9.フロンティアサイエンス分野
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9.1 フロンティアサイエンス分野の概要

(1) 関連政策

1)各政策の分野別取り組みについて

① 中長期科学技術発展規画(2006~2020年)

 科学技術政策の長期的な方向性を示した「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006~2020年)」(「国家中長期科学和技術発展規劃綱要(2006-2020年)」)では、「フロンティア(前沿)技術」について、ハイテク分野において先見性、先導性、探索性を有する重要な技術を指し、次世代のハイテクおよび新興産業の発展の重要な基礎となり、国のハイテク・イノベーション能力を総合的に体現するものである、と定義している。

 同綱要では、数学、物理学、化学、天文学、地球科学等の基礎学科の全般的な発展をはかるとの方針が示されている。このうち数学については、離散・ランダム・量子および非線形等の問題における数学的理論・方法論等を含めた、基礎数学の重要な課題や数学と他の学科との相互浸透ならびに科学研究や応用から出てきた新たな課題を研究テーマとしてあげている。

 このほか、凝縮系の物質および新効果に関して、強相関系とソフト凝縮系、量子力学的なソフト凝縮系と新規効果、ボース=アインシュタイン凝縮、超伝導メカニズム、極端条件下での凝縮系の構造変化、多体系励起プロセス等を課題としてあげている。

 また、物質の深次元構造および宇宙次元の物理的法則に関しては、高エネルギー・高密度・超高圧・超強磁場等、極端状態下における物質構造と物理法則、統一理論、素粒子物理学の先端的課題、宇宙の起源と変化、ブラックホールおよび各天体の形成と変化、地球環境や災害に対する太陽活動の影響といった研究課題が示されている。

 地球科学関係では、地球システムの各圏(大気圏、水圏、生物圏、地殻、マントル、地核)間の相互作用、深部ボーリング、地球システムにおける物理的・化学的・生物的プロセスおよび資源・環境・災害への影響、鉱物形成理論、地球観察・探測システム、シミュレーション・システム等の研究課題があげられている。

 国の重大な戦略ニーズに対応した基礎研究に関しては、基礎科学と技術科学の融合を促進し、未来のハイテクの発展をもたらすとの方針を示したうえで、持続可能な海洋資源の利用と海洋生態系保護等について研究を行う考えを明らかにしている。

 さらに、量子の応用に基づいた新しい情報手段を先進国が競って研究することになるとの見通しから、量子制御研究を「重大科学研究計画」に盛り込んだ。重点的な研究課題として、量子通信のキャリアや制御原理およびその方法、量子計算、新しい量子の制御方法等の研究課題をあげている。

② 「第11次5ヵ年」科学技術発展規画

 中国政府は、「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)を「国家中長期科学技術発展規画綱要」を確実に実行に移すための重要な時期であると同時に、科学技術発展の戦略的な時期と位置付けている。

 2006年3月に全国人民代表大会(全人代)で承認された中国の全体計画である「中華人民共和国国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』規画綱要」では、基礎研究、フロンティア技術研究を強化する方針が明らかにされるとともに、基礎研究とフロンティア技術研究の発展の方向が示された。

 こうした規画を踏まえ、科学技術部は2006年10月27日、「国家『第11次5ヵ年』科学技術発展規画」(「国家"十一五"科学技術発展規劃」)を公布し、数学や物理、化学、天文学、地球科学、生物化学などの基礎学科をベースとして新興の複合学科を育成・支援するとともに全面的に調和・発展させるとの方針を示したうえで、以下のような課題について選択的に研究していく考えを打ち出した。

  • 凝縮物質とその新しい効果
  • 物質の深次元メカニズムと宇宙スケールの物理法則
  • 純粋数学および関連領域での応用
  • 地球システムの過程と資源・環境・災害への影響
  • 新しい物質を創造・転化させる化学プロセス

 また、同規画では、科学技術の基礎的事業、科学技術のインフラとプラットフォームの建設を強化する意向も明らかにした。この中には、大型天体望遠鏡や海洋科学総合調査船、大陸メカニズム環境モニタリングネットワーク、地下資源・地震予知向け極低周波電磁気探測ネットワーク等が含まれる。

2)重点分野推進政策

① 数学

 科学技術部は、2006年10月30日に公布した「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」(「国家"十一五"基礎研究発展規劃」)の中で、「第11次5ヵ年」期間中(2006~2010年)に、基礎数学と応用数学の研究を全面的に発展させ、数学とライフサイエンス、地学、情報、システム科学、材料、エネルギー、環境、エンジニアリング、経済、金融などの分野との融合研究を強化する方針を示した。

 具体的には、「純粋数学およびその学際的分野における応用」に関して、以下の主要研究テーマを掲げている。

  • 代数的構造、幾何構造、トポロジー構造などの構造問題
  • ラングランズ・プログラム、経路積分、相変態数学理論を含む純粋数学の重大問題の研究
  • 数学と物理学、ライフサイエンス、情報科学、エンジニアリング科学、経済・金融などの学科と相互融合により生じた重要な数学問題の研究。例えば、離散問題、ランダム問題、量子問題、計算法問題および多数の非線形現象における数学理論と方法など

② 基礎物理・高エネルギー物理

 「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」では、素粒子物理や原子核物理、凝集態物理(量子電磁力学、超伝導、半導体、表面、軟物質、極端条件下の物理、低温物理、液晶物理など)、ナノ科学、量子情報学、原子/分子物理、プラズマ物理、理論物理、計算物理などの各学科がバランスの取れた発展をすることを重視している。

 また、物理学と他の学科との融合、結合を強め、新興学科の発展を促進するとともに、物理学の基本法則や概念、技術の他の学科における応用を強化し、生命現象と生命活動における物理問題、ナノあるいは低次元系物理の研究を重視する考えも明らかにされている。

 さらに、力学研究の方向も示しており、破断力学やミクロ力学、損傷力学、従来の均質連続体を改良した力学、材料の強度理論と新しい実験手段、必要な機能に応じて材料を設計・計算する力学、複雑な流動理論――の研究を促進し、各種設計の最適化問題を研究するとしている。

 情報科学やライフサイエンス、航空宇宙、自然災害などの分野における力学の応用も重視しており、力学の理論的枠組みを健全化し、新しい試験・数値シミュレーション技術を発展させ、力学と他の学科との融合研究を推進していく方針も示した。

 先端的な課題として位置付けられている「凝縮系物質と新効果」では、以下の研究テーマが掲げられている。

  • 新しい量子特性を持つ凝縮系物質と新反応
  • ボース=アインシュタイン凝縮、超伝導・超流体メカニズム
  • 極端条件下の凝縮系物質の構造相変態、電子構造

 量子物理はミクロの世界を理解する基本であるため、中国の科学界も量子研究を非常に重視している。「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」では、量子制御の主要研究内容を以下のように明らかにしている。

  • 低次元量子制限空間体系の量子理論
  • 量子情報理論、量子コンピュータの中に拡張できる多量子ビットシステム、長距離量子通信と量子安全システムなど
  • 情報加工における量子現象、コヒーレント電子輸送

③ 天文学

 「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」では、天文学の研究方向が示されている。具体的には、比較惑星学、月科学、宇宙プラットフォームの研究を強化するとともに、地上望遠鏡と宇宙望遠鏡の建設を加速することが盛り込まれている。

 また、国際天文シミュレーション・プロジェクトに積極的に参加する意向が明らかにされた。公開された天文データを十分に利用し、天文とエンジニアリングの両面から国際天文プロジェクトに参加し、太陽・地球空間物理および天体動力学などを含む国家の戦略的ニーズに沿った研究を重視する方針も打ち出された。

④ 物理学と天文学の融合研究

 「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」では、「物質深層構造と宇宙大規模物理法則」がフロンティア科学の重大問題と位置付けられており、同期間において以下の研究テーマがあげられている。

  • 素粒子物理学のフロンティア基本問題、
  • 暗黒物質と暗黒エネルギーの解明
  • ミクロと宇宙スケールおよび高エネルギー・高密度・超高圧・超強磁場などの極端状態における物質構造と物理法則
  • 全ての物理法則を統一した理論の探索
  • 宇宙の起源と変遷
  • 太陽、恒星・惑星系、ブラックホールと各種コンパクト天体などの各種天体と構造の形成と変遷など

 また「第11次5ヵ年」期間中に、大型の粒子・輻射探測器システム、多周波数帯大型望遠鏡、高機能計算・データ分析能力の構築を加速する一方で、国際協力も強化し、理論や計算、実験、観測などの分野において、物理と天文などの関連学科の融合研究を優先的に展開していく方針も示された。

⑤ 海洋

 海洋技術に関しては、「国家中長期科学技術発展規画綱要」の中で、浅海底における石油・天然ガスの探査技術に加えて、賦存量が豊富な海底油田における実収率を向上させる総合技術を重点的に研究し、海洋生物資源保護および高効率利用技術を開発するという目標が掲げられた。

 また、天然ガス・ハイドレートの調査開発技術、海洋金属鉱物資源海底採集輸送技術、原位置高効率抽出技術および大型海洋エンジニアリング技術を研究開発の重点とすることが明らかにされた。海洋関係のフロンティア技術には以下のようなものが含まれる。

ⅰ.海洋環境立体監視測量技術

 海洋環境立体監視測量技術は、大気中や沿岸、水面、水中における各種海洋環境要素を監視、測定する技術である。海洋リモートセンシング技術、音声計測技術、浮標技術、長距離海洋レーダ技術等を重点的に研究し、海洋情報処理と応用技術の発展をはかる。

ⅱ.海底多パラメータ迅速計測技術

 海底多パラメータ迅速計測技術は、地球物理や地球化学、生物科学などの特徴に関する多くのパラメータの同期計測を行い、リアルタイムで情報を転送する技術である。異常環境下のセンサー技術、センサー自動制御技術、海底情報伝送技術などを重点的に研究する。

ⅲ.天然ガス・ハイドレートの開発技術

 天然ガス・ハイドレートは深海底と地下の炭化水素である。天然ガス・ハイドレートの調査理論と開発技術、天然ガス・ハイドレートの地球物理と地球化学的探査と評価技術を重点的に研究し、天然ガス・ハイドレートの掘削技術と安全採掘技術の飛躍的な進歩の達成をめざす。

ⅳ.深海底作業技術

 深海底作業技術は、深海底工事作業および鉱物資源の採掘をサポートする水中技術である。大深度海底運搬技術、生命維持システム技術、高エネルギー動力装置技術、Hi-Fiサンプリングと長距離情報伝送技術、深海底作業設備製造技術、深海底ステーション技術を重点的に研究する。

 また、「国家科学技術支援計画『第11次5ヵ年』発展綱要」では、同期間中の重点プロジェクトが定められている。具体的には、以下の3つの課題が含まれている。

  • 重大海洋災害警報および応急技術に関する研究
  • 海洋石油ガスを開発・建設するための大型工事船の研究・製造に関する技術
  • 海洋エネルギーを開発・利用する核心技術の研究とモデル

 さらに、「国家ハイテク研究開発発展計画」(「863計画」)では、「近海、浅海の技術開発を深化し、深海、遠海の技術開発を開拓する」との方針に従い、「第11次5ヵ年」期間中の海洋技術分野の戦略的目標が以下のように定められている。

  • ⅰ.近海資源の利用水準の向上および深海の戦略的資源の備蓄を重点とし、近海の油田、深海油ガス田、天然ガス・ハイドレート、海洋海底固体資源の調査・開発の中核技術および大型設備を開発する。
  • ⅱ.海洋環境監視測定技術、とくに深海・遠海の監視・測定技術を発展、健全化し、200海里経済水域および西太平洋海洋環境立体総合監視・測定および監視制御の技術能力を構築する。
  • ⅲ.深海生物資源の探測・調査、開発・利用技術の研究を行い、海洋イノベーション薬品および海洋生物製品などの高付加価値製品を研究、製造する。
  • ⅳ.複数の海洋ハイテク研究・開発基地を建設し、海洋フロンティア技術を発展させる。ⅴ.中国の海洋技術を、近海・浅海から深海・遠海へと拡大する。

 国家発展改革委員会と国家海洋局は2008年2月、「国家海洋事業発展規画綱要」(「国家海洋事業発展規劃綱要」)を公布した。同綱要では、2010年~2020年までの海洋事業発展の計画目標を掲げている。具体的には、海洋技術の国際競争力の強化に加えて、科学的海洋管理、海洋経済、防災・減災および国家安全に対する支援能力強化をはかるとしたうえで、科学技術による経済的貢献率を50%に、また水不足に悩む沿海部での海水利用による貢献率を16~24%にするとした。

(2) 研究予算

1)全分野

 「中国科技統計年鑑」によると、同年間が集計している全58分野の研究開発内部支出は近年、着実に増加している。

 機関別に見ると、一時は2分の1以下であった高等教育機関の研究支出が顕著な増加を示しており、研究開発機関との差が縮小してきている。

表9.1 機関別に見た58分野の研究開発内部支出とテーマ件数の推移(万元)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関
(全分野)
1971759
(33784)
2093247
(35749)
2767834
(36889)
2834996
(37292)
3534911
(39072)
3653731
(42262)
高等教育機関
(全分野)
758722
(141992)
957739
(169643)
1262116
(200120)
1477327
(237463)
1934537
(280327)
2870180
(365294)
注:( )内は研究開発テーマ件数出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

2)数学

 「中国科技統計年鑑」によると、数学分野での研究支出は近年、研究開発機関、高等教育機関とも上昇傾向にある。このうち研究開発機関の数学分野での2006年支出は、前年比2.5倍という高い伸びを示し4712万元に達したが、研究開発テーマ件数は26件の増加にとどまった。

 これに対して、高等教育機関の数学分野での研究支出は、2005年に一旦減少したものの、2006年には大幅に増加し1億8397万元となった。これは、2001年以降でそれまでの最高を記録した2004年実績の1億4392万元と比較しても27.8%多い。高等教育機関では、研究支出に合わせる形で研究テーマも着実に増加している。

 数学分野での研究支出とテーマ件数を見ると、高等教育機関が研究開発機関をいずれも大きく上回っている。

表9.2 機関別に見た数学分野の研究開発内部支出とテーマ件数の推移(万元)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関 2532
(216)
3491
(208)
1740
(218)
1846
(163)
1877
(178)
4712
(204)
高等教育機関 5094
(2832)
8239
(3291)
9487
(3481)
14392
(4233)
12664
(4783)
18397
(5771)
注:( )内は研究開発テーマ件数出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

3)物理学

 研究開発機関の物理学分野での研究支出は、2003年を例外とすると、2004年以降はわずかながら減少傾向を見せている。テーマ件数もそれほど大きな増減を示していない。

 一方、高等教育機関の物理学分野での研究支出は、絶対額ではまだ研究開発機関に及ばないものの、テーマ件数の伸びに合わせるように着実に増加している。2006年は5億5078万元となり、対前年比で22.4%の伸び率を記録した。

表9.3 機関別に見た物理学分野の研究開発内部支出とテーマ件数の推移(万元)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関 46340
(1238)
71512
(1285)
259201
(1343)
95673
(1388)
95365
(1400)
92736
(1480)
高等教育機関 14359
(3445)
23740
(3986)
29864
(4238)
41177
(5133)
44992
(5692)
55078
(6913)
注:( )内は研究開発テーマ件数出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

4)天文学

 表9.4に示すように、中国の天文学研究は研究開発機関が中心となって実施されている。研究開発機関の天文学分野での研究開発テーマ件数はそれまで300件台で推移してきていたが、2006年には前年より37.9%多い517件を記録した。

 研究開発機関の内部支出も2001年以降、着実に増加しており、2006年は2億5535万元となった。これは、前年に比べて21.2%、また2001年実績と比較するとほぼ3倍になっている。

 これに対して、高等教育機関の天文学分野での研究開発テーマ件数は、毎年100件前後で推移しており、内部支出も研究開発機関に比べると2ケタ少ない。過去6年間の実績を見ても、2001年に記録した1983万元が最高となっている。

表9.4 機関別に見た天文学分野の研究開発内部支出とテーマ件数の推移(万元)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関 8780
(363)
14894
(317)
16104
(329)
18354
(332)
21076
(375)
25535
(517)
高等教育機関 1983
(99)
473
(84)
943
(92)
1010
(112)
681
(99)
870
(110)
注:( )内は研究開発テーマ件数出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

5)地球科学

 「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」によると、「地球科学」には、地質学や地理学、地球物理学、地球科学、測量・製図科学、大気科学、水文科学、宇宙科学のほか、海洋科学、生態学、エンジニアリング技術科学の中で地学に関連する部分が含まれる。

 これまで、地球科学分野での研究開発内部支出は、研究開発機関の支出額が高等教育機関の支出額を上回ってきていたが、高等教育機関の地球科学分野での内部支出は増加する傾向にあり、両者の差が縮まってきている。

 とくに高等教育機関の地球科学分野における2006年の支出額とテーマ件数は、対前年比でそれぞれ53.3%、33.5%という高い伸びを示した

表9.5 機関別に見た地球科学分野の研究開発内部支出とテーマ件数の推移(万元)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関 57157
(3500)
78697
(3500)
88923
(3756)
94055
(3977)
108924
(4213)
104383
(4467)
高等教育機関 22769
(3363)
30768
(3786)
39590
(4258)
46774
(4997)
54849
(5737)
84070
(7659)
注:( )内は研究開発テーマ件数出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

6)海洋

 「中国科技統計年鑑」では「海洋」という分類がないため、国家海洋局・第二海洋研究所に所属する「衛星海洋環境動力学国家実験室」の2006年の実績を紹介する。同実験室は、基礎研究のレベルを世界的な水準まで引き上げることを目的として、予算を重点的に配分する研究室を指定する「国家重点実験室建設計画」の1つとして、2006年にスタートしている。

表9.6 「衛星海洋環境動力学国家実験室」の研究経費とプロジェクト(2006年)
  実験室数 研究経費(万元) 科学研究プロジェクト
資金調達 支出 件数 経費(万元)
国家海洋局・
第二海洋研究所
1(「衛星海洋環境動力学
国家重点実験室」)
9536 5577 132 10376
(参考:国家重点
実験室合計)
(195) (839429) (655283) (23309) (499055)
出典:「2007中国科技統計年鑑」(国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(3) 研究人材

1)全分野

 「中国科技統計年鑑」によると、同年鑑が集計の対象としている58分野における人的資源(研究者と技術者)投入量は、表9.7に示すように研究開発機関、高等教育機関とも着実に増加してきている。

表9.7 機関別に見た58分野の投入人的資源(研究者・技術者※)と研究開発テーマ件数の推移(人・年※※)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関(全分野) 127690
(33784)
118458
(35749)
129001
(36889)
124831
(37292)
133485
(39072)
157169
(42262)
高等教育機関(全分野) 136380
(141992)
153190
(169643)
162384
(200120)
202633
(237463)
219487
(280327)
261159
(365294)
注:( )内は研究開発テーマ件数
※研究者・技術者:高・中級技術のポストを有する科学技術活動に従事する人員と、高・中級技術のポストを有しない大学本科以上の学歴の人員を指す。なお高級技術職は日本の大学教授レベルに、また中級技術職は大学講師レベルに相当する。
※※:専従換算人員投入量:「専従人員」とは、当該年において研究開発活動に従事した時間が当該年の全作業時間の90%以上を占める人員を指す。また「非専従人員」とは、当該年において研究活動に従事した時間が当該年の全作業時間の10%以上-90%未満の人員を指す。「非専従人員」は、実際の作業時間に応じて「専従人員」に換算される。例えば、3人の「非専従人員」が当該年の全作業時間のそれぞれ20%、30%、70%を当該年の研究開発活動にあてた場合、「専従換算人員」は0.2+0.3+0.7=1.2(人・年)≒1(人・年)となる。したがって「専従換算人員投入量」は、「専従人員」に、作業時間に応じた「非専従人員」を加えたものである。例えば、2人の「専従人員」と3人の「非専従人員」(作業時間はそれぞれ20%、30%、70%)がいた場合、「専従換算人員投入量」は2+0.2+0.3+0.7=3.2(人・年)となる。
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

2)数学

 「中国科技統計年鑑」によると、数学分野に投入された人的資源(研究者と技術者)は、機関別に見ると、高等教育機関が圧倒的に多くなっている。研究開発機関の人的資源投入量は2006年に前年の3倍近い502人・年に達したが、同年の高等教育機関の実績(4222人・年)と比べると8分の1以下に過ぎない。

 高等教育機関の数学分野での人的資源投入量は、2001年以降、着実に増加している。2006年実績は、対前年比で10.4%の伸びを示した。2001年実績(2614人・年)との対比では、61.5%の増加となっている。

表9.8 機関別に見た数学分野の投入人的資源(研究者・技術者※)と研究開発テーマ件数の推移 (人・年※※)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関 272
(216)
205
(208)
199
(218)
156
(163)
173
(178)
502
(204)
高等教育機関 2614
(2832)
2756
(3291)
2769
(3481)
3696
(4233)
3824
(4783)
4222
(5771)
( )内は研究開発テーマ件数
※:前掲
※※:前掲
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

3)物理学

 物理学分野では、研究開発機関、高等教育機関ともテーマ件数が増加している。そうしたなかで、研究開発機関の投入人的資源(研究者と技術者)は、2003年に過去6年間で見て最高の4735人・年を記録したあと2年続けて減少傾向を示していたが、2006年には対前年比で57.7%という高い伸びを示した。

 一方、高等教育機関の物理学分野での人的資源投入量は、2006年に5515人・年となり対前年比で18.2%の伸びを示し、過去6年間で最高となった。

 なお、中国科学院院士で清華大学理学部教授を務める鄺宇平教授は、中国の理論物理学分野では、長年にわたって慢性的な人材不足に悩まされており、そうした背景には成果が現れるまでに時間を必要とすることに加えて、学生や若い研究者の価値観の変化があるとの見解を示している。2008年2月15日付「科学時報」が伝えた。

表9.9 機関別に見た物理学分野の投入人的資源(研究者・技術者※)と研究開発テーマ件数の推移 (人・年※※)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関 2838
(1238)
2721
(1285)
4735
(1343)
2553
(1388)
2467
(1400)
3891
(1480)
高等教育機関 3344
(3445)
3902
(3986)
3754
(4238)
4821
(5133)
4667
(5692)
5515
(6913)
( )内は研究開発テーマ件数
※:前掲
※※:前掲
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

4)天文学

 天文学分野の人的資源(研究者と技術者)投入量は、研究開発機関については2001年以降減少傾向にあったが、2006年は対前年比でほぼ倍増し887人・年となった。これは、2001年の728人・年を上回り、過去6年間で見ても最高となった。

 一方、高等教育機関の人的資源投入量は、2002年から上昇に転じていたが、2005年から再び減少に転じ、2006年は研究開発機関の投入量の10分の1以下となった。

表9.10 機関別に見た天文学分野の投入人的資源(研究者・技術者※)と研究開発テーマ件数の推移 (人・年※※)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関 728
(363)
536
(317)
515
(329)
450
(332)
457
(375)
887
(517)
高等教育機関 87
(99)
67
(84)
71
(92)
100
(112)
96
(99)
81
(110)
( )内は研究開発テーマ件数
※:前掲
※※:前掲
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

5)地球科学

 地球科学分野での研究開発機関の人的資源(研究者と技術者)投入量は、2001年以降、減少傾向にあったが、2005年から上昇に転じ、2006年には過去6年間で見ても最高の6670人・年を記録した。対前年比では33.4%の伸びを示した。

 これに対して、高等教育機関の地球科学分野での人的資源投入量は、2001年から着実に増加しており、2006年には過去6年間で見て初めて5000人・年を上回った。

表9.11 機関別に見た地球科学分野の投入人的資源(研究者・技術者※)と研究開発テーマ件数の推移 (人・年※※)
  2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
研究開発機関 5357
(3500)
5267
(3500)
4999
(3756)
4804
(3977)
4999
(4213)
6670
(4467)
高等教育機関 3119
(3363)
3243
(3786)
3764
(4258)
4273
(4997)
4636
(5737)
5096
(7659)
( )内は研究開発テーマ件数
※:前掲
※※:前掲
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

6)海洋

 研究開発内部支出と同じく、国家海洋局・第二海洋研究所に所属する「衛星海洋環境動力学国家実験室」の2006年の実績を表9.10に紹介する。

 なお、国家海洋局、科学技術部、国防科学技術工業委員会(当時)、国家自然科学基金委員会が2006年10月に公布した「国家『第11次5ヵ年』海洋科学技術発展規画綱要」(「国家"十一五"海洋科学和技術発展規劃綱要」)は、海洋科学技術に関係する高級人材を同期間中に30%増加するとの目標を掲げている。

表9.12 「衛星海洋環境動力学国家実験室」の人員とプロジェクト(2006年)
  実験室数 実験室人員(人) 科学研究プロジェクト
固定人員 客員研究員 件数 経費(万元)
国家海洋局・
第二海洋研究所
1 (「衛星海洋環境動力学
国家重点実験室」)
202 16 132 10376
(参考:国家重点実験室合計) (195) (18780) (6805) (23309) (499055)
出典:「2007中国科技統計年鑑」(国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(4) 研究成果

1)数学

 数学分野における中国の科学技術論文が、国外の主要書誌情報データベースに収録された件数を見ると、着実に増加している。SCI、EI、ISTPを合わせた2005年の実績は6043件となり、前年から49.8%の伸びを示した。

 とくにEIの伸びが顕著で前年から2.2倍に増え2739件となった。これに対して、収録件数が常に一番多かったSCIも、前年から19.9%増え、2000年以降で最高の3063件を記録した。

表9.13 数学分野の書誌収録件数の推移
 

書誌収録
SCI EI ISTP 合計
2000 1428 54 456 1938
2001 1495 527 248 2270
2002 2172 714 251 3137
2003 2170 1042 132 3344
2004 2554 1239 242 4035
2005 3063 2739 241 6043
SCI:Science Citation Index
EI:Engineering Index
ISTP:Index to Scientific & Technical Proceedings
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

2)物理学

 国外の主要書誌情報データベースの物理学分野での書誌収録件数は、2001年から2004年にかけては1万件をわずかに超える件数で推移していたが、2005年には対前年比で45%という高い伸びを示した。

 いずれのデータベースへの収録件数も増えており、ISTPは前年に急激な落ち込みを見せたものの、2005年は1500件台を確保した。また、EIは前年に比べて81.7%、SCIは18%の伸び率を記録した。

 なお中国科学院は2009年1月5日、「中国物理」の英文版である「Chinese Physics B」のインパクトファクター(自然科学や社会科学分野の学術雑誌を対象として、その影響度を測る指標)が2を超えたことを明らかにした。米トムソンISI社が発表したもので、中国で発行される物理学関連ジャーナルで2に達したのは初めてという。「Chinese Physics B」は、中国物理学会と中国科学院が共同で発行している。

表9.14 物理学分野の書誌収録件数の推移
 

書誌収録
SCI EI ISTP 合計
2000 4469 494 2268 7231
2001 6223 2492 1427 10142
2002 6164 3288 907 10359
2003 6567 4240 1036 11843
2004 7923 3139 400 11462
2005 9351 5704 1561 16616
SCI:Science Citation Index
EI:Engineering Index
ISTP:Index to Scientific & Technical Proceedings
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

3)天文学

 天文学分野での書誌収録件数を見ると、増加傾向にはあるものの件数は多くなく、2005年は前年よりわずか11件しか増えていない。

表9.15 天文学分野の書誌収録件数の推移
 

書誌収録
SCI EI ISTP 合計
2000 239 48 7 294
2001 68 11 20 99
2002 328 47 90 465
2003 335 78 73 486
2004 330 71 111 512
2005 339 96 88 523
SCI:Science Citation Index
EI:Engineering Index
ISTP:Index to Scientific & Technical Proceedings
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

4)地(球科)学

 「中国科技統計年鑑」では、書誌収録実績を「地学」として集計している。それによると、書誌収録件数は2000年以降、着実に増加している。2005年は、SCI、EI、ISTPの合計が4816件となり、前年から42.4%増加した。

 SCI、EI、ISTPとも増加傾向を示しており、それぞれ対前年比で19.1%、77.9%、41%の伸び率を記録した。

表9.16 地学分野の書誌収録件数の推移
 

書誌収録
SCI EI ISTP 合計
2000 992 133 338 1463
2001 959 300 291 1550
2002 1230 253 249 1732
2003 1456 633 139 2228
2004 1670 1123 588 3381
2005 1989 1998 829 4816
SCI:Science Citation Index
EI:Engineering Index
ISTP:Index to Scientific & Technical Proceedings
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

5)海洋

 国家海洋局・第二海洋研究所に所属する「衛星海洋環境動力学国家実験室」の2006年の成果を表9.17に紹介する。

表9.17 「衛星海洋環境動力学国家実験室」の成果(2006年)

 

実験室数

科学研究プロジェクト

受賞件数※

発表論文

件数

経費(万元)

 

 

国家海洋局・
第二海洋研究所

1 (「衛星海洋環境動力学 国家重点実験室」)

132

10376

 

124

(参考:国家重点
実験室合計)

(195)

(23309)

(499055)

(49)

(27949)

※:国家自然科学賞、国家科技進歩賞、国家技術発明賞出典:「2007中国科技統計年鑑」(国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(5) 国際研究活動の展開

 中国はフロンティア技術分野の国際交流・協力を非常に重視しており、各種政策の中でも国際協力を積極的に行う方針を明らかにしている。

1)数学

 中国の北京で2003年8月、第24回国際数学者会議が開催された。中国国内の1000人に加えて、約100の国・地域から2000人の数学者が参加した。同会議以降、中国では数学関係の国際会議が頻繁に開催されるようになった。2008年だけでも下記のような国際会議が開催された。

  • 2008年3月:「第3回東亜数学史研究国際学術シンポジウム」(天津)
  • 2008年6月:「International Conference:"Nonlinear Waves-Theory and Applications"」(北京)
  • 2008年7月:「幾何解析国際会議」(武漢)
  • 2008年11月:「第2回国際数値・代数・科学計算国際会議」(南京)

 数学分野における大学間の交流も盛んに行われている。例えば、ドイツの数学者Christian Reidys氏は2007年6月、南開大学から組合せ数学研究センターの副主任を任命された。任期は5年間で、同氏は高水準の計算生物学チームを創設する任務を負っている。

 数学関係の協会間の交流も多く行われている。上海数学会は米国数学会と2008年12月、上海復旦大学で最初の連合学術会議を行った。この会議は、両国の数学者にとって直接の交流機会となった。会議のテーマには数学の全ての分野が含まれていた。

2)物理学

 中国の研究者は欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器のプロジェクトに参加した。中国の合同チームはATLAS探測器の研究・製造、データ分析に加えて、CMS探測器と磁石部品の建設や分析ソフトと物理研究の準備作業にも参加した。中国の研究チームには、中国科学院高エネルギー物理研究所、北京大学清華大学、中国原子能科学研究院、中国科学技術大学南京大学山東大学などの研究者が含まれていた。

 高エネルギー物理分野での米国との研究交流・協力は長い歴史をもち、1970年代末には「中米高エネルギー物理協力執行協議」が締結された。これ以降、北京電子・陽電子衝突型加速器(BEPC)と北京電子・陽電子衝突スペクトロメータ(BES)、北京同時性輻射施設(シンクロトロン放射光施設)の建設に関して、様々な形、様々な分野で、協力、交流が行われてきた。

 また、中米間の新しい協力として、大亜湾でのニュートリノ実験における協力が世界から注目されている。この実験は、中国科学院によって2006年に承認され、5000万元の実験資金を受け、2011年からデータを収集する予定になっている。

 この実験は、中国科学技術部と米エネルギー省(DOE)および全米科学財団(NSF)の援助を受けている。香港、台湾、チェコ、ロシアからの資金援助も受けている。このプロジェクトは2008年10月に建設を開始し、2010年に竣工する予定になっている。

 2008年2月24日付「科技日報」によると、中国科学技術大学大微尺度物質科学国家実験室では、同大学の潘建偉教授らが参加する国際研究チームが世界で初めて、光子キュービット-原子キュービット間の量子状態における暗号伝送実験に成功した。

 潘建偉教授らの研究グループは、国家自然科学基金、「973計画」、中国科学院知識革新事業の支援を受け、ドイツ、オーストラリアなどの研究者と協力して、4年間にわたってこの問題と取り組んできた。

 中国科学院の管轄下にある中国科学技術大学の量子情報重点実験室とスウェーデン王立工科大学マイクロ電子・応用物理学科量子電子・量子工学グループの共同研究チームは、世界で初めて、「単一光子源によるデコイ法(decoy-pulse method)を用いた量子暗号実験」に成功した。2008年3月20日付「科学時報」が伝えた。

 両国の研究チームは、レーザーによって周期性非線形結晶体を励起させる方法を用いて、波長の異なる2つの関連光子対を同時に形成させることにより、暗号鍵の発生率と安全伝送距離を大幅に向上させることに成功した。

 また中国科学院は2008年3月20日、中国、日本、米国の研究者が共同で、中国が独自に開発した角度分解型光電子分光装置を用いて、世界初の真空紫外線レーザーによる電子カップリング状態の観察に成功したと発表した。中国からは科学院傘下の物理研究所など4つの研究グループが、また米国からブルックヘブン国立研究所のGenda Gu博士、日本から東京工業大学の笹川崇男博士が参加した。

 2008年6月には、Kavli基金会の援助を受け、中国科学院Kavli理論物理研究所(KITPC)が北京中関村に設立された。同研究所の研究プロジェクトは、量子凝集態物理、超弦理論、宇宙学である。米国、欧州、韓国、日本の20名の理論物理学者は2008年9月~11月、KITPCで「標準模型を超える物理」プロジェクトを実施した。

 物理学のフロンティア問題についても多くの国際会議が中国国内で開催されている。北京で2006年6月、国際弦理論大会が開催された。また、浙江大学物理学部と米ジョージア大学シミュレーション物理センターの共催で2006年11月、第3回杭州計算物理国際会議が浙江大学で開催された。

 武漢では2008年7月、中国科学院国家自然科学基金委員会の主催により第3回冷原子物理国際学術シンポジウムが開催された。また同月、鄭州大学中国科学院などが共催した第5回凝集物理フロンティア国際シンポジウムが鄭州大学で行われた。なお、2011年8月には中国生物物理学会の主催により第17回国際生物物理学会議が北京で開かれることになっている。

3)天文学

 天文学における国際交流に関しては、天球座標系の研究においてイタリア、米国、中国の3ヵ国が合同でまとめたGSC2.4は、中国天球座標系の創設と研究の基礎となった。また中国は、電波源位置座標系ICRF(International Celestial Reference Frame)-2の多国間研究では、流層モデルと短期波動改善プロジェクトに参加している。

 このほか中国は、国際地球自転サービス計画(IERS)、国際GPSサービス計画(IGS)、国際レーザー測距事業(ILRS)、欧州VLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線電波干渉法)観測網(EVN)、米国NASAの固体地球・自然災害研究計画(SENH)、アジア太平洋宇宙測地観測(APSG)などの国際的な地球観測計画に参加している。

 なお、国際宇宙ステーションのAMS(Alpha Magnetic Spectrometer)プロジェクト、米国の南極周回気球プロジェクトで粒子収集装置「ATIC」(Advanced Thin Ionization Calorimeter)の開発と観測データの分析などを行った。

 中国の各地域に設置された天文望遠鏡は、EVNとIVS(国際VLBI事業)に参加している。中国とフランスが提携し、製造する空間天文衛星「空間変源モニター(SVOM)」は2012年に打ち上げられる予定になっている。

 中国科学院は、天文学分野における国際協力で以下のような成果が得られたと発表している。

  • ⅰ.中国科学院国家天文台とドイツのマックス・プランク天文学研究所が共同で銀河系質量の解析結果を発表(2008年5月29日):スローン・デジタルスカイ・サーベイ(SDSS)-Ⅱのデータを用いて、銀河系の質量がこれまで推定されていた太陽の約2兆倍よりも小さい約1兆倍であると算定した。
  • ⅱ.中国科学院国家天文台と日本の国立天文台が協力し、HD173416赤色巨星の周囲で、質量が木星質量の2.7個分に相当する太陽系外惑星の発見を発表(2009年1月6日):中国の天文学者が興隆観測所の2.16m天体望遠鏡を用いて発見した太陽系外惑星の第一号であり、観測は日本の国立天文台岡山天体物理観測所の光学望遠鏡(1.88m)も用いて、両国同時にHD173416赤色巨星を数回にわたって追跡観測を行った。
  • ⅲ.欧州宇宙機関の「ハーシェル宇宙望遠鏡」開発に関する英国との協力において、目標を達成と発表(2009年1月15日):中国科学院とウェールズ大学カーディフ校、ラザフォード・アップルトン研究所によって実施された共同プロジェクトで、ハーシェル宇宙望遠鏡の計画研究段階に関する評価が行われた。

 なお中国は、天文学関係の国際会議を積極的に開催しており、中国天文学会と国際天文学連合(IAU)は2012年に北京で第28回IAU総会を開催する合意書に正式に署名している。

4)海洋

 中国政府は海洋科学技術分野で掲げた目標の早期実現をめざし、海洋科学技術の自主革新能力を強化する一方で、国際的な協力を広範囲に展開する必要があるとの見解を示している。

 中国政府は、国際的な海洋フロンティア科学研究分野の研究に参加することによって、中国の国際海洋研究分野における影響力を高めることができるだけでなく、多くの優秀な海洋科学者を育成することができると見ている。

 中国は、米国やフランス、ドイツ、ロシア、韓国、タイ、日本との間で、政府部門間の海洋科学技術協力協議あるいは覚書を通じて、以下のような研究協力プロジェクトを実施している。

  • 米国:有害赤潮物質の分子学的特性とリモートセンシングの赤潮予報における応用に関する研究
  • 米国:渤海海岸地区総合管理および応急システム(ICMERS)プロジェクトの実行可能性研究
  • フランス:海洋生態健康監視・測定と評価
  • ドイツ:近海海岸地区海洋生態監視・測量技術と評価方法に関する研究
  • ロシア:海洋生態系統の安全評価体系および業務的応用
  • ロシア:極東海域生物体、海底沈積物、海水の主要汚染物に関する分析・研究
  • 韓国:黄海汚染軽減対策研究
  • 韓国:黄海沿岸地区TBT監視・測定とTBT災害防止研究
  • タイ:季節風突発と社会影響に関する研究
  • 日本:ルソン海峡流量とその変異の協力研究

 中国は、こうした二国間での共同研究に加えて、積極的に国際会議に参加するとともに、国際会議を主催している。2008年に中国で開催された海洋関係の国際会議を以下に紹介する。

  • 「海底観測国際シンポジウム」(2008年5月、同済大学
  • 「アジア―太平洋海岸ゾーン国際学術シンポジウム」(2008年10月、青島)
  • 「2008国際深海技術シンポジウム(Deepwater Offshore Technology Symposium 2008, DTec 2008)」(2008年11月、上海)
  • 「第9回環太平洋国際リモートセンシング会議(PORSEC2008)」(2008年12月、広州市)