第90回CRCC研究会「『一帯一路』と中国の対外発展戦略」/講師:江原 規由(2015年12月7日開催)
「『一帯一路』と中国の対外発展戦略」
開催日時: 2015年12月7日(月)15:00-17:00
会 場: 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講 師: 江原 規由(一般財団法人国際貿易投資研究所 研究主幹)
講演詳報: 「 第90回CRCC研究会 詳報」( 852KB )
中国の「一帯一路」がメガ地域経済圏になる可能性も
一般財団法人国際貿易投資研究所の江原規由(えはら のりよし)研究主幹は12月7日午後、東京・千代田区の科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホールで開かれたJST中国総合研究交流センター( CRCC)主催の第90回研究会で「『一帯一路』と中国の対外発展戦略」と題して講演した。
江原氏はこの中で、中国の「一帯一路」戦略が歴史上の3偉人の業績、秦の始皇帝の貨幣統一、ジンギス・カンの版図の拡大、鄭和の海洋大遠征に通じる部分があると指摘。通貨統一は人民元の国際化に相当し、モ ンゴル帝国の版図や鄭和艦隊の航路は「一帯一路」のルートと重なると述べ、中国が多くの国と結んでいるパートナーシップ関係の構築や自由貿易協定(FTA)締結への積極的姿勢とあいまって、同 構想がメガ地域経済圏に発展していく可能性があると強調した。
江原氏はその理由にひとつとして、習近平国家主席(党総書記)が2014年12月5日、中国共産党中央政治局の第19回集団学習会で「積極的に一帯一路沿線国・地域とのFTAを構築し、中 国の沿線国との協力を緊密化し、いっそうの利益融合を図らなくてはならない」と発言し、中国がその後、政治・経済・外交の各分野で極めて積極的に動き、国際産能合作という新たな発想で、対 外投資を急速に拡大していることなどを挙げた。
江原氏はまた、「一帯一路」戦略の狙いについて、「インフラ整備(鉄道、道路、港湾、通信、電力網など)をテコにしたウインウインの運命共同体注の構築」にあるとし、そのための資金としては、中 国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金、上海協力機構(SCO)開発銀行などからの融資だけではとても足りないが、「国際産能合作による投資や域内外からの投資、沿 線国自らの投資などもあるため、資金不足は想定されるよりも少ないのではないか」との考えを表明した。
「一帯一路」戦略には現在、60余カ国がかかわっており、江原氏によると、世界全体のGDPの約30%を占めている。しかし、同氏は「この中に日本は入っていないようだ」と語り、「 中国がパートナーシップ関係を構築していないのは、先進国では日本と米国のみである」と指摘。「(中国は)米国と新型大国関係を模索しているが、日本はどう対応していくかを考えるべきではないか」と提案。「『 一帯一路』戦略は初動段階にあり、先が読めないところも多々あるが、世界経済に大きな波風を引き起こしているのは否定できず、その影響、特に諸国がどう対応するか、注意深く見極め、対応する必要がある」と述べた。
注 運命共同体:習近平国家主席が国際会議の場などでよくこう表現する。
(文・写真 CRCC編集部)
江原 規由(えはら のりよし)氏:
一般財団法人国際貿易投資研究所 研究主幹
略歴
1950年生まれ。
1975年 東京外国語大学外国語学部卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)入会。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初 代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。山東省烟台市投資顧問、2010年、上海万博日本館館長・政府副代表。
2011年 国際貿易投資研究所研究主幹。
2011年 中国政法大学日本法研究センター研究員(現在に至る)
2011年 国際日本文化研究センター 万博研究会メンバー
2012年 桜美林大学北東アジア総合研究所研究員
2013年 日中関係学会副会長(2015年監事) など
主な著書
「中国経済36景」(中国外文出版社)、「ドライブ イン中国」・「職在中国」・「中国経済最前線」(ジェトロ出版)「上海万博とは何だったのか」(日本僑報社)、 「大中華圏-その実像と虚像」( 岩波書店) 、「TPP交渉の論点と日本」(文眞堂)、「万博覧会と人間の歴史」(思文閣出版)ほか。
論文等(Articles/連載)
2002年 "週刊エコノミスト"(チャイナウォッチング/中国視窓、~2005年年12月)
2004年 "人民中国"(現在に至る)
2004年 "蒼蒼社 中国総研"(現在に至る)
2010年 "週刊世博"<上海万博関連26回>(~2010年11月)
2011年 "季刊 国際貿易と投資(2011年夏号~現在に至る)