第5回中国研究サロン「日中交流の過去、現在、未来」/講師:白西 紳一郎(2013年11月14日開催)
演題:「日中交流の過去、現在、未来」
開催日時・場所
2013年11月14日(木)16:00-17:40
独立行政法人科学技術振興機構(JST)
東京本部別館1Fホール
政治文書と紳士協定尊重を 白西紳一郎日中協会理事長が強調
小岩井忠道(中国総合研究交流センター)
白西紳一郎・日中協会理事長が11月14日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター、アジア平和貢献センター共催の中国研究サロンで講演し、「4つの政治文書を順守し、2つの紳士協定を尊重する」ことが日中関係にとって重要であることを強調した。
4つの政治文書とは、「日中共同声明」(1972年)、「日中平和友好条約」(78年)、「日中共同宣言」(98年)、「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」(2008年)を指す。これら4文書に加えて、白西氏が挙げた「紳士協定」とは、靖国神社と尖閣諸島に関する「暗黙の了解」のこと。靖国神社に関しては、首相、外相、官房長官は参拝を控えることを1986年8月に中曽根内閣が決め、中国側にも伝えられた、と氏は語った。また、尖閣諸島についても、日中両国間に「領土問題は棚上げする」という暗黙の了解があり、これら2つは「一種の紳士協定だ」としている。
「棚上げ」の約束があった根拠の一つとして氏は、1978年に締結された日中平和友好条約について、園田直外相(当時)が国会の外務委員会で行った答弁(1979年5月25日)を挙げた。さらに外務省職員・元職員の親睦会「霞関会」の会報に今年5月掲載された栗山尚一・元駐米大使・元外務次官が書いた、事実上、棚上げの了解があったとする記事にも触れている。同じ「霞関会会報」に2カ月後、池田維・元外務省アジア局長による「棚上げの合意が日中間で存在したことはない」とする記事が載ったことも紹介し、日中共同声明(1972年)の際に、田中角栄、周恩来両首相の会談に同席した栗山氏の書いていることの方が正しい、との見方を示した。靖国神社に首相、外相、官房長官は参拝しないという中曽根内閣の方針は、文書ではないものの1986年8月14日に当時の後藤田正晴官房長官から中国側に伝えられ、この結果、前年に中曽根首相が靖国参拝したことによって生じた問題が解決した、とも語っている。
白西氏は、日中間の冷え切った現状を打開する方策として、「4つの政治文書を順守し、2つの“紳士協定”を尊重する、と日本側が言えば、すぐにも日中首脳会談はできる」と日本政府の対応を促した。
認定NPO法人「言論NPO」と中国日報社による「日中共同世論調査」で、日中国民の90%以上が、お互いの国を「良くない印象を持っている」と答えている結果が、よく取り上げられる。白西氏は、同じ調査で「日中関係を重要」とする答えが、どちらの国でも70%を超している結果について触れ、「好きか嫌いかの感情論で日中友好を考えてはいけない。お互い相手が大切だと思えば、好きになるはず」と、理性的な判断を求めている。
さらに氏は、日中関係を両国だけ見て考えることの不十分さも指摘し、「右手で中国、左手で米国と握手し、正面にASEAN(東南アジア諸国連合)を見る、という立ち位置が求められる」とも、語った。
白西 紳一郎(しらにし しんいちろう)氏:
社団法人日中協会 理事長
略歴
1940年、広島市生まれ。京都大学東洋史学科卒。67年、日本国際貿易促進協会の事務局に入って初訪中。その後「現代アジア」編集長などを経て、75年の日中協会設立に伴い幹事、79年から事務局長。8 1年に協会が社団法人化した後、理事、常務理事を経て、2000年から現職。
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