中国の環境問題と処方箋

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( 2008年7月20日発行)

中国の環境問題と処方箋

中村 吉明(経済産業省環境指導室長)
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  アジアでは、経済成長と呼応する形で環境問題が顕在化している。特に、中国では、太湖等の水質汚濁のほか、大気汚染が大きな問題となっており、公害防止が 喫緊な課題になっている。他方、これらの公害は中国の問題だけに終わらず、国境を越え我が国にとっても重大な環境問題になっている。例えば、昨年5月、工 場が密集していない大分県や新潟県等において、光化学オキシダント濃度の増加が見られ、光化学スモッグ注意報が発令された。また、北九州市でも、昨年5 月、光化学スモッグ注意報が発せられ、85校の小学校の運動会が中止となっている。学識経験者の中には、これらの事象は中国の大気汚染の影響があるのでは ないかと指摘している者もいる。このように、中国をはじめとするアジアの環境問題は、我が国の環境問題にもなっており、アジアの環境問題の解決は、同時に 我が国の環境問題を解決につながる。

 一方、我が国は、他の国に例をみないものづくり大国であり、その「環境力」を活用し て、アジアの環境問題を解決しようという機運が生まれている。すなわち、技術移転や製品輸出等を通じて、アジアの環境負荷を低減させることにより、我が国 の「環境力」をアジアに導入し、環境ビジネスを活発化させることを目指しているのである。すなわち、我が国は、我が国の環境ビジネスを活用することによ り、中国を含めたアジアの環境負荷も低減し、最終的には、我が国の環境負荷も低減するという、win-win-winの状態を目指しているのである。

  しかしながら、現状は異なる。アジアの環境ビジネスが拡大傾向にある一方、我が国の環境装置(大気汚染、水質汚濁、廃棄物関連)の輸出動向は、横ばいで推 移している。つまり、アジアの環境ビジネスが拡大しているにもかかわらず、それに呼応して、日本からのアジアへの環境装置の輸出はそれほど伸びていないの である。

 前述のように、win-win-winの状態になるためには、どのようにすればいいだろうか。以下に5つの処方箋を提示する。


 ず 第一に、環境法令の執行強化である。昨今、中国では中央政府が環境法令を整備しつつあるが、地方政府では環境法令の執行が不徹底で、環境法令を違反した企 業についても汚染賦課金を支払いさえすれば事業の継続を許される例が多かった。なお、その汚染賦課金は、公害防止対策を講ずる費用より少額なため、企業は 汚染賦課金を支払って、環境法令の違反状態を継続するインセンティブが高かった。また、地方政府も罰金を徴収することにより地方財政が潤うこととなるの で、無理をして企業に環境法令を守らせるインセンティブがないというのも事実である。
一方、昨今、胡錦濤国家主席は、持続可能な経済は環境抜きに達成できないとの方針を掲げている。その具体策として、地方政府の職員に対し、省エネルギー・ 汚染排出削減目標が未達成であれば、他の評価項目がどんなに優れていても、全体の評価は落第とする「一票否決制度」を導入したため、地方政府も真剣に環境 対策を進めるようになった。このような中国の環境法令のエンフォースメントの高まりは、日本企業にとってチャンスである。一般的に、公害防止装置は成熟し た技術の集積であるため、日本の装置は、アジアの装置と比較して、価格差ほど技術差がないというのが現状である。もちろん、安定性、正確性はアジアの装置 に比べ比較優位があるが、現段階ではアジア市場に十分参入できていないというのが実情である。したがって、環境法令のエンフォースメントが高まれば、我が 国の装置の安定性と正確性が再評価され、参入の余地が生ずるものと思われる。

 

第二に、 公害問題の世論喚起である。「日本では、環境政策を大きく動かしたのは、公害反対の世論が運動となって地方自治体の選挙を動かし、また公害反対運動に支え られた公害被害者が公害裁判で勝訴したことであった。しかし、中国の場合、環境汚染に反対する世論が運動として全国横断的に結びつくことにも困難があるう え、仮にそうした運動があったとしても、今の選挙のしくみで地方行政を動かすことも難しいし、法律そのものの信頼性が低いため裁判の判決も日本ほどの影響 力は持ち得ない。」(「中国汚染「公害大陸」の環境報告」相川泰 [2008])これは、中国自身の問題ではあるが、環境問題を解決するためには、世論が一つのトリガーとなって、大きく環境負荷低減につながることを考慮 に入れておくべきであろう。

 第三に、 我が国企業が中国に進出する際には、製品販売型のビジネスから事業実施型のビジネスへ転換すべきである。その理由としては、製品販売であれば売り切りであ り、類似品を作られてしまうと収益を得る糧がなくなってしまうが、事業実施型のビジネスであればメンテナンス等により、事業期間中、安定した収益が得られ るからである。すなわち、バイヤーとセラーの関係からパートナーとなることが重要であると考える。ビジネスを上手く進めるポイントは、パートナーと対峙す るのではなく、同じ方向を目指すことにある。

 第四に、 中国の商慣行への対応である。中国では、代金回収が容易でないという事例があるほか、装置を納入した後、コア技術や装置そのものを模倣されたり、ロイヤリ ティを払わなかったりする等の事例も耳にする。例えば、中国では数多くの環境関連企業が存在しており、一つの製品・技術を輸出すると、類似品を作られてし まうケースを耳にする。まずは、日本政府が中国政府に対し、あらゆる機会を通じて、その改善を求めるのはもちろんであるが、それでも、このような中国のよ うな未成熟な市場では様々なリスクが存在することは事実である。このようなリスクがあるから、中国進出を断念するという選択肢もある。一方、人口減少や高 齢化により、日本国内の需要が減退するリスクの方が、中国に進出するリスクよりも大きいと判断する場合もあるであろう。座して死を待つか、積極的に打って 出るか、今、日本企業は分岐点にいる。

 第五に、どの分野に勢力を注ぐか である。アジアでは、水質の悪化が深刻化しており、特に中国では、多くの淡水域が汚染され安全な飲料水の確保が困難になっている。また、経済成長が続く東 南アジア地域でも食品関連産業や繊維産業などからの産業排水、都市化に伴う生活排水等により都市部を中心に水質が悪化している。一方、我が国企業は、膜技 術など水処理に関する要素技術は世界トップレベルであり、特に海水淡水化、廃水処理、超純水製造などの膜処理技術では、世界シェアの6割を占めている。成 長が見込まれるアジアの水ビジネス市場における我が国企業のプレゼンスを高めるとともに、アジアで深刻化する水汚染・水不足を解決するため、我が国企業が 水分野を中心に中国をはじめとするアジア諸国に進出することが得策である。それらを背景に、政府は、「アジア経済・環境共同体構想」を提唱し、その主要プ ロジェクトとして「アジア・サステナブルアクア計画」を企画している。日本の卓越した要素技術やエンジニアリング技術、運転管理技術を終結して、世界の水 メジャーであるヴェオリア、スエズに匹敵するようなコンソーシアムの創生がその原動力となり得ないだろうか。

 


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