7.原子力開発分野
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7.2.2 原子力開発分野の動向

(1)原子力発電所の建設計画

 国家発展改革委員会は2007年11月2日、国務院の正式承認を受け、2020年までを視野に入れた「原子力発電中長期発展規画」を公表した。同規画は、「第11次5ヵ年」期間(2006~2010年)、「第12次5ヵ年」期間(2011~2015年)、「第13次5ヵ年」期間(2016~2020年)の三期の「5ヵ年規画」にわたる中国の原子力開発の方向性を示したものである。

 具体的には、2020年までに運転中の原子力発電所の設備容量を4000万kWに引き上げるとともに、建設段階にある原子力発電所の設備容量を2020年時点で1800万kWにするとの具体的な目標を掲げた。

 なお、中国で稼働中の原子力発電所は2008年11月末現在、11基・約907万kWとなっており、世界的にはスウェーデンに次いで11番目に位置している。また、建設中は12基・1234万kWとなっており、他の国の建設規模を圧倒している。

 「原子力発電中長期発展規画」によると、前期作業がスタートした原子力発電所の立地点は沿海部だけで5000万kWに達する。

表7.6 中国で計画中の原子力発電所
所在省

 

発電所名称

 

設備容量(万kW)

 

備考

 

浙江省

 

三門(健跳)

 

100×6

 

Ⅰ期プロジェクトの提案書承認

 

方家山(秦山Ⅰ期拡張)

 

100×2

 

再確認が完了

 

三門拡塘山(三門第Ⅱ)

 

100×4

 

再確認が完了

 

江蘇省

 

田湾拡張

 

100×4

 

再確認が完了

 

広東省

 

陽江

 

100×6

 

Ⅰ期プロジェクトの提案書承認

 

腰古

 

100×6

 

再確認が完了

 

山東省

 

海陽

 

100×6

 

再確認が完了

 

 

 

乳山紅石頂

 

100×6

 

立地点に対する一層の研究が必要

 

福建省

 

寧徳

 

100×6

 

再確認が完了

 

広西

 

防城港あるいは欽州

 

100×4

 

初期審査が完了

 

合計

 

 

 

5000

 

 

 

出典:「原子力発電中長期発展規画」(国家発展改革委員会、2007年10月。公表日は同11月2日)

 国家発展改革委員会は、すでに運転中・建設中の原子力発電所も含めると、2020年までに4000万kWを運転するとともに、2020年時点で1800万kW分を建設までもっていくという目標を達成することができるとの見方を示している。

(2)原子力発電目標の上方修正

 「原子力発電中長期発展規画」の正式な発表は2007年11月2日であったが、内容そのものは2006年3月22日に国務院によって原則承認されていた。このため、同規画で公表されたデータには、2006年4月以降の動きは取り込まれていない。

 中国ではこれまで、沿海部が経済発展の中心であり、揚子江デルタだけで中国の国内総生産(GDP)の20%を、輸出入の3分の1を占めていた。しかし、そうした経済発展地域が、石炭や電力の不足に加えて環境の悪化という問題を抱えるようになった。

 さらに、土地価格も高騰した。2007年5月のデータによると、上海の主要工業地帯では土地の平均リース価格が2006年末から10%以上も上昇した。一方で、旺盛な土地需要に変化がなく、製造業の内陸部進出が顕著になってきた。

 こうしたなかで、内陸部での原子力発電所建設計画が大きく動き出した。石炭への過剰依存という、とくに内陸部での電力供給構造の脆弱さが2008年1月中旬から南西部を襲った大雪・寒波によって露呈したことも、原子力発電に対する期待を強めている。

図7.1 中国の原子力発電所立地点

図7.1 中国の原子力発電所立地点

地図出典:国家測絵局(http://www.sbsm.gov.cn/article/zxbs/dtfw/

出典:テピア総合研究所作成(2008年11月末現在)

 2008年11月現在、湖北や江西、湖南、吉林、安徽、河南、四川、重慶、甘粛といった省・直轄市で原子力発電所の建設計画が進められている。こうした計画の進捗状況にはかなりのバラツキがみられるものの、テピア総合研究所(日本テピア)の最新の集計によると、採用する炉型と出力規模が決まっている発電所に限定しても、16の省・自治区・直轄市で155基・約1億6000万kWの原子力発電所が計画されている。

 中国政府内では、「原子力発電中長期発展規画」で掲げられた目標と、実際の計画の進捗とのギャップが大きいとの判断から、同規画の目標を上方修正する動きが具体化してきた。

 2008年の省庁再編によって設立された国家エネルギー局の初代局長に就任した張国宝・国家発展改革委員会副主任は、中国の原子力発電設備容量が2020年までに総発電設備容量の5%以上に達するとの見通しを明らかにした(「中国新聞網」、2008年8月5日)。中国電力企業連合会は、2020年の総発電設備容量が15億kWを超すと予測していることから、単純に計算しても7500万kWの原子力発電所が稼働することが見込まれる。

 また、国家エネルギー局の黄鵬・省エネ科技装備司副司長は2008年11月3日、「原子力発電中長期発展規画」を改訂し、2020年の原子力発電設備容量を当初に掲げた4000万kWから7000万kW超に引き上げる意向を表明した。

 さらに中国政府は、国際的な金融危機に対応するための内需拡大・経済安定促進策の一環として原子力発電開発を加速する方針を打ち出した。温家宝首相が2008年11月12日に開いた国務院常務会議では、広東省の陽江と浙江省の方家山(秦山Ⅰ期拡張)両原子力発電プロジェクトが承認された。両プロジェクトの投資額は955億元(約1兆4325億円)と推定されている。

 また、国家発展改革委員会は同日、両原子力発電所に加えて、福建省の福清原子力発電所が2008年内に着工する見通しであることを明らかにした。3ヵ所の原子力発電所とも、100万kW級のPWRが採用されることになっており、陽江に6基、方家山と福清にそれぞれ2基ずつ建設される。

なお中国科学院の路甬祥院長は2008年3月23日、原子力発電と再生可能エネルギーによって2050年までに全電力の半分を賄う必要があるとした独自の長期戦略ロードマップを公表した。

 路院長は、2050年までに原子力発電によって全電力の25~30%を、また再生可能エネルギーによって20~25%を供給し、化石燃料による電力供給を半分にまで減らすという具体的な目標を掲げた。同院長は、こうした目標を達成することは不可能ではないとの見解を示している。

表7.7 中国で運転中、建設中、計画中の原子力発電所
  基数 出力(万kW)
運転中 11 906.8
建設中 12 1234
計画中 155 1億6042
合計 178 1億8182.8
出典:テピア総合研究所(日本テピア)が集計

(3)「原子力産業『第11次5ヵ年』発展規画」

1)中国原子力産業の課題

 国防科学技術工業委員会(当時)が2006年8月に公表した「原子力産業『第11次5ヵ年』発展規画」は、中国の原子力産業が抱える課題を以下のように分析している。

  • 原子力発電規模が小さく長期にわたって仕事量が不足してきた
  • 原子力技術と原子力産業を発展させる牽引力が弱い
  • 技術水準が低く、工業力が弱い
  • 100万kWの先進的軽水炉の自主設計、設備製造能力がまだ完全に備わっていない

 このほか同規画では、原子力分野が長い間、閉鎖的な状況に置かれ、しかも計画経済体制化で培われてきた考え方がまだ根本的に変わっていないため、国家資金や政府援助に対する依存が非常に強く、管理体制と運営方法の改革が遅れているという認識も示されている。

2)原子力技術の応用拡大・産業化プロセスの加速

 同規画では、原子力産業の発展には産業としての裾野を拡大することが不可欠との考えから、中堅企業の育成に力点を置ている。

 また、エンジニアリング面において系統的な総合能力に秀でた産業化基地を建設し、独自の知的財産権を持つ技術・製品を開発し、大きな需要と技術基盤を有する原子力技術製品の産業化を加速するとの方針を打ち出した。

 具体的なプロジェクトとして、大出力照射加速器、医療用小型サイクロトロンを大量に生産できる生産基地の整備、放射線プロセス技術の応用推進モデルセンターの建設、都市部での照射施設の建設などがあげられている。

 同規画には、原子力を用いた計測やイメージング技術の研究強化のほか、税関や公共安全などの分野で利用される放射線計測装置と検査システムの開発が盛り込まれている。また、外国の先進的な技術を消化・吸収し、新型の放射線診断・治療装置と新しい放射性医薬品を研究開発し、早期診断と癌治療に利用するという方針も示された。

 このほか、環境保護分野における放射線技術応用の可能性を探り、放射線を用いた脱硫、脱窒素技術、放射線を利用した都市飲用水の浄化技術の開発が行われる。

3)基礎強化と科学技術の革新能力の向上

① 原子力技術研究基地の建設

 「原子力産業『第11次5ヵ年』発展規画」は、基礎研究に関して、先進的な機能を備えた大型研究施設を中国原子能科学研究院に建設・整備し、一体的な基礎科学研究力の充実をはかるとしている。

 また、現在の「HI-13」タンデム加速器の末端に超伝導直線加速器、およびそれと組み合わせる物理装置などを新たに建設し、耐放射線性の強化や核データの測定、核物理基礎研究のニーズに応えるとの方向性を打ち出した。

② 原子動力研究試験基地の建設

 同規画は、PWR技術に関して、設備や機能、技術的な面から見ても先進的な大型原子動力研究試験施設を中国核動力研究設計院に建設し、原子動力研究の基礎的な能力を高めるとの考えを明らかにした。

 具体的には、ソフト、ハードの両面から現有施設の改良を行い、100万kW級原子力発電所の「原子力級機器」(Nuclear Grade Equipments)の検定能力の整備がはかられる。

 同規画によると、中国政府は核燃料サイクルの中核技術や原子力安全、放射線防護などを中心とした研究試験施設も整備する。

 この中には、深地層ウラン資源探査や採鉱、製錬技術研究のほか、ウラン濃縮研究、核燃料部品の生産技術および主要設備の研究製造、再処理工程研究、高レベル放射性廃棄物の深地層処分地質条件の研究、放射線安全・防護総合技術研究などの試験システム・装置が含まれている。

④ 原子力基礎科学研究の強化

 原子力基礎科学を強化し、国際的な先進水準に追いつくことも同規画に盛り込まれた重要なテーマとなっている。

 具体的には、原子物理の応用研究、大強度加速器・パルス加速器の技術研究、新しい測定技術研究、放射化学・分析化学研究などを実施し、技術の応用に必要な理論的な根拠と技術手段を提供することを視野に入れている。

 原子力基準や計量、データ、成果管理と知的財産権、品質と信頼性、非破壊検査と理化学的な検査技術などの基礎研究を強化し体系化するとの目標も示されている。

⑤ 核融合

 同規画によると、核融合炉の研究については、トカマク型核融合試験2号装置「HL-2A」を用いて、高パラメータ領域での模擬炉心プラズマ実験、第一壁高温負荷能力実験を行うとともに、慣性核融合の課題技術について引き続き研究が行われる。

 また、中国が参加している国際熱核融合実験炉「ITER」については、中国が担当しているトリチウム生産ブランケット、遮蔽ブランケットの工事設計および関連技術の研究開発が実施される。

 なお、2008年10月10日にはITER計画の具体的作業を担当する中国国際核融合計画執行センターの設立式典が北京で開催された。

4)「加圧水型(PWR)原子力発電所の基準体系構築に関する『第11次5ヵ年』規画」

 国防科学技術工業委員会(当時)は2007年9月、多数の国の原子力技術が採用されており原子力発電基準・規格が統一されていないため中国の国情に見合ったものになっていないとの判断から、「加圧水型(PWR)原子力発電所の基準体系構築に関する『第11次5ヵ年』規画」を公表し、原子力発電基準・規格体系構築の全体設計作業を完了する方針を示した。

 同規画では、2015年までに中国の国情に適合したPWRを採用した原子力発電所の基準・規格体系を基本的に確立し、中国が原子力発電の自主的発展を実現するとの目標が掲げられた。

 「第11次5ヵ年」期については、原子力発電基準・規格体系構築の全体設計作業を完了するとともに、さらに完璧で詳細な原子力発電基準・規格の構築プランおよび路線を確定し、基準・規格体系構築の基礎を定めるとの目標が定められた。

 また、原子力発電所の建設と運転分野での要求を中心として、専門基準・規格を制定し、2010年までに以下の目標を実現するとした。

  •  -通用および基礎基準関係では、原子力発電プロジェクトの経済基準に加えて、放射線防護と環境安全基準の完備と一体化を実現する
  •  -原子力発電所の前期作業に関する基準に関しては、相互に関連した基準の完備と一体化を実現する
  •  -デジタル化技術に関して必要となる計器や制御、電力の基準体系を確立するとともに、建築物設計基準を作成する
  •  -設備基準に関しては、原子力発電国産化に必要な材料基準・規格体系および原子力発電所の機器、計器、制御、電力設備の設計、製造、検証、評価基準体系を確立する
  •  -建設、試験・調整、運転等に関しては、差し迫った重要基準の制定を完了する

 国家エネルギー局の省エネ・科技装備司の黄鵬・副司長は2008年11月3日、成都で開催された第1回中米原子力設備評価検討会において、今後5~8年をかけて中国としての原子力発電基準化体系を構築するとしたうえで、原子力発電基準化体系構築の基礎作りのため、関係部門や企業、専門家から意見を募っていることを明らかにした。

(4)原子力優遇措置

 中国財政部と国家税務総局は2008年4月3日、原子力発電所の建設拡大を税制面から後押しする新しい政策を公表し、各省や自治区、直轄市政府等の関係部局に通知した。2008年1月に遡って効力を持つ。

 それによると、原子力発電事業者が販売する電力にかかる増値税に関して、原子力発電所が正式に営業運転を開始してから15年間にわたって、「先征後退」(先に徴収して後で還付する)政策を統一して実施することになった。

 また、2008年1月に遡って、原子力発電事業者が取得した増値税の還付額は元金返済に用い、所得税は徴収しないことも決まった。

 中国財政部の史輝斌・税制局長は、原子力発電や再生可能エネルギー等のクリーンエネルギーについては、増値税に関係なく税制面で優遇策を打ち出す意向を表明した。さらに、省エネや環境保護、資源のリサイクルを奨励する優遇政策を制定する必要性にも言及した(「中国証券報」、2008年4月21日)。

主要参考文献:

  1. 「中国原子力ハンドブック2008」(テピア総合研究所、2008年1月)
  2. 「中国科技統計年鑑」(2002~2007年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)
  3. 「中国能源発展報告(2008)」(社会科学文献出版社)
  4. 「2007-2008 核科学技術 学科発展報告」(中国科学技術協会主編・中国核学会編著、中国科学技術出版社、2008年2月)
  5. 「中国核電」(2008年第1期~第3期、中国核工業集団公司、原子能出版社)

主要関連ウェブサイト:

  1. 国家原子能機構 (http://www.caea.gov.cn)
  2. 中国広東核電集団有限公司(http://www.cgnpc.com.cn
  3. 国家核安全局(http://www.sepa.gov.cn/info/gw/haqwj
  4. 中国科学院http://www.cas.cn
  5. 中央人民政府(http://www.gov.cn
  6. 国家統計局(http://www.stats.gov.cn
  7. 国家電力監管委員会(http://www.serc.gov.cn
  8. 環境保護部(http://www.sepa.gov.cn
  9. 国家発展改革委員会http://www.ndrc.gov.cn
  10. 国家エネルギー(能源)局(http://nyj.ndrc.gov.cn
  11. 中国電力企業連合会(http://www.cec.org.cn
  12. 中国核工業集団公司(http://www/cnnc.com.cn
  13. 国家核電技術公司(http://www.snptc.com.cn
  14. 中国核能行業協会(http://www.china-nea.cn
  15. 国家電網公司(http://www.sgcc.com.cn
  16. 中国原子能科学研究院(http://www.ciae.ac.cn
  17. 中国工程院http://www.cae.cn
  18. 国家能源領導小組弁公室(http://www.chinaenergy.gov.cn
  19. 中国核学会(http://www.ns.org.cn
  20. 中国国電集団公司(http://www.chinapower.com.cn