第78回CRCC研究会「中国市場の現場から」/講師:服部 健治(2014年12月18日開催)
演題:「中国市場の現場から」
開催日時・場所
2014年12月18日(木)15:00-17:00
独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講演資料
「 第78回CRCC研究会 中国市場の現場から」( 4.54MB )
「 第78回CRCC研究会 詳報」( 5.54MB )
巨大市場相手のビジネスに戦略転換を
小岩井忠道(中国総合研究交流センター)
上海で半年間、研究生活を送ったばかりの服部健治中央大学教授が2014年12月18日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、変化の激しい中国で日本企業が迫られているビジネス戦略の転換について語った。
服部氏は、まず中国の最近の大きな変化を「国際主義の放擲(ほうてき」「大衆消費社会の到来」「日本を必要とした時代の終わり」といった言葉で表現した。国際主義の放擲とは、「諸国民の支援があって新中国は存続できる」あるいは「貧者救済」「日本国民と日本軍国主義は区分する」といった新中国建国以来の考え方を放棄し、社会主義よりナショナリズムが強く出てきた国になっている、という意味だ。
11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際に日中首脳会談に中国側が応じた理由についても、中国の最近の対外行動に対し安倍首相がAPECの席上で「力による現状変更ではなく、法に則った解決を」と表明し、各国がこれを支持する事態になるのを阻止するのが狙いだった、との見方を示した。
その上で、氏は日本企業による中国ビジネスの戦略的転換を図る際に、外在的な要因と内在的な要因を考える必要を説いている。外在的要因とは中国市場をどう捉えるかで、「巨大な成長市場」であるというチャンスとともに、新たな競争相手となる「地場企業の台頭」というリスクの存在を指摘した。
内在的要因としては、「世界の工場」たる中国国内で生産する際のコスト(製造価格)削減と、「世界の市場」でもある中国での売り上げ(販売利益)拡大を追求する必要を挙げている。重要なポイントとして、よい製品を作れば売れるという日本企業の多くが陥る「イノベーションのジレンマ」から頭を切り替える必要を指摘した。中国の消費者層の多様化が進み、日系企業がターゲットしていた富裕層に加え、中間層というより大きな顧客に対する拡販で日本企業が立ち後れているという現実を踏まえた提言だ。
リスクとして挙げた「地場企業の台頭」に関しては、日系の車部品メーカーが軒並み独禁法違反に問われ多額の罰金を支払わされた最近の例を挙げ、外資系に席巻されている分野の国内企業育成を狙った外資系企業に対する摘発が今後も続く、と指摘した。日本企業を含む外資系企業が売り上げ上位に並ぶ業種として、エレベーターや化粧品が狙われる可能性がある、と氏は見ている。
こうした中国の変化にすでにうまく対応している日本企業もある。服部氏は何社かこうした企業の成功例を示し、戦略的な転換には「内販型企業への転換」「現地法人の現地化促進」「現地法人の権限強化」の3つが必要だとしている。
「現地化」で重用視しているのが人で、中国人幹部の要請だけでなく、日本から派遣した幹部の再教育も重要としているのが興味深い。現地の中国人ときちんとしたコミュニケーションがとれることの大切さを強調し、総経理(社長)の場合、本社とけんかをするくらいの人物が望ましいとしている。同時に、中国人幹部の養成に関しても、単に中国人をトップにすればよいということではなく、日本の本社に提言できるようなグローバル人材の育成が重要と提言した。
さらに「現地化」で重要なこととして階層や地域に特化した販売方式や企業イメージ構築とともに、広報つまりマスコミ対策の重視を強調していた。
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服部 健治(はっとり けんじ)氏:
中央大学大学院戦略経営研究科 教授
略歴
1972年 大阪外国語大学(現大阪大学)中国語学科卒業
1978年 南カリフォルニア大学大学院修士課程修了
1979年 一般財団法人日中経済協会入会
1984年 同北京事務所副所長
1995年 日中投資促進機構北京事務所首席代表
2001年 愛知大学現代中国学部教授
2004年 中国商務部国際貿易経済合作研究院訪問研究員
2005年 コロンビア大学東アジア研究所客員研究員
2008年より現職