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【17-009】間もなく施行される中国「自動車販売管理弁法」について

2017年 6月 5日

柳 陽(Liu Yang):中国弁護士

 中国弁護士。北京大学卒、慶應義塾大学法学修士。日本企業の中国進出、M&A、事業再編、撤退、労務紛争、一般企業法務等の中国法業務全般を取り扱う。

 中国商務部は、2017年4月5日に、自動車販売管理弁法(以下「新法」という。)を公布し、同法は2017年7月1日より施行される。これに伴い、現行法である自動車ブランド販売管理実施弁法(以下「旧法」という。)は廃止されることとなった。新法は、自動車販売モデルに大きな変化をもたらすことになり、日系企業を含む自動車業界から大きく注目を浴びている。本稿では、新法の重要な改正点及びその影響について紹介する。

1 自動車メーカーからの授権のない販売方法の導入

 旧法下では、自動車メーカーはディーラーに対して優位的な地位を与えられており、ディーラーは自動車メーカーの授権を得なければ当該自動車メーカーの自動車を販売することができず、自動車メーカーに対して従属的な立場に置かれていた。これに対し、新法下では、授権販売の他、自動車メーカーからの授権のない販売の方法も認められており、ディーラーは、自動車メーカーからの授権を得ないでも、他のディーラーから自動車を仕入れたり、並行輸入の自動車を販売したり、あるいは自動車に関して電子商取引を行ったりすること等が可能とされている。これにより、授権販売のみが認められていた旧法下とは異なり、自動車メーカーから授権されていないディーラーであっても、自動車販売市場に参入し、他のディーラーと競合することが可能となる。

 但し、今後も自動車の主要な販売方法は授権販売であるという状況が続くことが予想されるため、ディーラーにとって自動車メーカーと密接な関係を保つことが円滑な販売につながるという状況には変わりがないものと思われる。

2 販売とアフターサービスの分離

 従来、中国における自動車流通は、旧法下で、自動車メーカーがディーラーに対して事実上要求し、ディーラーが自動車ユーザーに対して提供する4種類の業務に支えられてきた。この4種類の業務は、販売(Sale)、スペアパーツ(Spare part)、アフターサービス(Service)、 調査(Survey)のことであり、これらの業務を店舗で提供するディーラーは4S店ディーラーと呼ばれていた。これをディーラー側の視点から見ると、ディーラーは、自動車メーカーからの事実上の要求に応え、市場で期待された役割を果たすためには、自動車の販売(Sale)だけでは足りず、スペアパーツ(Spare part)、アフターサービス(Service)、 調査(Survey)をも提供できるようになる必要があり、そのためには、多額の投資を行い4S店ディーラーとなる必要があり、ディーラー業務の市場への参入障壁となっていた。

 これに対し、新法は、自動車メーカーが、ディーラーに販売機能とアフターサービスの機能の具備を要求してはならないことを明確に定めた。これにより、自動車の販売とアフターサービスを担うディーラーが分離することが可能となり、販売のみに従事するディーラーとアフターサービスのみに従事するディーラーが現れることが予想される。さらに、ディーラー側から見ると、販売からアフターサービスまでを提供する4S店ディーラーを開設・維持するための多額の資金が必要ではなくなるため、ディーラー業務への市場参入がしやすくなるといえる。また、自動車ユーザーにとっても、自動車の購入や修理を依頼する際に、より幅広いディーラーから選択することができるようになる。

3 ディーラーの利益保護の強化

 旧法と比べて、新法は、ディーラーの利益保護をより手厚く図っている。すなわち、新法においては、自動車メーカーが、ディーラーの意に反して、完成車・部品在庫の品目や数量、車両販売台数を設定すること、自動車メーカーの名義で実施する広告、展覧会等の宣伝プロモーション費用を負担させること、広告宣伝の方式・媒体を限定すること、商品の抱き合わせ販売をすること、ディーラーの人事・財務管理を干渉すること、ディーラー間の相互転売を制限すること等が禁止されている。これらは日本法における下請法に類似する規制であるように思われる。

4 自動車ユーザーの権益の保護

 新法は、自動車メーカー及びディーラーの禁止行為を新設することにより、自動車ユーザーの権益の保護を図っている。すなわち、自動車メーカー及びディーラーが、自動車ユーザーの戸籍所在地を限定すること、自動車ユーザーに対し保険加入を自動車購入の条件とすること、車両登録登記手続代理等のサービスの購入を強要すること、自動車ユーザーが利用することのできるディーラーを限定すること等が禁止されている。

 また、新法により、自動車メーカー及びディーラーは、自動車ユーザーからの苦情申立てに対する制度を構築することが求められ、自動車ユーザーの苦情を受理する部門・人員を明確にし、かつ、自動車ユーザーに対し苦情申立ての方法について告知しなければならないこととされた。さらに、自動車メーカー及びディーラーは、当該苦情申立てを受理した後、7営業日以内に、苦情の伝達及び処理状況について自動車ユーザーに通知しなければならないこととされた。

 さらに、新法下では、自動車メーカーは、生産停止又は販売停止をする車種について遅滞なく社会に公布しなければならず、かつ、その後、少なくとも10年間は、部品供給及び相応するアフターサービスを保証することが義務付けられることとなった。

5 情報届出義務

 新法下では、自動車メーカー及びディーラーは、営業許可証取得の日から90日内に、国務院商務主管部門全国自動車流通情報管理システムを通じて基本情報を届け出なければならずまた、届け出た基本情報に変更が生じた場合には、情報変更の日から30日内に、更新届出を完了しなければならないとされている。新法の施行日である2017年7月1日以前に既に設立されている自動車メーカー及びディーラーについては、新法の施行日より90日内に基本情報を届け出ることが義務付けられている。

6 罰則

 新法に違反した場合は、是正命令、警告又は情状の軽重を斟酌して最高3万元の過料に処される。さらに、政府の商務部門より信用履歴に記録され、社会に公表されることになるので、企業のレピュテーションリスクとなるおそれがあり、注意が必要である。

 中国の自動車保有台数は、年々増加傾向にあるが、従来の自動車メーカー主位の供給市場が競争を阻害し、ユーザーの多様なニーズを満たすことができない。新法の施行により、今後、自動車販売、修理及びアフターサービスの分野において、ディーラーの自由競争が活発になっていくことが期待される。

(以上)