【16-014】2016年、中国における外商投資企業に係る手続の変革~審査認可から届出への移行~
2016年10月 5日
柳 陽(Liu Yang):中国弁護士
北京大学、慶應義塾大学法学修士。日本企業の対中投資と貿易、M&A、事業再編、撤退、労務紛争等の中国法業務全般を取り扱う。長島・大野・常松法律事務所所属。
2016年9月3日、中国の立法機関である全国人民代表大会常務委員会は、三資企業法と呼ばれる「外資企業法」、「中外合資経営企業法」及び「中外合作経営企業法」を改正する旨の決定(以下「本決定」という。)を行い、本決定は同年10月1日より施行された。本決定の施行により、外商投資企業の設立・変更・終了に係る手続が、中国政府が別途公表するネガティブ・リストに該当する業種を除き、従来の審査認可から届出に移行することになった。また、本決定の施行に向けて商務部は9月3日、「外商投資企業の設立・変更届出管理暫定弁法(意見募集稿)」(以下「暫定弁法」という。)を公布し、9月22日までパブリックコメントを受け付けていた[1]。 本稿は、本決定及び暫定弁法の重要な事項について解説することを目的としたものである。
1.審査認可から届出への変更
これまで、外商投資企業の設立、変更、終了について全て中国政府の商務部門による審査認可を受けなければならないとされていた。これに対し、本決定及び暫定弁法によれば、今後は、ネガティブ・リストに該当する業種を除き、外商投資企業は、所轄の商務部門に届出をするだけでよく、商務部門の審査認可を受ける必要がなくなり、手続が大幅に簡略化されることとなる。
すなわち、従来は、例えば、外商投資企業を設立するために、先に商務部門の審査認可を得て、商務部門から許可証書を取得してから、工商行政管理部門で会社登記手続を行い、営業許可証の交付を受けることとされていた。これに対し、暫定弁法によれば、外商投資企業を設立する際に、その設立前に又は営業許可証交付後30日以内に、商務部門に届出をすればよく、届出が会社登記の前提条件ではないこととされる。また、外商投資企業に重要な変更(例えば経営範囲、登録資本金の変更等)が生じた場合にも、商務部門の審査認可を受けることなく、企業の意思決定機関が変更を決議した後30日以内に、商務部門に届出をすればよいこととされる。暫定規定施行前に既に設立された外商投資企業については、改めて届出手続をする必要はなく、変更事項が生じる都度変更届出手続をすれば足り、届出完了の時点で「外商投資企業批准証書」が失効することとなる。
なお、ネガティブ・リストに該当する業種については、従前どおり、審査認可制に従った手続を採る必要がある。
2.届出の分類
暫定弁法によれば、外商投資企業の届出は企業設立届出及び企業変更届出に分類されている。このうち、企業設立届出は、文字通り、企業を設立するに際しての届出であり、これに対し、企業変更届出は、外商投資企業・投資者の基本情報の変更、持分・株式等の変更(持分質権設定を含む)、合併、分割、終了、外資独資企業財産権益の抵当権設定・譲渡、中外合作企業の外国投資者の先行投資回収、中外合作企業の委託経営管理等を含む、企業の重要事項の変更に関する届出である。
3.届出のオンライン手続
暫定弁法によれば、外商投資企業の設立・変更届出を行う際、外商投資総合管理情報システムを通じてオンラインで申告し、また申請資料を提出することとなる。届出機関は申告された情報を確認し、3営業日以内に届出を完了させ、かつ、前記届出システムを通じて届出結果を公表することとされる。また、届出完了後、企業は、届出完了証憑の受取の要否を自ら決定することができることとされる。
オンラインで届出をする際に、以下の申請資料の提出が求められることになる。
- 外商投資企業名称事前確認資料又は外商投資企業の営業許可証
- 外商投資企業の全投資者もしくはその授権代表が署名した「外商投資企業設立届出承諾書」、又は外商投資企業の法定代表者もしくはその授権代表が署名した「外商投資企業変更届出申告承諾書」
- 全投資者又は外商投資企業の指定代表若しくは共同代理人の証明(委任状及び受託者の身分証明)
- 外商投資企業又は法定代表者が第三者に書類調印を委任することの証明(委任状及び受託者の身分証明)(書類調印を委任する場合のみ)
- 投資者の資格証明又は身分証明(変更事項が投資者の基本情報に係らない場合には提供を要しない)
- 法定代表者の身分証明(変更事項が法定代表者に関連しない場合には提供を要しない)
現行法と比べて、暫定規定は申請書類を簡略化し、これまで要求されている外国投資者の信用証明、F/S報告、合弁契約、定款等の書類の提出が不要になることとなる。
4.届出義務等違反の制裁
暫定弁法によれば、商務部門は抜き取り検査、通報に基づく検査等の方法により、外商投資企業の届出義務の履行状況等について監督・管理することが規定されている。 外商投資企業が届出義務を怠ったり、審査認可を得ずにネガティブ・リストに該当する業種の投資経営活動を行ったりする場合には、3万元を上限に、違法所得の3倍の過料を課されることも明記された。また、この違法行為の存在は、商務部の外国投資信用ファイルシステムに登記され、後日、外国投資情報公示システムにより公表されるおそれもあるため、レピュテーションリスクに繋がることを踏まえ、企業としては注意が必要である。
以上
[1] 本稿完成の9月末の時点で、パブリックコメントを受けた暫定弁法の最終案はまだ公表されていない。