実践的技術者育成で熱い議論 日中フェア&フォーラム分科会で
2017年 5月15日 倉澤 治雄(中国総合研究交流センター上席フェロー)
今月13日から中国・上海で始まった「日中大学フェア&フォーラム」は、2日目の14日、基調講演の後、日中の学長クラスによるシンポジウム形式の分科会が行われた。
冒頭、主催者側のあいさつに立った中国国際人材交流協会の夏兵主任は、「国際人材の育成、大学の地域貢献、実践的技術者の育成は両国共通の課題だ」と述べた。
写真1 中国国際人材交流協会の夏兵主任によるスピーチ
一方、科学技術振興機構の安藤慶明理事は、「環境、エネルギー、防災などの分野で、日中で協力する必要がある」と、日中間の学術交流の重要性を強調した。
また来賓としてあいさつに立った上海市人力資源・社会保障局の余成斌副局長は、「上海市は対外開放の窓口であり、5年連続で外国人にとって最も魅力的な都市に選ばれた」と上海での開催の意義を強調した。
さらに中国留学服務中心の孫建民主任、文部科学省の真先正人大臣官房審議官、片山和之上海総領事がそれぞれあいさつした。
基調講演ではまず北海道大学の名和豊春総長が、北海道大学での国際人材の育成について紹介した。この中で名和総長は、北海道大学が、「青年よ、大志を抱け」の 言葉で知られるW.S.クラーク教頭の伝統を受け継ぎ、早くから英語での教育を行ってきたことを紹介、研究分野も低温科学や鳥インフルエンザを含む人獣共通感染症研究など、「 地域の特性を生かした研究を行っている」と述べた。
写真2 名和豊春北海道大学総長による基調講演
中国側は中国科学院大学の丁仲礼学長が大学の紹介を行った。この中で丁学長は、科学院大学が大学院中心の大学として、4万6000人もの大学院生を擁しており、そ のうち半分が博士課程に進学すると紹介すると、日本の大学関係者の間からは驚きの声が上がった。
基調講演の後、沖村憲樹特別顧問が「さくらサイエンスプラン」の現状を紹介、「来年度は1万人、将来は3万人のアジアの青少年を日本に招聘したい」と抱負を語った。
午後から行われた分科会は、「大学の国際化および国際人材育成」「大学における地域貢献のあり方」「実践的技術者の育成について」の3つのテーマで、5つの会場に分かれて日中の学長クラスが討論した。
写真3 分科会の様子
このうち初めてテーマとして取り上げられた「実践的技術者の育成」に関する分科会では、日本の高等専門学校と中国での技術者養成教育について、議論が繰り広げられた。
モデレータの谷口功国立高等専門学校機構理事長は、「日本の高専は世界でもユニークな存在だ。どの国でも実践的でクリエイティブな技術者の養成が必要となっている」と述べた。
中国側からは上海出版印刷高等専科学校、上海健康医学院、蘇州工業園服務職業学院、紹興文理学院、寧波職業技術学院での事例が紹介され、いずれの学長も「応用型人材」の育成は、産 業や地域の企業のニーズに合わせて行わなければならないと強調した。
とくに上海健康医学院からは、解剖を嫌がる学生のために、バーチャルな人体模型を使う試みが紹介されたほか、地域や企業との連携を深めるため、企業から教員を派遣してもらうだけでなく、教 員を企業に派遣して実践的な技術を身につけてもらう例などが紹介された。
一方、日本側の参加者である鹿児島高等工業専門学校と福島高等工業専門学校からは、高専には指導要領がないこと、学費が安いこと、すべての高専に寮があり、日 本型コミュニケーションが成り立つことなどが、特色として紹介された。
とくに東日本大震災で大きな被害を受けた福島高専からは、事故を起こした東京電力福島第一原発事故の除染や廃炉を担う人材の育成が始まっていることが紹介された。
分科会は当初2時間の予定を30分近くオーバーし、白熱した議論が繰り広げられた。
会場ではこのあと、今回参加した45の日本の大学・団体のフェアが行われ、300人を超える中国の高校生や大学関係者が訪れた。大学の窓口には留学相談だけでなく、大 学関係者から学生交換の協定や共同研究の提案、それに中国企業からの専門家派遣などの要望があったという。
写真4 大学・団体フェアでは学生や大学関係者が積極的に各ブースを訪問した。
フェア&フォーラムは盛況のうちに、上海での日程を終えた。
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