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【15-009】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(24)

2015年 5月12日

金 振

金 振(JIN Zhen):
科学技術振興機構中国総合研究交流センター フェロー

1976年 中国吉林省生まれ
1999年 中国東北師範大学 卒業
2000年 日本留学
2004年 大阪教育大学大学院 教育法学修士
2006年 京都大学大学院 法学修士
2009年 京都大学大学院 法学博士
2009年 電力中央研究所 協力研究員
2012年 地球環境戦略研究機関(IGES) 特任研究員
2013年4月 IGES 気候変動・エネルギー領域 研究員
2014年4月より現職

 2013年1月における深刻な大気汚染をきっかけに、中国政府は、さまざまな石炭消費量削減政策を導入した。これらの政策のうち、2013年から実施した石炭消費量規制制度が特に注目に値する。2 015年現在、国全体の石炭消費量の4割を占める8つの地域(北京市、河北省など)が規制対象に含まれ、2012年比石炭消費量のマイナス成長を義務付けられた。

石炭消費量削減に関する国家目標

 中国政府が地方政府および事業者に対し、石炭消費量の抑制またはマイナス成長を義務付ける主な制度的根拠は、2013年、大気汚染対策の一環として定めた石炭削減目標である。いいかえると、2 013年までの中国の石炭削減策は、省エネや環境対策を中心とした間接的な規制に頼っており、石炭消費量そのものを規制対象とした国家目標(以下、石炭目標)は存在していなかった。しかし、法 的拘束力のない内部指導目標はあった。

 例えば、2012年、国務院は、省級政府を対象に地域石炭消費量削減指標(キャップ)を内部通達した。だが、この指標は、対外的には公表されておらず、また、そ れが法的拘束力のない指導目標にとどまるものであったため、実効性には限界があった。

 状況が変わったのは、2013年からである。同年1月に発生した深刻な大気汚染を契機に、中国政府は史上初の石炭規制目標制度を導入し、北京市、天津市、河北省、山 東省の4つの地方政府に定量削減義務を課した( シリーズⅦ )。この制度の導入によって、例えば、北京市の場合、2,270万トン/年 相当の地域石炭消費量(2012年)を2017年までに、1,000万トン/年に削減する義務が課された。削減率に換算すると2012年比-55.9%に相当する(図1、表1)。

図1

図1 石炭消費量削減目標の導入状況(2015年5月現在)

出典:国家改革発展委員=財政部等「重点地区煤炭消费减量替代管理暂行办法」(发改环资[2014]2984号)
http://www.sdpc.gov.cn/gzdt/201501/t20150114_660128.html 、中国統計年鑑2014、等に基づき、CRCCの金が作成

表1 石炭消費量削減目標の設定状況(2015年5月現在)

表1

出典:国家改革発展委員=財政部等「重点地区煤炭消费减量替代管理暂行办法」(发改环资[2014]2984号)
http://www.sdpc.gov.cn/gzdt/201501/t20150114_660128.html 、中国統計年鑑2014等に基づき、CRCCの金が作成

規制地域の拡大:国全体石炭消費量の4割を占める8つの地域が規制対象に

 2014年、12月29日、国家改革発展委員会や財政部など6つの中央省庁は連署規則「重点地区石炭消費量削減量代替管理暫定規則」(発改環資[2014]2984号)を発表し、石 炭規制目標制度の適用範囲を上海市、江蘇省、浙江省、広東省(新規規制地域)までに拡大した。本規則では、新規規制地域に対し、2015年6月まで、削減目標を提出することを求めている。本規則の導入により、全 国石炭の4割を消費する8つの地域が、2017年まで、石炭消費量のマイナス成長を迎えることになる(図2)。

図2

図2 規制地域における石炭消費量の全国割合(2012年)

出典:国家改革発展委員=財政部等「重点地区煤炭消费减量替代管理暂行办法」(发改环资[2014]2984号)
http://www.sdpc.gov.cn/gzdt/201501/t20150114_660128.html 、中国統計年鑑2014等に基づき、CRCCの金が作成

規則の内容

 本規則の内容に関連して、以下の3点を指摘しておく。第一に、本規則は、地方政府に、石炭削減目標を達成するための年度目標を策定し、その目標を業界および事業所レベルまでに細分化することを求めている。2 2 さらに、地方政府は、年度削減目標の達成を裏付けるための具体的な実施計画を提出することが求められる。また、実施計画と目標達成の整合性を裏付けるため、実 施計画における具体策の削減効果も明記しなければならない。

 第二に、本規則は、石炭を直接消費する新規事業・設備計画の許認可審査と地域の石炭規制目標をリンクさせる制度を導入している。石炭規制目標の導入によって、地域が消費できる石炭総量(石炭消費枠)に は制限がかかるため、新規事業に割ける石炭消費枠が圧迫される。今後、新規事業が許可されるためには、削減努力等による石炭消費枠の確保が必要となる。

 第三に、本規則は、地方政府に、石炭を直接消費する既存事業の抑制や関連設備の強制淘汰、省エネ措置の導入等の対策を講じることを求めると同時に、新エネ導入による石炭代替措置の導入も義務付けた。つ まり、規則は地方政府に事業者を対象とした規制措置だけでなく、地域エネルギー構造の転換政策の導入も求めている。

本規則の政策的インパクト

 本規則では、地方政府が導入すべきさまざまな政策手段を具体的に列挙している(図3)。これらの措置は新規導入制度ではなく、第12次5ヵ年計画のもとで展開している既存制度の「いいとこ取り」に よるものである。環境政策や産業政策、エネルギー政策として、省庁ごとに実施してきた多種多様な政策は、これまで、必ずしも整合性が十分取れていたわけではなかった。本規則の公布によって、さ まざまな既存制度が石炭規制目標をもとに、より実効性のある制度として統合された。

 本規則の発表によって、中国の石炭規制制度の整備に更なる拍車がかかった。この点については、引き続き注目していきたい。

表1

図3 第12次5ヵ年計画における石炭消費総量削減政策の枠組み

出典:政府発表政策文書に基づき、CRCCの金が作成

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