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第96回CRCC研究会「中国の少子高齢化と人口政策について」/講師:尹豪(2016年7月15日開催)

「中国の少子高齢化と人口政策について」

開催日時:2016年7月15日(金)15:00-17:00

会  場:国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師:尹 豪 福岡女子大学国際文理学部 教授

講演資料:「 中国の少子高齢化と人口政策について」( PDFファイル 945KB )

講演詳報:「 第96回CRCC研究会 詳報」( PDFファイル 2.74MB )

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「計画生育」堅持し、高齢者の生活守る制度構築を

中国総合研究交流センター

 中国の人口問題に詳しい尹豪福岡女子大学教授が、7月15日に開かれた科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で「中国の少子高齢化と人口政策」について講演し、年金、医療、介 護を含む高齢者のセーフティーネット構築が喫緊の課題になっている中国の実情を紹介した。

 尹氏は、中国国家統計局が2月に公表した統計データを基に、2015年末時点の中国の総人口が13 億 7,462 万人で、60歳以上が占める割合は16.1%(2億2,200万人)と、急 速に高齢社会に向かっていることを示した。65歳以上が総人口に占める割合を高齢化率というが、中国は現在、 10.5%となっている。氏は、24年に高齢化率が14%に達するという日本の国立社会保障・人 口問題研究所によるデータを示し、高齢化率が7%を超えてから倍の14%に達するまでの年数(倍加年数)が日本を上回ることも紹介した。日本は、すでに1970年から94年の24年間で倍加年数を経験済みだが、中 国は日本より1年早い23年で、高齢化率が7%から14%に倍加すると予測されている。

 フランス115年、スウェーデン85年、英国46年、ドイツ40年という欧州諸国の倍加年数を示し、尹氏は中国の高齢化の速さを強調した。この理由として氏が挙げたのは、数 十年にわたる人口抑制政策による影響。出生率が急激に低下した結果、高齢化の進展は避けられず、中国は社会が豊かになる前に高齢化を迎えることになった。年金、医療、介護に関わる社会保障制度の整備が急務で、特 に高齢者介護が家族にも社会にも大きな課題となる、と指摘した。

 中国の人口抑制政策が始まったのは、1970年代初めから。1978年に改革開放政策がスタートするのに併せて、「計画生育」という方針が打ち出される。「1夫婦に子供1人が最も望ましく、多 くて2人まで」というものだ。2年後の80年には「一人っ子政策」が提唱され、82年には「計画生育」が基本国策となる。しかし、少子高齢化に加え、男の子がほしいという欲求に起因する出生性比不均衡( 女より男の出生数の方が多い)という問題が顕在化し、早くも84年には出産政策の調整も並行して始まった。農村で女児を出産した場合、第2子の出産を認める、というものだ。社会保障政策がない以上、特 に農村では老後は子供に頼らざるを得ないという現実的要請への対応だった。

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 さらにこうした人口の構造調整政策は、2013年の「単独両孩」政策(夫婦の片方が 一人っ子である場合、第 2 子の出産を認める)、さらには16年1月からの「全面両孩」政策(全ての夫婦に子供 2 人の出産を全面的に認める)に至る。「一人っ子政策が終了し、新しい人口政策がスタートした」と尹氏は解説した。

 では、今後の見通しはどうか。国連の人口予測によると、中国の総人口は30年の14億1,554万人をピークに減少に転じ、60年には現在より1億人少ない12億7,600万人台に縮小する。

 年金、医療、介護を含む社会保障制度の整備と「年金双軌制」(公務員年金が、他の公的年金と全く別扱いで特別に優遇されている問題)の解消、さらに定年年齢延長と年金支給開始年齢の延長、を 尹氏は喫緊の課題として挙げた。

(文・写真 CRCC編集部)

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尹 豪

尹 豪(いん ごう)氏:
福岡女子大学国際文理学部 教授

略歴

1982年 中国吉林大学卒業
1985年 中国吉林大学大学院卒業(修士学位取得)
1985年 中国吉林大学人口研究所 専任講師
1989年 中央大学経済研究所 客員研究員
1994年 中央大学大学院経済学研究科博士後期課程修了(博士学位取得)
1994年 エイジング総合研究センター 客員研究員
1997年 中国吉林大学東北亜研究院 副教授
2000年 中国吉林大学東北亜研究院 教授 
2001年 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所 客員研究員(〜2002年)
2004年 東北大学東北アジア研究センター 客員教授(〜2004年) 
2009年 韓国国立昌原大学校経商大学 客員教授(〜2011年) 
2011年 福岡女子大学国際文理学部 教授(現在に至る)