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第107回CRCC研究会(中国知財戦略研究会シンポジウム)「日中知財の新たな交流を目指して」(2017年7月24日開催)

中国知財戦略研究会シンポジウム「日中知財の新たな交流を目指して」

開催日時:2017年7月24日(月)15:00~17:00

言  語:日本語

会  場:科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講演資料:
急速に改革が進む 中国の知財戦略-知財大国から知財強国へ」荒井寿光氏( PDFファイル 1.4MB )
中国の中小・ベンチャー企業知財支援戦略」角田芳末氏( PDFファイル 308KB )

講演詳報:「 第107回CRCC研究会講演詳報」( PDFファイル 2.52MB )

プログラム

15:00 - 15:05 開会挨拶

  • 沖村憲樹 JST特別顧問、元JST理事長

15:05 - 15:35 基調講演 「急速に改革が進む中国の知財戦略」

  • 荒井寿光  知財評論家、元内閣官房地裁推進事務局長

15:40 - 16:50 パネルディスカッション

モデレータ

  • 馬場錬成 特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長、元東京理科大学知財専門職大学院教授

パネリスト

  • 荒井寿光 知財評論家、元内閣官房地裁推進事務局長
  • 沖村憲樹 JST特別顧問、元JST理事長
  • 久慈直登 日本知的財産協会専務理事、日本知財学会副会長
  • 角田芳末 特許業務法人信友国際特許事務所所長、元特許庁審査第4部長

16:50 - 17:00 質疑応答

荒井寿光氏

荒井 寿光氏:
知財評論家、元内閣官房地裁推進事務局長

略歴

通商産業省入省、ハーバード大学大学院修了、特許庁長官、通商産業審議官、経済産業省顧問、独立行政法人日本貿易保険理事長、知的財産国家戦略フォーラム代表、内閣官房知的財産戦略推進事務局長、東京中小企業投資育成株式会社代表取締役社長、世界知的所有権機関(WIPO)政策委員、東京理科大学客員教授などを歴任。
現在、公益財団法人世界平和研究所副理事長、知財評論家。著書に「知的財産立国を目指して - 「2010年」へのアプローチ」、「知財立国への道」、「世界知財戦略―日本と世界の知財リーダーが描くロードマップ」(WIPO事務局長と共著)、「知財立国が危ない」(日本経済新聞出版社)など多数。


沖村憲樹氏

沖村 憲樹氏:
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)特別顧問、
中国総合研究交流センター上席フェロー
日本・アジア青少年サイエンス交流事業室長

略歴

1963年(昭和38年)3月 中央大学法学部法律学科卒業、1966年科学技術庁入庁、1994年同庁研究開発局長、1995年同庁科学技術政策研究所長、1996年同庁科学技術振興局長、1996年同庁長官官房長、1998年同庁科学審議官、1999年科学技術振興事業団専務理事、2001年同理事長、2003年独立行政法人科学技術振興機構理事長、2007年同顧問、2007年独立行政法人科学技術振興機構中国総合研究交流センター上席フェロー、2013年同特別顧問、2014年同日本・アジア青少年サイエンス交流事業推進室(さくらサイエンスプラン)室長、現在に至る。中国科学技術部中国科学技術信息研究所(iSTIC)特別研究者、北京交通大学客員教授。
2010年 瑞宝重光章(日本内閣府)、2015年 中国国家友誼賞(中国)、2016年 中国国際科学技術協力賞(中国)受賞。


久慈直登氏

久慈 直登氏:
日本知的財産協会専務理事、日本知財学会副会長

略歴

本田技研工業株式会社に入社後、本田技術研究所で開発管理に携わった。本田技研工業の初代知的財産部長を2001年から2011年まで務めた。2011年よりIP*SEVA(日米独の技術移転ネットワーク)ASIA代表、2012年より日本知的財産協会専務理事、知財関連の5団体の理事、2014年より日本知財学会(IPAJ)副会長を務めている。
主要論文に 「Propagating green technology (Les Novelles 2011に掲載の英語論文)」がある。この提案に基づき国連知的所有権機関(WIPO)が地球環境保護のため技術移転メカニズムをWIPO GREENとして2013年から公式スタート。著書に「喧嘩の作法」(ウェッジ)


角田芳末氏

角田 芳末氏:
特許業務法人信友国際特許事務所所長、
元特許庁審査第4部長

略歴

特許庁入庁、審査第五部審査官(映像機器)、科学技術庁振興局管理課情報室長、工業技術院研究開発官、特許庁特許情報管理室長、特許庁審査第五部上席審査長、審査第五部首席審査長、審査第五部長(機構改革で特許審査第四部長)を歴任。2002年退官、特許業務法人信友国際特許事務所所長、弁理士。
主な著書、論文 研究開発リーダー2008年5月号「特許審査と特許になる発明」、「知財最前線からのメッセージ」(経済産業調査会)、「ビジネス方法特許-その特許性と権利行使-」(青林書院、竹田稔氏、牛久健司氏との共同編集著書)。


馬場錬成氏

馬場 錬成氏:
特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長、
元東京理科大学知財専門職大学院教授

略歴

読売新聞社入社。編集局社会部、科学部、解説部を経て論説委員。2000年11月退社。東京理科大学知財専門職大学院教授、内閣府総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省などの各種専門委員、国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)・中国総合研究交流センター長などを歴任。現在、特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長。著書に、「大丈夫か 日本のもの作り」(プレジデント社)、「大丈夫か 日本の特許戦略」(同)、「変貌する中国知財現場」(日刊工業新聞社)、「『スイカ』の原理を創った男 特許をめぐる松下昭の闘いの軌跡」(日本評論社)、「知財立国が危ない」(日本経済新聞出版社)、ほか多数。

徹底した中小・ベンチャー企業知財支援戦略

中国総合研究交流センター 小岩井忠道

 世界一模倣品が横行する傍ら短期間で知財大国となった中国の現状と今後の日中交流のあり方を討議するシンポジウム「日中知財の新たな交流を目指して」(科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催)が、7月24日開かれた。

 科学技術振興機構(JST)は、中国の知財戦略に関する調査を日中経済協会に委託し、日中両国の専門家からなる「中国知財戦略研究会」が組織された。シンポジウムでは、3月に報告書「中国知財戦略に関する調査」をまとめた研究会の主要メンバーから、最新の状況が詳しく報告された。中でも参加者たちの大きな関心を集めたのが、中国の中央・地方政府による徹底した中小・ベンチャー企業に対する知財支援戦略。日本との違いは大きい。

 特許業務法人信友国際特許事務所所長で元特許庁審査第4部長の角田芳末氏によると、中国の中小企業の工業総生産額は企業全体の約60%を占める。平均従業員数は13人だが都市部の雇用の75%を担う。科学技術にたけた人材が重要な位置を占めている一方、「1年目に企業を設立し、2年目に富を築き,3年目に倒産する」といわれるように、数は多いが寿命は短い。

 角田氏が真っ先に紹介した中国政府の文書が、2014年10月に国家知識産権局が公表した「知的財産権による小・零細企業の発展への支持に関する若干意見」。中国政府は特許出願を奨励するため、中央政府、省、県、市がそれぞれ補助規則を規定している。「知的財産権による小・零細企業の発展への支持に関する若干意見」には、人材と資金が不足している中小企業の知的財産保護と権利維持費用低減のため全国に78箇所の保護支援センターを設立するなど支援策が盛り込まれていた。

 融資難に陥っている中小企業に対する具体的な支援策の一つに、政府が主導して各地域の政府機関と地域の銀行が協定を結んで実施している知財担保融資がある。例えば北京市朝陽区政府が協定を結んでいるのは中国交通銀行と北京銀行。区内の中小企業への融資支援策として、融資にかかる利息や手数料などの費用を最大50%、毎年最大で50万元まで補助する策を実施している。中小企業は特許権や実用新案権、商標権、著作権などを担保にして融資を受けることが可能という。

 また、知的財産強国を先導する広東省では、中小企業が初めて特許出願する場合、出願費用を全額補助するほか、10件以上の特許出願をし、成長率が30%以上の中小企業には大学や研究機関以上の助成をするといったさまざまな奨励策を講じている。広東省の特許出願数は全国の出願総数の半数以上を占める。こうした実態を紹介して角田氏は、「政府は中小企業に対し熱い目線をあてて応援している」と、中国政府の積極的な取り組みを評価した。

 基調講演に加えパネルディスカッションにも登壇した中国知財戦略研究会会長の荒井寿光・元内閣官房知的財産戦略推進事務局長(元特許庁長官)は、知財制度で日本の後を追う立場だった中国が2008年に「国家知的財産権戦略綱要」を制定して以来、知財を国家戦略として位置づけ、急速に知財大国に駆け上った経緯を紹介した。氏によると、2016年12月に国務院が公表した第13次5カ年知財計画というべき「国家知的財産保護と運用計画」の中で、2016年から2020年の間に「知財大国」から「知財強国」へ発展することが国家戦略として明確にされている。

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写真1 中国知財戦略研究会の荒井寿光会長

 中国が相変わらず世界一のニセモノ大国であることは、パネルディスカッションでモデレーターを務めた馬場錬成特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長(元東京理科大学知財専門職大学院教授)も指摘していたようによく知られた事実だ。荒井氏も、知的財産権に対する対外制裁について定めた米1974年通商法301条(スペシャル301条)の優先監視国に中国がなっている現実に触れた。と同時に、国務院が2016年11月に公表した「知的財産権保護制度の整備と法的保護に関する意見」で、知財の侵害行為への罰則を強化している最近の動きも詳しく紹介した。対策の中には、懲罰賠償制度の拡大や故意に侵害する行為を企業と個人の信用情報記録に記載することなども含まれている。こうした中国の変化に対応して、日本が中国と知財を通じた協力を進めることが,両国の相互利益につながることを氏は強調した。

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写真2 モデレータの馬場錬成特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長

 中国が、なぜ短期間のうちに知財大国になり得たか。知財は科学技術研究の成果である。中国の科学技術研究はこの10年間に爆発的に進展したので、その成果が知財となって結実したことは必然的な流れであるという。

パネルディスカッションの中で沖村憲樹JST特別顧問が詳しく紹介したのが、中国と日本の大学の違い。特に強調した一つが、サイエンスパークの存在だ。氏によるとハイテクパークは中国科学院の重要な政策。2013年時点で全国に842カ所のハイテクパークがある。94の大学がハイテクパークを持っており、清華大学の脇に立つ巨大なハイテクパークビルにはサン・マイクロシステムズ、P&G、トヨタなど世界中の超優良企業が研究室を持ち、大学の教員や学生たちが一緒に研究をしている。売り上げは大学にも入るシステムになっているという。

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写真3 沖村憲樹JST特別顧問

 主要大学がそれぞれ巨大な子会社(校弁企業)を持っているのも中国の特徴。清華大学の校弁企業の年間売上げは、1兆3,000億円を越す。大学を中核にした事業タイプの組織があり、中国全体の産学連携を引っ張っている。大学のありようが日本とはまるで異なる、と沖村氏は指摘した。

 パネルディスカッションには、企業同士の日中交流を2005年以来続けている日本知的財産協会の久慈直登専務理事も参加した。日中交流を始めた当初は日本の側から一方的に話す場面が多かったが、最近は対等な議論 が交わされるようになった、とのこと。模倣品を扱う企業は減らないものの、世界と戦うために模索をしていた状態から成熟した活動に移行している企業も増えている。「最近は米国の企業と話しているのでは、と思わされることも多い」と、一部の企業がグローバル化に向けて急激に変化している中国の現状を久慈氏は表現していた。

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写真4 パネルディスカッションの登壇者。左より、角田氏、久慈氏、沖村氏、荒井氏

(写真 CRCC編集部)

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