第70回CRCC研究会「習近平政権期の国家と社会」/講師:小嶋華津子(2014年4月10日開催)
演題:「習近平政権期の国家と社会」
開催日時・場所
2014年 4月10日(木)15:00-17:00
独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講演資料
「習近平政権期の国家と社会」当日配布資料( 541KB )
詳報
「 第70回研究会速報」( 1.38MB )
統治コストの削減が課題 集権化進める習近平政権
小岩井忠道(中国総合研究交流センター)
小嶋華津子・慶應義塾大学法学部准教授は4月10日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、「権力の集中を進める中国の習近平政権の課題は、膨大な統治コストの削減にある」ことを強調した。
小嶋氏によると、集権化に力を注ぐのは習政権に限ったことではない。中国社会には集権化を受容してきた歴史がある。「賢人支配」という伝統に加え、権力者と国民の間に存在する中間団体の内的結集力が、国家的結合に大きな役割を果たしてきた。改革開放政策がもたらした適度な自由・経済発展と生活の向上と、習近平氏が唱える「中国の夢」や「中華民族の偉大な復興」によっても高められたナショナリズムもまた、習政権の進める集権化が国民に受け入れられる理由として働いている、と小嶋氏は指摘した。
さらに米国の学者たちの指摘なども引用して、氏は中国共産党が持つ巧みな統治技術と適応力についても高い評価を与えた。1990年代以降、民主化運動を主導した知的エリートや学生たちを入党させ、さらに江沢民政権時代には、新たに成長してきた経済エリートの企業家たちも党員として取り込んで党の生命力を強めてきた柔軟性を挙げる。活性化してきた市民組織を厳格に管理、統制する一方で、柔軟な対応で党の管理能力を改善する実績も同様に。
中国には政府に登録している公式の団体が905万、NGOなど草の根活動をしている未登録の団体が200~270万あると言われている。環境、貧困、ジェンダー、高齢化といった政府だけでは対応しきれない社会問題について、これらの団体の力を積極的に活用、結果的に政権の安定に貢献させている、という中国学者の指摘も小嶋氏は紹介した。
こうした重層的政治構造を保つ中国共産党の統治技術によって、年間18万件にも上るという集団暴力事件も中央政府に打撃を与えるまでには至らず地方の段階でとどまっている、との見方も示した。
こうした現状分析にたって、小嶋氏が最後に示したのが「習政権の集権的政治が安泰かどうか」という今後の見通し。「効果的かつスピーディーな改革を断行し、国民生活の持続的向上を実現できるか」。胡錦濤・前政権が結局できなかった課題とともに、氏が挙げたポイントは「中央政府がコスト高の集権的統治を実行する体力を長期にわたり維持できるか」だった。
集権的統治を維持するためにかかる膨大なコストが、習政権の大きなリスクになっている。中国とて無限の経済成長が望めない以上、この統治コストの削減を図らなければならないだろう。多様な利益をより柔軟に包摂できる利益代表システムを構築し、責任を分担する社会の仕組みづくりが求められるのではないか...というのが小嶋氏の結論だった。
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小嶋 華津子 氏: 慶應義塾大学法学部 准教授
略歴
1999年慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。在中国日本国大使館政治部専門調査員、筑波大学国際総合学類専任講師・准教授を経て2012年4月より現職。主な著書に、国分良成・小嶋華津子編『現代中国政治外交の原点』慶應義塾大学出版会、2013年10月、加茂具樹・小嶋華津子・星野昌裕・武内宏樹編著『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』、慶應義塾大学出版会、2012年2月、Masaharu Hishida, Kazuko Kojima, Tomoaki Ishii, and Jian Qiao, China's Trade Unions: How Autonomous Are They? A Survey of 1,811 enterprise union chairpersons, Routledge, 2010。