【14-019】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(15)
2014年 9月5日
金 振(JIN Zhen):
科学技術振興機構中国総合研究交流センター フェロー
1976年 中国吉林省生まれ
1999年 中国東北師範大学 卒業
2000年 日本留学
2004年 大阪教育大学大学院 教育法学修士
2006年 京都大学大学院 法学修士
2009年 京都大学大学院 法学博士
2009年 電力中央研究所 協力研究員
2012年 地球環境戦略研究機関(IGES) 特任研究員
2013年4月 IGES 気候変動・エネルギー領域 研究員
2014年4月より現職
(4.2)自動車関連の法制度
燃費規制
2012年、中国の自動車年間生産量は1900万台に達し(図1)、国全体の自動車保有量は1億台を超えた(典拠:2013年自動車環境公報)。国全体におけるガソリン・ディーゼル消費量の55%は自動車が占めており、新規ガソリン需要の7割は拡大生産された新規自動車によって消費される(典拠:工業和信息化部「『乗用車企業平均燃料消耗量核算弁法』解読」)。これらのデータからも分かるように、中国自動車の全体的な燃料経済性(以下、燃費)の向上は、ガソリンやディーゼルの消費量の削減につながり、結果的には大気汚染対策にも役に立つことになる。
図1 自動車生産量の暦年変化
出典:2005年から~2012年までの国民経済社会発展統計公報に基づき金が作成
燃費基準
中国政府が2004年から導入した「GB 19578-2004乗用車燃料消耗量限値」は、国内史上初の義務型燃費基準である。本基準の特徴は、乗用車を2車種(一般車種と特定車種:3列シート以上の車種or手動変速機搭載(マニュアル)車)に分け、それぞれ16種類の重量ランクを設定し、ランクごとに燃費基準(100Km走行距離あたりの燃料使用量:L/100Km)を設ける「重量タイプ型規制方式」を採用している。また、本基準では、規制レベルの異なる2種類の基準が設けられ、それぞれ2005年7月1日と2008年1月1日に分けて順次導入する2段階適用方式を採用していた。現行基準は2012年
1月1日から導入された第3段階基準である(GB27999-2011)。2014年1月21日、自動車燃費規制行政の監督庁となる工業和信息化部(産業・情報技術部)は、第4段階基準を導入するためのパブリックコメントを実施した。順調であれば2016年1月1日から第4段階基準への移行が可能となる。表1は、現行基準と第4段階基準案についてまとめたものである。第3段階に比べ、第4段階の燃費基準は2割以上も厳しいものとなっている。
典拠:工业和信息化部「意见征集:《乘用车燃料消耗量限值》、《乘用车燃料消耗量评价方法及指标》强制性国家标准修订」、国家基準GB27999-2011に基づき、金が作成 | ||||
車両重量(CM)Kg | 車種燃費目標値 L/100Km | 車種燃費目標値 L/100Km | ||
第3段階基準 2011年~ 2015年 | 第4段階基準 2016年~ 2020年(予定) | 第3段階基準 2011年~ 2015年 | 第4段階基準 2016年~ 2020年(予定) | |
CM≤750 | 5.2 | 3.9 | 5.6 | 4.1 |
750<CM≤865 | 5.5 | 4.1 | 5.9 | 4.3 |
865<CM≤980 | 5.8 | 4.3 | 6.2 | 4.5 |
980<CM≤1090 | 6.1 | 4.5 | 6.5 | 4.7 |
1090<CM≤1205 | 6.5 | 4.7 | 6.8 | 4.8 |
1205<CM≤1320 | 6.9 | 4.9 | 7.2 | 5.0 |
1320<CM≤1430 | 7.3 | 5.1 | 7.6 | 5.3 |
1430<CM≤1540 | 7.7 | 5.3 | 8 | 5.5 |
1540<CM≤1660 | 8.1 | 5.5 | 8.4 | 5.7 |
1660<CM≤1770 | 8.5 | 5.7 | 8.8 | 5.9 |
1770<CM≤1880 | 8.9 | 5.9 | 9.2 | 6.1 |
1880<CM≤2000 | 9.3 | 6.2 | 9.6 | 6.4 |
2000<CM≤2110 | 9.7 | 6.4 | 10.1 | 6.6 |
2110<CM≤2280 | 10.1 | 6.6 | 10.6 | 6.8 |
2280<CM≤2510 | 10.8 | 7.0 | 11.2 | 7.2 |
2510<CM | 11.5 | 7.3 | 11.9 | 7.5 |
特定車種:3列シート以上の車種or手動変速機搭載車(MT) |
2020年目標および実現に向けた課題
2012年、国務院は「省エネ・新エネ自動車産業に関する発展計画(2012年〜2020年)」を発表し、企業平均燃費レベルを2015年まで6.9L/100Km、2020年まで5.0L/100Kmに向上させる目標を設定した。
馬冬らの研究グループの試算によれば、2011年時点における企業平均燃費レベルは7.5L/100Kmであり、このままの改善レベルでは2020年目標を達成することは厳しいと指摘している(典拠:马冬=安锋=康利平=Robert Earley「中国乘用车企业平均燃料消耗量(CAFC)及其限值标准(中国語)」汽车安全与节能学报、2012年、第3巻第4期)。
目標達成のための最大の課題は、如何に製造コストを下げるかである。中国政府の試算によれば、2020年目標を実現するためには、1.5万元(25万円相当)/台の自動車コストの上昇が発生する(典拠:表1前者の参考文献)。今後、補助金を含む国の更なる支援が必要となる。
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