トップ >科学技術トピック> 貴州をはじめとした中国各地でビッグデータはどう活用されているか

貴州をはじめとした中国各地でビッグデータはどう活用されているか

2019年5月9日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身、41歳。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より、中国では雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コ ンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のインターネット史: ワールドワイドウェブからの独立( 星海社新書)」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち(ソフトバンク新書)」など。

 ビッグデータ(中国語で大数据)は、データ管理ソフトでは処理できないほど巨大で複雑なデータである。中国では2014年の「政府工作報告」にビッグデータの概念に関する表記があったのがはじまりで、その後2015年9月にビッグデータ単体の政策「ビッグデータ促進展行動綱要」を発布した。その後も「市場主体のビッグデータ運用と監督についての若干の意見(2015)」「健康医療へのビッグデータの応用発展の促進と規範についての指導意見(2016)」「ビッグデータ産業発展計画(2016~2020)」が、国務院や工業和信息化部から発布された。社会科学文献出版社によるビッグデータに関するレポート「中国ビッグデータ発展報告」によると、間接的にビッグデータが関わる政策は、2018年1月までで90を超えるとし、AI、医療、生産、物流、金融など様々な分野でビッグデータを活動するよう記されている。

 加えて中国のほぼ全ての省市でビッグデータに関する政策を発表している。例えば北京であれば「北京市ビッグデータとクラウドコンピューティング発展行動計画(2016~2020)」、上海であれば「上海市ビッグデータ発展実施意見」「上海推進ビッグデータ研究と発展三年行動計画(2013~2015)」、広東省であれば「広東省促進ビッグデータ発展行動計画(2016~2020)」「市場主体サービスと監督管理について実施意見」「健康医療ビッグデータ発展の実施意見」が挙げられる。ビッグデータに注力すると報じられている貴州省では、「ビッグデータの応用発展についての若干の政策意見」「貴州省ビッグデータ産業発展応用計画網要(2014~2020)」「貴州省デジタル経済発展計画(2017~2020)」「貴州ビッグデータ+産業深度融合2017年行動計画」「健康医療へのビッグデータ発展の促進と規範の実施意見」「貴州省脱貧困を推進する農業発展ビッグデータ三年行動方案(2017~2019)」が挙げられる。

 目標値としては、工業和信息部はビッグデータ産業での売上額を2020年までに1兆元としているほか、各省で目標値を設定している。例えば2020年までに広東省ではビッグデータ産業の産業規模を6,000億元と広東省が計画内で目標値を定めた。また最近ではビッグデータなどIT産業で知られるようになった貴州省が4,500億元を目標値とした。広東省と貴州省の目標値は多省よりもとびぬけて高いものとなっている。

「中国ビッグデータ発展報告」では、政府・商業・民間の3つにわけて都市別(直轄市を除く)のビッグデータの発展度合いを数値化している。これによると、政府については「貴陽(26.36)」が最も高く、続いて「武漢(22.33)」「広州(20.78)」と続いた。商用では「深セン(29.88)」「広州(24.18)」「杭州(21.73)」「成都(21.41)」と続いた。民間では「深セン(26.0)」が圧倒的に高く、以下「広州(15.13)」「武漢(13.56)」「杭州(12.14)」が続いた。政府系のビッグデータ活用案例であれば貴陽の案例が多そうであるのに対し、非政府系であれば深センの案例が多くありそうだ。

img

図1 中国電子信息情報産業発展研究院発表「中国ビッグデータ発展指数報告(2018年)」のビッグデータ発展指数

img

図2 中国電子信息情報産業発展研究院発表「中国ビッグデータ発展指数報告(2018年)」のオープンデータ指数ランキング

 ビッグデータは非常に大きなデータを解析するわけだが、よりよい結果が出るために、地方政府の異なる管轄のデータを共有しようとしている。共有するためには、誰が管轄後に管理をし、どこまで情報を共有していいのかという線引きを決めなくてはならない。個人情報などの重要な情報を未許可で持ち運んではいけないという「網絡安全法(サイバーセキュリティ法)」も絡んでくる。そのための標準化やルール策定が必要となってくる。

 政府系ビッグデータに注力する貴陽市では「貴陽市ビッグデータ標準建設実施方案」を発布し、国のビッグデータを推し進めるのと同時に、地方のビッグデータの標準を10項目以上つくることを目標とした。その結果「政府データ分類分級指南」や「政府データ核心元データ」や「ブロックチェーン応用指南」といった政府レポートを貴州市政府が作成した。また貴州省においても、ビッグデータ標準化技術委員会がビッグデータの標準化を進めた。

 ではビッグデータを活用して、中国各地の地方政府は、政府主導でどのようなシステムを構築したかについていくつか紹介しよう。

 首都北京の中心に位置する西長安街でのビッグデータの活用では、監視カメラに移った屋台などの違法車両の通報機能があり、取り締まり時間を短くしたほか、各行政機関のデータをシェアすることにより、これまで中国では当たり前だった、役所でのたらいまわしを減らした。例えば障がい者の補助金申請にかかる時間が半分近く削減されたとしている。またどこにどんな人が住んでいるかを把握し対策を講じることが可能になった。例えば0~3歳児がどこに住んでいるかを把握することにより、どの幼稚園がどれだけの人数を受け入れる必要があるかといった対策をスマートに解決できるとしている。

 浙江省杭州では、交通をスマートに管理することで渋滞を減らず都市大脳(城市大脳)を導入している。都市大脳にはアリババ(阿里巴巴)がデータ処理で携わっているが、ほかにも交通での信号コントロールは「大華」と「中控」が、AIについては「上海依図」が、プラットフォームのハードウェアには「フォックスコン(富士康)」と「華三通信」が関わっている。

 交通をスマートに管理するとは、大きく4つのことがある。1つは「渋滞状況を把握し、AI分析により信号を変えるタイミングを調整し、渋滞を解消する」こと。これにより車による移動時間の短縮が実現できる。次に「通行が制限されている車の自動的に判別する」こと。通行が制限されているトラックなどの車両が通行するとそれを感知する。走行が制限されている車を確実に規制することで事故数減少が期待できる。違法なドライバーの顔認識を行い、ドライバーの過去の行為を検索するとともに、信用システムに情報を書き込むことができるとしている。3つめに「交通事故や人が異常に集まる異常事態を通報する」こと。こうした事態が発生したときは自動的にカメラ性能をあげ、事故現場にフォーカスするとともに、近所の警察に通報し、事故現場に迅速に警察が到達することが可能になる。最後に「特殊車両を優先する」こと。パトカーや救急車が迅速に移動することができるようになる。

 都市大脳は、杭州を皮切りに、蘇州、雄安新区、深セン、重慶、西安、上海などで、採用されている。

 政府系で最も力を入れている貴州省貴陽ではどうか。2019年5月の貴陽晩報によれば、貴陽市と貴陽市内の各区の政府システムが100%「雲上貴州」プラットフォームに入り、各種データが100%共用できる状態になったと報じている。また新華社は2018年11月、公安機関においてビッグデータを採用し、疑わしい人や住所や金の動きから詐欺犯罪グループを突き止めたと報じた。前述の「中国ビッグデータ発展報告」は裁判所において、刑事裁判で過去の判例のビッグデータから適切な判決を分析できるようになったとしている。

 今年1月1日より「貴陽市健康医療ビッグデータ応用発展条例」が施行された。これも地方政府部門が医療や保険に関する各種データを別々に抱えていたデータに加え、各医療機構の患者の電子カルテをビッグデータ内で共有する。加えてこれまで曖昧だった医療対価を一元化することや、個人データと医療データから貴陽の貧困層と病気の関連性についての分析にビッグデータを活用していくことも書かれている。

 こうした貴陽発の政府系ビッグデータ産業モデルの成果は、貴陽モデルとして中国全土で参考となり、活用されていくだろう。