第4節 国家インキュベータ

第2項 事例

 本項では、200近くの国家インキュベータの中から、「総合型」として清華大学インキュベータ、「国際型」として中関村国際インキュベータ、「専門型」として上海慧谷インキュベータの3つの事例について説明する[3]

清華大学インキュベータ

 清華大学は、世界最高水準の大学を目指しており、そのためのキー・ファクターを科学技術成果の産業化促進と位置づけて、1993年に清華サイエンスパークの設立構想を打ち出した。1994年には清華サイエンスパークの計画、建設、管理を行うため、清華サイエンスパーク発展センター(清華科技園発展中心)を設立し、清華大学と産学研の一体化を推進することで、良質なイノベーションの源泉を確保してきた。また、イノベーションを中核とした知的資本、金融資本、生産力要素の最適な配置を目指し、ハイテク成果の産業化支援を直接行うことで、更に多くのハイテク企業を創業させることを狙って、インキュベーション事業に注力している。

 北京啓迪創業孵化器有限公司(以下、「清華大学インキュベータ」と略す)は清華科技園(清華サイエンスパーク)に設けられたインキュベータを管理する専門会社として、2001年3月15日に資本金1580万元で設立されたインキュベータ専門の管理会社である。インキュベータ+ベンチャー投資(創業支援と創業後の成長促進支援)といったインキュベーション・システムを採用している。2006年12月時点で、清華創業園、帰国留学人員創業パーク、バイオインキュベータといったインキュベーション・プラットフォームの管理・運営を行っている。

 清華創業園が設立された1999年8月20日以降、清華大学からスピンオフするハイテクベンチャーの起業支援を主な役割としてきた。また、清華大学インキュベータが設立された後は、帰国留学人員の起業促進を図り、それによる科学技術の革新やハイテク産業の発展を目的として、清華留学人員創業園が2002年12月15日に清華大学と中関村科技園管理委員会との共同出資の下に設立された。

 現在、清華大学インキュベータは清華サイエンスパークのイノベーションシステムの中で重要な役割を果たし、清華サイエンスパーク内のインキュベータ、専門的な技術サポートや運営管理サービス、融資サービスのプラットフォーム管理などを担っている。

 清華大学インキュベータは、入居企業に対して、次の3種類のサービスを提供している。第1は、創業に際しての法的手続きなどの支援サービスである。具体的には入居企業に対して、オフィス家具、会議室及びファックス、複写機、プリンターなどの設備、オフィス及び開発環境を貸与し、また、企業登録、ハイテク企業認可や、中小企業創新基金・タイマツ計画プロジェクトなどの申請に対する支援などを行う。

 第2は、法務、財務、マーケティングなどへのサービス支援である。清華大学インキュベータは、創業園に大手コンサルタント会社、弁護士事務所、監査法人、資産評価事務所[4]などの仲介機関(またはその窓口)を駐在させ、これらの専門機関を通じて創業企業に対して組織設計、技術開発、管理、法律、財務などの方面でのフルセットのコンサルティングサービスを提供している。また、これら専門機関には、各分野の専門家が集まっているため、豊富な投資管理経験と専門家による経営管理により、投資家と創業者が技術、管理、法律、企業発展戦略などの面での知識や能力の不足を補うことが可能である。また、入居企業の創設から株主構成のあり方、人事評価と制約メカニズムや経営管理において、現代企業制度に従った規範的な運営を行い、企業の創業成功率を上げることを目指している。

 第3は、融資コンサルティングサービスの提供である。創業園がファンド、リスク投資家、上場企業などに優秀な入居企業を推薦することで、入居企業はタイムリーに資金取得のチャンスを得ることができ、健全かつ迅速に成長することができる。同時に、M&A、買収、上場などの際に、コンサルティング、法律、財務、資産評価などのサービスも提供している。

 これらのサービスを確実に提供するため、清華大学インキュベータは専門分野の技術支援プラットフォームと企業発展の構想支援プラットフォームを設けている。清華創業園は、社会的に高い評価を受けており、2002年4月には、科学技術部から「国家ハイテク創業サービスセンター」として認可されている[5]

 また、2002年12月、清華創業園はオランダの関連機関から「2002年科学インキュベータ最適実践賞」を受賞し、国際的にも同業者から高く評価されている。更に、清華創業園は、2003年8月に北京インキュベータ協会から「北京ハイテク技術創業基地最適インキュベーション環境賞」を受け、2004年には科学技術部タイマツハイテク事業開発センターの「2003年度優秀ハイテク創業サービスセンター」に選ばれた。清華大学100周年に当たる2011年までに、世界標準レベルの大学サイエンスパークとなることを目指している。

②北京中関村国際孵化器有限公司(以下「中関村国際インキュベータ」と呼ぶ)

 中関村国際インキュベータは、2000年に資本金1.2億元で設立された帰国留学人員のためのインキュベータである。政府主導(科学技術部)による、国家級の「ハイテク創業サービスセンターとして設立され、インキュベーションと創業投資における全面的支援サービスを実施している。

 中関村ハイテク産業開発区管理委員会、北京市科学委員会、北京市人事局、北京首都創業集団有限公司、北京実創房地産開発有限公司、北辰集団公司、北国投資有限公司の7株主による共同出資で設立され、政府との関係の深さや社会資源の配分などにおいて多大な優位性を持つと考えられる。7株主の内、3機関は政府関連で、合わせて全体の75%の株を保有していることから、政府主体の経営となっている。

 中関村国際インキュベータは政府より、2002年に300万元、2003年に200万元、2004年に100万元、2005年に40万元の補助金を得た。しかし、収益力が向上してきたため、2006年からは自主運営を行い、補助金をほとんど得ていない。インキュベーション支援と創業投資に力を入れており、主な収入源は、当初、入居家賃であったが、投資関連・サービス関連の収益が増えてきている。

 中関村国際インキュベータが提供しているサービスは大きく4つに分類することができる。第1は、入居企業に対する基本的なサービス(インキュベータを管理する)であり、中関村におけるサービスだけでなく、山東省の威海に産業化基地を設立し、ある程度大きくなった企業に対し、インキュベーション支援などのサービスも行っている。第2は、創業企業の特徴に合わせた形での支援サービスで、弁理士、会計士など企業にとって必要な関連専門機関によるサービスを行っている。第3は、産学研連携強化のサービスで、北京大学清華大学中国科学院、北京航天大学などと共同で横断的な共同研究センターを設立している。第4は投資・融資のサービスである。

 2006年時点で、帰国留学人員の内、博士課程卒は232人、修士課程卒は316人、学部卒は43人である。同年、610人の帰国留学生が379の企業を創業し、5000人の雇用を創出している。

 中関村国際インキュベータは、中関村サイエンスパークが設立した創業基金から、毎年200万元を投資資金として使用している。将来性のある優秀なハイテク中小企業に対し、5%を超えない範囲でその企業の株を保有する代わりに、40万元以内の初期投資を行う。これによって、他の投資会社からの投資や銀行からの融資などを引き出している。2006年12月時点で、そのような初期投資を受け入れた企業は40社近くになる。

③上海慧谷インキュベータ

 上海慧谷インキュベータは、ハイテク企業の新技術開発に関する全面的なサービスをおこない、ハイテク企業と企業家の育成、科学技術成果の商品化、産業化、国際化を推進することを目的とする非営利組織である。上海市科学技術委員会、徐匯区人民政府と上海交通大学の共同で創立された社会公益的な性格を有した科学技術サービス機関である。同インキュベータは、上海交通大学サイエンスパーク有限公司が全額出資して設立したインキュベータで、サイエンスパークが直接管理を行うハイテク技術成果の転化及びインキュベータ基地である。

 同インキュベータは、徐家匯科学技術密集区にあり、この周辺には上海交通大学など18の大学・高等専門学校と中国科学院上海分院、上海科学院など113の科学研究機関が集積している。3つのインキュベーション・プラットフォームを有し、その総面積は43000㎡に上る。入居企業の70%以上が情報産業であるが、バイオ、新材料、光学系の機械設備、電力設備などを中核技術とする企業もあり、これら企業に対して支援を行っている。

 2005年末時点で、上海慧谷インキュベータには156社が入居している。インキュベータ関連で雇用されている人員は総勢で3200人程度である。同インキュベータの出身企業は37社、総売上は8.7億元である。

 同インキュベータは、創設時からリスクを自己負担している。上海交通大学は1999年に4000万元の貸付融資額で同センターを創設したが、このような自己負担による設立は、当時の全国100余りのインキュベータに中で唯一であった。上海慧谷インキュベータは、常に高い水準で一流のハード面の施設を完備し、さまざまなインキュベーションサービスを提供している。


[3] 事例については、技術経営創研『中国におけるハイテク・スタートアップス調査報告書』(産業技術総合研究所発行、2007年)を参考にした。

[4] 資産評価事務所の主要業務の一つは技術評価業務である。会社の設立に必要な資本金としては株主による出資が一般的であるが、中国では資金ではなく、技術による出資も認められている。その場合、資本となる技術がどの程度の資産に相当するかと言う資産評価を受けなければならない。

[5] 清華創業園は2000年8月、北京市科学委員会の審査を経て、「北京市ハイテク産業インキュベーション基地」と認可され、翌年10月に科学技術部から「国家ハイテク産業開発区先進的インキュベーションサービス機構」と言う称号を受けた。


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