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【15-07】国立国会図書館の中国古書

2015年 7月22日

朱新林

朱新林(ZHU Xinlin):山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

中國山東省聊城市生まれ。
2003.09--2006.06 山東大学文史哲研究院 修士
2007.09--2010.09 浙江大学古籍研究所 博士
2009.09--2010.09 早稻田大学大学院文学研究科 特別研究員
2010.11--2013.03 浙江大学哲学系 助理研究員
2011.11--2013.03 浙江大学ポスドク連絡会 副理事長
2013.03--現在 山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

 中国の古典は唐・宋の時代から数多く海外に伝わった。改革開放後、中国の総合的な国力が高まるにつれ、これら海外に散らばった漢籍は、中国古典文学の学者らの手を経て、影印・翻刻・整理・批判などのさまざまな形で中原の大地に回帰しつつある。前代から後代へと連なるこのような学術活動は歴史を遡ってもその例を見出すことができる。清代末期から中華民国の時代、中国の研究者は、海外の漢籍を探す困難な道を踏み出した。その発端は、旧来の陋習を破ろうという明治維新運動にある。この面での中国人学者の模範としては、駐日公使を務めた黎庶昌らの努力が挙げられる。その成果は「古逸叢書」として出版されている。

 21世紀に入ってから、海外に漢籍を求めるこのような活動は日増しに盛んとなっているだけでなく、形式の多様化という特性も示している。2011年、中国全国古籍整理出版資金援助評価審査会において、中国新聞出版総署の柳斌傑署長は、「海外中国古籍総目録」の記載に基づき、国内にないまたは珍しい重要な古籍を計画的に復刻・影印し、重要な研究の作用を発揮させ、「域外漢籍珍本文庫」の選定活動を重点展開するよう指示した。この指示の精神に基づき、中国人学者が次々と韓国や日本、ベトナム、欧米など各国の各種の収蔵機関を訪れ、漢籍の善本を探し、探索の記録と図書の目録・紹介を書き、海外の漢籍の追跡と整理のために参考価値のある貴重な手がかりを残した。山東大学古典文献研究所の鄭傑文所長は「おおまかな統計によると、世界中には現在、26、7万種の漢籍が現存している」と指摘している。

 中国の古書を収蔵する海外の多くの図書館のうち、国立国会図書館は間違いなく代表例の一つである。国会図書館は、国会にサービスを提供すると同時に、国家図書館としての役割も担っており、日本の中央図書館と言える。その前身の「東京書籍館」は明治8年(1875)に開設され、明治30年(1897)に「帝国図書館」と改称された。明治39年に上野に新館が開設され、同所に移設された。1948年6月5日には米国議会図書館をモデルとして正式に一般開放され、1949年に国立国会図書館に改編された。当初の蔵書は、廃藩置県で文部省が引き継いだ全国各藩の藩校図書館の蔵書を中心としていた。蔵書はそれほど豊かではなかったが、その後の購入と寄付で次第に増え、現在はかなりの量へと拡大している。だが漢籍に限っては、内閣文庫と宮内庁書陵部よりは少ない。図書館所蔵の漢籍の目録は長期にわたって編纂されなかったが、1987年になって『国立国会図書館漢籍目録』が出版され、1995年になってその索引が刊行された。

 金程宇は、和刻本中国古書の影印については、汲古書院の影印シリーズで多くの仕事が行われたが、五山版や古活字版、仏教典籍、中国の古書の翻刻のうち和訓の付いていないものなどが収められず、貴重な文献の一部が対象となっていないため、遺憾の念を禁じえないと指摘している。2012年4月、「和刻本中国古逸書叢刊」が鳳凰出版社によって出版発行された。同叢書は、日本に伝わっていた中国の佚書110種が集められ、そのうち経部は12種、史部は5種、子部は34種、集部は59種で、関連文献や研究著作22種も収められている。著名学者の復旦大学の陳尚君教授や南京大学の張伯偉教授らの高い評価を受けている。合わせて70冊、3万8千ページ余りに及び、「古逸叢書」以来、中国国内外で刊行された最大規模の同類叢書となる。全書は、金程宇の個人蔵書を土台とし、国会図書館や国立公文書館などの公私蔵書を補充とし、底本を精選し、解題を執筆し、10年余りをかけて編纂したものである。叢書には数々の貴重な資料が収められ、中国の古書を補充し、収蔵・鑑定・研究・刻本に豊富で系統的な情報を提供するものとなっている。編者の執筆した前言、解題(10万字)、書名・著者索引も、学術研究の高い価値を備えている。

 21世紀半ばまでは、国会図書館に豊かな中国古書資料が収蔵されているといっても、地理的な遠さから貸し出し・閲読は不便で、海外の学者は、国会図書館の所蔵する中国古書資料を十分かつ便利に利用することはできなかった。だが現在は、デジタルライブラリーという便利ですばやい方式が利用できる。デジタルライブラリーは主に、図書資料を電子化・ネットワーク化し、電子情報の形式で使用者に使用させる各種の情報システムを指す。デジタルライブラリーは、世界的な情報化や知識化の傾向の産物であり、その表現形式の一つである。

 日本国立国会図書館の宇治郷毅・副館長は「国立国会図書館の展開する新たなサービス」という報告の中で、国立国会図書館の展開するサービスの2つの原則を「世界から世界へ」「過去から未来へ」と説明している。

図1

図1 国立国会図書館デジタルコレクション 古典籍資料(貴重書等)

http://dl.ndl.go.jp/#classic

 国会図書館による古書のデジタル化は上述の原則の指導の下に行われた。とりわけ「過去から未来へ」という原則は、利用とサービスのためにデジタル化を進めるという目標を体現するものとなった。1998年、国会図書館は、「国立国会図書館電子図書館構想」を制定し、電子図書館建設後の具体的なイメージと建設の目的を明確化した。張志清は、電子図書館推進室が1999年に打ち出した電子図書館プロジェクトには、伝統文化と貴重典籍を日本が非常に重視していることが表れていると指摘する。同時に、国会図書館が選択した古書デジタル化プロジェクトから、国会図書館による古書デジタル化の考えの筋道を見て取ることもできる。具体的には、日本国立国会図書館のうち中国の古書と関係の最も深いデータベースには「国立国会図書館デジタルコレクション」と「近代デジタルライブラリー」の2つがある。2000年3月に公開されたデジタルコレクションには、まず江戸時代のセクションが設けられ、19世紀までに出版された日本語と中国語の古書193点が掲載され、浮世絵も505点が収蔵された。2002年10月までに収録数は3万1千枚に達している。同データベースはDUBLIN CORE規格によって構築され、図像は小型のものから中等解像度のもの、高解像度のものまであり、ダウンロードの速度が速く、図像の質が高く、文字による簡単な説明が付けられている。近代デジタルライブラリーは2002年10月に公開された。2001年、国会図書館は1億8千万円の政府予算を獲得し、1868年から1912年までの明治期に出版された物のデジタル化に着手し、同時期の16万8千点の図書の著作権について調査と確認を行った。

図2

図2 国立国会図書館HP 近代デジタルライブラリーNDC分類

http://kindai.ndl.go.jp/search/category?categoryGroupCode=K

 上述の2つの大型データベースは国内外の学者の便利な利用を可能とするもので、国立国会図書館はデジタルライブラリーという形式を通じて、研究者が中国の古書を閲覧する利便性を大きく高めた。一方、山東大学は、世界の漢籍の収集と継承を世界的な重大文化プロジェクトとして進めている。その目的は、世界の中国学者と図書機構と協力し、海外に流失した貴重な漢籍を収集・複製し、さらに漢籍の精髄を外国語に翻訳し、漢籍の精髄を世界へと広めることにある。山東大学は、国際協力などの方式を通じて、世界の漢籍資源を統合し、出版やデジタル化を実現し、中国学の研究を展開している。このプロジェクトは、海外漢籍の研究機構が中国国内に次々と設立されている中、海外漢籍の研究と整理に新たな力を添えるものとなる。この世界漢籍収集プロジェクトでは、国会図書館の善本を影印出版する必要もある。国会図書館のデジタルライブラリーと中国国内での影印という2つのプラットフォームを土台として、中国国内の研究者は数年後には、さらに多くの中国古書の善本を利用できるようになる見込みだ。

図3

図3 (唐)徐霊府著「天台山記」の画像1
(日本国立国会図書館蔵、清代末期の黎庶昌は同書をこの版を元にして「古逸叢書」に収めた)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション

図3

(唐)徐霊府著「天台山記」の画像2

出典:国立国会図書館デジタルコレクション

図3

(唐)徐霊府著「天台山記」の画像3

出典:国立国会図書館デジタルコレクション