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【07-05】中国・地域イノベーション事例-環渤海湾地域の発展(中)~山東省・威海市で活躍する日本人技術者~

岡山純子(中国総合研究センター アソシエイトフェロー)  2007年6月20日

 前号で紹介した通り、中国政府は1980年代の珠江デルタ、1990年代の上海・浦東新区に引き続き、今後は天津浜海新区の開発を強化し、環渤海湾地域の発展を目指す方針を打ち出している。

 今回は渤海の入口にあたる山東省・威海を紹介する。

山東省の概況~韓国勢が活躍

 山東省(省都:済南)は渤海湾の入口に位置しており、人口9,248万人、一人当たり域内GDP2万元(2005年、同年の中国における一人当たりGDPは1.4万元)、面積15.3万km2(北海道の2倍弱)の省である。ビールで有名な青島は、山東省の大きな都市のひとつである。

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 地理的に韓国の対岸に位置することもあり、山東省における外資受入状況を見ても、韓国が圧倒的に多い。また、威海の空港ではサムスンのモニタばかりが設置されていた。

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 山東省に進出した日系企業は食品分野の企業が多い(日清製粉、加ト吉、アサヒビール等)。

山東省の科学技術・教育

渤海湾周辺の経済技術開発区(○印)及びハイテク技術産業開発区(+印)

 山東省は、孔子、孟子、諸葛孔明といった歴史上の有名人の出身地であることも影響してか、全般的に知的レベルが高いと言われている。省内には、済南大学、山東大学などの重点大学がある。

 また、国家級の経済技術開発区やハイテクパークも海沿いを中心に多数指定されている。

  • 山東省内の国家級経済技術開発区:青島、煙台、威海(右図○印)
  • 山東省内の国家級ハイテクパーク:威海、済南、青島、淄博、濰坊(右図+印)

 威海のハイテクパーク内には、北京をはじめ中国全土に9箇所ある清華大学系列のTsinghua Science Park (Weihai) Co. LTD(中国語名:居迪創業管理(威海)有限公司)も立地している。

山東省・威海市の概況

 威海市は、山東省の先端部分に位置する、総面積5436km2、人口250万人弱の沿岸部開放都市である。一人当たりGDPが山東省で最も高い市である。気候は穏やかで極めて過ごしやすく、中国政府から「国家級文明都市」に選ばれただけでなく、国連からも「世界居住環境規範都市ベスト100」に選ばれている。
地理的には渤海・黄海を挟んで対岸が韓国となることから、先述の通り、韓国企業の活躍が目立つ。韓国・仁川(インチョン)とは、飛行機で1時間弱、直通フェリーで14時間程度の距離にある。
ちなみに、渤海湾の北側の対岸にあたる大連とは高速フェリーで2時間、威海から車で1時間程度の煙台からは週二回、関空行きの直行便が出ている。

威海で活躍する日本人技術者

 威海市に登録している日本人の数は70名程度と少ないが、いくつかの日本企業が進出している。今回、中国の工作機械メーカへの技術指導を行いつつ、自らも威海で起業された大平研五氏にお話を伺った。

飛躍的に成長する中国工作機械メーカ:威海華東数控股份有限公司

 威海華東数控股份有限公司(以降、HDCNCと略す)は2002年に国営企業が民営化し成立したNC工作機械メーカである。中国は世界一の工作機械消費国であることも影響し、同社の売上は2005年には40億円、従業員850名に達している。 大平氏はHDCNCにて工作機械の技師長を3年間勤めた。「HDCNCの汎用フライス板は月産平均650台程度。同社はこれをほぼ全て売りさばいている(一台30万円程度で販売)。日本企業だと大手工作機械メーカでも年産200台程度なので、驚異的な売上。」と驚きを隠さない。最近では中国国内への販売のみならず、イタリアやドイツへの輸出も始めたとのことである。

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 工場の中では、日本製のファナック社のパーツが各所で組み込まれているのが印象的だった。  2005年4月には胡錦涛国家主席が同社を訪問した。

 NC工作機械は、2006年に公表された国家中長期科学技術計画や第11次五ヵ年計画でも重大特定プロジェクトの1テーマに位置づけられている。国家主席が視察に訪れたことからも中国として重要性を認識している様子がうかがえる。

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中国での起業体験談:威海東大機械設計有限公司
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 大平氏はHDCNCで工作機械の技師長を勤めた後、自ら2006年9月に起業し、威海東大機械設計有限公司を独資で立ち上げた。

 現在社員数は約10名。多くは山東省の大学の出身者だが、黒竜江省出身の社員もいる。
威海東大機械設計有限公司の主要事業は、工作機械の設計から試作まで。2004年に日本の大手工作機械メーカ池貝を買収した上海電機・機床有限公司の技術指導も行っている。

 社長の大平氏は、日本の大手工作機械メーカに努めた後、韓国・光州の工作機械メーカに7年間勤務、その後中国・威海に拠点を移し、現在は威海に4年在住している。
日本語を話せる人材が少ない等の苦労はあるものの、起業時を振り返って「投資センターは、必要な情報さえ与えれば、20万円程度の料金で、10日で会社をつくる手続きを行ってくれた。 そうしたサービスは極めて充実していると感じる。」とコメントしてくれた。

 山東省は先述の通り、知的レベルの高い人材が多く、かつ人件費も比較的安いという利点があるが、優秀な人材が上海へ出てしまうという問題点も抱えている。また、東北地方(遼寧省、吉林省、黒竜江省の3省)から来ている人材が多いという特徴もある。

おわりに~威海の魅力

 威海は日本・韓国などに航路を持つ港があり、部品・製品の輸出入に際してコスト優位性があるといえる。また、清浄な空気と穏やかな気候も大きな魅力といえる。日本人の多くは北京・上海に注目しがちだが、こうした穴場とも言える地域が中国にはまだ多く残されている。大平氏をはじめ、威海で活躍する日本人数名も、「煙台~威海~青島の周辺地域は穴場」と言っていた。

 製造業の立場からすると、「汎用部品は調達可能だが、特注品を得るには上海に行かなければならない」点などがネックとなるが、今後中国政府の発展計画により、渤海湾周辺地域へのテコ入れが本格化すれば、こういった問題も徐々に解消されてくるのではないだろうか。

 今回訪問したHDCNCの様に急成長している中国企業が、日本の技術や部品を組み入れた製品を販売するような取り組みは、今後の日中の協力関係の1つのあり方と言える。

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主要参考文献:

  1. 中華人民共和国国家統計局編「中国統計年鑑2006」
  2. JETRO青島事務所「山東省の概況」2006年9月
  3. 威海市対外貿易経済合作局「中国威海」
  4. 財団法人自治体国際化協会「中国から日本の地方都市への航空直行便開設」2005年7月)
  5. 中国科学技術部国家タイマツハイテク産業発展センター
  6. 月刊生産財マーケティング2005年11月号
  7. 威海華東数控股份有限公司ホームページ
  8. 21世紀中国総研編「中国進出企業一覧-上場会社編-2007-2008年版」蒼蒼社