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【15-011】中国会社法第182条に基づく司法解散制度

2015年 6月25日

尹秀鍾(Yin xiuzhong): 中国律師、法学博士、廣東深秀律師事務所(深圳)

華南地域の日系企業を対象に、対中直接投資、M&A、労働法務、再編・撤退、民商事訴訟・仲裁、その他中国現地オペレーションに関する法的サービスを提供している。日本語による著作・講演も多数。& lt; /p>

はじめに

 中国法でいう会社解散とは、設立済みの会社に法令若しくは定款に定める解散事由が発生した場合、関連主管部門が法令により経営活動を停止するよう命じた場合、又 は裁判所が会社を解散させる判断を下した場合に、会社を解散することをいう。

 会社の解散により、会社は経営活動を継続する資格を停止され、法令に基づき清算を行うことになる。会社の清算が終了した後、会社登記機関において会社登記を抹消した日に会社は終了する。

Ⅰ 会社解散制度

 中国法で定める会社解散は、任意解散、法定解散と強制解散に分けられ、強制解散には行政解散と司法解散が含まれる。

1 任意解散

 会社定款に定める解散事由、すなわち、会社定款に定める経営期間が満了したとき又は会社定款に定めるその他の解散事由が発生したとき、会社定款の変更により会社を存続させない限り、会社は解散する。こ こでいうその他の解散事由として、例えば会社の欠損額が一定の金額に達したとき、経営条件に重大な変化が生じたときや不可抗力が発生したときなどが考えられ、これらの解散事由が生じた場合、株主(総)会 の決議をもって会社を解散することができる。

 また、会社の存続中に、会社定款に定める解散事由が発生したか否かにかかわらず、株主(総)会の決議をもって何時でも会社を解散することができる。会 社がその設立目的を既に達成した場合又はこれを達成する見込みがない場合、会社の資金繰りが困難となった場合やその他の事由により会社の経営を継続できない状態に至った場合は、株主(総)会 は解散の決議を行うことができる。解散決議は特別決議によらなければならず、有限責任会社の場合は三分の二以上の議決権を有する株主により、株 式会社の場合は株主総会に出席した株主の保有する議決権の三分の二以上により採択しなければならない(会社法第43条、第103条)。

2 法定解散

 会社の合併若しくは分割により会社を解散する必要がある(存続分割の場合は会社解散の問題は生じない)か、又は会社が期限の到来した債務を弁済できないため、裁判所から破産宣告を受けた場合、会 社は解散する。破産宣告を受けた会社は、会社法上の清算手続を行うのではなく、企業破産に関する法律に基づく破産清算手続によることとなる。

 また、中国会社法上、一人株式会社が認められないことから、株主の数が法定人数に達しないときは法により会社の形態を一人有限責任会社に変更するか、又 は株式譲渡を通じて法定人数を満たす株主数とするなどの方法を講じない限り、会社を解散しなければならない。

3 強制解散

 会社は、行政機関の命令、司法機関の裁定により会社を解散しなければならないことがあるが、前者を行政解散といい、後者を司法解散という。

 法令に基づき営業許可証を取り消され、閉鎖を命じられ、又は取り消されたときなどは行政解散事由に該当する。会社の経営活動において違法行為が発覚した場合、主 管登記機関などの行政機関は会社解散を命じる権限を有する。例えば、会社が登録資本金を偽って報告し、虚偽の資料を提出し、又はその他の欺罔手段を用いて重要な事実を隠蔽して会社登記を行った場合、そ の情状が重いときは会社登記を取り消し、又は営業許可証を取り消すとされる(会社登記管理条例第64条、第65条)。また、会社成立後、正当な理由なくして6か月を超えても開業せず、又 は開業後に連続6か月以上自ら営業を停止している場合、会社登記機関は営業許可証を取り消すことができる(会社登記管理条例第68条)。

 一方、司法解散とは、裁判所が株主の申請に基づいて、会社に正当な解散事由が存在していることを理由に会社を強制的に解散させる裁定を下すことをいう。会社法第182条によれば、会 社の経営管理に著しい困難が生じ、引き続き存続すると株主の利益に重大な損失を被らせるおそれがあり、その他の方法によっても解決できない場合、会社の全株主の議決権の10%以上を保有する株主は、裁 判所に会社の解散を請求することができる、とされている。会社法第182条に定める司法解散制度は、株主間の紛争が協議又は調停等により解決できない場合において、か かる紛争を終局的に解決するための方法を提供するものである。以下、司法解散制度について詳しく検討することにする。

Ⅱ 司法解散制度

 会社のデッドロックとは、会社が経営過程の中で、株主間又は董事間の対立が深刻化し、どちらも譲らず平行線のままであるため、株主(総)会、董 事会などの会社機関が法定の手続に従い決議を行うことができなくなり、会社が長期にわたって正常に運営することができない局面に陥ったことをいう。

 株主(総)会のデッドロックとは、株主(総)会において対立するグループに属する株主の有する議決権が同等であるか、又は一方の株主が拒否権を行使することができるため、株主(総)会 を開催することができないか、又は仮に開催することができたとしても決議を行うことができない場面を指す。董事会のデッドロックとは、株主(総)会におけるものと同様であるが、董 事会において対立するグループの有する議決権が同等であるか、又は一方が拒否権を行使することができるため、董事会を開催することができないか、又 は仮に開催することができたとしても決議を行うことができない場面を指す。

 会社法第182条は、会社のデッドロックの解決方法として、株主による解散請求権を認めると同時に、当該解散請求を認容するための厳格な要件を定めている。

1 司法解散の適用範囲

 会社法第182条によれば、会社の経営管理に著しい困難が生じ、会社が引き続き存続すると株主の利益に重大な損失を被らせるおそれがある場合に限って、司法解散による解決を図ることができるとされる。「 会社の経営管理に著しい困難が生じた」場面には、会社が経営不振で、かつ経営管理者の更迭を通じてもなお経営不振の状況を改善することができない場合、株 主間に深刻な対立が生じ協議によっても解決することができない場合、又は特定の株主の会社に対する支配権の濫用により会社とその他の株主に損失をもたらした場合などが含まれる。「会社法」適 用の若干問題に関する規定(二)第1条第1項は、会社のデッドロックの場面について以下のとおり詳細に定めている。

(1) 会社が連続して2年以上株主会又は株主総会を開催できず、会社の経営管理に著しい困難が生じた場合

(2) 株主による議決において、法定又は会社定款に定める比率に到達することができず、連続2年以上有効な株主会又は株主総会決議を行うことができず、会社の経営管理に著しい困難が生じた場合

(3) 会社の董事が長期にわたり対立し、かつ株主会又は株主総会によっても解決できず、会社の経営管理に著しい困難が生じた場合

(4) 経営管理において他の著しい困難が生じ、会社を引き続き存続させることが株主に重大な損失を与える場合

2 司法解散の原告と被告

 会社解散請求においては、単独で又は合計で会社の全株主の議決権の10%以上を保有する株主のみが原告適格を有する。一部株主の濫訴による会社の正常な経営活動への妨害、会 社及びその他の株主に損害を及ぼすことを防止するために、会社法は司法解散の原告適格を有する株主の持分保有要件を定めている。

 また、会社解散請求訴訟においては、会社を被告としなければならず、原告株主はその他の株主を被告として併せて会社解散訴訟を提起することはできない。もっとも、原 告株主が会社解散請求訴訟を提起した場合、その他の株主は共同原告又は第三者の身分で当該訴訟に参加することができる。

3 司法解散の訴訟管轄

 会社解散の訴訟事件は、会社の住所地の裁判所が管轄する。ここでいう会社の住所地とは、会社の主たる事務機構の所在地を指し、これが明確でない場合は、その登録地の裁判所が管轄する。

4 司法解散の訴訟担保と保全

 裁判所は会社解散訴訟を受理したとき、職権又は被告の申請に基づき、原告株主に一定金額の担保を提供するよう命じることができる。但し、原 告株主が証拠を提出して会社に解散事由が存在していることを証明できる場合、裁判所は被告の訴訟担保申請を却下することができる。訴訟担保を提供させる目的は、一 部株主の濫訴による会社の正常な経営活動への妨害を防止し、会社の正常な運営の確保とその他の株主の正当な利益を保護することである。

 また、原告株主が裁判所に対し財産保全又は証拠保全を申し立てた場合、原告株主が担保を提供し、かつ会社の正常な経営に影響を与えない状況にあるときは、裁判所は保全を認めることができる。

5 司法解散の前置要件

 会社がデッドロックに陥ったとき、株主は、「その他の方法によっても解決できない」場合に限ってはじめて会社解散を請求することができるものとされている。このことはすなわち、当 事者は会社解散請求訴訟を提起する前に、できる限り講じ得る解散請求以外の救済措置を講じなければならない。例えば、株主間又は第三者への出資持分譲渡や会社に対する持分買取請求権の行使などにより、原 告株主を会社から撤退させるか、または原告株主がその他の株主の出資持分を譲り受けることにより、デッドロック状態を解消して会社を存続させるなどの方法が考えられる。

6 司法解散の調停手続

 裁判所は会社解散に関する訴訟事件を審理する際、調停(調解)手続を重視しなければならない。当事者が協議を行い、会社もしくはその他の株主が原告株主の出資持分を買い取り( 原告株主がその他の株主の出資持分を譲り受けることもあり得る)、又は減資などの方法によって会社を存続させることに同意し、かつ法律、行政法規の強制規定に違反しない場合には、裁 判所はこれを支持しなければならない。会社解散に関する訴訟事件において、調停手続を欠かすことはできない。裁判所の主宰で調停協議書に合意し、又は裁判所の調停を経て和解協議書を締結し、かつ株主(総)会 で関連する変更決議を行い、又は原告株主の出資持分を譲り受け、原告株主を会社から撤退させるなどの方法を通じて、会社の解散を回避し、会社の各利害関係者の利益を保護することが最も望ましい。

7 解散判決の拘束力

 裁判所が会社解散の訴訟について下した判決は、会社の全株主に対して法的拘束力を有する。裁判所が判決により会社解散の訴訟請求を棄却した後に、当 該訴訟を提起した株主又はその他の株主が再び同一の事実及び理由によって会社解散の訴訟を提起した場合には、裁判所はこれを受理しない。会社は解散した後、会社の合併、分割又は破産の場合を除き、会 社法の定める清算手続に従い清算を開始しなければならない。

終わりに

 中国における会社の司法解散制度は、2005年10月の会社法改正の際に会社法に取り入れられたばかりで、その歴史は未だ浅い。会社法第182条に定める会社解散請求は、単 独で又は合計で議決権の10%以上を保有する株主にとっては、少なくとも訴え提起のハードルは低いため、濫用的な訴え提起がなされる可能性がある。一方で被告会社及び原告株主を除くその他の株主にとっていえば、原 告株主による会社解散請求訴訟が提起されてから慌てて訴訟対応に追われることが多く、受動的な立場に置かれやすい。

 従って、複数の株主による合弁企業の場合、企業設立のときから予め会社のデッドロックの場面をも想定して、合弁契約及び定款の条項について慎重な検討が肝要であり、また、紛争発生時には、適時・適正・効 率的な対応が求められる。