【17-07】福建商人を支えてきた、福建人の物作り
2017年 3月 2日 川田 大介(アジア太平洋観光社)
福建省の商材と言えばやはり「お茶」だろう。烏龍茶の故郷とも言われる福建省では、今でも様々な種類のお茶が作り出されている。しかし、実はお茶以外にも福建省には素晴らしい商材があるのだ。
ここではお茶の話には触れず、福建省の素晴らしい商材「工芸品」に目を向けていきたいと思う。福建省工芸博物館に行くと、そこにある様々な工芸品の素晴らしさには思わず息を飲み込んでしまうだろう。
僕が特に目を奪われたのが、泉州市木彫芸術博物院で見た「仏像彫刻」だ。僕は仏像彫刻というと、木彫りで木目の見える像を想像し、それのみを美しさと捉えがちであったのだが、石 や草などの天然染料を使って彩色された観音菩薩に、今までの考えを改めざるを得なかった。そもそも、日本の仏像彫刻も彩色されていたのは多かったのだろうが、長い年月で色が褪せ、そ れに慣れ親しんできた僕からすると、彩色されたばかりの仏像など、想像もつかなかったのだ。
寿山石彫刻や、書画、人形劇の人形や、漆画等、挙げたらキリが無い福建省の工芸品。なぜこれほどの職人や、今では作り出すことが出来ないような素晴らしい作品がこの地に残っているのだろうか。中には、今 も研鑽がされ、進化し続けている技術もある。もちろん、その全てが手作業による作品だ。ランタンづくりもその一つだ。
中国の祭りというと、赤いランタンや中国結びの紐、黄色と赤を基調にした豪華絢爛の飾り付けを思い浮かべる人も多いだろう。ランタン作りといえば四川省が有名だが、福 建省にも面白い特徴をもった独自のランタンが三種類ある。
一つは竹でフレームを作り、その周りに素材を付けていくことで、複雑な造形を可能にしたランタン。一つはフレームが無く、パネルを組み合わせて作るタイプのランタンで、パ ネルに細かく穴を開ける事でここから光を漏らすようにしている。一つは窓に特徴のあるランタンだ。このランタンの窓を見ると、まるで中に細長い蛍光灯のようなライトを仕込んでいるようだが、実は、中 のランプは球体で、窓に仕掛けられた細い棒が光を屈折させて、球体を細長く見せている。
この3種類の独自の技術を組み込みながら、福建省のランタン作りは行われている。もちろん、こういう物は全てが手作業の一品物ばかりではないが、今でも福建省にはランタン作りの人間国宝がいる。今回、縁 あって李珠琴さんの元を訪れる事が出来たのは、本当に幸いだった。
写真1 李珠琴さんが作ったランタン
様々な方に福建省の物作りについてお聞かせ頂いたが、福建省の物作りというのは、一つの技術から成り立っている訳ではない。優れた工芸品を作り出す事が出来る職人は、様 々な技術の集大成としてそのジャンルに属しているだけで、実は多くの技術に精通しているという職人が、あまりにも多いのだ。何かを繋げ、一つの形を作り出すためには、多くの知識と技術が必要で、創 作の渇望の為にそれを自然に吸収しながら、職人達は技術を磨いてきたのかもしれない。
ランタン作りの人間国宝である李珠琴さんは、優れた紙彫刻の技術者でもある。優れた竹細工の職人でもあり、優れた設計士でもあり、優れた絵描きでもあるのだ。そ の全ての技術を駆使して一つのランタンを産み出す。それが、素晴らしくない訳ないだろう。福建省のランタン職人で人間国宝として認められているのは、現在では彼女一人なのだという。
写真2 ランタン作りの人間国宝、李珠琴さん
中国の産業も、年々変化していっているのだ。人工知能の発達で、職人の感性もいつしか機械に取って代わられる時代も来るかもしれない。しかし、人の手作業により産み出される物の魅力は、き っとその時代でも色褪せない物であると願いたい。少なくなりつつある職人を育てる為に必要な「技術を育む産業」を蘇らせる方法は、福建商人や華僑の歴史の中から見つけ出せるのかもしれない。
※出典:「福建商人を支えてきた、福建人の物作り」『CKRM』vol.04(2016年7月),pp.23-25,アジア太平洋観光社。