トップ >コラム&リポート> 【19-01】「家族」から「職場」へ。「春晩・小品」から看る、中国世相の移り変わり

【19-01】「家族」から「職場」へ。「春晩・小品」から看る、中国世相の移り変わり

2019年3月13日

青樹 明子

青樹 明子(あおき あきこ)氏: ノンフィクション作家、
中国ラジオ番組プロデューサー、日中友好会館理事

略歴

早稲田大学第一文学部卒業。同大学院アジア太平洋研究科修了。
大学卒業後、テレビ構成作家、舞台等の脚本家を経て、ノンフィクション・ライターとして世界数十カ国を取材。
1998年より中国国際放送局にて北京向け日本語放送パーソナリティを務める。2005年より広東ラジオ「東京流行音楽」・2006年より北京人民ラジオ・外 国語チャンネルにて<東京音楽広場><日本語・Go!Go!塾>の番組制作・アンカー・パーソナリティー。
日経新聞・中文サイト エッセイ連載中
サンケイ・ビジネスアイ エッセイ連載中
近著に『中国人の頭の中』(新潮新書)

主な著作

「<小皇帝>世代の中国」(新潮新書)、「北京で学生生活をもう一度」(新潮社)、「日本の名前をください 北京放送の1000日」(新潮社)、「日中ビジネス摩擦」(新潮新書)、「中国人の財布の中身」(詩想社新書)、「中国人の頭の中」(新潮新書)、翻訳「上海、か たつむりの家」 

 中国人にとって、一年で最も重要なイベントである春節(旧正月)が終わった。春節期間中の様々なデータが次々と発表されているが、なかでも大晦日(除夕)夜に放送された中央電視台特別番組「春節聯歓晩会」略して「春晩」の視聴者数がすごい。人々の春節の過ごし方は変化したが、それでもやはり、家族とともに「春晩」を見るという習慣は、すたれていないようである。

 中央電視台の「春晩」は、中国国内の239のテレビチャンネルで同時放送され、加えて海外162か国と地域で放送された。中国国内では、前年比約4200万人増11億7300万人が視聴し、これは過去最多だという。(人民日報日本語版)

 こんな数字からもわかるように、春晩の影響力はすさまじい。番組で精彩を放ったスターは、よりビッグになり、注目されたセリフは即流行語になる。

 なかでも毎年話題になるのが「小品」と呼ばれるコーナーである。お笑いを基盤にした15分から20分ほどの寸劇で、出演者はトップクラスの喜劇役者をはじめ、映画やテレビで大人気のスターたちが登場する。

 小品の人気の理由は、出演者ばかりではない。その時々の中国の世相を表しているからである。つまり小品を見ると、その年に庶民の関心を集めた事柄が見て取れるのである。

 小品の描き出す世相とは何だろう。

 ここ10年ほど、小品で取り上げられたテーマを見てみると「夫婦・家庭関係」が最も多かった。特に、2010年から2014年は、「夫婦・家庭内の人間関係」が小品テーマの重要部分を占めている。

 たとえば、2010年の小品「たった一言から起きた事(一句话的事儿)」は、夫婦がついた小さな嘘を、二人がそれぞれ、必死に取り繕う様子を描いている。そんな二人を、周囲の人々が懸命に助ける様子は、多くの視聴者の共感を得た。日本的にいえば「夫婦あるある」の一コマと言っていい。

 そして、当時社会を賑わせた数々の問題、「家を買うために偽装離婚する」、「娘の結婚相手は、最低でも家を持っていること」、「流行する過度な美容整形」「偽札の氾濫」など、社会の問題点を積極的に扱い、笑いの裏側で強烈に皮肉っている。

 2019年はどうか。

 2019年の小品は「職場の人間関係」に重点が置かれている。

 数を見てみると、2017年は、夫婦間の人間関係を扱ったものが、6作品中3作品と、半分を占めていたが、2019年は7作品のうち、1作品しかない。

 逆に職場をテーマにしたものは、2017年は1作品だったのに比べ、2019年は4作品に増えている。

 その4つのうち、最も高視聴率を記録したのは「オフィス物語」で、職場における複雑な人間関係をコメディ化したものであった。現代中国人にとって、人民公社時代から様変わりした「職場」が、生活上いかに重きを占めるかが伺われる。

 また今年の特徴として、世相を批判する内容のものが、十年来で最多だった。称賛と批判という、ふたつの角度から捉えると、2019年は、称賛するものが二つに対し、例年一つか二つだった批判組は、今年はなんと五つもある。

 今年「春晩」が批判した世の中の出来事は何なのだろうか。

 一番人気だった「オフィス物語」では、ずさんな管理方式で職場内にコミュニケーション不足が起きていることを取り上げた。

 また大物スター葛優氏の出演で注目を集めた「"息子"がやって来た!」では、頻発する高齢者詐欺に警告を鳴らす。ちなみに、中国社会を悩ませる「詐欺」は、これまでずっと「携帯電話やスマホ上の詐欺」だったが、最近は「高齢者へのオレオレ詐欺」がより深刻になっているようだ。

 「席を占める」では、子供の教育をすべて学校に丸投げする親への疑問を呈し「芝居をお見せしよう」では、上司をからかう村主任を皮肉っている。

 高齢者詐欺と、子供の教育は、近年中国人の心を悩ます、大きな問題なのである。

 一方賞賛組は「プラットフォーム」で、春節も休まず任務に就く"鉄道警察"の目を通して描く若い夫婦の情愛、「運転代行業(爱的代驾)」では、起業に失敗しても屈せず頑張る創業者の姿をそれぞれ描き出した。

 中央電視台の「春晩」は説教臭くて面白くない、という中国人は多い。それでも、これだけ多くの人が視聴して、社会に論争を巻き起こすテレビ番組というのは、世界でも例を見ないというのも事実である。