第63回CRCC研究会「中国の人口変動と労働市場の構造変化」/講師:厳 善平(2013年8月29日開催)
演題:「中国の人口変動と労働市場の構造変化」
開催日時・場所
2013年 8月29日(木)15:00-17:00
独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講演資料
「 中国の人口変動と労働市場の構造変化」( 1.09MB )
詳報
「 第63回研究会速報」( 4.43MB )
厳 善平(げん ぜんへい)氏 :
同志社大学大学院グローバルスタディーズ研究科教授
略歴
中国・安徽省生まれ、京都大学大学院博士課程修了、桃山学院大学経済学部教授を経て2011年より現職。東洋文庫客員研究員、早稲田大学招聘研究員、中国・華東理工大学客員教授。アジア政経学会、中 国経済学会などの理事、『中国経済研究』と『現代中国』編集委員長を歴任。日本農学進歩賞、大平正芳記念賞などを受賞。近著に『中国農民工の調査研究』、『農村から都市へ』、『中国の人口移動と民工』など多数。
戸籍・定年制度、1人っ子政策見直しを!
小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)
8月29日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の第63回研究会で講演した厳善平・同志社大学大学院教授は、中 国がすでに人口構成が経済にマイナスに働く少子高齢社会となっていることを指摘し、戸籍制度改革を急ぐことに加え、退職年齢の引き上げや「1人っ子政策」の見直しなど中長期的対策も必要だ、と提言した。
厳氏によると、中国は日本の後を追うように少子高齢化の道を進んでいる。しかも、その変化は日本をはじめ東アジアのどの国よりも速いため、経済的に豊かになる前に老いてしまう「未富先老」の 難局に直面している。これまでの約30年間は、高齢者と子供に比べて労働人口が多く経済発展に有利な人口構成が続いた。しかし「人口ボーナス社会」と呼ばれるこの人口構成は、2 010年を機に労働人口が減って経済発展に不利な「人口オーナス社会」に変わっている。労働可能な現役世代(15-64歳)の負担が今後、急速に重くなり、6 5歳以上の高齢者1人を支える現役世代は2010年に8.4人だったのが、2040年には2.7人に急減する見通しという。
労働人口不足がすでに現れている例として厳氏は、上海の人口推移を示した。2012年時点で上海に住む人々の数は2,400万人弱。このうち上海の「都市戸籍」を持つ人々は約1,400万人で、残 りはこの20年ほどで急激に増えてきた流入人口が占める。そのうちの8割が「農民工」と呼ばれる農村からの移住者だ。中国国民は、1958年につくられた戸籍登記条例によって母親の戸籍に従い「農業戸籍」と「 都市戸籍」に分けられる。戸籍の転換は簡単にできないから、農民工と呼ばれる人たちは、都市戸籍を持つ市民に比べ劣悪な生活を強いられている。
もう一つの問題点として厳氏が挙げたのは、退職年齢の低さ。現行の定年制度は国務院が1978年につくった暫定規定によっている。定年は男性60歳、ホワイトカラー女性55歳、ブ ルーカラー女性50歳となっているが、定年の引き上げを望まない労働者が多く、実際の退職年齢は平均52歳というのが現状。一方、特権を持つ階層は逆に早期退職を望まないという現実もあり、こ の問題の解決を難しくしている。
さらに、少子化の問題も深刻で、生涯、子供を産まない女性の比率はすでに12.5%に上昇、先進国並みだ。
厳氏は、こうした理由によってすでに生じている労働力不足を緩和することの重要性を指摘し、まず、戸籍制度と関連の社会保障制度の改革を急ぎ、使 い捨て労働者となっている農民工を有効に活用することを提言した。
さらにこれだけでは不十分で、退職年齢を引き上げる中期的対策に加え、「1人っ子政策」を柱とする計画生育成策を見直し、出 生率を回復することが急激な少子高齢化とそれに伴う問題の解決に必要な根本的対策だ、としている。
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