【14-022】中国独禁当局による日系自動車部品メーカー等に対する課徴金事例の分析
2014年 9月22日
伊藤 ひなた(Ito Hinata)
中国弁護士、アクトチャイナ(株)代表取締役社長。北京大学卒。長年、日本及び中国を拠点として、日本企業の中国進出・事業再編・撤退、危機管理・不祥事対応、労務紛争などの業務を取り扱っている。2 011年に中国ビジネス法務を専門とするアクトチャイナ(株)を設立し、現在に至る(会社ウェブサイト http://www.actchina.co.jp)。
2014年8月20日、中国独禁当局の一つである国家発展改革委員会(以下、「発改委」という。)は、日系の自動車部品メーカー等12社が独占禁止法に違反しカルテルを行ったため、こ れらの会社に合計12.354億人民元(約210億円)の罰金処分を行ったと公告した。これは、2008年の独占禁止法施行以来、最大規模の罰金となり、日本の自動車部品業界に衝撃が走った。
1.課徴金事例の概要
発改委の公告によれば、課徴金事例の概要は、主に以下の通りである。
日系の自動車部品メーカー8社は、2000年1月から2012年2月までの10年以上にわたり、競争を減らし、最も有利な価格で自動車メーカーの注文を獲得するために、日本を拠点として協議を行い、主 に中国で販売される日系の自動車メーカーに納入する自動車部品の価格について合意した。また日系のベアリングメーカー4社は、2000年から2011年6月まで、日本及び上海で会合を開き、協 議して中国国内のベアリング価格を引き上げた。
発改委は、「自動車部品メーカー8社及びベアリングメーカー4社は、自動車部品及びベアリングの価格カルテルを実施したことにより、独占禁止法に違反し、市場競争を制限・排除し、中国の自動車部品、完 成車及びベアリングの価格に不当な影響を及び、川下のメーカーと消費者の利益を損ねた。」と説明をしている。
2.リニエンシーの適用について
中国独占禁止法46条1項は、カルテルを行った企業に対しては、前年度売上高の1%~10%に相当する額の罰金を課す旨を定めている。そして、同条2項は、い わゆるリニエンシー(課徴金減免)制度に関する定めを置いており、自発的に独禁当局(後述のとおり、カルテルを管轄する独禁当局は、中央レベルでは発改委である。)に対して独占合意の達成に関する状況を報告し、か つ重要な証拠を提出した場合には、独禁当局は情状を酌量して当該企業に対する処罰を減軽し、又は免除することができると規定している。本件では、日系の自動車部品メーカーのうちの4社は、独 禁当局の調査に協力的だったことを理由に、リニエンシー制度を適用し、以下のとおり、罰金が免除又は減軽されたと公表されている( 発改委ウェブサイト参照)。" < /p>
(1)自動車部品メーカーのうち、最初に自らカルテルに関する状況を報告し、かつ重要な証拠を提供した会社は、罰金を免除された。また、二番目に自ら状況を報告し、かつ重要な証拠を提供した会社は、前 年度の売上高の4%に相当する罰金を課せられた。
(2)ベアリングメーカーのうち、最初に自らカルテルに関する状況を提供し、かつ重要な証拠を提供した会社は、罰金を免除された。また、二番目に自ら状況を報告し、かつ重要な証拠を提供した会社は、前 年度の売上高の4%に相当する罰金を課せられた。
それ以外の自動車部品メーカー・ベアリングメーカーに対して、発改委は、具体的な違反情状(違反の時間、対象製品の範囲等)に応じて、それぞれ前年度の売上高の6%又は8%に相当する罰金を課している。
3.発改委の機能
中国の独禁当局は、中央レベルでは商務部、国家工商行政管理総局及び発改委である。そのうちの発改委は、主に中国国内の経済活動における価格カルテルに対する取締を行っている(これに対して、商 務部は企業結合に関する審査業務、工商行政管理局はその他の独占合意に対する取締を主に行っている。)。また、中国国外で行う価格カルテルであっても、中 国国内の市場競争に対して排除的又は制限的影響をもたらすものであれば、発改委の管轄事項となる。
発改委の管轄事項たる価格カルテルの具体的な形態としては、主に、①商品・サービスの価格水準を固定し又は変更すること、②価格の変動幅を固定し又は変更すること、③価格に影響を及ぼす手数料、割 引又はその他の費用を固定し又は変更すること、④合意した価格を使用することを第三者との取引の前提とすること、⑤価格計算の基礎となる標準公式の採用を約定すること、⑥ 合意に参加する他の事業者の同意を得ずに価格を変更してはならないことを約定すること、が挙げられる(価格独占禁止規定7条)。
発改委は、価格カルテルの管轄行政機関として、特に2013年以降、取締を強化している。その対象は、内資企業であるか外商投資企業であるかを問わず、液晶パネル、白酒、パウダーミルク、ジュエリー、自 動車、自動車部品等の多くの業界に及んでいる。以下は、発改委及び地方の価格主管部門による課徴金事例の一部をまとめたものである。
※2014年8月現在、1人民元は約17円である。 | ||||
製品 | 処分公告時期 | 対象企業 | 対象行為 | 罰金総額 |
液晶パネル | 2013年1月 | 韓国、台湾の液晶パネルメーカー | 価格カルテル | 3.53億人民元 |
白酒 | 2013年2月 | 中国国内の大手白酒メーカー | 価格カルテル | 4.49億人民元 |
パウダーミルク | 2013年8月 | 中国国内・外資系の粉ミルクメーカー | 価格垂直カルテル | 6.69億人民元 |
ジュエリー | 2013年8月 | 国内のジュエリー老舗及び業界団体 | 価格カルテル | 1059.37万人民元 |
自動車 | 2014年8月 | 武漢のドイツ系自動車メーカーディーラー4社 | 新車整備検査(PDI)の料金を統一して徴取する価格カルテル | 162.67万人民元 |
自動車部品 | 2014年8月 | 日系の自動車部品メーカー8社及びベアリングメーカー4社 | 価格カルテル | 12.354億人民元 |
過去の公表事例を見ると、発改委は取締を強化する姿勢を打ち出しており、今後かかる調査が常態化し、他業界にも影響を広げる懸念がある。現時点でも、発改委は米国の通信・半 導体開発企業や上海の米国系の合弁自動車メーカーに対して価格に関する調査を行ったとの報道がある。
4.課徴金事例の分析
本件課徴金事例を踏まえ、中国の独禁当局は取締を強化しており、それを踏まえた対応が求められていること、過去の処分事例であっても安心することはできないこと、を指摘することができる。
まず、発改委をはじめとする中国の独禁当局については、欧米の独禁当局と比較すると課徴金事例がまだ少なく、中国独占禁止法の施行から日も浅いことから、本 格的な取締を開始するのはまだ先のことであると楽観視されていたように思われる。しかし、本件事案を含む課徴金事例を分析すると、ここ数年、欧米独禁当局の実務を参考に、中 国国内外の企業に対して取締活動を強化していることを読み取ることができる。
次に、今回の課徴金事例では、2012年までに行われたカルテルが処分の対象とされており、いわば過去の事例に対して課徴金が課せられたことが読み取れる。各 国の独禁当局が本件日系の自動車部品メーカーに対して課徴金を課したのも2年程度前のことであり(例えば、日本の公正取引委員会については2012年11月のことである。 http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h24/nov/121122_1.html)、た とえ既に中国以外の独禁当局からの処分が一段落し、現時点ではカルテル行為を行っていなかったとしても、中国独禁当局からの処分について楽観視することはできない。
いずれにせよ、本件課徴金事例は中国に進出する企業に対する影響が大きく、引き続き、中国独禁当局のカルテル取締の動向を見守る必要があると言えよう。
以上