第125回CRCC研究会「一帯一路と日中共創~地方創生からの取り組み~」(2019年2月22日開催)
「一帯一路と日中共創~地方創生からの取り組み~」
開催日時: 2019年2月22日(金)15:00~17:00
言 語: 日本語
会 場: 科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講 師: 西原 茂樹:MIJBCセンター理事長/静岡県日中友好協会常務理事/さくらみらいアシスト株式会社会長
講演資料:「 第125回CRCC研究会講演資料」( 10.8MB )
講演詳報:「 第125回CRCC研究会講演詳報」( 4.86MB )
中国と共創でメイドインジャパンを 西原茂樹氏が地方主導の意欲的活動紹介
小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
静岡県を拠点に中国と「共同ものづくり・共同研究開発」プロジェクトを進めている西原茂樹MIJBC理事長が2月22日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンター主催の研究会で講演し、日中友好交流と地方創生の促進を併せ追求するユニークな活動を詳しく紹介した。
西原氏は、静岡県牧之原市長だった2015年に中国の豊かな資金・販路と日本の製品・サービスを結び付け、新たなビジネスチャンスをつくろうとする取り組み「MIJBC」(Made In Japan by China)を提唱した。市長退任後の2018年4月にMIJBCセンターを設立し、理事長に就任している。中国との交流は、牧之原市長に就任する前の静岡県議会議員だった時から始まり、中国を訪問した回数は70回を超す。なぜ中国に関心を持ったのか。そのきっかけや理由について、氏は次のように話した。
恵まれた牧之原市の交通網
牧之原市内には富士山静岡空港があり、隣接の御前崎市と同市にまたがる御前崎港もある。東名高速道路、新東名高速道路、東海道新幹線が市内を通ることと併せて交通網に恵まれた土地だ。富士山静岡空港からは中国だけで武漢、杭州、寧波、煙台を結ぶ4路線が就航している。法務省の出入国管理統計によると、富士山静岡空港の外国人出入国者数は2015年度に約33万5,000人。全国の空港で8番目に多く、地方管理空港(国土交通相が管理する空港を除いた地方公共団体が管理する空港)では6年連続トップを維持している。
一方、静岡県の工業製品の出荷状況は、他の都道府県同様、芳しい状況とはいえない。都道府県別の年間工業出荷額は愛知県を例外に軒並み2007年のリーマンショック後、減少傾向が変わらず、静岡県も例外ではない。自動車メーカー「スズキ」の工場がある牧之原市も製造品出荷額は横ばいの状態が続く。日本がこれからも製造業強国、技術立国でやっていけるのか不安な状況にある。西原氏は,このような厳しい現実を示した上で、「東京ではなく地方、さらに大企業ではなく中小企業が元気を取り戻し、中国と日本の共同ものづくり・共同研究開発で世界市場への展開を図らないと活路は開けない」との見方を明らかにした。
さらに西原氏は、中国から撤退する日本企業が増えている現状にも注意を促した。2012年には188、2013年には205、2014年には274の現地法人企業の撤退数が増えている。撤退の理由とされているのは、人材不足、商習慣の違い、人件費高騰など。現地で資産を差し押さえられるという経験を持つ日本企業もある。「生産・開発・サービス拠点を日本国内に設置することで、日本企業は中国進出に伴うリスクなしに中国市場のノウハウ習得が期待できる」。西原氏は、日本企業の撤退というケースを減らすメリットもMIJBC構想にはあることを強調した。
中国企業も産業の高度化を図る必要が
一方、MIJBC構想が十分、実行可能と考えられる理由として、中国側にも以下のような課題に直面している事情がある、と氏は指摘した。
中国産業は、先進技術など「産業の高度化」を図る必要に迫られている。製品やサービスの「品質向上」、省エネなどの「環境問題への対応」も同様に急がれている。さらに長い歴史を持つ企業が多い日本とは異なり、2,3年でつぶれてしまう企業が多いという現状を変え、企業経営の「長寿化」を図ることも求められている。中国が抱えるこうした構造的課題を解決する鍵を握るのは日本の技術・ノウハウ、と西原氏は見ている。
日中双方がそれぞれ抱える難しい状況をみれば、資金・販路は中国に、技術・ノウハウと生産・開発の拠点は日本に、という協調関係を築き上げることを目指すMIJBCの基本概念は妥当。中日共同のビジネス(製品・サービスなど)を創出し、MIJBCブランドで世界市場に展開することは十分、成算がある、という見通しを西原氏は示した。
日本に生産・開発拠点を置くメリットとして以下の四つも挙げている。「グローバル市場でのブランド力」、「日本国内の先進技術企業との地域連携」、「海外技術移転が難しい技術・経営ノウハウ」、「研究者、技術者、熟練工という人的資源」。
学び、気づき、共感重視のパートナーシップを
氏は既に中国との間にさまざまな交流が進んでいる事実を詳しく紹介した上で、「中国企業は日本への投資、日中合作に非常に意欲的。中国の地方政府も同様にMIJBCに興味と関心を持っている」と、今後の進展に強い自信を示した。国家発展改革委員会から訪問団が2度にわたって牧之原市を訪れたのをはじめ、商務部や国家発展改革委員会のシンクタンクである国際経済交流センターもMIJBCに大きな関心を示している事実を紹介した。
西原氏の目は、中国が力を入れている「一帯一路」政策にも向いている。「一帯一路」政策とMIJBC構想を結びつけ、中国と足並みをそろえた第三国協力の拡大にも意欲を示した。インドネシアの新幹線建設計画で日中が競争関係になったことを悪い例として挙げ、氏が促したのは「対決から対話」への転換。対話も日中間だけでなくインドネシアも入れた3国の対話でなければならないとしている。この際、必要なのは「相手を認め、評価すること」。日本、中国、インドネシアが、お互い自分たちに欠けているものを相手から「学び」、「気づき」、「共感」してこそ、信頼関係の続いたパートナーシップが構築できる。これによって新しい解決策が立ち上がってくる、と氏は強調した。
(写真 CRCC編集部)
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西原 茂樹(にしはら しげき)氏 :
MIJBCセンター理事長/静岡県日中友好協会常務理事/さくらみらいアシスト株式会社会長
略歴
金沢大学工学部卒業後 ドリコ株式会社(環境関連企業)に勤務
1989年 静岡県相良町議会議員
1991年 静岡県議会議員 4期
2005年 牧之原市長(初代)就任 3期
2017年 市長退任
中国との交流
1992年 浙江省へ!(以後70回以上訪中)
2015年 MIJBC (Made in Japan by China)提唱
2017年 牧之原市オリンピック中国ホストタウン(サーフィン事前合宿地)
2018年 中国サーフィンナショナルチーム合宿
その他
2016年「対話による協働のまちづくり」でマニフェスト大賞首長部門グランプリ受賞