第151号
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「量子超越性」達成のカギはもつれ状態の掌握

2019年4月4日 呉長鋒(科技日報記者)

―コア技術を手中へ

 5個の光量子ビットもつれから6個の光量子ビットもつれ、8個の光量子ビットもつれ、10個の光量子ビットもつれ、18個の光量子ビットもつれといったように、中国科学技術大学の潘建偉教授率いるチームは、光量子ビットもつれ数の世界記録を塗り替え続けている。

 3月13日午後、潘教授は、北京航空航天大学沙河キャンパスを訪れ、「新量子革命:量子物理基礎検証から量子情報技術まで」と題する講座を行った。

 潘教授は、「量子情報技術を代表とする第二次量子革命が人類社会物質文明の大きな進歩を必ずもたらすだろう。また、中国が情報技術時代における随行者、模倣者から、将来、情報技術のリーダーになるビッグチャンスを予想させる」と語った。

もつれは量子科学の分野における非常に貴重なリソース

 現在、私たちが使っている各種コンピューターは、半導体をいくつかつなぎ合わせて作られたトランジスタからなり、各トランジスタは「0」と「1」という2つの数字だけで数を表現する2進法で計算し、各種論理演算を通して計算結果を導き出す。

 しかし、チップの集積密度には物理的限界があり、特に、素因数分解などの特定の複雑な問題を処理する場合、現有のコンピューターの処理能力では非常に時間がかかってしまう。

 中国には、事情が複雑多岐であるため方向を見失い取るべき道を誤るという意味の「岐路亡羊」という言葉がある。しかし量子計算は、例えばミステリアスな迷路を進む場合でも、少しの量子ビットを利用するだけで、いくつにも分身させることができ、たくさんの分かれ道の中から目標を探すことをごく短時間で成し遂げることができる。

 潘教授チームのメンバー・劉乃楽研究員は取材に対して、「このような能力は、量子の重ね合わせの原理から来ており、量子ビットが同時に0と1に重ね合わさる。ビット数が増加するにつれ、計算能力指数もアップしていく。一般的なコンピューターの場合、ある時点で2量子ビットが表現できるのは、00、01、10、11の4つの可能性のうちの一つだけであるのに対して、量子計算の場合は、2量子ビットが同時に00、01、10、11の全てを表現できる」とし、「つまり、2のN乗の状態を同時に計算することができるということで、これは量子もつれの性質によるものである」と説明する。

 もつれの状態の量子ビットがおよそ50に達すると、量子コンピューターは特定の任務において、一般的なあらゆるコンピューターを大きく引き放し、「量子超越性」を達成できると予測する説もある。

 量子計算のほか、量子科学の他の分野においても、もつれは非常に重要なリソースだ。例えば、量子暗号化通信や量子テレポーテーションなどは、もつれの特性を活用して実現した量子状態の転送となる。「もつれ粒子をコントロールできれば、ミステリアスで、卓越した量子の世界を見ることはできない」と劉研究員。

量子ビット数を増やして複数の自由度を活用

 劉研究員は、「いくつかの量子ビット関連の操作と量子もつれの作成は、量子計算において最も核となる指標である。技術上の様々な限界から、どの粒子体系を採用しても、もつれ粒子の操作と測定は、想像しているよりずっと困難だ。光子体系において、最大の困難は効率の問題となる。複数の光子を操作し、タイムユニット内に同時に複数の光子が発生する確率は極めて低い」と説明する。

 複数の光子を操作するというのが現実的でないのであれば、少数の光子を操作して、できるだけ多くのもつれを発生させることはできないのだろうか?

 科学者が考案した方法の一つは、光子の多自由度を利用するという方法だ。例えばある人に、その人が知らない人物について説明する時、その人物の身長や体重、肌の色、年齢などを伝える。こうした様々な次元の異なる情報こそが「自由度」だ。

「光子も同じで、光子の波長、偏光、軌道角運動量、経路空間などは、異なる次元の情報で、どれも量子ビットのプログラミングに利用することができる。光子の他の自由度をできるだけ活用し、その量子ビットの形成を制御して、もつれを維持する」と劉研究員。

 2015年、潘教授のチームは、偏光と軌道角運動量を利用してプログラミングした単一の光子の多自由度量子テレポーテーションを実現した。多自由度の量子テレポーテーションはブレイクスルーで、科学者に新たな希望を与えた。このブレイクスルーのおかげで、科学者らは、関連の多光子、多自由度を操作して、「超量子もつれ」を実現する青写真をよりはっきりと描けるようになった。

 しかし、3つの自由度の超量子もつれは、技術的に非常に難しい。最大の難関は、そのうちの一つの自由度のプログラミング情報を読み取る時、他の自由度のプログラミングを破壊してはいけないことだ。

 「私たちは、6個の光子の偏光、軌道角運動量、経路空間の3つの自由度を選び、そこから18個の量子ビットをプログラミングした。つまり、6個の光子の3つの自由度で、超量子もつれを形成し、18個の量子ビットをプログラミングした。最も難しいのは量子ビットの測定ともつれの検証実験を巧妙に行い、ある光子の各自由度の測定が、まだ測定が終わっていない他の自由度に影響しないようにする点だった」と劉研究員。

 また、劉研究員は、「その中でも、最も難しいのが軌道角運動量の測定だ。今回、科学者は、一連の光学器材を利用して、軌道角運動量の情報を極化情報に変換したうえで測定を行うというとても巧妙な曲線戦術を考案した。それにより、容易に結果を出すことができるようになった」と続けた。

 そして「最終的に、3つの自由度を持つ各光子に対して、8種類の可能性の結果を出すことができる。実験データは、SN比は約4.4、情報忠実度は0.708±0.016であることを示していた。情報忠実度が0.5のしきい値を超えていれば、本当の意味で多粒子のもつれを実現したと言える。そのため、今回の情報忠実度は、統計学的に見て、超量子もつれの明確な証拠となっている」とした。

「量子超越性」達成の光見える

「量子コンピューターは、本当の意味での並列コンピューターだ。一般的なコンピューターを単一楽器に例えるなら、量子コンピューターは交響楽団のようで、一度の演算で、たくさんの異なる状況を処理することができる。50個の光子もつれがあれば、量子コンピューターの計算能力は中国のスーパーコンピューター・天河二号を超える」と劉研究員。

 そして劉研究員は、「今回、私たちは3つの自由度を利用し、18個の量子ビットのもつれを実現した。一つの自由度の18個の光子もつれの状態よりおよそ13桁も優れている」としている。この成果により、科学者らは、異なる自由度のもつれという有効なリソースを、もっとスケールが大きく、高い効率の量子情報技術に応用し、まだ誰も到達したことのない量子の秘境に必ずたどり着ける日が来ると、一層確信するようになっている。

 劉研究員は、「量子ビットもつれの数が多くなるほど、量子計算能力が高くなる。今後も研究を続け、3年から5年後には、量子計算の分野で、約50個の量子ビットのもつれの関連操作を実現し、その計算能力が、特定の問題の解を求める上で、現時点で最も優れたスーパーコンピューターに肩を並べるか、超えるかして、『量子超越性』を達成したい」とその目標を語った。


※本稿は、科技日報「実現"量子覇権",糾纏体整備是関鍵」(2019年3月20日付1面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。