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【17-004】中国現地法人の抹消登記手続が簡易に

2017年 2月23日

柳 陽(Liu Yang):中国弁護士

 北京大学、慶應義塾大学法学修士。日本企業の対中投資と貿易、M&A、事業再編、撤退、労務紛争等の中国法業務全般を取り扱う。長島・大野・常松法律事務所所属。

 中国に進出している日本企業は、経営方針の変化等により中国現地法人を解散し撤退する場合があるが、「撤退難」という言葉が端的に示すように、現地政府の消極的な反応に加え、中 国からの撤退手続は極めて煩雑であり、会社登記機関で抹消登記手続を終えるまでに年単位で時間がかかる事例も少なくない。

 ただし、このような撤退に伴う状況は、近い将来、改善される可能性がある。中国の国家工商行政管理総局は、2016年 12月 26日付で「 企業抹消登記簡易化改革を全面的に推進することに関する指導意見」(以下「本指導意見」という。)を公布し、同意見は2017年 3月 1日より施行される予定である。本指導意見によれば、一 定の条件を満たす企業は、企業抹消登記の際に簡易手続を選択することにより、従来と比べて複雑な手続を避けて、撤退に要する時間を短縮することができる。

 本稿は、本指導意見の要点について紹介することを目的としたものである。

1 手続の適用範囲

 簡易抹消登記手続の適用対象は、営業許可証取得後に経営活動を展開していない、又は抹消登記申請前に債務・債権が生じていない、若しくは債務・債権の清算が完了している有限責任会社、非会社企業法人、個 人独資企業、パートナーシップ企業に限定されている。これらの企業は、企業抹消登記の申請の際に、通常手続又は簡易手続のいずれかを選択することができる(本指導意見第2条第1項)。

 ただし、以下のいずれかに該当する場合には、簡易登記抹消手続を適用しないこととされている。

(1) 国の規定により参入規制が実施されている業種に従事する外商投資企業

(2)「企業経営異常名簿」又は「重大違法信用喪失企業名簿」にリストアップされたこと

(3) 持分の差押え、質権設定又は動産抵当等が生じたこと

(4) 立件調査されている、又は行政措置、司法協力要請、行政処分等の措置が採られたこと

(5) 法人格を有しない支店が抹消手続を行っていないこと

(6) 簡易抹消手続を中止させられたことのある企業

(7) 法律、行政法規若しくは国務院の決定により、登記抹消前に許認可を得る必要があること

2 手続の流れ

 簡易登記抹消手続を選択した企業は、会社登記機関に対して、以下の流れに従い申請することとなる(本指導意見第2条第2項)。

(1) 「国家企業信用情報開示システム」の「簡易抹消公告」欄に、簡易登記抹消手続を申請する旨、及び全投資家の承諾等の情報を45日間、公告する。

(2) 企業の登記機関は、前記の情報を税務部門、人力資源・社会保障部門、商務部門等に共有する。

(3) 公告期間中、利害関係者及び政府関係部門は、国家企業信用情報開示システムにおける「簡易抹消公告」の「異議伝言」機能を利用し、異議を述べることができる。

(4) 公告期間満了後、企業は、登記機関に対して申請資料(申請資料の内容は後述する。)を提出し、抹消登記簡易手続申請を行う。

(5) 登記機関は、申請を受けた場合に申請資料を審査し、公示期間中に異議の申入れがなかった企業に対して、3営業日以内に簡易抹消登記許可の決定をし、公示期間中に異議の申入れがあった企業に対して、3 営業日以内に簡易抹消登記の不許可の決定をする。

 これに対して、通常手続の場合には、企業は、解散決議の後、(債権債務の結了の有無にかかわらず、)清算委員会を立ち上げ、清算を完了させなければ、抹消登記を行うことができない。清 算手続において債権者への公告、新聞紙への掲載、各政府部門での手続など、長期間を要することも多い。

 なお、裁判所の決定に基づく強制清算又は倒産の場合、当該企業の清算委員会又は管財人が裁判所の強制清算又は倒産に関する決定をもって、登記機関にて簡易登記抹消手続を行うことができる。

3 申請資料

 通常登記抹消手続と比べ、簡易登記抹消手続の申請資料も簡略化されている。

 すなわち、本指導意見第2条第2項によれば、企業は、①申請書、②指定代表若しくは共同委任代理人の委任状、③全投資家の承諾書、④営業許可証の原本・副本を提出することで足り[1]、通 常登記抹消手続で必要となる清算報告、投資者決議、税務登記抹消証明書、清算委員会届出証明書、清算を公告した新聞等の資料は提出する必要がなくなる。

4 違法責任

 簡易登記抹消手続は効率性・利便性の点などから、今後、活用されることが期待されるが、他方、企業が偽って簡易登記抹消手続の申請をした場合には、相応の責任が追及されることとなる。

 例えば、本指導意見書第2条第3項によれば、企業が簡易登記抹消手続の際に偽りの情報を提供した場合、登記機関は、登記抹消を取り消し、当該企業を復活させ、重大違法信用喪失企業リストに掲載し、かつ、国 家企業信用情報開示システムで公告することができる。また、利害関係者は、民事訴訟によりその権利を主張することができる。企業が悪意で登記抹消簡易手続を利用して債務を逃れ、又は他人の権利を侵害した場合、利 害関係者は、民事訴訟により、投資者に対して民事責任を追及することができる。

5 まとめ

 中国政府は、2015年から上海市浦東新区、江蘇省塩城市、浙江省寧波市、広東省深セン市をはじめ、天津市、浙江省、広東省、瀋陽市等の地域において、実験的に抹消登記簡易手続を開始していた。本 指導意見は、前記各地域で試行されていた抹消登記簡易手続を全国的に展開するものである。

 本指導意見は、企業抹消手続の簡素化を図る点で評価できるものである。しかし、簡易登記抹消手続の適用対象が債権債務関係のない企業に限定されており、そのため、その条件を満たさない企業の「撤退難」の 問題は依然として解決されない。また、本指導意見は、国家工商行政総局が単独で制定したものであり、税務、税関等の他の政府部門との連動をどのように行うか等の点がまだ明確ではなく、今後、実 際の運用に目を離せないところである。

以上