第151号
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ボトルネックを打破し大学のイノベーション力を最大限発揮させるには?

2019年4月1日 馬愛平(科技日報記者)

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(イラスト提供・視覚中国)

 Q&Aサイトの「手百問答」にこのほど「大学教師にとって、科学研究におけるボトルネックは何ですか?」という質問が投稿された。

 この質問に対して大学教師からは、「自分が意味のない実験を何度も繰り返しており、得たデータもある程度は意味があるとは言えるものの、これまでの基礎に対するブレイクスルーにはならないことに気づいた」や「自分が進めている課題に興味があまりなく、やる気を起こす原動力も見つけられないため、真剣に取り組む気になれない」といったような回答が寄せられていた。

 中国高等教育学会の杜玉波会長は、「大学はカギとなるコア技術をめぐる難関に挑む主戦場の一つ。世界一流の大学と比べると、中国の大学はハイレベル人材やチームが不足しており、イノベーション人材のサポートも弱く、人材のイノベーションに対するやる気を刺激するインセンティブも整備が進んでいない。基礎研究が技術研究開発において非常に重要であるという認識が不足しており、学科は固定化し、区分が細かすぎ、学科の配置の総合性や交差性が不十分だ。これらの課題は、大学が国のためにカギとなるコア技術の難題に挑む能力を向上させるのを妨げているボトルネックだ」と指摘する。

 そのため、必要に応じた対策を講じ、世界最先端のテクノロジーに照準を合わせ、カギとなる分野で、足かせとなっているものを取り除き、最先端分野や戦略的分野で、先手を打ち、カギとなるコア技術の難題に挑むためのイノベーション力を継続的に強化し、自主イノベーション能力の強化に力を入れ、国のイノベーションを原動力とした発展戦略に貢献しなければならない。

10%未満の研究開発人員で60%以上の基礎研究を担う

 中国が強大になり、復興するためには、科学技術の発展が必ず必要となるばかりか、世界の主要な科学センターやイノベーションの中心地となれるよう努力しなければならない。国家隆盛の歴史のロジックを見ても、経済発展現実のロジックを見ても、テクノロジー発展のロジックを見ても、一流のイノベーション人材や一流の科学者を擁してこそ、テクノロジーイノベーションにおいて有利な立場に立てるということを示している。

 中共中央党校・哲学部の教授で、博士課程の指導教員である趙建軍氏は、取材に対して、「発展は一番重要なミッションで、イノベーションがその最大の原動力、人材が一番重要なリソースだ。そして、テクノロジーと人材は、国が強大になるための最重要戦略的リソースだ」との見方を示した。

 中国教育部(省)科技司が発表している統計によると、2012年の中国共産党第18回全国代表大会以降、大学は、中国全土の10%未満に当たる研究開発人員と8%に当たる研究開発経費を活用して、国家高度技術研究展開プロジェクト(国家863計画)や国家科技支援計画、重点研究開発などの研究プロジェクトを含む中国全土の60%以上に当たる基礎研究と60%以上に当たる重大科学研究ミッションを担ってきた。そして、60%に当たる国家重点実験室を設置して、60%以上に当たる国家テクノロジー三大奨励(国家自然科学賞、国家技術発明賞、国家科学技術進歩賞)を獲得し、そのハイレベル人材は中国全体の60%以上、発表されたテクノロジー関連の論文数、獲得した自然科学基金援助プロジェクトは、それぞれ中国全体の80%以上を占めている。

 2012年から2017年にかけて、大学が獲得した国家テクノロジー三大賞は全体の55.08%で、うち、自然科学賞と技術発明賞は主に大学が獲得した。このことは、大学が基礎科学研究や技術イノベーションの分野で、全局面を左右する重要な役割を果たしていることを示している。

 杜会長は、「テクノロジーの最大の生産力、人材の最大のリソースとイノベーションの最大の原動力を結びつける大学は、学科のジャンルが揃い、テクノロジー人材が集結し、基礎研究がしっかりとしているという独特の優位性を発揮し、世界最先端のテクノロジーに照準を絞るよう取り組み、カギとなる基盤技術、最先端の牽引技術、現代エンジニアリング技術、破壊的技術の難題に挑むイノベーションを強化し、カギとなるコア技術について、自主的なコントロールを可能にし、自主的イノベーションの主導権をしっかりと握る面で、重要な責任を担わなければならない」と指摘する。

科学研究の力で体系を成し、協力してイノベーションに取り組む

 趙氏は、「しかし、現実的な観点から見ると、中国のテクノロジー人材の発展の現状とテクノロジーイノベーション発展の需要はアンバランスな状態だ。例えば、テクノロジー人材の構造の問題が際立っている。『人間本位』のテクノロジー人材評価・インセンティブの整備は急務で、テクノロジー人材の投入が全体的に不足しており、業界、分野、地域における配置もアンバランスだ。テクノロジー人材の流動ルートにはまだ障害があり、産学研の間の流動にも制度の障害が残っている」と指摘する。

 杜会長も、「世界の一流大学と比べると、中国の大学は、独自に科学研究の力を形成し、孤軍奮闘しなければならない。大学と大学の間、大学と科学研究院所、企業の間を効果的に繋ぐ架け橋が不足しており、合理的な科学研究評価体系がなく、学術評価成果に過度に依存したり、不当にそれを利用したりしており、査読の客観性に欠けるなどの問題が存在している」と指摘する。

 このような「遊撃戦」のような科学研究で、大きな成果を出すことは難しい。中国石油大学(北京)の金振奎教授は、「大学の科学研究には散、短、繁の3つの問題が存在する」との見方を示す。

 まず「散」については、「科学研究者が孤軍奮闘しているという意味」と説明。「現在もたくさんのイノベーションチームがあるが、実際には、一時的に立ち上げられているだけのチームもある。それは、力の分散につながり、規模が大きいことで期待できる効果を得ることはできない。難題は通常、多くの人、複数の学科が協力して取り組まなければ、突破することはできない。科学研究の難題に挑むというのは戦争のようなものだ。孤軍奮闘では力が弱く、ブレイクスルーを実現するのは至難の業だ」とする。また、「短」については、「科学研究の課題のほとんどがちょっと研究して、また別の研究に移り、打ち込む時間が短いという意味」と説明。「科学研究者が課題を元に方向を変えており、科学研究者の関心事に基づいて課題を決めているというスタイルではない。そのような状態では、一つの方向に向かって研究を続けるというのは難しい」との見方を示す。

 最後に「繁」については、「科学研究者が同時に複数の課題を担っているため、一つの課題に集中できないという意味」と説明。「課題が多いと、精力が自然と分散してしまい、一つの問題をじっくりと考えることができない。一つの事に一心に集中しなければ、じっくり考え、新しいものを生み出すことはできない。あれもこれもというやり方では、上っ面だけのやり方になってしまう」と指摘する。

評価という「指揮棒」を改善し、各種人材をうまく活用する

 今年の政府活動報告は、「基礎研究と応用基礎研究に対するサポートを強化し、オリジナルイノベーション、カギとなるコア技術のブレイクスルーを強化する」という目標を掲げている。

 では、大学のテクノロジーイノベーションをいかに強化すればよいのだろうか?

 杜会長は、「基礎研究という一番重要な部分を強化しなければならない」とし、「基礎研究の規律、特徴を尊重し、自由な模索を奨励し、自主科学研究の配置を強化し、重大な最先端基礎研究、戦略的分野の将来を見据えた配置を強化しなければならない。また、学科の融合という『触媒』をうまく活用し、ビッグサイエンス、ビッグデータ、インターネット時代の需要に合わせ、大学の学科の配置を系統的に調整し、学科と学科の間にある壁を突き破り、学科間、科学と技術の間、技術間、自然科学と人文社会科学の間の融合を促進しなければならない」と提案する。

 また、「協同イノベーションという動力源を呼び起こさなければならない。そのために、政策制度の障害の解消に取り組み、解決が急務となっている国の戦略的問題や最先端分野の問題をめぐって、大学が共同でイノベーションを実現するための効果的なスタイルを模索し、学校、学科、分野、国境を越えた協同イノベーションを展開し、研究リソースの配置を最適化し、カギとなるコア技術のイノベーションの需要を満たさなければならない。特に、大学テクノロジーの成果の実用化を促進するために力を入れるポイントを見定め、科学研究成果や知的財産権などの帰属、利益分配メカニズムを整備し、各方面が共同で難題に挑戦する積極性を刺激しなければならない」とする。

 そして、「評価体系という『指揮棒』を改善しなければならない。評価的指導は非常に重要だ。現在、評価メカニズムには思わしくない傾向が存在する。そのような傾向を克服するためには、分類評価の推進を加速させなければならない。基礎研究の分野は、同業界の学術評価をメインに、国際的な同業界の評価を導入することができる。応用研究と技術開発の分野は市場の評価を重視し、ユーザー、市場、専門家などの第三者が評価することができる。代表的な成果評価の実施を模索し、成果の質、オリジナルバリュー、経済、社会発展への実際の寄与などを際立たせて評価し、論文、特許、プロジェクトなどの量だけを評価することは避けなければならない。科学研究者が、一つの課題にじっくりと時間をかけて取り組むことを奨励し、一つのことを徹底的に研究するという職人の精神を築き、カギとなるコア技術の難題に挑むという、今の時代の重要な責任を本当の意味で担わなければならない」と強調した。


※本稿は、科技日報「破解"卡脖子"難題 高校創新力量如何発力」(2019年3月21日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。