8.宇宙開発分野
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8.2.1 宇宙開発分野の現状

(1) 宇宙技術

1) 人工衛星

 中国は1970年4月24日、国家重大プロジェクトとして位置付けた人工衛星「東方紅1号」の打ち上げに成功し、世界で5番目の人工衛星の自主開発・打ち上げ国家となった。「第10次5ヵ年」期間中( 2001~2005年)には、タイプの異なる22機の人工衛星を自主的に開発し打ち上げた。

 具体的には、当初の4つの衛星シリーズを基礎として、回収式遠隔探査シリーズ「遥感」、通信放送衛星シリーズ「東方紅」、気象観測シリーズ「風雲」、科学探査・技術実験衛星シリーズ「実践」、地 球資源探査衛星シリーズ「資源」、航行測位衛星シリーズ「北斗」という6つのタイプの衛星シリーズが開発されている。

① 回収式遠隔探査シリーズ

 1975年11月に長征2号によって打ち上げられ、回収に成功した。1992年に打ち上げられた13番目の衛星から、軌道周回日数が15~20日に延び、1回の飛行中に得られる情報量は13倍、地 表撮影写真の解像度は3倍に向上した。

 2006年4月には「遥感衛星1号」、また2007年5月25日に同2号衛星が打ち上げられた。1号は地球を12日間周回したあと帰還した。科学実験のほか、国土資源調査、農作物の観測などが行われた。< /p>

 その後、2007年11月の「遥感衛星3号」に続き、2008年12月1日には「遥感衛星4号」、同12月15日に「遥感衛星5号」が打ち上げられた。「遥感衛星4号」と同5号は、中 国航天科技集団公司の中国空間技術研究院が主体となって開発したもので、主に科学実験や国土資源調査、農作物の生産量予測、災害対策の分野で活用される。

② 通信放送衛星シリーズ

 1984年4月に実験衛星として「東方紅2号」が打ち上げられたのを皮切りに、88年3月には改良型の「東方紅2号甲」が打ち上げられた。同機にはトランスホルダー4台が搭載され、辺 境地区や中央放送局の海外放送等に利用された。

 97年5月に打ち上げられた「東方紅3号」の後継機が、2000年1月に打ち上げられた「中星22号」と、2003年11月に打ち上げられた「中星20号」である。「中星20号」は 中国が独自に開発した通信衛星である。

 実用型静止軌道通信衛星「中星22号」は設計寿命は8年であり、2006年9月13日には、中国が独自に開発した「中星22号A」が打ち上げられている。同機の設計寿命も8年で、中 国衛星通信集団公司傘下の中国通信広播衛星公司に向けてデータ送信を行う。

③ 気象観測シリーズ

 中国の気象観測衛星が「風雲」シリーズである。「風雲1号A」が1988年9月に打ち上げられて以来、同1号B(90年)、「風雲2号A」(97年)、同B(2000年)、同C(2004年)、「 風雲1号D」(2005年)、「風雲2号D」(2006年)と相次いで打ち上げられた。

 2008年5月27日には、全世界と全天候をカバーする多スペクトル・3次元の遠隔探査能力を持つ「風雲3号A」衛星が打ち上げられた。同機の打ち上げ成功によって、中国の気象衛星技術は、① 単一の遠隔探査イメージングから地球環境の総合探査へ②可視光線を使った遠隔探査からマイクロ波を使った遠隔探査へ③キロメートル級の解像度から100メートル級の解像度へ④国内での受信から極地での受信へ――と 顕著な進歩を見せた。

 なお、中国は2007年1月12日、高度850キロの宇宙空間で、地上から発射した弾道ミサイルに搭載した弾頭によって老朽化した気象衛星を破壊した。これに対して米国政府が、「 宇宙分野での国際協力の精神に反する」と中国政府に懸念を伝えたのをはじめ、英国やオーストラリア、カナダ、韓国、日本などの政府が懸念を表明した。

④ 科学探査・技術実験衛星シリーズ

 「実践」衛星シリーズとして、1971年3月に第1号が打ち上げられたのを皮切りに、同2号(81年)、同4号(94年)が打ち上げられた。その後、5号(科学実験衛星)、6号(宇宙環境探査衛星)、7 号(科学探査衛星)、8号(育種衛星)が相次いで打ち上げられた。2006年9月に打ち上げられた8号は、姿勢制御精度、衛星内部温度の制御が向上し、地上との通信、飛 行制御等で顕著な成果が得られたと報告されている。

 2008年10月25日に打ち上げに成功した「実践6号A、B」は、中国航天科技集団公司に所属する上海航天技術研究院と航天東方紅衛星公司が研究・製造した。衛星の宇宙環境探測システムは、主 に中国電子科技集団公司が開発した。

 衛星の設計寿命は2年以上が見込まれており、2006年10月に打ち上げられた「実践6号」に代わり、宇宙環境探測や宇宙輻射環境、宇宙物理環境パラメータ探測、宇宙科学試験等を行う。

⑤ 地球資源探査衛星シリーズ

 中国とブラジルの宇宙開発協力プロジェクトとして、両国が共同開発した「資源1号」衛星シリーズの1号機が1999年10月に、2003年10月には同2号機、2 007年9月には3号機が打ち上げられている。

 3号機「資源1号02B」は、中国初となる各分野での高精度測位データの提供が可能な衛星であり、遠隔探査に関わる地上観測能力が強化された。この衛星の研究開発事業は2004年にスタートした。< /p>

 中国とブラジルは現在、後続衛星の「03星」、「04星」の共同開発を進めており、「03星」は2010年に打ち上げが予定されている。

⑥ 航行測位衛星シリーズ

 「北斗」衛星ナビゲーション・システムは、米国のGPS、ロシアのGNSS、欧州のガリレオ計画に対抗して進められている中国独自の衛星測位システムである。

 中国国家宇宙(航天)局が2007年4月14日に四川省の西昌衛星発射センターから打ち上げた測位衛星「北斗COMPASS-M1」は、同年2月に打ち上げた「北斗1号D」に 続く中国として5機目の測位衛星である。

 中国国家衛星導航工程センターの冉承其・副主任は2008年10月28日、安徽省の合肥市で開催された「北斗衛星ナビ科技産業発展フォーラム」で、2009年に12機の北斗衛星を打ち上げ、2 010年に北斗衛星ナビゲーション・システムを稼働させる意向を表明した。

⑦ その他

 中国国家宇宙(航天)局は2007年4月11日、山西省の太原衛星発射センターから、中国2機目の海洋観測衛星「海洋1号B」を載せた「長征2号丙」ロケットを打ち上げた。中 国は2002年5月に同国初の海洋観測衛星「海洋1号A」を打ち上げている。「海洋1号B」はその後継機で、観測能力は約3倍に改良されている。

 同機は、中国空間技術研究院を中心に、中国が独自に開発・製造した。主に、海水の色や温度を観測し、観測データは海洋生物資源の開発や海洋汚染の防止、海外線の調査、港の建設などに役立てられる。< /p>

 なお、国家海洋局の孫志耀・局長は2007年4月、「海洋1号B」に続き、2009年に「海洋2号」を打ち上げる予定であることを明らかにした。海洋監視・観測衛星である「海洋3号」の 打ち上げ時期については未定としている。

 このほか、環境や災害の監視・予測用として、「環境1号A、B」の2機の衛星が「長征2号B」によって2008年9月6日、太原衛星発射センターから打ち上げられた。

 「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)に入って打ち上げられた衛星は以下の通りである。

表8.6 2006年以降に打ち上げられた主な衛星

衛星名

運搬ロケット

打ち上げ日

備考

遥感衛星1号
(遠隔探査衛星)

長征4号乙

2006年4月27日

科学実験、資源調査、農作物の収穫量予測、自然災害防止・低減

中星22号A
(通信衛星)

長征3号甲

2006年9月13日

中国が独自に開発した通信衛星

実践6号
(環境観測衛星、2機)

長征4号乙

2006年10月25日

宇宙環境観測

北斗1号D

長征3号甲

2007年2月3日

衛星測位システム

海洋1号B
(海洋観測衛星)

長征2号丙

2007年4月11日

赤潮の観測、黄河、長江、珠江の泥砂堆積観測。海洋1号Aの改良型

北斗COMPASS-M1

長征3号甲

2007年4月14日

衛星測位システム

ナイジェリア通信衛星1号

長征3号乙

2007年5月14日

衛星の製造から打ち上げまでを海外の顧客に一貫して提供した初のケース。通信、放送、ブロードバンド・マルチメディア等の分野で利用

遥感衛星2号
(遠隔探査衛星)

長征2号丁

2007年5月25日

農作物の生産量予測、防災

シノサット3号
(通信衛星)

長征3号甲

2007年6月1日

通信、放送、データ転送。「長征」ロケットによる100回目の打ち上げ。

中星6B
(通信衛星)

長征3号乙

2007年7月5日

仏タレスアレニア・スペース社が開発。アジア・オセアニア・太平洋地域をカバー。

資源1号02B
(資源探査衛星)

長征4号乙

2007年9月19日

ブラジルとの共同開発。農産物の収穫予測、環境保護・モニタリング、都市計画、国土資源測定等に必要な画像データを提供

嫦娥1号
(月探査衛星)

長征3号甲

2007年10月24日

以下の4つの探査目標を設定。①月の地形の3次元画像を取得し、主要な地質構造をカバーした地図の作成。②14種類の元素の月面上における分布調査。③月の土壌深度の調査。④地球と月の間の「宇宙天気」の 観測。

遥感衛星3号
(遠隔探査衛星)

長征4号

2007年11月12日

科学実験、国土資源調査、農作物の防災

風雲3号A
(気象衛星)

長征4号丙

2008年5月27日

10種類以上の観測機器を搭載し、中国の気象観測だけでなく、広い範囲で自然災害、環境変化などを監視。2008年北京オリンピック開催時の気象観測を実施。

中星9号
(通信放送衛星)

長征3号乙

2008年6月9日

仏タレス・アレニア・スペース社から購入。

環境1号A、B

長征2号乙

2008年9月6日

環境および災害の監視・予測

実践6号A、B
(宇宙環境観測衛星)

長征4号乙

2008年10月25日

宇宙環境探測、宇宙輻射および反応の測定、宇宙物理環境パラメータ測定、宇宙科学試験

ベネズエラ1号通信衛星

長征3号乙

2008年10月30日

通信、放送、遠隔教育、遠隔医療。

遥感衛星4号
(遠隔探査衛星)

長征2号丁

2008年12月1日

科学実験、国土資源調査、農作物の生産量予測、災害対策

遥感衛星5号
(遠隔探査衛星)

長征4号乙
(114回目)

2008年12月15日

同上

各種公表資料をもとに作成

2) 運搬ロケット

 中国は1970年4月、大陸間弾道ミサイルの技術を応用した「長征1号」ロケットで、人工衛星「東方紅1号」の打ち上げに成功した。その後、主力の大型液体燃料ロケットを「長征」シリーズとして開発した。< /p>

 「長征」シリーズは、地球低軌道、静止軌道、太陽同期軌道等への衛星投入の能力と実績を持ち、「長征1号」、「長征2号」、「長征3号」、「長征4号」の4つのシリーズがあるが、このうち「長征1号」シ リーズはすでに退役している。

 中国では1996年に長征ロケットの打ち上げ失敗が相次いだが、その後、2008年12月15日の「遥感衛星5号」打ち上げまで、各種の役割を持った衛星の打ち上げに成功してきた。ちなみに、「 長征4号乙」を用いた「遥感衛星5号」の打ち上げによって、「長征」シリーズによる打ち上げは114回に達した。

 なお、中国運搬ロケット技術研究院の梁小虹・副院長は2008年3月2日、現在開発が進められている次世代の運搬ロケット「長征5号」の初打ち上げを2014年に予定していることを明らかにした。< /p>

 梁副院長によると、「長征5号」開発プロジェクトは2007年に中央政府の認可を取得し、天津市臨海地区に産業拠点が置かれた。市政府は、「長征5号」の 開発をハイテク産業の最優先プロジェクトとして位置付けている。

 「長征5号」では、これまでの長征シリーズと異なり、液体酸素とケロシン(もしくは液体水素)を推進剤とするメインエンジンとロケットブースターが用いられる。梁副院長によると、2 014年に稼働予定の海南島の文昌衛星発射センターで打ち上げが行われる予定になっている。

表8.7 中国の「長征」シリーズ・ロケットの概要

型式

全長(m)

最大直径(m)

打ち上げ時重量(t)

運搬能力(t)

備考

長征2号

31.17

3.35

190

1.8

1975年に中国初の回収式衛星の打ち上げを担当

長征2号丙

35.15

3.35

192

2.4

「長征2号」改良型。

長征2号丙改良

40

3.35

2

「長征2号」シリーズは1982年9月の打ち上げ開始以来、100%の成功率を達成。

長征2号丁

38.3

3.35

232

3.1

1992年8月の初号機打ち上げ以来、100%の成功率を達成。

長征2号E

49.68

3.35

461

8.8~9.2

打ち上げ時推力600t

長征3号

44.86

1,2段:3.35
3段:2.25

204.88

1.6
(静止軌道)

「長征2号」をベースにした3段式ロケット

長征3号甲

52.52

3.35

240

2.6
(静止軌道)

1994年2月8日の初打ち上げ以来、100%の成功率を達成。

長征3号乙

54.84

3.35

426

5.4
(静止軌道)

「長征3号甲」と「長征2号E」がベース。

長征3号丙

54.84

7.85

345

3.8
(静止軌道)

「長征3号乙」がベース。

長征4号甲

41.9

3.35

248.9

主に太陽同期軌道衛星の打ち上げ用。1988年9月の打ち上げ開始以来、100%の成功率を達成。

長征4号乙

45.58

3.35

249

1.45
(高度900km)

主に太陽同期軌道衛星の打ち上げ用。1999年5月の打ち上げ開始以来、100%の成功率を達成。

長征4号丙

3.35

3段式ロケット。運搬能力を大幅に向上。

長征5号

60.5

5

800

1.5~25

2014年に初号機打ち上げを予定

出典:中国航天科技集団公司(http://www.spacechina.com)の 情報をもとに作成

3) 宇宙センター

 中国でロケットの打ち上げを行っている宇宙センター(射場)は、甘粛省の酒泉、四川省の西昌、山西省の太原の3ヵ所にあり、各センターとも「衛星発射センター」と称されている。

 このうち、中国初の大型ロケット射場として1958年に設立された酒泉衛星発射センターは、地形が平坦なことに加えて年間降水量が少なく晴天に恵まれることが多いため、ロケットの打ち上げに適している。同 センターではこれまで、中国初の人工衛星や有人宇宙船「神舟」の打ち上げに成功している。

 山西省の太原衛星発射センターは1967年に設立され、3ヵ所の宇宙センターの中で最も規模が小さく、極軌道、低軌道への打ち上げが多い。同センターは、三方を山で囲まれ、西は黄河に面している。雨 が少なくロケットの打ち上げに適している。静止軌道への衛星打ち上げは行っていない。

 西昌衛星発射センターは1970年に設立され、1984年に最初の衛星を静止軌道に打ち上げた。同センターは北緯28度の位置にあり、他の2つのセンター(酒泉:北緯41度、太原:北緯38度)と 比べると緯度が低いため、静止軌道への打ち上げに適している。こうしたことから、静止軌道への打ち上げは、西昌センターだけで行われている。

 3ヵ所の衛星発射センター以外に、海南島の文昌市に小型ロケット射場がある。同射場は、赤道に近い有利な地理にあるが、現在、小型ロケットの打ち上げしか行われていない。

 そうしたなかで、文昌市に新しい衛星発射センターを建設することが決まった。2007年9月22日付「新華網」が伝えたもので、すでに国務院と中央軍事委員会の承認が得られているという。

 同センター完成後は、主に地球静止軌道衛星や大質量の極軌道衛星、大型宇宙ステーション、宇宙深層探査衛星等の打ち上げに利用される。他のセンターに比べて緯度が低いことから、衛星の輸送能力、衛 星寿命の向上が期待されている。

 同センターは2008年12月の着工、2014年の竣工が予定されている。総投資額は50億元(約750億円)と推定されている。

酒泉衛星発射センター(甘粛省)

位置

北緯40度36分/東経99度54分

打ち上げ方向

南東57度~70度

主要打ち上げロケット

長征1、2号(CZ-1,2、2C)、小形ロケット

西昌衛星発射センター(四川省)

位置

北緯28度15分/東経102度00分

打上げ方向

東方(57度~70度)

主要打上げロケット

長征2(CZ―2E)、3号、長征改良型

太原衛星発射センター(山西省)

位置

北緯37度30分/東経112度36分

打上げ方向

南方

主要打上げロケット

長征4号(CZ-4)

海南小型ロケット用射場 (海南島 文昌市)

位置

北緯19度/東経109度30分

打上げ方向

東方

主要打上げロケット

観測ロケット

人工衛星用ロケット
打上げ回数

0

4) 有人宇宙飛行

 中国の有人宇宙飛行プロジェクトは1992年にスタートした。1999年11月20日には有人宇宙飛行のための実験機「神舟1号」が無人で打ち上げられた。また、2001年1月10日には、2 回目の無人宇宙船「神舟2号」の打ち上げに成功した。

 「神舟2号」は、1号機よりも軽量で技術的な改良が加えられ、将来の有人飛行を見据え、船内には宇宙飛行士3人分のスペースが設けられていた。その後、2002年3月25日に「神舟3号」、同 12月30日には「神舟4号」が打ち上げられた。

 こうした実績を着実に重ね、2003年10月15日には「神舟5号」により、ロシア(旧ソ連)、米国に次いで世界で3番目、中国としては初の有人宇宙飛行に成功した。また、2 005年10月に打ち上げられた「神舟6号」では、2人の宇宙飛行士が5日間の宇宙飛行を行い、有人宇宙飛行の基本技術が検証された。

 「神舟6号」の打ち上げが行われた酒泉衛星発射センターでは、同機のミッション終了後、人材育成にも重点が置かれ、試験発射や測定コントロール通信、技術確保等の合同訓練が行われた。

 そして2008年7月10日、同発射センターに有人宇宙飛行船「神舟7号」が移送され、9月25日、「長征2号F」ロケットによって打ち上げられた。27日には、中国の宇宙飛行士が「神舟7号」の ハッチを開けて、初めて船外活動を行った。

 中国有人飛行船システム総設計師の張柏楠氏は今後の有人宇宙飛行について、国が策定した3段階の発展戦略に基づいて実施されているとしたうえで、第2段階として長期運行・短期有人滞在(作業)の 宇宙実験室を打ち上げ、一定規模の応用実験を行う方針を示した。また、第3段階として、宇宙ステーションを建設して大規模な宇宙応用技術の実験を行う予定であることを明らかにした(「宇宙飛行船『神舟』の 技術的成果と有人宇宙飛行の展望」、http://crds.jst.go.jp/CRC/monthly-report/200809/toku_zhang.html)。

 中国は1968年、宇宙飛行士の養成と研究を目的とした宇宙飛行医学工程研究院を設立し、本格的に有人宇宙飛行計画に着手した。しかし、大幅な予算削減を受け、計画は一旦凍結された。

 その後、1980年代後半に有人宇宙飛行計画が国策として打ち出され基礎研究が行われた。中国政府は92年、「プロジェクト921」というコードネームの有人宇宙飛行計画「神舟」プロジェクトを発表し、宇 宙船と打ち上げロケットの開発に加えて、宇宙飛行士の養成を開始した。

5) 宇宙の深層探測

 中国は、有人宇宙飛行に加えて、月探査ミッションを計画、推進しており、2006年5月に月探査プロジェクトの概要を明らかにした。予定では、「長征3号甲」ロケットを使用し、最 初の探査機を2007年4月に打ち上げることになっていたが、中国初の月探査衛星「嫦娥1号」は、当初の計画より半年遅れて2007年10月24日に打ち上げられ、同11月20日に月の画像を地上に送信した。同 機の解像度は2キロと言われている。また、同機に搭載されたマイクロ波探査装置によって月面の土壌の厚さが測定された。

 国家宇宙(航天)局の羅格・副局長は、有人月面着陸計画を以下の3つのステップで進めていく考えを明らかにしている。

  • 第1ステップ:「嫦娥1号」による月周回、探査機による月面着陸、探査機の回収
  • 第2ステップ:宇宙飛行士による月面着陸
  • 第3ステップ:月面に駐留

 月周回探査プログラム衛星システムの指揮をとる中国科学院の葉培建・院士は2008年3月、「嫦娥1号」の月周回が順調に推移していることから、月探査計画の第2ステップである「月面着陸(落月)プ ロジェクト」がスタートしたことを明らかにした。

 また同氏は、同プロジェクトが中央関係部門の検討を終え、すでに研究開発に着手したとしたうえで、関連する詳細実施案を正式に作成する必要があるため、全 体プロジェクトは2013年までに完成する見込みであるとの見解を示した。

 そうしたなかで国防科学技術工業局は2008年11月12日、「嫦娥1号」を改良した「嫦娥2号」を2011年末に打ち上げると発表した。「嫦娥2号」は5項目の重要技術の試験・検証を行う。

 また、2期プロジェクトで打ち上げられる「嫦娥3号」は、月に軟着陸し、月の探査を行う。「嫦娥3号」の打ち上げには「長征3号乙」ロケットが使われることになっている。

 なお、中国国家宇宙(航天)局は、ロシア連邦宇宙局と共同で火星および火星の衛星である「フォボス」を2009年に探査することで合意している。

(2) 宇宙応用

1) 衛星による遠隔探査

 中国政府は、2006年10月に公表した「2006年中国宇宙白書」の中で、「第10次5ヵ年」期(2001~2005年)において、衛星による遠隔探査の応用分野と規模を拡大し、鍵 を握る多くの応用技術の難関を突破し、基礎施設の強化がはかられたとの認識を示した。

 同期間中には、国家遠隔探査センター、国家衛星気象センター、中国資源衛星応用センター、国家衛星海洋応用センター、中国遠隔探査衛星地上ステーションに加えて、国 の関係部門と各省や市の衛星遠隔探査応用機関等が設立された。遠隔探査衛星の輻射校正場(radiation correction field)の整備も終了した。

 衛星による遠隔探査応用システムの中にはすでに運用を開始しているものもあり、気象や地質調査・鉱物探査、測量・製図、農業、林業、土地、水利、海洋、環境保護、防災、交通、都 市計画などの分野で広く利用されている。「西気東輸」(西部地区の天然ガスを東部地区に送る)や「南水北調」(南部地区の水を北部地区に引く)、長江の三峡プロジェクトなどでは、重要な役割を果たしている。< /p>

2)衛星による通信・放送

 中国では、衛星による通信・放送技術が急速な進展を見せており、ますます広く利用されるようになっている。中国では2005年末現在、国際・国内通信放送局が約80ヵ所、全 国共有の衛星放送テレビのハブステーションが34ヵ所あり、国の機関や一部の大企業によって約100の衛星専用通信網が整備された。また、超小型衛星通信システムの数は5万に達している。

 とくに衛星による通信・放送技術は、農村部に対する影響が大きく、「どの村でもラジオが聞け、テレビが見られる」プロジェクトと「どの村でも電話がかけられる」プ ロジェクトできわめて重要な役割を果たした。

 また、衛星による遠隔教育ブロードバンドと遠隔医療ネットワークはある程度の規模に達した。中国は、国際海事衛星機構の加盟国として、世界をカバーした衛星通信ネットワークを構築しており、2 006年の白書でも「国際移動衛星通信応用分野の先進国の仲間入りを果たした」と指摘している。

3) 衛星による航行測位

 中国では、衛星航行誘導応用産業化等の重大プロジェクトの実施によって、内外の航行測位衛星を利用した航行誘導と測位技術の開発・応用・サービスの面で大きな進展が見られた。衛 星による航行測位の応用範囲と業種も着実に拡大しており、市場規模は2年ごとにほぼ倍増している。

 これまでに、交通運輸や基礎測量・製図、プロジェクト探査・測量、資源調査、地震のモニタリング、気象観測、海洋探査・観測などの分野で広く利用されている。

(3) 宇宙科学

1) 宇宙探測

 「2006年中国宇宙白書」は、「第10次5ヵ年」期間中(2001~2005年)に、宇宙科学分野の実験と研究で重要な成果が得られたことを明らかにしている。

 具体的には、太陽・地球間の宇宙探測に関して、欧州宇宙機関(ESA)と協力して「地球空間双星探測計画」を実施し、ESAの4機の衛星と合わせて、世 界でも初めて地球空間の6ヵ所で同時探索を行い重要なデータを取得した。また、月と太陽系の探索に関する予備的な研究も行われた。

2)微小重力科学実験と宇宙天文観測

 微小重力科学実験と宇宙天文観測に関しては、宇宙船「神舟」号を利用して、宇宙生命科学や宇宙材料科学、微小重力科学等の分野で多数の実験・研究が実施された。このほか、宇 宙空間における農作物の誘発育種研究や高エネルギー宇宙天文観測が行われ、重要な成果が得られた。

 これまでに、回収型科学技術実験衛星を用いて、細胞培養実験、過冷沸騰試験、気泡熱毛細管転移実験、空間接触角測量実験等が行われている。中国は国際協力を積極的に進めており、ロシアとの間では、国 際宇宙ステーション内のロシア実験船での微重力流体物理の実験などが実施されている。

3)宇宙環境研究

 宇宙環境予報と宇宙環境効果分析、宇宙デブリ衝突アラームシステム、宇宙環境効果実験評価等の基幹技術の研究が進展している。これらの研究は「神舟」有人宇宙飛行船シリーズ等を用いて実施されている。な お宇宙環境保障試験システムには宇宙環境モニタリング、データ管理、宇宙環境予報、宇宙環境効果分析、宇宙環境ユーザーサービス等の技術が含まれている。

 宇宙デブリの観測についてはデブリの減少と予報の面で重要な進展が見られた。同白書は、まだ初期的段階に過ぎないものの、宇宙環境を予報する試験的な能力が得られたと評価している。