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【15-006】中国ビザ新規定と実務対応

2015年 3月12日  尹秀鍾(Yin xiuzhong):中国律師、法学博士、廣東深秀律師事務所(深圳)

 2014年11月6日、中国政府(人力資源社会保障部、外交部、公安部、文化部)は、「外国人の入国短期業務遂行に関する取扱い手続(試行)」(以下「新規定」)を公布しました。新規定は2015年1月1日より施行されましたが、筆者が居住している広東地域では、春節(旧正月)が明けてから短期就業許可(許可証書)と就業証明(工作証明)の申請(この申請手続は、就業ビザすなわちZビザを申請するための前置手続になります)を受理するとのことです。新規定は施行されたばかりの規定であり、各地での実務運用が多少異なる可能性もありますので、関連地域の最新情報に留意する必要があります。

新規定の趣旨

 新規定は、外国人の中国での不法就業・就労行為を取り締まることを目的としており、新規定で定めるビザを取得せずに関連業務に従事した場合、入国後に公安機関による処罰[1]を受ける可能性があります。

短期業務と非短期業務[2]

 新規定が施行される前は、中国国内で3ヶ月以上就業する場合、就業許可及びZビザを申請しなければならないとされていましたが、新規定が施行された後は、滞在期間の長短ではなく業務内容により「短期業務」と「非短期業務」(詳しくは下記をご参照ください)に分類され、短期業務に該当する場合には中国国内滞在期間が90日を超えなくても就業許可及びZビザを申請する必要があります。一方、非短期業務に該当する場合には中国国内滞在期間が90日を超えなくてもMビザ(入国後、商業貿易活動に従事する者に対して発行するビザです)やFビザ(入国後、交流、訪問、考察などの活動に従事する者に対して発行するビザです)を申請する必要があります。

 なお、現時点において、短期業務に該当しない商用(経商)、観光、親族訪問の目的で入国する日本人[3]の場合、滞在期間が15日を超えないときにはビザの取得が免除されています。

図1 短期業務と非短期業務
短期業務 非短期業務
下記いずれかの事由で入国し、
かつ国内滞在期間が90日を超えないもの

  1. 中国国内の提携先(境内合作方)にて、技術、
    科学研究、管理、指導等の業務を遂行すること
  2. 中国国内の体育機構にて訓練(試訓)を行うこと
    (コーチ、選手を含む)
  3. 映画撮影
    (コマーシャル、ドキュメンタリーを含む)
  4. ファッションショー
    (モーターショーモデル、広告撮影等を含む)
  5. 渉外営業性公演への従事
  6. 人力資源社会保障部門が認定するその他の状況
下記いずれかの入国事由に該当するもの

  1. 購入した機械設備のメンテナンス、据付、テスト、解体、指導及び研修
  2. 中国国内での落札プロジェクトに対する指導、監督、検査の実施
  3. 中国国内の支店(分公司)、子会社、代表処に派遣され、短期業務の遂行
  4. 体育競技への参加(選手、コーチ、チームドクター、マネジャー等を含む[4]
  5. 入国し無報酬業務の従事、又は海外機構が報酬を提供するボランティア等
  6. 文化主管部門が批准書に「渉外営業性公演」と注記しない場合
図2 取得すべきビザ[7]
ビザ種類 入国事由
Z (1)上記の短期業務に該当する場合[5]
(2)上記の短期業務及び非短期業務のうち①-③、⑤に該当し、毎回の入国滞在期間が90日を超える場合[6]
M 上記の非短期業務のうち、①、②、③、④に該当し、かつ国内滞在期間が90日を超えない場合
F 上記の非短期業務のうち、⑤、⑥に該当し、かつ国内滞在期間が90日を超えない場合
ノービザ 現時点において、上記の短期業務に該当しない商用(経商)、観光、親族訪問の目的で入国する日本人の場合、滞在期間が15日を超えないとき

図3 短期業務の遂行に必要なZビザの取得方法

図3

非短期業務の遂行に必要なMビザの取得方法

 Mビザにはシングルビザ(1回限り)、ダブルビザ(2回限り)、マルチビザ(有効期限内であれば入国回数の制限を受けない)の3種類に分かれます。このうち、マルチビザは発行日より最長2年間の有効期間が与えられ、1回あたりの滞在期間も最長90日まで認められます。中国駐外ビザ発行機関に提出すべき資料としては、申請書、パスポート原本、写真、中国国内企業発行の招聘状などの関連書類があります。詳しい内容については、関連機関に事前に確認することを推奨します。

実務対応

 新規定に定める内容、例えば「中国国内の提携先」の定義、短期業務と非短期業務(特に図1の太字部分)の区別、国内滞在期間90日の計算方法などについては依然として不明瞭な点が少なくありません。また、地方政府の関連手続窓口の運用が開始されたばかりであるため、実務運用が安定してない状況にあるといえます。

 従って、これまでノービザで日本人社員を中国に入国させビジネス活動に従事させていた日本の会社が、新規定の施行を受け、事前にマルチMビザを取得させるなどの対策に乗り出す例も見受けられます。特に、上記の非短期業務のうち、「中国国内の支店(分公司)、子会社、代表処に派遣され、短期業務の遂行」に該当するケースは非常に多いと思われることから、かかる入国事由に該当する場合はMビザを取得しなければなりません。なお、香港法人に勤める日本人社員の場合、近隣の華南地域(深センや広州など)の現地法人にノービザでのビジネス出張を繰り返したケースも実際多くありますが、今後はその業務内容及び中国国内での滞在期間などの要素を総合的に考慮し、対策を講じる必要性が出てきたといえます。

 現時点においては、短期業務に該当しない商用(経商)目的で入国する日本人の場合、滞在期間が15日を超えないときにはビザの取得が免除されていますが、かかる「商用(経商)」の範囲はかなり広く、上記の短期業務と非短期業務(特に図1の太字部分)を遂行するためのビジネス出張の多くは「商用」に該当すると解釈されてもおかしくありません。従って、今後、中国政府が商用目的のノービザ入国者について新しい解釈を行う可能性はゼロではないと考えます。ノービザ入国者の場合、現段階のリスクヘッジ対策としては、出張目的が上記の短期業務と非短期業務には該当しないもの(例えば取引先との商談、現地法人視察など)と理由づける書類等を事前に準備することが考えられます。

 上記のように、新規定は外国人の中国での不法就業・就労行為を取り締まることを目的としており、長期的に見て、ビザ免除の適用範囲は更に制限され、政府当局による管理体制も更に強化され、また細分化されていくものと思われます。なお、中国各地での実務運用が多少異なる可能性もありますので、関連地域の最新情報の入手に努める必要があり、関連主管機関に対し事前に確認作業を行うことが望ましいといえるでしょう。

【本稿に関するお問い合わせは(尹秀鍾)まで】


[1] 「出国入国管理法」、「外国人入国出国管理条例」及び「中国での外国人就業管理規定」に基づく処罰となります。

[2] 本稿では、短期業務遂行とは見なさない入国事由を「非短期業務」といいます。

[3] これは「シンガポール、ブルネイ、日本公民に対する短期ビザ免除取得の措置」に基づくものです。

[4] 但し、国際体育組織の要求に従い、中国の主管部門の批准を得て登録カードを所持して入国し試合に参加する等の場合は除外されます。

[5] 中国との間で相互ビザ免除協定を締結する国家の人員は、入国し短期業務を遂行する場合、入国前に就業証明(工作証明)を取得し、中国の駐外ビザ発行機関でZビザ申請を行う必要があります。

[6] これに該当する場合、「中国での外国人就業管理規定」に基づき関連手続申請を行う必要があります。

[7] その他の取得すべきビザについては「外国人入国出国管理条例」(2013年)の規定をご参照ください。