第152号
トップ  > 科学技術トピック>  第152号 >  貴州:テッピセッコクが貧困脱却をサポートする「金の成る木」に

貴州:テッピセッコクが貧困脱却をサポートする「金の成る木」に

2019年5月14日 何春/何星輝(科技日報記者)

img

テッピセッコク

 道教の医学経典を集めた「道藏」にも記載されているラン科のテッピセッコク(鉄皮石斛)は元々、貴州省の石だらけの山に自生していた。「救命仙草」と呼ばれる中医薬として昔から知られるテッピセッコクは現在、地方政府の指導の下、貴州省の産業による貧困支援における新しい救世主となっている。貴州省科技庁がテッピセッコクの栽培をサポートする政策を打ち出し、「貧困」を解決するためにバックアップしてくれるその「仙草」が、貴州省の大地で広く栽培されるようになっている。

石の山に育つ経済発展もたらすテッピセッコク

 黔西南州安龍県の地元に伝わる「篤山は石の山。何かを成すのは至難の業。村も山も石だらけ。食糧も半年で食べつくしてしまうほど」という言葉からもその非常に貧しい暮らしぶりを知ることができる。この深刻な貧困を抱えた村は、「地球のがん」と呼ばれるカルスト地形で、奇岩怪石群があり、植物が全く育たない土地だった。

 安龍県者貴村科豊組の村民・王玉秀さんは、「以前は石を見るのも腹立たしかったが、今はその邪魔ものが、収入源に変わった。近年、地方政府の指導の下、地元の村民が、石をめぐる問題克服に取り組んだ。テッピセッコクの栽培により、カルスト地形の石漠化が改善し、荒れ山が、植物が茂る緑の山、経済発展をもたらす山になった」と喜ぶ。

 テッピセッコクの栽培は、労働密集型産業で、安龍県西城秀樹農林有限責任公司は、「123」式のターゲットをしぼった貧困支援を打ち出した。

「1」とは、一つの保障を指し、貧困農家が企業に就職し、月収が2,000元(1元は約16.63円)以上になるように経済的な保障を得られるようにすること。「2」は、2回ある利益配当を指す。1回目は元金配当で、1世帯当たり最低1,200元の収入がある。2回目は、反租倒包(請負農家に一定の賃借料を支払って耕地使用権を郷村に回収し、その耕地を外来公司や大農家に貸出す、あるいはその郷村が集団経営化する)」の方法で、貧困世帯は、省級財政現代農業特色優勢産業発展資金811万3,300元で企業の株主になることで、貧困世帯445世帯1,691人がそれに参加し、テッピセッコクを生産し増産した分の利益を折半する。「3」は、資源が株式に、資金が株金に、農民が一般個人投資家に変わる、「3つの変化」を指す。そうすることで、財政による貧困支援のための資金を最大限有効活用し、貧困世帯が貧困を脱却し、豊かになるよう牽引する効果を十分発揮させることができる。

産業の課題が貧困脱却の障害に

 貴州省は、地理的条件や生態環境に恵まれ、野生のテッピセッコクが多く自生しており、テッピセッコクの原産地となっている。なかでも、羅甸、荔波、安龍、赤水などの地域がテッピセッコクの生産が多い地域だ。

 数十年前、貴州省のテッピセッコクの販売量は年間200--300トンで、上海、北京、広東省などに出荷されていた。ただ、テッピセッコクは岩場や樹木に寄生することを好むため、繁殖能力は低く、成長も遅い。以前は、中医薬として根ごと抜いて採集していたため、1株抜けば、1株減るという状態だった。1960年代以降、市場でテッピセッコクの需要が高まるようになり、制限も計画もなしに野生のテッピセッコクを乱獲していたため、枯渇状態となっていた。そして、1990年代中期には、貴州省の野生のテッピセッコクの生産量は2トンにまで落ち込み、国家珍稀瀕危(希少・絶滅危惧)二級保護植物に指定された。

 近年、貴州省はテッピセッコク産業の発展を非常に重視しており、同産業の栽培面積は1980年代初期の約20ヘクタールから、2016年には約1,333ヘクタールにまで拡大し、モデル拠点1ヶ所から省内の9州市の30県市以上にまで拡大している。

 貴州省で生産されるたくさんの生薬のうち、テッピセッコクは、一歩踏み込んだ開発が急務な品種の一つで、調合済みの「中成薬」や健康コンサルティングや公衆衛生サービスを柱とする「大健康」産業の関連製品研究開発・生産などの面で、一定の基礎と資源的優位性を持ち、貴州省のテッピセッコク産業の発展に強固な基礎を築いている。

 ただ、同省全体のテッピセッコク産業の発展状況を見ると、産業は急速に発展しているものの、全体的な計画が不足している、企業が無秩序に増加し、テクノロジー・イノベーションの乏しさ、栽培・一次加工製品の形式の多さ、統一した質の基準が不十分、栽培企業や農家は多いものの、二次・三次加工企業、リーディングカンパニーは少ないなど、まだ課題も山積みだ。

 それら産業の課題が、村民の貧困脱却の障害となっている。

需要に焦点を絞りテクノロジーを活用して産業発展をバックアップ

 テクノロジーを活用して産業発展をバックアップし、テッピセッコクが再び、貴州省が貧困脱却における難関を攻略するための大きな力になるようにするにはどうすればいいのだろう?今年に入り、貴州省科技庁は「テクノロジーを活用してテッピセッコク産業の発展を支える」をテーマにしたセミナーを開催し、同省のテッピセッコク栽培資源バンクの建設、優良品種を選択した育成、市場の需要の調査研究、テッピセッコクドリンク開発、産学研連携などをいかに推進するかをめぐり、話し合いが行われ、計画が制定された。

 テッピセッコク産業発展のテクノロジーの分野の需要に合わせて、貴州省科技庁は、多くの学問分野の資源を統合し、大学や科学研究院所、企業などと連携して、テッピセッコク産業のコア技術のブレイクスルーを実現できるよう取り組んでいる。テッピセッコクの自然栽培やテッピセッコクドリンクの産業化開発などに的を絞り、同庁は、テクノロジー重大特定項目として「テッピセッコクの自然栽培の産業化コア技術研究・モデル推進」、「テッピセッコクの葉ドリンクの産業化開発・モデル応用」の二つを厳選し、1,694万元の資金的支援を実施する計画だ。

 貴州省は、約56.6ヘクタールのテッピセッコクの自然栽培試験モデル拠点を建設する計画で、年間生産額1億2,500万元、技術成果の普及面積1,333ヘクタール、生産額2億元以上を目指す。そして、ドリンクのパイロット生産ラインを1本設置し、販売額2億元を目指すという。


※本稿は、科技日報「貴州:"救命仙草"為産業扶貧添新軍」(2019年4月22日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。