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第95回CRCC研究会「中国の科学技術は日本を抜いたか?」/講師:沖村 憲樹(2016年6月24日開催)

「中国の科学技術は日本を抜いたか?」

開催日時: 2016年6月24日(金)15:00-17:00

会  場:
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師:
沖村 憲樹 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)特別顧問
中国総合研究交流センター上席フェロー
日本・アジア青少年サイエンス交流事業推進室長

講演資料:「 中国の科学技術は日本を抜いたか?」( PDFファイル 21MB )

講演詳報: 「 第95回CRCC研究会 詳報」( PDFファイル 4.61MB )

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中国早晩世界一の科学技術大国に 日中交流ますます重要

中国総合研究交流センター

 日中の科学技術交流に力を入れている沖村憲樹科学技術振興機構(JST)特別顧問が24日、JST中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、中国が科学技術分野で急速な発展を遂げている現状を詳しく紹介するとともに、日中交流がますます重要になっていることを強調した。 

 中国の科学技術水準がすでに多くの面で日本を追い抜いていることを、沖村氏はさまざまな客観的データと、自身の日中交流体験を基に示した。さらに科学技術政策の重視は、毛沢東が中国科学院をつくったとき以来の長い歴史を持ち、「政権が変わっても最重要政策であることは不変」と言い切った。

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 沖村氏が国務院直轄の主要な行政組織の一つとして挙げた中国科学院は、12の分院、104の研究所、中国科学技術大学中国科学院大学に加え、21の会社を傘下に持つ。5万6,000人の研究者、4万8,000人の大学院生、4,330人のポスドクなど約12万人もの人員を抱え、予算規模も1兆400億円(経済協力開発機構〈OECD〉購買力平価換算=1元29円:以後も同じ)という世界最大の研究機関だ。年間の論文数も世界一となっており、大学だけでなく官界、企業への人材供給源として、科学技術界ネットワークの中心に位置する。

 中国科学院に加え、中国科学技術部中国科学技術協会国家自然科学基金委員会、地方研究機関など中央から省、市まで強力、膨大な科学技術・教育行政組織が出来上がっていることも、詳しく紹介された。その中でもコア組織と沖村氏が呼ぶ中国科学技術部は、国の科学技術発展中長期計画と年度計画を作成するほか、科学技術イノベーション能力の向上や、他の中央機関と地方に対する科学技術制度改革の指導にもあたる。科学技術発展中長期計画は15年間を見通しており、現在の計画は、第11次五カ年計画(2006~10年)、第12次五カ年計画(11~15年)、第13次五カ年計画(16~20年)に取り入れられている。

 科学技術部の下にあるタイマツハイテク産業開発センターが管轄する「国家ハイテクパーク」について、沖村氏は「世界に例がない政策」として詳しく紹介した。114カ所、入居企業7万1,180社、従業員1,460万人、総生産高186兆3,000億円という巨大な「国家ハイテク産業開発区」群をはじめとして、10種類、842もの国家ハイテクパークが全国に郡立する。これらハイテクパーク制度に加え、基礎研究の底上げを目的に始まった「国家重点実験室」制度の拡充など、中国科学技術部の力の巨大を強調した。

 日本にも、中国の五カ年計画同様5年間を見通して策定される科学技術基本計画がある。この計画が現在、第5期(16~20年)なのに対し、現在、13次である中国の五カ年計画との歴史の違いを挙げて沖村氏は、中国の科学技術計画が膨大かつ綿密であることを強調した。さらに科学技術を推進する立場の政治家も官僚も頻繁に替わる日本と異なり、長年の深い経験を持つ専門家たちが科学技術政策を担っていることも、中国の優れた点として挙げた。

 国の科学技術に対する財政歳出も2014年に中国は15兆7,000億円と、日本(同3兆5,000億円)の4.5倍。「日本とは科学技術政策にかける熱意が月とスッポンで、力の入れようが違う。基礎研究では、まだ日本が優れている面はある。しかし、財政歳出の伸び率を見ると、早晩日本は必ず追い抜かれる」との見通しも示した。

 科学技術に対する中国の財政歳出が大きい理由として沖村氏が挙げたのは、「科学技術進歩法」の存在。その中に「国が科学技術の経費に投入する財政資金の増加は、国家財政における経常収入の増加幅を超えるものとする」という条文がある。「財政構造と長期経済予測を考慮すると、中国は潤沢な科学技術支出が可能。必ずイノベーションを成功させ、世界一の科学技術大国となる」との見解を示した上で、「中国に追いつこうなどと考えるより、日中科学技術交流を深化させることの方が重要。人同士が仲良くなることが大事だ」と提言して、講演を締めくくった。

「急速に伸長する中国の科学技術指標 沖村憲樹氏講演概要」

世界最高水準の大学群

 2004年と14年で日中の大学数(民弁大学や短大も含む)がどれだけ増えたかを見ると、日本が1,217から1,133校と横ばいであるのに対し、中国は3,233から4,442校と急増している。2000年と14年の大学生数の変化は、日本が271万人から299万人であるのに対し、中国は340万人から2,548万人に急増している。大学院生も同様で、日本が21万人から25万人に対し、中国は30万人から185万人。大学院生の増加が目立つのは、中国には研究指向型の大学が多いことを示している。高等教育就学率が39.4%(14年)であること考えると、大学生、大学院生の数はまだまだ増えるとみられる。

 大学(日本は短大含む)への財政投資は、2003年時点では日本7兆9,000億円、中国8兆円とほぼ同じだったのに対し、14年には日本8兆8,000億円に対し、中国25兆5,000億円と3倍近い開きができている。

 中国は、1993年に世界レベルの大学を目指す112の大学を選んだ。選ばれた各大学には年間交付金が30億円増やされた。さらに98年には江沢民国家主席(当時)の提唱で、さらに世界一流の大学を目指す39大学が選定された。39大学にはさらに年間交付金60億円が追加された。この結果、これら39大学は最先端の設備機器を備えた研究型大学に変ぼうした。

 大学のグローバル化の進展もめざましい。1990年に中国から海外に留学した学生は3,000人だったのが、2015年には52万4,000人に増え、現在、海外の留学生数は155万人を超す。最優秀な留学生を好条件で中国に呼び戻す「海亀政策」により、15年には40万9,000人が帰国し、大学だけでなく役所や企業にも入っている。世界中で優秀な中国人留学生、研究者が活躍しており、11年に米国の大学院で博士号を取得した人数は、中国人が最も多く3,978人と29%を占める。2位はインドの2,161人で15%。米国の研究レベルは中国人とインド人で持っているともいわれる。ちなみに日本人は243人と2%にすぎない。

 世界中から留学生を吸収している実態もある。15年に中国へ最も多くの留学生を送り込んだ国は韓国で6万6,672人。次いで米国の2万1,975人となっている。韓国は将来を見越して軸足を中国に移しているとみられる。日本はタイやパキスタン、ロシアなどよりも少ない1万4,085人。留学生の受け入れ総数では202の国・地域から39万8,000人に上り、スーダンやケニアなどアフリカからの留学生も増えている。

 欧米の大学との国際協力も進んでいる。西安交通大学と英国リバプール大学との西安リバプール大学、武漢大学とデューク大学の昆山デューク大学といった共同大学、共同大学院が中国国内に42できている。日本の大学で海外の大学と共同大学を設立したのは、大連市の大連理工学部キャンパス内に同大学との共同で「国際情報ソフトウェア大学」を開設した立命館大学の例があるくらいだ。

 世界大学ランキングでも、中国の大学が日本の大学より高い評価を受けている。英国の大学評価機関「クアクアレリ・シモンズ(QS)」による「QS世界大学ランキング2015-2016」で、200位内に入った日本の大学は8校なのに対し、香港を含む中国の大学は12校。04-05年時点では中国5校に対し日本は11校だったから、中国の大学の評価が高まっていることが分かる。

 中国の大学は、社会貢献、産学連携を本質的な義務とみている。主要94大学が「大学サイエンスパーク」を所有、総売り上げは7,794億円に上る。有名大学は「校弁企業」という関係企業を多数保有し、2013年に北京大学は2兆2,762億円、清華大学は1兆3,646億円の売り上げがあった。552の大学が5,279のベンチャー企業を所有している。

世界に類を見ないハイテクパーク政策

 大学サイエンスパークを含め、2013年時点で10種類842カ所の国家ハイテクパークがある。国家ハイテク産業開発区は、114カ所にあり、入居企業7万1,180社、従業員1,460万人、総生産高186兆円。政府が優秀な企業を集め、優遇措置を講じている結果、年成長率は15.3%と高い。外国と共同運営の「中外共同運営国家ハイテクパーク」も、7カ所につくられている。

 国家ハイテクパーク以外に、地方政府・自治体などのハイテクパークが、2,000以上ある。

発展裏付ける研究・特許、貿易指標

 研究開発費総額で中国は年平均20%余り、4年で倍増というスピードで研究開発費総額を増やしてきた。現在米国に次ぐ研究開発費投入国となっている。2013年の研究開発費総額は35兆円。日本が2000年の16兆3,000億円から13年に18兆1,000億円まで増やしたのに対し、中国は2000年の5兆1,000億円から急増させた。

 研究開発人材も2013年に148万4,000人と世界一となっている。2000年の69万5,000人からこちらも大幅な増加。日本は2000年には76万2,000人と中国を上回っていたが、13年には84万2,000人と中国、米国に次ぐ3位となっている。

 世界の主要な学術誌に掲載された研究論文数も急増し、2011~13年の年平均数は米国に次いで2位。各分野で被引用数が多い上位10%内に入る高被引用論文数の比較でも、米国に次ぎ2位になっている。工学分野の論文に限ると、世界1位。日本は01~03年の平均では論文総数、上位10%の高被引用論文数のいずれも中国を上回っていた。しかし、11~13年の平均では、論文総数、高被引用論文数とも01~03年の平均からそれほど増えてなく、中国の半分に満たない数字となっている。

 国内特許出願数は、2013年に82万5,000件と、10年前に比べ28倍に増えた。米国や日本をはるかに上回る。ただし、海外への特許出願はまだ少ない。

 ハイテク製品の輸出も、米国を超え13年に1位となった。日本は4位。

膨大な行政組織と経験深い専門家が推進する科学技術政策

 科学技術政策推進のコア組織である科学技術部は、産学連携でも立派な仕事をしている。5,300人の人員、9,856億円の予算(2015年)を持つ。また中国科学院は、戦略をつくるたびに新しい研究所を増やし104の研究所を抱える。戦略は紙に書いただけに終わってしまうことが多い日本と違い、実際に人を配置する。日本の理化学研究所や産業技術総合研究所が数千人、ドイツのマックス・プランク協会ですら1万数千人という人員であるのと比べると、外国から見るとうらやましい世界最大の研究機関だ。

 科学技術部、中国科学院同様、国務院直轄の中国科学技術協会も世界に例がない組織。学会など7,174の下部組織を抱え、1,065万人の会員を擁する。2014年の予算は404億円。青少年の意識を変えることが重要との考えに基づき、全国に992の科学技術館も持つ。同じく国務省直属の国家自然科学基金委員会は、米国科学財団(NSF)の中国版として86年に設立された。年平均25%という予算増により、14年の予算は5,770億円という世界有数の研究資金配分機関となった。

 全ての省、市に科学技術庁(局)、科学技術協会などの行政組織が設置されて、科学技術を推進している。

 中央711、地方2,940の公的研究機関がある。研究者は40万1,000人、総予算は5兆3,000億円。公的機関数486、研究者数4万2,000人、総予算1兆4,000億円の日本との差は大きい。

(文・写真 CRCC編集部)

沖村憲樹

沖村 憲樹(おきむら かずき)氏:
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)特別顧問
中国総合研究交流センター上席フェロー
日本・アジア青少年サイエンス交流事業推進室長

略歴

1963年(昭和38年)3月 中央大学法学部法律学科卒業、1966年科学技術庁入庁、1994年同庁研究開発局長、1995年同庁科学技術政策研究所長、1996年同庁科学技術振興局長、1 996年同庁長官官房長、1998年同庁科学審議官、1999年科学技術振興事業団専務理事、2001年同理事長、2003年独立行政法人科学技術振興機構理事長、2007年同顧問、2 007年独立行政法人科学技術振興機構中国総合研究交流センター上席フェロー、2013年同特別顧問、2014年同日本・アジア青少年サイエンス交流事業推進室(さくらサイエンスプラン)室長、現在に至る。2 010年 瑞宝重光章(日本内閣府)、2015年 中国国家友誼賞(中国)、2016年 中国国際科学技術協力賞(中国)受賞。