9.2 フロンティアサイエンス分野の現状および動向
(1) 数学
中国では改革開放後、数学研究のレベルアップに努力が払われたこともあり、数学界における国際的な地位が向上している。また各分野の研究方向と内容が大きく変化するなかで、合理的な学科配置が行われ、重要な空白学科も補充された。とくに、応用数学における重要な分野での進展が顕著である。
中国では、非線形問題における数学的理論・方法でここ数年、大きな進展が見られる。中国政府は、各自然科学分野の非線形現象の探究に有力な手段になるとの判断から、この分野の研究を重視、支援していく考えを示している。
不確定性と離散問題の数学モデル、理論、方法を含む分野に関しては、例えば市場経済では株相場の高騰・下落、自然現象では台風や地震などの災害の発生、旱魃・洪水の原因となる降雨量など、さらに科学研究では遺伝子の突然異変や疾病の拡散、医療関連支出、個人予期寿命などへの応用が期待されている。
中国国内では、数論、代数幾何、位相幾何学、群と代数、微分幾何、位相幾何学などの分野においては、多数の難しい数学問題が存在するものの、こうした問題の解決が数学研究において重大な価値を有するだけでなく、他の学科への波及効果も大きいとの認識で一致している。
中国では国家自然科学基金委員会が1986年2月に設立されて以来、国家基礎科学数学養成基金、天元基金などを創設して数学分野での優秀な人材育成に努力を払ってきた。中国では一時、一貫して純粋数学が重視され、応用数学の面では世界との格差が大きい時期があった。しかし、国家自然科学基金委員会は近年、応用数学分野にも強力に肩入れしている。
中国は数学教育にも力を入れており、高校生を対象として国際数学オリンピックでは2004年から2006年にかけて3年連続して国別成績で1位になった。2007年の第48回大会ではロシアに次いで2位となったが、2008年には再度1位に返り咲いた。
世界的に有名な数学者でありフィールズ賞受賞者の丘成桐ハーバード大学教授の名前を冠した「丘成桐数学賞」が2007年12月に設立された。この賞は、全世界の中国系中高生に数学研究に対する関心を持ってもらい、前途有望な若手数学者を発見・育成することをねらっている。中国大陸の華北、華東、華南、台湾、海外の5つの区に分けて年に1回表彰することになっている。
(2) 基礎物理・高エネルギー物理
中国科学院理論物理研究所は、中国の基礎物理研究の中心的な研究所である。同研究所の研究テーマを以下に示す。
- 素粒子物理論と場の量子場におけるフロンティア問題(電弱対称性の破れのメカニズム、CP対称性の破れとフェルミオン質量起源、カラー閉じ込め(Color Confinement)問題等)
- 極端条件における原子核の研究
- 弦理論と場の量子論の非摂動的効果・反応
- 引力と宇宙学の研究
- 凝集態物理理論の重大なフロンティア問題(強関連電子システムの数値模擬および関連方法のほかの系統への発展、中性原子の関連、輸送、損耗拡散など)
- 統計物理と理論生命科学
物理学分野の飛躍的な進歩には大型実験設備が不可欠となっている。中国では、北京電子・陽電子衝突型加速器(BEPC)、北京電子・陽電子衝突スペクトロメータ(BES)、北京と合肥のシンクロトロン放射光施設(同時性輻射光源)、蘭州の重イオン加速器、合肥の超伝導電磁石トカマク型核融エネルギー実験装置(EAST)の改造・更新によって、中国の高エネルギー物理、原子核物理、核融合などの分野の発展が促進されるものと期待されている。
このうち、北京電子・陽電子衝突型加速器(BEPC)の改造プロジェクトであるBEPC-Ⅱは、輝度が1032/cm2/sを超え、改造前の10倍に達した。中国科学院・高エネルギー物理研究所が2008年2月5日に明らかにした。
同研究所は、電子蓄積リングの最大貯蔵電流強度が550mAの国内新記録を樹立し、世界の先進レベルに達したと説明している。同研究所では、輝度を現在の3倍にする計画をたてている。
温家宝首相は2008年11月4日、BEPC-Ⅱを視察した際、衝突型加速器の建設は、中国の素粒子物理分野における国際的な地位の基礎を固めたとしたうえで、核物理における優位性を維持するとともに、中国の基礎および先端研究水準、自己革新能力の向上に一層貢献することを期待すると述べた。
また、2007年から試運転をしていた蘭州の重イオン加速器冷却蓄積リング(HIRFL-CSR)が2008年7月30日に国の検収を通過した。国家重点科学技術プロジェクトであるHIRFL-CSRは、中国が独自に設計、建設したもので、中国科学院・近代物理研究所内に建設された。
HIRFL-CSRでは2008年10月15日、変換エネルギーの取り出しとイオン種の自動切換えに成功した。中国科学院が発表したもので、それによると80MeV~400MeVの自動切換えによる高エネルギーの炭素イオンビームが提供できるようになり、深層腫瘍患者への利用が可能になった。
建設中の上海シンクロトロン放射光施設(SSRF)は2009年4月に竣工する予定で、完成後には、国内外の各種分野の500~600名の専門家が実験を行うことになっている。同放射光施設では、第1期プロジェクトで7つの実験ステーションが建設される予定になっている。同施設では、最大で60の実験ステーションが建設できる。
「第11次5ヵ年」期間の重大科学プロジェクトとしてスタートした「強磁場実験装置」の着工式と中国科学院強磁場科学センターの開所式が2008年5月18日、合肥で行われた。同実験装置は、定常強磁場実験装置とパルス強磁場実験装置で構成され、このうち定常強磁場実験装置は、中国科学院合肥物質科学研究院と中国科学技術大学が共同で建設する。同装置の運営は強磁場科学センターが行う。
同センターは、定常強磁場環境下における半導体材料の量子力学反応や高温超伝導メカニズム、特殊有機材料の合成技術、生物反応、凝集態物理、核磁気共鳴技術などについて研究を行うことになっている。
国家発展改革委員会は2008年9月28日、広東省・東莞市の松山湖科学技術産業パークの中国核破砕中性子源(China Spallation Neutron Source:CSNS)プロジェクトを正式に承認した。
CSNSは、「第11次5カ年」期間の重大プロジェクトに指定された大規模科学装置で、2013年に完成の予定となっている。同プロジェクトの投資額は約20億元と推定されている。完成すると、発展途上国では初の核破砕中性子源となる。
純粋な研究利用ではないが、産業目的の高効率電子線加速器が2007年12月18日、国の検査に正式に合格した。食品の鮮度保持や医療用具の滅菌、税関検査等に利用することができる。加速器の産業利用は、これまでのコバルト60を用いた照射よりも安全面で優れており、多方面での利用が期待されている。
(3) 天文学
現在、中国の天文学は歴史的な転換点に立っている。中国の天文学分野における研究成果の大部分は、外国の一流の観測設備や理論研究、数値シミュレーション、データなどを用いて得られたもので、自主的な天文測量機器で得られたものが少ない。こうした背景には、中国では長い間、先進的な天文測量機器の研究開発と重要天文設備に対する投資が少なかったという事情がある。
こうしたなかで、中国科学技術大学が国立天文台、南京天文光学技術院と共同で始めた重要な国家科学プロジェクトである広視野多目的ファイバ分光望遠鏡(LAMOST)は、中国の天文学研究に重要な貢献をすると期待されている。
口径4m、視野角5度、4000のファイバという性能を持ったLAMOSTは、世界で最も強力な光学スペクトル観測望遠鏡である。LAMOSTの科学的目標は、銀河系外天文学,銀河系の構造と進化、および多波長帯の同定である。LAMOSTが2008年に完成したことによって、中国の天文学者は初めて国際的な水準の先進的な大型天文観測装置を持つことになった。
なお科学技術部は2009年2月11日、2008年度の「中国基礎研究10大ニュース」を公表し、このなかでLAMOSTの完成をあげた。
また、2008年1月12日に南極大陸最高点の「ドームA」に設置された「南極小型望遠鏡」(CSTAR)が同3月20日から観測を開始した。8月2日の故障によって観測を停止するまで135日間にわたって連続観測を実施した。CSTARは、中国科学院南京天文光学技術研究所、柴金山天文台、国家天文台が共同で開発した。
このほか中国は、直径500mという世界最大の電波望遠鏡の建設に貴州省で着手した。中国科学院国家天文台が2008年12月29日に明らかにしたもので、FAST(Five-hundred-meter Aperture Spherical Radio Telescope)と呼ばれている。
FASTは2013年頃の完成が予定されている。完成後は、全米科学財団(NSF)が南米プエルトリコに保有しているアレシボ電波望遠鏡の350mを抜いて、単体の電波望遠鏡としては世界一になる。
中国科学院国家天文台によると、建設費用は約7億元。完成後は、電波天文学の研究促進のほか、地球の周回軌道上の人工物(スペース・デブリ)の監視などにも使われることになっている。
中国科学技術協会が2008年3月20日に明らかにしたところによると、中国は天文衛星「硬X線調整望遠鏡」(HXMT)の打ち上げを2010年に計画している。ブラックホールなど、天体物理分野での研究に大きく貢献すると期待されている。
HXMT以外にも、中国とフランスが提携して製造する空間天文衛星「空間変源モニター(SVOM)」が2012年に打ち上げられる予定になっている。また、フランスとロシア主導の「小型衛星太陽爆発監視衛星」(SMESE)でも中国は重要な任務を引き受けている。
天文学研究のインフラが徐々に整備されるなかで、課題も浮上してきている。中国では現在、天文学の研究者は中国科学院・国家天文台と一部の研究所に集中している。表9.8に示したように、天文学の専門研究員は絶対数でも少なく、人的資源の投入量もそれほど大きな伸びを示していない。
中国国内のいくつかの大学には天文学の教育と研究を行っている優秀な学者がいるものの、外国と比較すると全体的に少ないのが現状である。
中国科学院と国家自然科学基金委員会が共同で設立した「天文共同基金」は、天文学研究を重点的に奨励するためのものである。同基金の設立は、大学での天文学研究を強力に後押しするものと期待されている。また、天文学分野での中国科学院と大学との協力を強化するため、大学の天文学科への資源投入を拡大することが計画されている。
なお、中国の天文学研究は、2001年4月に設立された中国科学院国家天文台が中心になって行われている。国家天文台は、中国科学院所管の雲南天文台、南京天文光学技術研究所、ウルムチ天文台、長春天文台およびその他の3観測所・1研究所を統合してできたもので、中国科学院院士5名、教授クラスの研究者80名、准教授クラスの研究者140名のほか、博士課程修了の研究者22名が在籍している。また、修士課程146名と博士課程241名の学生が登録されている。
国家天文台は、観測や理論天文学の研究に加え、基礎天文学に関連したハイテク技術研究開発を行うことを目的としている。以下のような幅広い分野が研究対象になっている。
- 宇宙の大規模構造
- 銀河の誕生と進化
- 高エネルギー天文学
- 星の誕生と進化
- 太陽磁場および太陽・惑星間空間の環境
- 宇宙での観測手法および宇宙探査
- 太陽系天体の動力学
- 天文学観測手法・技術
(4) 海洋
国家海洋局は2008年2月21日、中国初の海洋全体計画となる「国家海洋事業発展規画綱要」を公表した。同綱要では、海洋資源の持続可能な利用や海洋環境・生態保護、海洋経済、海洋公益サービス、海洋権益といった幅広い分野に視点を据えながら、2010年から2020年にわたる中国の海洋戦略を描き出している。
また、「国家ハイテク研究開発発展計画」(「863計画」)の海洋技術領域の戦略目標は以下のように定められている。
- 近海資源利用のレベルアップに加えて、深海部における戦略的資源の備蓄能力を高め、近海油田、深海石油・天然ガス田、天然ガス・ハイドレート・海底固体鉱物資源の探査・開発に係わる中核技術・大型施設を開発する。
- 海洋環境モニタリング技術、とくに深海・遠海モニタリング技術の開発・整備を行い、200海里内の排他的経済開発区および西太平洋に対する海洋環境立体総合観測・管理に関する技術能力を構築する。
- 深海生物資源を探査、開発・利用するための技術を研究し、海洋起源の新薬やバイオ製品等の高付加価値製品を研究・開発する。
- 海洋に関するハイテク研究基地を構築し、海洋先端技術を発展させる。
- 中国の海洋技術を近・浅海から深・遠海へと戦略的転換をはかる。
1)海洋資源開発
「国家海洋事業発展規画綱要」では、海洋資源の持続可能な利用がキーワードになっており、①海域使用管理②島嶼の開発保護③石油・天然ガス資源管理④港の資源配置⑤海洋漁業資源の養殖・保護―がテーマとして掲げられている。
中国は、エネルギーの海外依存がますます高まるなかで、陸地部分での資源不足が深刻なことから、海洋資源の開発を積極的に進めている。中国がとくに力を入れているのが浅海での資源探査・開発であるが、浅海部での石油・天然ガス資源の探査・開発用の技術・設備については、自主開発能力が向上したため、深海部への探査・開発に重点が移ってきている。
浅海部での石油・天然ガス資源探査・開発技術については、多機能海底地震計(OBS)、回転方向制御ボーリング装置、三次元ボーリング技術、稠密油層開発技術などの重要な技術を開発し、石油・天然ガスの採収率を高めた。2007年5月には、渤海湾灘海地区で埋蔵量が10億トン規模の冀東南堡大油田を発見した。
深海部の石油・天然ガス資源の探査・評価技術については、南シナ海南部海域で16の新生代沈積盆地を発見した。石油・天然ガス資源の予測埋蔵量は石油換算で228億トンに相当する。2006年には南シナ海茘湾で中国初の深海試掘井の掘削に成功し、水深1480mの場所で埋蔵量が1000億m3の大型深海天然ガス田を発見した。
海底の天然ガス・ハイドレート探査用として開発された深海深孔天然ガス・ハイドレート原位置コアリング(coring)装置の最大作業深度は3000m、サンプリング深度は10mで、海外の同種設備と比べて2~5倍の能力を持つ。2007年4月から6月にかけて、この装置を使って南シナ海で天然ガス・ハイドレートのサンプルが採取された。
深海油田用のプラットフォーム技術については、「863計画」の支援によって、新型の多機能半潜式プラットフォームの技術研究で大きな進展が得られ、遠海・深海の海底油田プラットフォームの設計・建設で技術的基礎が構築された。このプラットフォームの性能は、掘削深度9000m、最大作業深度3000mで、全世界の海域に適用可能という。
浮体式海洋石油・ガス貯蔵積出設備(FPSO)については、中国の浅海用FPSO技術は世界のリーダー的な水準にある。現在、中国では、14基のFPSOが稼働しており、生産量は中国の海上石油・ガス生産量全体の75%を占めている。
中国は、世界最大のFPSOの生産・利用国となっている。完全自主設計、製造による30万トン級超大型FPSO「海洋石油117号」は2007年4月30日から供用を開始している。建設コストは2億3000万元である。
2)海洋観測
中国は、海洋観測・予報システムの整備を強化している。国家海洋局は、国家海洋環境予報センターや83ヵ所の海洋観測ステーションをはじめとした、通信システムの全面的な改良を実施した。また、海洋警報発令の規格とルートを統一し、合計で約600件の海洋災害警報を発令した。今後は、中央政府や省・市・県の4段階で海洋観測予報システムを構築し、離岸観測の発展に力を入れながら海洋観測システムの改良を進めていく方針が明らかにされている。
中国はそうした一環として、衛星を利用した海洋観測の強化に乗り出している。2002年5月15日には、海洋観測衛星「海洋1号A」(HY-1A)が長征ロケットによって打ち上げられた。
「海洋1号A」は、中国近海および沿岸における環境変化に関するデータの取得のほか、海洋一次生産の研究、中規模渦のダイナミクスの研究、海洋観測プログラム開発のための経験の取得等を目的として打ち上げられた。
また、2007年4月11日には、山西省の太原衛星発射センターから「海洋1号A」に続く2機目の海洋観測衛星「海洋1号B」(HY-1B)が長征ロケットによって打ち上げられた。同衛星は、中国が独自に開発・製造したもので、海水の色や温度を観測し、海洋生物資源の開発や海洋汚染の防止、海岸線の調査、港の建設などに役立てられる。
「海洋1号」衛星のリアルタイム観測地域は、渤海、黄海、東シナ海、南シナ海および海岸地区で、中国近海の赤潮や油漏れ、海氷など環境災害の監視・観測のほか、大陸棚や河口、灘の動態測量製図および魚群探査などに利用される。
なお、国家海洋局の孫志輝局長は2007年4月11日、海洋色観測衛星、海洋動力環境衛星、海洋観測監視衛星という3つのシリーズ衛星5機の打ち上げを計画していることを明らかにしている。このうち、海洋動力衛星環境衛星「海洋2号」については、2007年1月に正式にプロジェクトが立ち上げられ、2009年には打ち上げられる予定になっている。
中国近海の大気海洋モニタリング・予測能力を強化し、気候変動研究に貢献することを目的として2007年12月21日、青島の国家海洋局第一海洋研究所に大気海洋相互作用・気候変動実験室が設立された。
同実験室は、第一海洋研究所や国家海洋局北海支局(渤海、黄海)、東海支局(東シナ海)、南海支局(南シナ海)と連携して中国の海洋気候モニタリング・ネットワークの構築をめざす。
年 | 観測ステーション | 観測所 | モニタリングセンター | 予報台 | 予測センター | |
機関数 |
2001 | 12 | 63 | 4 | 3 | 1 |
2002 | 12 | 63 | 4 | 3 | 1 | |
2003 | 12 | 63 | 4 | 3 | 1 | |
2004 | 12 | 63 | 4 | 3 | 1 | |
2005 | 12 | 63 | 4 | 3 | 1 | |
2006 | 12 | 63 | 4 | 3 | 1 | |
人員数(人) |
2001 | 530 | 427 | 739 | 421 | 313 |
2002 | 530 | 427 | 739 | 421 | 313 | |
2003 | 530 | 427 | 739 | 421 | 313 | |
2004 | 530 | 427 | 739 | 421 | 313 | |
2005 | 530 | 427 | 739 | 421 | 313 | |
2006 | 696 | 469 | 601 | 342 | 313 |
年 | 合計 | ステーション観測 | 汚染モニタリング | 潮汐検査 | ブイモニタリング | 断面調査 | |
調査箇所 |
2001 | 1505 | 61 | 1269 | 102 | 4 | 171 |
2002 | 1505 | 61 | 1269 | 102 | 4 | 171 | |
2003 | 1505 | 61 | 1269 | 102 | 4 | 171 | |
2004 | 1505 | 61 | 1269 | 102 | 4 | 171 | |
2005 | 4409 | 64 | 4169 | 54 | 3 | 119 | |
2006 | 9057 | 63 | 8800 | 52 | 5 | 137 | |
データ(万組) |
2001 | 1702.3 | 1686.5 | 6.3 | 79.7 | 7.4 | 1.9 |
2002 | 1702.3 | 1686.5 | 6.3 | 79.7 | 7.4 | 2.0 | |
2003 | 1702.3 | 1686.5 | 6.3 | 79.7 | 7.4 | 2.0 | |
2004 | 1702.3 | 1686.5 | 6.3 | 79.7 | 7.4 | 2.0 | |
2005 | 470.2 | 290 | 92.2 | 63 | 3.0 | 22.0 | |
2006 | 7124.2 | 6385.8 | 180.0 | 546.6 | 9.9 | 1.9 |
3)海洋環境・生態保護
国家海洋局が2007年1月に公表した「2006年中国海洋環境品質公報」によると、中国海域の汚染は依然として深刻な状況にあることが分かった。それによると、海域水質基準に適合していない海域面積は前年比1万km2増の14万9000km2に達した。また、汚染が軽度な海域は大幅に増加した。
近海部に限ると、海域水質基準に適合していない面積は11万km2となり、中国近海総面積の55%を占めた。さらに、近海域の約25%の水質が中度および重度汚染の状態にあることが判明した。
2008年1月に公表された「2007年中国海洋環境品質公報」によると、海域水質基準に達しなかった面積は2006年に比べてわずかながら減少したものの、近海域の汚染は依然として深刻であることが明らかになった。
国家海洋局は、近海の汚染対策を強化し、陸から海への汚染物質の排出モニタリングを強化するとともに、海洋事業プロジェクト実施認可のハードルを厳しくする意向を表明している。
2007年公報によると、海域水質基準に達していない海域面積は前年に比べ4000km2減少し、14万5000km2となった。しかし、近海部の汚染は依然として深刻で、遼東湾や渤海湾などの内海に加えて、黄河や長江などの主要河川の河口と一部の大・中都市の近海の汚染がひどかった。同公報によると、無機窒素、活性リン酸塩、石油類などが主な汚染源であった。
なお、中国科学院は2008年5月26日、所管の海洋研究所が5月12日から18日にかけて黄海観測地点で実施した海洋生態系調査の概要を明らかにした。この調査は2007年11月に黄海北部に設置した長期海洋生態環境観測装置で収集した長期蓄積データの回収と装置の点検作業が中心になった。プランクトン調査(15ヵ所)、海水の化学成分調査(21ヵ所)、海底土採取(15ヵ所)、水文気象調査(23ヵ所)などに関するデータ回収が行われた。
4)海洋科学調査
2009年3月4日付「青島早報」は、遠洋科学調査船「大洋一号」が中国の遠洋科学調査としては通算20回目の航海を終え、3月中旬に母港の青島に戻る予定だと伝えている。「大洋一号」は2008年4月10日、青島を離れ、前回の調査で発見した南西インド洋中央海嶺の熱水噴出口の再調査に加え、北西太平洋、東太平洋、南西太平洋などで深海の環境調査と熱水鉱床の調査を実施した。
今回の調査では、中国が独自に開発した多数のハイテク設備が採用された。具体的には、3500mの深海で観測とサンプルの採取を行う無人遠隔操作水中探査機「海龍号」(ROV)や深海生物サンプル採取装置、可視ボックス式サンプル採取装置である。同調査は、国家海洋局第二海洋研究所が実施し、国内外の24の研究・教育機関から145人が参加した。
「大洋一号」は、全長104m、全幅16m、排水量5500トン、巡航速度は16ノットの性能を持つ。中国は1995年から「大洋一号」を主力とする科学調査船を派遣して着実な成果を収めている。「大洋一号」は2005年4月から2006年1月にかけて、中国初の世界を一周する大洋科学調査を行った。
中国は、近海域での調査も積極的に実施している。中国科学院は、近海用科学調査船「科学3号」が近海の生態系変化とそれが周辺地域に与える影響を調査するため2008年7月に青島港を出航したことを明らかにした。
具体的には、東シナ海の生物資源と生態環境の長期的変化プロセスを調査し、海洋生物種の構成や分布、環境との関係について分析を行うことが目的であった。また、長江河口から海に流入する物質の種類や移動法則、黄海冷水団の変動法則、周辺環境と資源への影響を調査し、気候変動および人間活動が近海の環境に与える影響の因果関係を解明することも調査の目的に加えられていた。
なお、「科学3号」は2007年10月から2ヵ月にわたって、中国大陸と米大陸を結ぶ新た太平洋海底光ケーブル・システムとなる「Trans-Pacific Express」建設プロジェクトの海底工事の事前点検作業も行った。このプロジェクトは、北京オリンピック向けとして進められたもので、オリンピック終了後は一般のインターネットと国際電話などの高速通信に利用されている。
中国科学院所管の南シナ海海洋研究所の調査船「実験3号」も幅広い調査を行っている。中国科学院によると、2008年8月15日に広州新洲港から出航した「実験3号」は、3510海里に及ぶ調査業務を終え、9月7日に帰港した。
同航海では、83ヵ所の水温、塩分濃度、水深観測のほか、音響ドップラー流速断面観測、超音波輻射観測、自動気象観測、トランスポンダの回収・交換、75個のGPS観測気球の放出、海底表層サンプルの採取、海面浮遊物の調査などが実施された。
「実験3号」は、帰港した同日、主要海域の小型低気圧観測とデータ解析を行うために再出航した。南シナ海海洋研究所、海洋研究所、大気研究所、音響学研究所などが連携して調査を行うもので、南シナ海東部から西太平洋海域が調査対象地域となった。
調査項目としては、海洋水文観測や海流・気象観測、海洋表層の光学的測定、海洋生物・生態化学的組成の観測、エアロゾルの測定、海洋底堆積物の試料採取などが含まれ、調査にかかる費用は6000万元と見積られた。
中国は、海洋科学調査のニーズが高まっている状況を踏まえ、海洋の動的環境や地質環境、生態系環境などの観測、サンプル採取とサンプル現場の分析などを高精度かつ長期的に行うことができる海洋科学総合調査船の建造を着々と進めている。
そうしたなかで、中国科学院は2008年9月12日、同研究院所管の音響学研究所、南シナ海海洋研究所、瀋陽自動化研究所が共同で建造した排水量2500トン級の最新型総合科学調査船「実験1号」が渤海で進水したと発表した。
「実験1号」は、全長60m、全幅26mで、全溶接構造の双胴船であり、近海だけでなく遠海において水中音響探査や海洋物理、地質生物、海洋・大気環境などの学際的な科学的調査を行うことになっている。
さらに、5億元を投じて排水量4500トン級の新型調査船「科学号」を建造する計画も持ち上がってきている。全国海洋総合調査50周年を記念して2008年12月29日に海洋研究所で開かれた大会で明らかにされたもので、すでに国家発展改革委員会の承認も得られており、順調に行けば2011年には竣工の予定という。
中国は水中や深海での調査・作業手段の開発も積極的に進めている。中国科学院によると、瀋陽自動化研究所などが共同開発した水中ロボット「北極ARV」が2008年9月上旬、北緯84度の海域で海氷下の調査を実施した。
「北極ARV」は、「863計画」に組み込まれた海洋技術の重要課題の1つとして、瀋陽自動化研究所等で開発された海洋環境モニタリングシステムである。中国科学院によると、中国が高緯度の海域で水中ロボットを用いて実施した調査は今回が初めてという。
「北極ARV」は、科学調査に必要な海水温・塩分濃度計、海氷下音響測定機器、水中カメラなどを搭載し、北極の氷底の状態や氷の厚さ、水深別の海水温度や塩分濃度などのデータ収集を実施した。
また国土資源部広州海洋地質調査局は同9月、「863計画」に組み込まれている「4500m級深海作業システム」の総合実施計画が本格的にスタートしたことを明らかにした。同プロジェクトには、深海底観測網の敷設と保全、海底探査とサンプル採取などが含まれている。4500m級の特殊作業用潜水機と深海爬行装置、作業ツール・システムなどの研究も行われる。
5)極地調査
中国はこれまで、1985年に長城、1989年に中山の2ヵ所の南極観測基地を建設しているが、2009年1月27日、中国初の内陸部の観測基地となる「崑崙(こんろん)基地」が南極内陸部の氷床最高点「ドームA」に完成した。胡錦濤国家主席は祝電を送り、「崑崙基地の完成により南極観測の領域と深度がさらに拡大される」との期待を表明した。
「ドームA」は南極最高点とも呼ばれ、経線が交差する南極点、世界で最も気温が低い南極氷点、地球磁場の南極磁点とともに、南極調査の4大関門とされている。また「ドームA」地区は空気が希薄で、年間平均気温はマイナス60度C程度という。
これまで内陸地区に観測基地を持っていたのは米国、ロシア、日本、フランス、イタリア、ドイツの6カ国だけであったが、中国が今回建設した「崑崙基地」は海抜4093mで、南極の観測基地の中でも最高地点にある。「崑崙基地」の総面積は558m2で、まずこのうちの236m2が完成した。同基地は、発電や水処理、通信などの関連設備を備え、隊員24人が生活・活動を行うことが可能という。
中国は今後、内陸部において氷河学や天文学、地質学、地球物理学、大気科学、宇宙物理学などの研究を行い、氷河深部での氷のコアの採取や天文と地磁気観測、衛星のリモート観測データの受信、人体の医学研究などを実施することになっている。
「崑崙基地」建設の任務を負った第25次中国南極観測隊は2008年10月20日、極地調査船「雪龍」に乗り込み上海を出発した。「雪龍」は、中国極地研究所所属の調査船で、全長195m、全幅26m、高さ40m、排水量2万8000トンである。
「崑崙基地」の完成を受けて、恒久的なGPS自動追跡基地「中国アイスドームA衛星観測基地」を設置した。同基地は、「崑崙基地」のメーン棟前の広場に設置された。観測隊の帰国後は、バッテリー駆動で無人GPS自動追跡基地として作動する。
なお、中山基地から約800km離れた雄鷹野営地点には、第24次中国南極観測隊によって2008年1月4日、地震観測設備が設置されている。
中国は北極調査にも力を入れている。中国初の北極調査の拠点となる中国北極黄河調査センターが2004年7月28日に正式に運用を開始している。同センターは、北緯78度55分、東経11度56分の位置にあり、大気中の物理観測や地質、生物資源調査などの科学調査を目的としている。
同センターとノルウェーのスバーバル諸島の施設等を利用したオーロラ共同観測研究が2008年1月21日、専門家による審査をパスした。同研究は、中国国際科学技術協力プロジェクトの支援を受けて実施されたもので、中国とノルウェーの協力をベースに、英国や日本からの協力も得た。
また、中国の第3次北極科学調査隊は2008年7月、北太平洋のアリューシャン列島を越えてベーリング海に入り、最初の定点総合観測を行った。ベーリング海の海底盆地、ベーリング海北部、ベーリング海における物理、化学、生物、地質等の総合的な観測を行い、この地域の各種データを取得することが目的であった。
この調査では8月18日、北緯82度に位置する北極海の海水面と海氷面において、約6時間にわたって合同作業が実施された。調査隊は5つのグループに分かれ、氷と雪のサンプルを採取し、海洋物理、海氷生物学等の複数の分野にまたがる観測を行った。さらに、3400mの海底から堆積岩のサンプルを採取した。
主要参考文献:
- 「中国科技統計年鑑」(2002~2007年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)
- 「2007-2008物理学学科発展報告」(中国科学技術協会主編集・中国物理学会編著、中国科学技術出版社、2008年2月)
- 「2007-2008海洋科学学科発展報告」(中国科学技術協会主編集・中国海洋学会編著、中国科学技術出版社、2008年3月)
- 「天文学、数学学科発展研究報告」(国家自然科学基金委員会数学物理科学部編著、2008年4月、科学出版社)
- 「中国科学技術発展報告(2006)」(科学技術部、2008年2月)
- 「国家"十一五"基礎研究発展規劃」(科学技術部、2006年10月)
- 「国家海洋事業発展規劃綱要」(国家発展改革委員会、国家海洋局、2008年2月)
主要関連ウェブサイト:
- 国科網(http://www.tech110.net/)
- 科学網(http://www.sciencenet.cn/)
- 中国科学技術協会(http://www.cast.org.cn/)
- 中国科学院数学・系統科学研究院(http://www.amss.ac.cn/amss/index.htm)
- 中国数学会(http://www.cms.org.cn/)
- 中国科学院理論物理研究所(http://www.itp.ac.cn/)
- 中国科学院高エネルギー物理研究院(http://www.ihep.ac.cn/)
- 中国spallation neurtron source(CSNS)(http://csns.dalang.gov.cn/index.asp)
- 中国科学院物理研究所(http://www.iphy.ac.cn/chinese/Index.asp)
- 中国科学院生物物理研究所(http://www.ibp.ac.cn/)
- 北京応用物理と計算数学研究所(http://www.iapcm.ac.cn/main/index1.php)
- 中国物理学会(http://www.cps-net.org.cn/)
- 中国科学院国家天文台南京天文光学研究所(http://www.niaot.ac.cn/index0.asp)
- 中国科学院紫金山天文台(http://www.pmo.ac.cn/)
- 中国天文学会(http://www.pmo.ac.cn/xuehui/xhjs.htm)
- 国家海洋局(http://www.soa.gov.cn/hyjww/index.htm)
- 中国海洋信息網(http://www.coi.gov.cn/)
- 中国科学院海洋研究所(http://www.qdio.ac.cn/Default.aspx)
- 中国科学院南海研究所(http://www.scsio.ac.cn/)
- 中国海洋学会(http://www.cso.org.cn/)