中国の宇宙開発動向と日中宇宙協力の可能性

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( 2008年9月20日発行)

中国の宇宙開発動向と日中宇宙協力の可能性

辻野 照久
(独立行政法人宇宙航空研究開発機構国際部参事)

1.中国の宇宙開発の概況 

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  中国は1970年に長征1型ロケットで技術試験衛星「東方紅1号」の打上げに成功し、日本に次いで世界で5番目の自力での衛星打上げ国となった。

  1996年に長征ロケットの打上げ失敗が相次いだが、その後2008年に至るまで、さまざまな役割をもつ衛星の打上げに60回以上連続成功してきた。中国 の宇宙開発は、国威発揚という面もあるが、国 家の経済発展と国民の生活水準向上に貢献することを主要な目的とする実益重視型であるといえる。
2008年8月までのロケット打上げ数は111回、自国の衛星数は111機(国別ではロ・米・日に次ぐ4位)、外国の衛星打上げも23機にのぼる。

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 衛星が果たす役割(ミッション)の種類としては、通信放送・地球観測・航行測位・宇宙環境利用・有人宇宙飛行・宇宙科学・月惑星探査などがあり、中 国が開発する衛星は近年急速にミッションの幅が広がっている。 tsuji2 例 えば2003年に中国の宇宙飛行士が搭乗した有人宇宙船「神舟5号」(ロシア、米国に次ぐ世界3番目の自力有人飛行)、2006年の宇宙育種専用衛星「実 践8号」、2007年の月周回衛星「 嫦娥1号」、2 008年のデータ中継衛星「天鏈1号」というように続々と新たな挑戦を行なっている。
今後の計画としては、新系列の打上げロケットである長征5号の開発と海南島射場の建設、30機の中高度軌道周回衛星によるGPS衛星群の構築、多数の地球 観測衛星による環境・災害衛星群の構築、月 探査の第2段階以降として月面着陸や試料採取(サンプルリターン)などを行なうことを2006年の宇宙白書「中 国的航天」で発表している。

2.中国の宇宙活動体制と各分野の活動

 宇宙活動の国際的な窓口となる中国の宇宙機関は、「工業・情報化省(MIIT)」に属する「国防科技工業局(COSTIND)」傘下の「国家航天局(CNSA)」である。
中国の宇宙開発を担う組織は、CNSA傘下の中国航天科技集団公司(CASC)で、特に打上げロケットの研究を行なう中国運載火箭研究院(CALT)と衛星技術の開発を行う中国空間科学技術研究院( CAST)が中心的な機関である。
ロケットの打上げや衛星の追跡管制などは「人民解放軍(PLA)総装備部」が実施している。
中国の宇宙技術はもともと旧ソ連から導入されたものである。旧ソ連は1960年代にほぼ宇宙技術を完成させ、以来40年間でほとんど進歩が見られない。 これに対し、中 国は米国や欧州の技術も取り入れて、ロシアを上回る技術レベルに到達している。中国の海亀政策(帰国研究者の優遇)もこのような技術発展を 後押ししている。
また、人民解放軍直轄の大学である北京航空航天大学やハルピン工科大学などが宇宙技術の基礎研究の拠点となっている。

3.各分野の活動

(1)通信放送

 中国の商業的な通信放送衛星の運用は、中国衛星通信集団公司(China Satcom)に統合化されている。2008年6月9日、中国初の直接放送衛星「中星9号(ZX-9)」が 四川省の西昌衛星発射センター(XSLC)から 長征3B型打上げロケットにより打ち上げられた。この衛星は北京オリンピックのテレビ放送に間に合うように、この時期に打ち上げられた。5月に発生した四 川大地震の際には既に射場にあり、影響も多少あったという。自主独立路線で宇宙開発を行ってきた中国では珍しいことであるが、この衛星は欧州のターレス・ アレニア・スペース社が製造したもので、打 上げ時重量4.5トンの大型衛星である。
2008年4月に打ち上げられたデータ中継衛星「天鏈1号(TL-1)」(鏈=鎖の意味)は、通信放送衛星に分類されるが、実際の役割は有人宇宙飛行に おいてデータ中継を行なうことが中心であり、2 008年10月頃の「神舟7号(SZ-7)」の運用支援に用いられると予想される。

(2)地球観測

tsuji3   中国の地球観測衛星の歴史は1970年代からと古いが、当初は光学カメラと銀塩フィルムによる撮像を地上に回収する方式で観測画像を入手してきた。最近は 電波による画像データ伝送を行なうようになり、気象衛星「 風雲(FY)」1型〜3型、ブラジルと共同で中国・ブラジル資源探査衛星「CBERS」、海洋観 測衛星「海洋1号(HY-1)」、リ モートセンシング衛星「遥感(YG)」1号〜3号などを打ち上げている。2 008年5月に打ち上げられた「風雲3A」 は11種類の観測機器を搭載した新型の極軌道気象衛星である。2 008年9月には初の環境観測衛星「環境1号(HJ-1)」の光学観測衛星を2機同時に打 ち上げる予定である。HJ衛星は今後、光学衛星4機とレーダ衛星4機よりなる衛星群(コンステレーション)の 構築を目指している。

(3)航行測位

 中国は2000年から航行測位用の静止衛星「北斗(BD)」を4機打ち上げている。また2007年には、中高度(約20,000km)に周回型の 「Compass」を打ち上げ、最 終的に米国のGPS衛星や欧州のガリレオと同規模の30機による衛星群構築を目指している。中国は米国に対抗して独自の 衛星群を保有するだけでなく、欧州のガリレオ計画にも参加を表明し、航 行測位に関する宇宙インフラをできる限り利用しようとしている。

(4)宇宙環境利用

 中国は地球観測を行なう回収式衛星の性能向上や運用期間延伸に伴い、微小重力や高真空・宇宙線などの宇宙環境を利用した実験を行なう装置を相乗りさせ、 ドイツや日本にも実験機会を提供するなど、世 界でも最も熱心に宇宙環境利用実験を行なう国の1つとなっている。このような宇宙実験は有人宇宙船「神舟」内 でも行なわれている。また宇宙環境を利用した植物や動物の品種改良に特化したミッションとして、2 006年に世界で初めて回収式の宇宙育種専用衛星「実践 8号(SJ-8)」を打ち上げた。今後も引き続き、この種の実験衛星の打上げを行なうと見られる。

(5)有人宇宙飛行
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  有人宇宙飛行に向けた準備として無人の「神舟」打上げは1999年から始まっており、2003年の初の有人宇宙飛行までに4機の無人宇宙船の試験飛行を行 なった。打上げロケットは長征2F型で、先 端部に緊急脱出ロケットが装備されているという特徴がある。無人での試験段階では、宇宙飛行士の人形を乗せての 身体データ計測や、宇宙環境利用実験なども併せて実施しており、2 003年に突然有人宇宙飛行が実現したわけではなく、回収式衛星以来のロシア由来・中国 で独自発展した技術が有効に反映されている。ロ・米に次ぐ3番目の自力有人飛行達成は偶然ではない。

  2008年9月25日から30日の間に「神舟7号」を打ち上げ、初の船外活動(EVA)を行なうことになっており、中国独自の宇宙服など、新技術の成果が注目される。

(6)宇宙科学

  中国の宇宙科学衛星はまだ数少ないが、欧州宇宙機関(ESA)と共同で実施した双星(Double Star)計画では、極軌道と赤道軌道に長楕円軌道の衛星を配置し、地 球磁気圏(Magnetosphere)の磁気分布を観測した。欧州各国ではその データを用いた研究が行なわれている。
今後の予定として、中国の国家天文台による太陽観測望遠鏡衛星の打上げ、第1ラグランジュポイント(L-1)などに観測機を打ち上げる「夸父(Kuafu)」計画などがある。

(7)月・惑星探査

tsuji5   2007年10月、日本の「 かぐや」よ り1ヶ月遅れて中国初の月周回衛星「嫦娥1号(CE-1)」が打ち上げられた。約1年間、月の周囲を高度200km で周回して、月 面の科学データを取得する予定である。中 国は、「嫦娥1号」に 続いて、月 面着陸、試料採取、地球への持ち帰り(サンプルリターン)といった 次のステップの探査計画を既に開始している。
また、ロシアと共同で火星探査機を開発する計画もある。

 

(8)宇宙輸送

 中国は長征ロケットの打上げ回数が100回を超え、60回以上連続成功を続けており、非常に安定感がある。年間10機程度の打上げはごく普通になると予 想される。  さらに、や や陳腐化した現在の長征2・3・4型の系列を一挙にレベルアップするべく新系列の長征5型の開発を行っている。  現在は直径3m余りの機体(日本のH-ⅡAは4m)であるが、長征5型ではコア機体の直径が5m( 日本のH-ⅡBと同じ)となり、メインエンジンのクラ スタ化と燃料の低公害化、上段の液酸・液水エンジンの性能向上などを図り、最強の組合せでは現在の3倍近い重量の衛星の打上げが可能になるという構想であ る。また、緯度の低い海南島に新たな射場を建設し、ロケットを工場から船で輸送するなど、これまでと全く異なる打上げシステムを構築しようとしている。

 

4.外国衛星の打上げ

 中国は低価格の打上げ手段である長征ロケットにより、中国以外の国から衛星打上げを受注している。最近注目されたのは、2007年のナイジェリアの静止 通信衛星「Nigcomsat-1」である。こ の衛星は中国の東方紅4型衛星バスを用いて製造され、長征3B型ロケットで打ち上げられた。ナイジェリアは 全世界から衛星製造及び打上げ事業者を公募し、21社が参加した国際入札で中国が選ばれた。これは、中 国が衛星製造から打上げまでパッケージで受注した最 初の事例である。
中国が打ち上げた外国衛星としては、過去にはオーストラリア、フィリピン、米国などの静止通信衛星(すべて米国製)、パキスタン、スウェーデン、ブラジ ルなどの各国が開発した周回型衛星がある。米 国のイリジウム衛星は、長征2C型ロケットにより試験機も含め7回の打上げ(各回衛星2機ずつ)で合計14機 が打ち上げられた。1998年に米国が中国に対する衛星輸出を禁止して以来、中 国における米国衛星の打上げは途絶えている。

 

5.主なロケット・衛星の失敗

 最近でこそ中国のロケット成功率は着実に上昇しているが、1996年までは一進一退の状況で、42機中8機失敗、成功率81%であった。特に、1996年2月のインテルサット衛星打上げにおいては、長 征3B型ロケットが内陸部で地上に墜落し、死者を出す大惨事となった。
1996年10月以降は2008年6月まで65回連続で打上げに成功しているが、軌道投入に成功した衛星にも不具合が出る場合がある。 「Nigcomsat-1」打上げに先立ち、同 型の東方紅4型バスを用いた静止通信衛星「シノサット2号」が2006年10月に打ち上げられたが、太陽電 池パドルが開かず、衛星は全く機能しなかった。「Nigcomsat-1」打上げ時には、不 具合対策を施してナイジェリア初の静止衛星の軌道上での運用開 始に成功した。
この他、1993年の回収式衛星の再突入用エンジン噴射ミスによる回収失敗や、1994年の衛星搭載燃料漏れによる姿勢制御不能などの衛星失敗例がある。
中国は、いくつかのプロジェクト失敗の経験を踏まえて、基礎的な宇宙技術習得に力を入れ、信頼性の高い宇宙開発活動を目指している。

6.日中宇宙協力の可能性

 中国では様々な宇宙開発への取組みが意欲的に行われている、ということがようやく一般にも知られるようになってきた。中国と比較すると、日本は国 際宇宙ステーション(ISS)最大の実験室である「 きぼう」や、今後打上げが予定されているH-ⅡBロケットによる宇宙ステーション補給機「HTV」、温 暖化ガス観測技術衛星「GOSAT」など、世界でも最先端といえる宇宙技術を有している。一方、中 国にも独自の有人宇宙船、極軌道気象衛星、航行測位衛星 群、環境観測衛星群、宇宙育種衛星など、さまざまなミッションがある。
日中間では、科学分野での大学間の共同研究や利用機関間でのデータ共同利用を小規模ながら行なった事例がある。なお、独立行政法人宇宙航空研究開発機構 (JAXA)の宇宙科学研究本部(ISAS)で は、2006年に中国の回収式衛星を利用して、線虫実験をサンプルシェア方式で行なった実績がある。
将来の日中宇宙協力の方向性として、筆者が予想していることは、月・惑星探査や地球観測分野での協力である。日本など13カ国が参加する国際宇宙探査調整 グループ(ISECG)に は中国も含まれている。このグループでは、13カ国が一斉に1つのプロジェクトに集中して協力するのではなく、2国間や多国間な どさまざまな組合せでいくつかのプロジェクトを並行して進めるという協力形態になると予想される。2007年に相次いで月周回衛星を打ち上げた日中両国 は、他 の宇宙先進国からも月探査分野のキープレーヤとしての存在感を高めている。将来的には、日中宇宙探査協力プロジェクトという形態も考えられる。
また、地球観測の分野では、低軌道周回型の地球観測衛星による観測頻度を向上させるために、より多くの衛星を打ち上げる必要があり、日 中宇宙協力で観測ニーズに合わせた衛星運用の分担を行うようになる可能性がある。
今後、日本と中国だけでなく、欧米諸国やインド・韓国などもお互いの強みを持ち寄り、世界規模での宇宙協力体制が築かれることを願っている。


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