中国の近代化に貢献した日本

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( 2008年8月20日発行)

中国の近代化に貢献した日本

寺岡 伸章(中国総合研究センター フェロー)

中国語の学術語は日本語

  中国語の科学技術用語のかなりの部分は元々日本語である。明治維新以降、欧州に派遣された日本人留学生が英語やドイツ語から苦心して翻訳した、 物理、化学、医学、社会学などの専門用語が現在の中国人科学者の間で使用されている。“中華人民共和国”でさえ、中国語は“中華”だけで、“人民”も“共 和国”も日本語である。

  これには歴史的経緯がある。清朝は1894年から翌年にかけての日清戦争に敗れると、中国文化の後進性を悟り、近代化の道を進むことになる。最も手近なモ デルに選ばれたのが日本であった。近代日本に学ぶため、日清戦争後の20年間に総計10万人の留学生が日本に派遣されたと言われている。佐伯修によると、 多いときで1万人以上の留学生が日本の大学で学び、中国各地で数百人の日本人が教師や顧問として教育活動を行っていたという。清朝末の中国教育界は日本に 全面的に傾斜していたのだ。中国人留学生が母国に持ち帰った学術用語は日本人がヨーロッパ語から翻訳したものであった。この事実を知っている中国人学者は 日本留学経験者であり、ほとんどの中国人学者は知らない。恐らくプライドが高い中国教育界は学校で学生に教えていないのである。米国の歴史学者のダグラ ス・レイノルズは、1900年から10年間を「日中関係における忘れられた黄金の十年」と呼んでいる。

日中密月の10年

 日中の 密月時代を傍観していた米国は、中国国内に親米派を育てて中国での権益獲得競争への出遅れを挽回することになる。そのやり方は組織的で、徹底していた。病 院やミッションスクールの建設に始まり、義和団事件賠償金の一部を用いて清華大学の前身となる学校を設立し、優秀な学生を選抜後米国の大学で教育し、本国 に送り返すことになる。また、賠償金は米国への官費留学事業の基金にもなった、さらに、ロックフェラー財団、ハーバード、プリンストン、エールなどの大学 も米国政府の対中文化事業に参加し、官民ともに密接な連携プレーを行うことになる。その後、五四運動で中国人の日本に対する不満が爆発し、日本は敗戦に追 い込まれるのみでなく、終戦後も日本批判が続くことになる。

  中国は文化大革命終焉後、国際社会への復帰を目指すが、鄧小平がモデルとして選んだ国は再び日本であった。そのため、1980年代は日中密月時代が継続さ れる。しかし、その後、親日派の胡耀邦総書記の失脚を契機にして、中国の日本離れが加速し、江沢民時代に至って日中関係は非常に悪化する。
こうやって歴史を振り返ると、日中関係は密月と悪化を繰り返しているように思える。さらに、日中密月は米国の国益を損なう恐れが高いとも言える。日中友 好親善では、米国の出番がなくなる可能性があるため、米国は潜在的にある程度の日中の悪化を期待しているのではあるまいか。

現代中国語のモデルは日本語

  ある社会が近代化を迎えるに必要な条件がある。その一つは言文一致である。人々が日常話す言葉を文章化できる言語の発明が必要だ。中国語の場合、従来の文 語を改革し、誰でも書ける言語を創造したのは魯迅である。彼は白話文と呼ばれる平易な文語を編み出した。魯迅は中国を改革し、封建社会から解放し、人々を 救うには言語革命が必要と考えた。魯迅は日本留学経験者であるが、彼の日本語は日本人と変わらないほど流暢であったという。恐らく、魯迅は日本語で考えら れるほど日本語を頭に叩き込んでいたのであろう。つまり、魯迅が考案した白話文は日本語を下敷きにしたものである。述語と目的語の順序を除けば、日本語と 中国語の文法はかなり似ている。日本人が英語と中国語を話す場合、中国語の方がストレスが少ないのは、文法上の違いが少ないためである。

  中国人は認めたがらないが、現代中国語は日本語を基本に作成されたのである。では、現代日本語はどうか。日本語も機能的な言語に変化させるために、ヨー ロッパ言語を元に再構築されたと言ってよい。この順番は近代化の順であり、言語としての優劣性とは関係がない。中国の近代化に日本が貢献したからと言っ て、日本が優れた国家というわけではない。それは、漢字が中国で発明され、日本に伝播してきたことを以って、日本文化は中国文化の一部と言わないことと同 じである。日中両国は相互に教え合って、成長してきたのである。


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