産、分配、エネルギーなどのシステムを根底から変えることになる、また、世界経済の枠組みを書き換え、グローバル化に新たな定義を付与するだろうと述べている。

 世界経済がニューノーマルに突入して以降、広州の経済も構造転換を迫られている。広州市社会科学院広州都市戦略研究院常務副院長の張強は、2014年以降、広州の経済成長は確かに鈍化傾向にあると指摘する。それでも張強は、広州の活力と強靭さを信じており、「この点は、過去2000年の歴史で何度も実証済みだ」と述べる。

 広州は悠久の歴史を持ち、世界で唯一、千年以上もの間栄え続けている貿易港だ。多くの研究者が、広州の歴史を詳細に分析することで、その長期的繁栄の秘密を探ろうと試みている。広州市都市計画協会会長の潘安は、広州の長期繁栄の重要な理由の1つとして、極めて高い自己修正能力を持つことを挙げている。「広州は常に必要に応じて自己調整をし、軌道修正をおこなってきた」

 広州市は2015年前後から産業配置の調整を実施し、次世代の核となるIT、AI、バイオメディカル、新素材、新エネルギー等の戦略性新興産業を今後の発展方向と位置づけた。

 2016年末、広州市は戦略性新興産業に特化した「第13次五カ年計画」を打ち出し、2020年までに、産業規模1.5兆元、付加価値4000億元、GDPに占める割合15%超達成を実現し、産業の構造転換を牽引し、ハイエンド就業を実現するための重要な基盤としていく目標を掲げた。

 この計画の下、広州市は外資企業誘致と外資導入プランを新たに打ち立てた。特にターゲットとしているのは、国際的知名度のある業界大手の誘致だ。フォックスコン(富士康)の10.5世代ディスプレイ工場は、こうした背景の下、広州に設立されたのである。

 投資額610億元にも達するこのプロジェクトは、フォックスコンが中国大陸で過去10年間におこなった投資の中で最大のものだ。また、広州が改革開放以降受け入れた単独投資の中で最大の先端製造業でもある。2019年の生産開始後は、年間生産額900億元超、年間税収約40億元が見込まれている。

 現時点での最先端技術である8Kが採用された10.5世代液晶パネルは、川上・川下の関連企業100社近くに業務をもたらし、1,000億元レベルの新型ディスプレイ産業クラスタを形成すると見込まれており、市場にとって明るいニュースとなっている。このプロジェクトを武器に、広州市は電子情報機器製造業の頂点制覇を目指す。

 戦略配置の調整と実体経済への回帰により、広州市は着々と飛躍のエネルギーを蓄積している。統計によれば、2015年から2017年の間、広州市の戦略性新興産業の規模は1919社から8,690社と4倍にも増加し、GDPに占める産業付加価値の割合も10.3%にまで増え、2,200億元を突破した。これらの産業はいま正に、広州の現代産業を牽引し支える重要な存在に成長しつつある。

時代の先端に立つ

 広州の戦略性新興産業は北京や上海より遅れてスタートしたものの、じき追いつくに違いないと確信できる。なぜなら広州には、中国最高のビジネス環境が整っているからだ。そしてそれは、どんな産業の発展にとっても極めて重要なものだ。クリエイティブ産業が広州で勢いよく成長しているのも、そのリアルな証拠の1つと言える。

 クリエイティブ産業とは、主にデジタルコンテンツ、アニメ・ゲーム、映像メディア、クリエイティブデザイン、文化的インフラ・周辺設備製造などの産業を指す。中国国内では、広州のクリエイティブ産業はこれまで一貫して他をリードする存在であり続けた。例えばアニメ・ゲーム業界では、「広東は中国の、広州は広東の手本」というフレーズがまことしやかにささやかれている。

 広州のクリエイティブ産業の萌芽は100%民間由来だった。広州でクリエイティブ企業が雨後のたけのこのように誕生したのも、ここに適した土壤があったからだ。事実、改革開放後の中国の文化産業は広州で発展したのであり、1980年に大陸初のカラオケや音楽喫茶ができたのも、広州の東方賓館だった。

 来設計はインダストリーデザインを手がけるインターネット企業で、数人の共同創業者はいずれも青島のハイアールグループ出身だ。副総経理の範青青は、広州に会社を設立した理由について、起業環境を重視した結果だと語る。「ここでは、政府からの干渉を受けずに起業に専念できる」

 広州市文化広電観光局副巡視員の温朝暉は、スタートアップ企業、特に一部の新興業態に対する広州政府の原則を、干渉しすぎず、可能な限り規制のゆるい環境を作り出すことだと語る。例えば、現在ではどの大型ショッピングモールでも見かけるカラオケボックスは、広州に出現した当初、認可を経ていないことから、反対の声も多かった。しかし広州市の対応は、「とにかくやらせてみよう」というものだった。

 こうしたある種「放任主義」的な管理方針のおかげで、電話ボックスに似たわずか2平米のこの娯楽施設が、100億元規模の市場にまで成長したのだ。

 1,000社とも1万社とも言われるクリエイティブ企業は、新しい業態と富を生み出すと同時に、旧市街地の再開発を特徴とするクリエイティブ産業パークの発展をも促した。2015年設立の「五号空間創意園」という名のクリエイティブパークは、広州市天河区沙太路にある。ここは元々城中村だったエリアで、再開発を経て、いまでは140社あまりのクリエイティブ企業が入居するインキュベータになっている。

 広州には、こうしたクリエイティブ産業パークが150カ所以上ある。その多くが、元は老朽化した工場や昔ながらの村落だった。こうした再開発地にできたクリエイティブパークの中で最も有名なのは、おそらく微信(WeChat)本部が入居するTIT創意園だろう。

 広州紡績機械工場の跡地にあるTIT創意園は、広州タワーにもほど近く、立地環境に恵まれている。広州紡績機械工場は2007年、累積赤字により操業停止から倒産に至ったが、その翌年、広州市は「古いものは古いまま維持し、歴史を尊重する」という原則に基づき、工場跡地の再開発をおこなった。

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図5:TIT創意園内の彫刻。撮影/姫東

 再開発では、工場の元々の姿と紡績業のエッセンスを残し、歴史の厚重感がありながらも、時代の先端を行く起業の雰囲気を持たせた。さらに立地にも恵まれているとあり、またたく間に起業家の熱視線を集めるに至った。その中には、2013年11月に入居した微信チームも含まれていた。

 微信は今日、単なるモバイル向けリアルタイム通信アプリを超越し、「すべてをつなぐ」インターフェイスになっている。親会社であるテンセント(騰訊)は去年、微信本部を広州に移転することを決定し、目下、世界的建築家のジャン・ヌーヴェルが設計主任を務める広州微信本部ビルが琶洲に建設中だ。将来はこの地区も、広州のシリコンバレー的なIT企業密集地となるだろう。

 相次ぐクリエイティブ産業パークの誕生と普及により、多くの若者が続々とクリエイティブ業界に身を投じている。広州では現在、34万人以上がクリエイティブ関連の仕事に従事しており、彼らが毎年生み出す付加価値は、広州市全体のGDPの5%以上、1000億元以上にもなり、なおかつ年13%の速度で増加している。

 しかも、今後数年間はこの数字がさらに増える可能性が大きい。広州市は去年からトップダウン設計を強化し、クリエイティブ産業の発展を誘導・支援する政策を打ち出しており、今後、行政からの支援金を大幅に拡大する方針を示している。さらに、ここ数年の蓄積もあり、2019年はクリエイティブ産業の爆発的成長が起こり、広州のクリエイティブ産業が本当の意味で元年を迎えるとみられている。

 ビジネス環境は都市の恒久的競争力だ。広州という文化都市は過去千年にわたり、海のシルクロードの重要港から、明清時代の通商窓口「十三行」、そして中国貿易の動向を占う中国輸出入商品交易会(広州交易会)の開催地となるに至るまで、商業文化が都市の骨の髄まで染みこんでいる。

 今日、広州は、世界各国の企業にとって最適な投資先かつ発展の場となり、全世界により多くのビジネスチャンスをもたらすという目標を掲げ、これまで以上にビジネス環境の整備に力を入れている。

 事実、古来より海と世界に向き合ってきた広州は、常に世界と一体化し、世界的視野で自身の立ち位置を模索していた。

 2018年末にGaWC(グローバリゼーションと世界都市研究ネットワーク)が発表した世界都市ランキングでは、広州は再びトップグループである「Alpha」に格付けされた。広州のランキングは前回の2016年より13位アップし、格付け対象となった374の世界的都市の中で27位につけており、「Alpha-」から「Alpha」に格上げされた。同ランクには他に、ミラノ、シカゴ、モスクワ、フランクフルトといった都市の名が並ぶ。中国大陸では、北京、上海に次ぐ順位だ。

 世界で最も有名な都市評価機関の1つであるGaWCは、世界経済における位置や融合度で各都市を比較した「世界都市ランキング」を1999年から不定期に発表しており、同機関のランキングは、世界で最も権威ある都市ランキングの1つとみなされている。

 GDPに基づく経済ランキングとは異なり、GaWCが着目するのは都市の総合力だ。その指標には、国際的影響力、人口規模、国際空港、国際港湾、交通、通信インフラ、外資導入力、金融業及び本部経済(地域統括本部を誘致することで地域の経済発展を促す政策)の発展レベル、文化的影響力、メディア、スポーツの実業団やクラブチームなどが含まれている。

 言葉を変えれば、これは経済、政治、文化、科学技術、国際化の度合いに基づく総合指標だということだ。決して単純な経済競争力ランキングではなく、イノベーション力や起業力のランキングでもない。

 広州のランキングが継続的に上昇している理由について、GaWC副主任のベン・ディラダ(Ben Derudder)は、上海を除く長江デルタの都市と比べ、珠江デルタの都市にはより高い国際性が備わっていると述べる。

 こうした国際性は正に、開放、包容、実践、進取という、広州人が受け継いできた文化そのものだ。

 文化は1つの都市の魂でありソフトパワーでもある。都市間の競争は、突き詰めれば文化の競争だ。今日の世界的な都市間競争の中にあっても、自分たちの文化を受け継いでいきさえすれば必ず時代の先端に立てる、と広州人は信じている。

(おわり)


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年5月号(Vol.87)より転載したものである。