7.原子力開発分野
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7.1 原子力開発分野の概要

(1) 関連政策

1) 各政策の分野別取り組みについて

 中国は、「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)に入り、今後の原子力開発の方向性を定めた3つの国家規画を相次いで公表した。

 国防科学技術工業委員会(当時)が2006年8月に公表した「原子力産業『第11次5ヵ年』発展規画」は、発電だけでなく核燃料サイクルから放射線利用までを含めた、産業としての原子力開発の方向性を示したものである。

 また、国家発展改革委員会は2007年11月、2020年までを視野に入れた「原子力発電中長期発展規画(2005~2020年)」を公表した。同規画では、2020年時点で運転中の原子力発電所の設備容量を4000万キロワット、また建設中の原子力発電所の設備容量を1800万kWにするとの具体的な目標を掲げた。

 さらに、同中長期発展規画の公表に先立つ2007年9月には、「加圧水型(PWR)原子力発電所の基準体系構築に関する『第11次5ヵ年』規画」が国防科学技術工業委員会(当時)によって公表されている。

 中国ではフランス、カナダ、ロシアといった国の技術を採用した原子力発電所が稼働している。これに加え、米国ウェスチングハウス社が開発した第3世代PWRである「AP1000型炉」(出力100万kW級)の初号機も、世界に先駆けてまもなく建設が始まろうとしている。

 こうしたことから中国政府は、原子力発電基準・規格が統一されていない弊害が現れている状況を踏まえ、原子力発電基準・規格体系構築の全体作業を完了させる方針をPWR基準体系構築に関する規画の中で示した。

2)重点分野推進政策

 中国政府は、「原子力発電中長期発展規画」の中で、「熱中性子炉(PWR)-高速中性子炉-制御核融合炉」という3つのステップで原子力開発を進める方針を明らかにした。また、これに加えて、高温ガス炉や固有安全PWRを自主的に研究・開発し、各プロジェクトの技術研究の進捗状況を踏まえながら、適宜、試験あるいは実証プロジェクトに着手する意向を示した。

 このうちPWRについては、フランスの技術をベースに独自に設計した100万kW級の改良型第2世代PWRである「CPR1000型炉」の建設拡大と併行して、次世代(第3世代)炉に位置付けられている「AP1000型炉」とフランスAREVA社の「EPR」(PWR、175万kW級)の建設がまもなくスタートする。

 第3世代炉については、今のところ「AP1000型炉」が圧倒的に優位であり、44基の建設が計画されている。これに対して、「EPR」は台山Ⅰ期計画で予定されている2基だけである。

 台山Ⅰ期と、「AP1000型炉」をそれぞれ2基採用する三門Ⅰ期と海陽Ⅰ期を加えた3件のプロジェクトは、第3世代炉の自主化(国産化)の拠り所となる国家プロジェクトとすることが決まっている。

 高速(増殖)炉は、PWRから将来の核融合炉へとつなぐ原子炉戦略の中できわめて重要な炉型として位置付けられており、高速炉実験炉「CEFR」(電気出力2万kW)は「国家ハイテク研究開発発展計画」(「863計画」)の中でも最大のプロジェクトの1つに数えられている。CEFRは、2009年6月の臨界を経て、2010年6月の運転開始が予定されている。

 中国政府は、発電以外の水素製造などにも利用することができる高温ガス炉(HTGR)の開発にも力を入れている。出力10MWの実験炉の技術をベースに、山東省の石島湾に出力20万kWのHTGR実証炉の建設が計画されており、2013年に送電を開始する予定になっている。

 このほか、第4世代炉として位置付けられる超臨界圧水炉が、「国家重点基礎研究発展計画」(「973計画」)に組み込まれた。超臨界圧水炉は、第4世代原子炉の中で唯一の水冷却炉で、超臨界圧水を冷却材としており、現行の軽水炉よりもシステムが簡単で熱効率が高く大幅な経済性の向上が期待されている。

 中国が、炉型戦略の中でPWRと高速炉に次ぐ炉型として位置付ける核融合炉については、自主開発と国際協力の枠組みで進める方針が示されている。具体的には、トカマク型核融合試験2号装置「HL-2A」を用いて高パラメータ領域での模擬炉心プラズマ実験を行うほか、慣性核融合の課題技術についても引き続き研究が行われることになっている。

 このほか、原子力技術の応用拡大と産業化プロセスを加速するとの方針から、以下のようなプロジェクトを実施することが計画されている。

  • 大出力照射加速器、医療用小型サイクロトロンの大量生産基地の整備
  • ヨウ素125核種の製造ならびに新型ヨウ素125シード線源の製造および関連生産ラインの建設
  • 爆発物検査装置の生産ラインの建設
  • 放射線プロセス技術の応用推進モデルセンターの建設ならびに都市部における照射施設の建設・改造
  • 原子力を利用した海水淡水化モデル・プロジェクトの着工・建設

 基礎強化と科学技術の革新能力向上をめざした、以下のようなプロジェクトも計画されている。

  • 大出力照射加速器、医療用小型サイクロトロンの大量生産基地の整備
  • ヨウ素125核種の製造ならびに新型ヨウ素125シード線源の製造および関連生産ラインの建設
  • 爆発物検査装置の生産ラインの建設

(2) 研究予算

1) 研究開発機関

「2007中国科技統計年鑑」によると、研究開発機関の2006年の内部支出は、研究開発テーマ4万2262件に対して365億3731万元(約5480億円)となった。このうち原子力科学技術関係は、合計191件の研究開発テーマに対して内部支出額は19億2476万元(約289億円)となり、全体の約5.3%を占めた。

同年鑑がカバーしている全58分野の内部支出額を見ると、宇宙・航空関係の119億3664万元、電子・通信・自動制御の85億9767万元、エンジニアリング・基礎技術科学の30億4720万元に次いで原子力科学技術関係が4位に入っている。

研究開発テーマ1件あたりの内部支出額で見ると、原子力科学技術が1008万元でトップとなり、以下、航空・宇宙750万元、電子・通信・自動制御381万元、エンジニアリング・基礎技術科学244万元と続いている。

研究開発機関の原子力科学技術関係の内部支出額は2003年に急減したものの、2005年は対前年比で13.1%、2006年は対前年比で18.6%という高い伸びを示した。

一方、エネルギー科学技術分野は306件の研究開発課題に対して1億1227万元(約16億8000万円)の内部支出となっている。

2) 高等教育機関

 「2007中国科技統計年鑑」によると、高等教育機関の2006年の内部支出総額は、研究開発テーマ36万5294件に対して、287億元となった。このうち原子力科学技術関係は、研究開発テーマ296件に対して1億4181万元であった。1件あたりの内部支出額は48万元となっている。

 研究開発テーマの件数を見ると、原子力科学技術関係より少ないのはわずか3分野(天文学110件、軍事21件、軍事医学・特殊医学20件)しかない。また、内部支出額は、全58分野の中で上から35番目に位置している。ちなみに、原子力科学技術の上に位置しているのが芸術分野(研究開発内部支出額:1億5013万元、研究開発テーマ:6934件)である。支出額が最大の分野は電子・通信・自動制御技術で28億5182万元となっており、高等教育機関全体の支出額のほぼ10%を占めた。

 なお、原子力科学技術関係への支出額が過去6年間で最少となった2003年(2253万元)を見ると、内部支出額が最大であった分野はやはり電子・通信・自動制御技術関係の15億5981万元で、原子力科学技術関係の69倍になっている。

 2006年の原子力科学技術関係の内部支出額は、対前年比で約13.5%の伸びを示したものの、絶対額では依然として少なく、中国の高等教育機関における原子力科学技術分野での研究開発活動が低調である実態が浮かび上がった。

表7.1 機関別に見た原子力科学技術分野の研究開発内部支出とテーマ件数の推移(万元)

2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年

研究開発機関(全分野)

1971759
(33784)
2093247
(35749)
2767834
(36889)
2834996
(37292)
3534911
(39072)
3653731
(42262)
原子力科学技術 158147
(252)
153935
(202)
59314
(180)
143382
(184)
162233
(169)
192476
(191)

高等教育機関(全分野)

758722
(141992)
957739
(169643)
1262116
(200120)
1477327
(237463)
1934537
(280327)
2870180
(365294)
原子力科学技術 11466
(158)
2683
(81)
2253
(113)
10352
(207)
12499
(209)
14181
(296)
注:( )内は研究開発テーマ件数出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(3) 研究人材

1)研究開発機関

 原子力関係の研究者についてまとまったデータはないが、「2007中国科技統計年鑑」の分野別に見た研究開発機関における研究者と技術者の投入人的資源によると、原子力科学技術分野では2006年に191件の研究開発テーマに対して6476人・年が投入された。

 研究開発テーマの件数自体は過去6年間にわたってそれほど大きく変わっていないが、投入人的資源は2004年以降、着実に増加してきている。

2) 高等教育機関

 高等教育機関では、2006年に296件の研究開発テーマに対して315人・年の人的資源(研究者と技術者の合計)が原子力科学技術分野で投入された。投入人員が最も多かったのは電子・通信・自動制御技術分野で、1万7109件の研究開発テーマに関して1万4111人・年が投入された。電子・通信・自動制御技術分野での投入人員は、原子力科学技術分野の約45倍となっている。

 一方で、過去6年の実績を見ると、高等教育機関では原子力科学技術分野への人材投入が着実に増加してきている。

表7.2 機関別に見た原子力科学技術分野の研究開発投入人的資源(研究者・技術者※)とテーマ件数の推移(人・年※※)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関(全分野) 127690
(33784)
118458
(35749)
129001
(36889)
124831
(37292)
133485
(39072)
157169
(42262)
   原子力科学技術 5981
(252)
4945
(202)
3602
(180)
5384
(184)
5505
(169)
6476
(191)
高等教育機関(全分野) 136380
(141992)
153190
(169643)
162384
(200120)
202633
(237463)
219487
(280327)
261159
(365294)
  原子力科学技術 156
(158)
80
(81)
106
(113)
204
(207)
179
(209)
315
(296)
( )内は研究開発テーマ件数
※研究者・技術者:高・中級技術のポストを有する科学技術活動に従事する人員と、高・中級技術のポストを有しない大学本科以上の学歴の人員を指す。なお高級技術職は日本の大学教授レベルに、また中級技術職は大学講師レベルに相当する。
※※:専従換算人員投入量:「専従人員」とは、当該年において研究開発活動に従事した時間が当該年の全作業時間の90%以上を占める人員を指す。また「非専従人員」とは、当該年において研究活動に従事した時間が当該年の全作業時間の10%以上-90%未満の人員を指す。「非専従人員」は、実際の作業時間に応じて「専従人員」に換算される。例えば、3人の「非専従人員」が当該年の全作業時間のそれぞれ20%、30%、70%を当該年の研究開発活動にあてた場合、「専従換算人員」は0.2+0.3+0.7=1.2(人・年)≒1(人・年)となる。したがって「専従換算人員投入量」は、「専従人員」に、作業時間に応じた「非専従人員」を加えたものである。例えば、2人の「専従人員」と3人の「非専従人員」(作業時間はそれぞれ20%、30%、70%)がいた場合、「専従換算人員投入量」は2+0.2+0.3+0.7=3.2(人・年)となる。
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(4) 研究成果

 原子力分野の研究成果を見るうえでの参考となる、核物理と原子力工学を合わせた特許件数は、2006年実績で申請177件に対して認可件数は86件となっている(「2007中国科技統計年鑑」)。

 同年鑑では、全体で121の分野の特許について集計しているが、申請件数・認可件数とも核物理・原子力工学より少ないのは10分野しかない。なお、申請件数・認可件数とも圧倒的に多いのは医学・獣医学・衛生学で、申請3万3401件に対して承認1万2279件となっている。

 過去7年間の実績を見ると、核物理・原子力工学関係の特許件数は、一部の例外を除き、2002年まではかなり低調であったが、2003年以降は申請件数については増加傾向、また承認件数については比較的安定した傾向が読み取れる。

 また、科学技術論文の収録実績(2005年)を見ると、原子力科学技術分野は、SCI(Science Citation Index)58件、EI(Engineering Index)149件、ISTP(Index to Scientific& Technical Proceedings)126件となっており、中国で最多の引用実績を持つ化学分野(SCI:1万8656件、EI:8021件、ISTP:1300件)と比べると桁外れに少ない。原子力科学技術分野の過去6年間の実績を見ても、顕著な増加傾向は示されていない。

表7.3 原子力科学技術分野の特許申請・承認件数と書誌収録件数の推移
特許※ 書誌収録
申請 承認 SCI EI ISTP 合計
2000 77 20 51 31 80 162
2001 319 19 117 103 45 265
2002 69 17 133 154 82 369
2003 71 86 142 78 60 280
2004 89 131 118 62 19 199
2005 138 76 58 149 126 333
2006 177 86
※ 核物理・原子力工学
SCI:Science Citation Index
EI:Engineering Index
ISTP:Index to Scientific & Technical Proceedings
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(5)国際研究活動の展開

 中国は、「原子力産業『第11次5ヵ年』発展規画」の中で、国際協力を積極的に行う方針を明らかにしている。具体的には、国家原子能機構を中心として、二国間および多国間での国際協力を行い、各種レベルで技術、経済の交流を強化するとしている。

1)二国間協力

 中国の原子力研究開発は、旧ソ連の援助によって比較的早い時期から軍事分野を中心に進められてきた。1958年9月には、旧ソ連の援助によって中国原子能科学研究院に研究用重水炉「HWRR-Ⅰ」(10MW)が完成した。

 その後、1960年には旧ソ連の技術支援が中止されたが、原子力発電拡大を国の方針として推進するなかで、ロシアとの原子力協力が再び活発化してきた。2000年7月18日にロシアとの間で中国高速実験炉建設運転協力取決めが調印されたのを皮切りに、江蘇省の田湾原子力発電所の建設、ウラン濃縮技術の供与等で協力を強めている。

 第13回中露首相定期会合のためにロシアを訪問した中国の温家宝首相とロシアのプーチン首相は2008年10月28日、田湾Ⅱ期原子力発電所の建設やウランの採掘、使用済み燃料の再処理・リサイクル、高速炉の建設に関して、これまで通り協力を継続する意向を確認した共同コミュニケに署名した。

 フランスとの原子力協力も着実に拡大している。運転中の大亜湾、嶺澳の両原子力発電所に加えて、フランスのAREVA社が開発した第3世代PWRである「EPR」(175万kW)が台山発電所に採用されることになった。フランスは、高速炉開発でも、計算コードやナトリウム技術・中性子物理等で中国に協力している。

 日本との間では、1985年7月の日中平和利用原子力協力協定締結(1986年7月発効)を契機に、以下のような分野で協力が行われてきた。

  • 放射性同位元素および放射線の研究・応用
  • ウラン資源の採鉱および採掘
  • 軽水炉および重水炉の設計、建設、運転
  • 軽水炉および重水炉の安全問題
  • 放射性廃棄物の処理・処分
  • 放射線防護および環境モニタリング

 1996年4月には、高温ガス炉の設計、建設、運転および安全面での協力が追加された。

 このほか、日本が主導するアジア地域での原子力平和利用協力の枠組みである「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)、原子力研究者交流制度、国際原子力安全セミナー等によって、日本との協力が進められている。

 米国との間では1983年7月、それまで2年間にわたり中断されていた米中原子力協議が再開され、1985年7月23日の署名を受け、同年12月30日に米中原子力協定が発効した。その後、天安門事件を受けた形で協定が一時凍結されたが、1998年3月に再発効した。凍結解除を受け、同6月には米エネルギー省(DOE)と中国国家計画委員会(当時)との間で軽水炉の技術協力等の協定が締結された。

2006年12月には、国家発展改革委員会の馬凱主任とDOEのボドマン長官が、米ウェスチングハウス社製の「AP1000型炉」4基を中国に輸出するという了解覚書に署名した。

 これ以外にも、カナダ、パキスタンとも協力関係にある。2008年に入ってからは、3月にアルジェリアとの間で民事用原子力協力協定が調印された。8月19日にはヨルダンとの間で原子力協力協定が締結された。同協定によると、両国は原子力基礎・応用研究のほか、原子力プラントの設計、建設、運転、ウラン資源探査などの分野で協力する。

2)国際協力

 中国は、2国間協力だけでなく多国間での原子力協力にも積極的に参加している。中国は、国際原子力機関(IAEA)に創設された「革新的原子炉および燃料サイクルに関する国際プロジェクト」(INPRO)に参加している。

 INPROは、安全性や経済性、核拡散抵抗性等を備えた革新的な原子力システムの導入環境整備支援を行うことを目的に、2000年のIAEA総会決議に基づいて開始された多国間プロジェクトである。

 中国は、世界の原子力先進国が中心となって2001年に設立した「第4世代原子力システム国際フォーラム」(GIF)にも参加している。GIFは、すでに実用化の段階に入っている第3世代原子力システムに続く次世代の原子炉概念の検討を進めるための国際的な枠組みである。

 中国は、米国が2006年2月に公表した「グローバル原子力パートナーシップ」(GNEP)と呼ばれる構想にも発足時から参加している。GNEPは、世界的な原子力発電利用の拡大にともなって発生する使用済み燃料と核拡散の問題に対処するための国際的なシステムを構築しようというものである。

 フランスのカダラッシュに建設が決まった国際熱核融合実験炉(ITER)計画は、核融合燃焼プラズマの実現とその制御技術の確立、統合された核融合装置としての技術的成立性を確認することによって、核融合エネルギーの実現可能性の実証を目指す大型国際共同プロジェクトであり、中国は2003年から参加している。中国は同プロジェクトに対して総投資額の10%程度に相当する100億元程度の負担を決定している。