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第75回CRCC研究会「習近平政権の中国外交」/講師:青山 瑠妙(2014年9月25日開催)

演題:「習近平政権の中国外交」

開催日時・場所

2014年 9月25日(木)15:00-17:00

独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講演資料

第75回CRCC研究会講演資料「 習近平政権の中国外交」( PDFファイル 304KB )

第75回CRCC研究会詳報」( PDFファイル 750KB )

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習外交の鍵握る新シルクロード戦略 青山瑠妙教授分析

小岩井忠道( 中国総合研究交流センター

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 現代中国外交を専門とする青山瑠妙早稲田大学教授が9月25日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、新シルクロード戦略を中心に習近平政権の外交を分析した。

 青山氏は外交における習政権の政策課題として「良好な国際環境の確保」「国内政治の安定確保と持続的経済発展」「国際秩序における中国の地位向上」の3つを挙げた。中 国によるアジアの取り込み戦略として打ち出された新シルクロード戦略が、中国内陸部の経済発展とともに、東南アジア、南アジア、中央アジア諸国からアラブ、北アフリカさらに欧州諸国までをもにらんだ「 国際秩序における中国の地位向上」を狙ったものであるとの見方を示した。

 対外戦略面でアジア、アフリカ、ラテンアメリカを一くくりに捉えていた中国が、的を絞ってアジア取り込み戦略をとり始めた大きな理由として氏が挙げたのが、米国のアジア復帰戦略に対する強い危機意識。習 近平の新シルクロード戦略の原点は、1996年に遡ることができる。この年、台湾海峡危機で米中間の緊張が高まったほか、日米安全保障協議委員会(日米両国の防衛閣僚で構成)に よる日米安保の再定義が論議され始めた年に当たる。前年の1995年には社会主義国であるベトナムが東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟、現在の10カ国体制にASEANが拡大したことも、中 国が積極的なアジア外交に転じる理由となった、という。

 習近平国家主席が、2013年3月にロシア、タンザニア、南アフリカ、コンゴを訪問して以来、今年9月のタジキスタン、モルディブ、スリランカ、イ ンドに至るまでこの1年半の間に世界30カ国を訪れたことを挙げて、新シルクロード戦略は着実な進展を見せているとの見方も示した。領土問題では妥協せず、同 時に新シルクロード戦略で中国の西と南に位置する国々との関係を重視する習政権の戦略は明らかだ、というのが氏の結論である。一方、新シルクロード戦略については、参 加国を特定していないなど不透明な部分がなお残っていることも指摘した。

 新シルクロード戦略の将来を不透明にしている外交課題の一つとして、氏が挙げたのがイスラム過激派組織の動向。新疆ウイグル自治区に問題を抱える中国だけでなく、過 激組織の動向に神経をとがらせる国は多い。現在、国際的な関心を集めているイスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」の戦闘員には、欧州やアジア太平洋地域出身者が多数含まれているとみられている。青 山氏によると例えばロシアも「イスラム国」で戦闘に加わっているロシア人が、将来、自国に戻って来ることを心配しているなど、イスラム過激派組織に対し大きな関心を示す国は増えている。

 こうした流動的な国際秩序と地域秩序をいかに維持するか、米中関係、日中関係を今後どうしていくか、が習政権の主要な外交課題となっていることを青山氏は指摘した。

 講演後、会場から「積極的な外交を展開する力をつけた時期にアフリカ、ラテンアメリカより近いアジアを重視するのは当たり前に思える。中 国の東にはあまり国はないのだから西と南に位置する国々を重視するのもまた当たり前では。1996年に中国がアジア戦略を打ち出すに当たって、国内にそうしなければならなかった理由はあったのか」と いう質問が出た。これに対する青山氏の答えは次のようだった。

 「改革開放政策を推し進めるか、もう少し社会主義を堅持すべきかという論争があり、結局、国際秩序づくりに参加することによって経済発展を図るという政策が決定されたのが、1996年だった」

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青山 瑠妙

青山 瑠妙(あおやま るみ) 氏:
早稲田大学教育・総合科学学術院 教授

略歴

 法学博士。2005-2006年、スタンフォード大学客員研究員。専攻は現代中国外交。
著書には、『現代中国の外交』(慶應義塾大学出版会、2007年)、『中国外交の世界戦略』(明石書店、2011年)、『中国のアジア外交』(東京大学出版会、2013年)などがあり、ほ か論文多数