【18-005】中国不正競争防止法の改正及び施行
2018年 4月17日
柳 陽(Liu Yang):中国弁護士
中国弁護士。北京大学卒、慶應義塾大学法学修士。日本企業の中国進出、M&A、事業再編、撤退、労務紛争、一般企業法務等の中国法業務全般を取り扱う。
2017年11月4日、中国の立法機関である全国人民代表大会常務委員会において、不正競争防止法の改正案が可決された。これは、不正競争防止法が1993年に施行されてから初めての改正となり、改 正後の不正競争防止法(以下「新法」という。)は、2018年1月1日に施行された。
1.改正の背景
不正競争防止法が1993年に施行されてから現在まで20年以上の期間が経過しているが、この間、中国の社会及び経済は著しく発展してきた。これに伴い、新たな商業モデルが相次いで登場する中で、不 正競争の態様も多様化してきたが、改正前の不正競争防止法では多様化した不正競争を規制するのには十分ではなくなっていた。また、過去20年以上の間、中 国において独占禁止法をはじめ重要な新法が次々と制定される中で、これらの新法と不正競争防止法との間で条文の重複や不整合性が生じるという問題も顕在化してきた。これらの問題を解決するためにも、不 正競争防止法を改正する必要性が高まっており、今回の改正に繋がったものと思われる。
2.改正の主な内容
前記のとおり、新法は多様化する不正競争の態様に対応するために改正された。以下では、新法において、新たに規制の対象とされた不正競争の類型を個別に紹介し、行 政部門の調査権限が強化された点についても解説する。
(1) 混同行為
まず、新法は、混同行為について各具体的な形態を列挙した上で、「他社の商品であると誤認させ、又は他人と特定の関係があるものと誤認させる」行為として明確に定義し、改正前の不正競争防止法と比べて、混 同行為の対象を一定の影響力を有する他人の企業名称(略称、屋号等を含む)、社会組織の名称(略称等を含む)、氏名(ペンネーム、芸名、訳名等を含む)、ドメインネームの主体部分、ウェブサイトの名称、ウ ェブページ等まで拡大した(新法6条1号乃至3号)。すなわち、①無断で一定の影響力をもつ他人の商品の名称、包装若しくは装飾等、同一又は近似のラベルを使用する行為、②無断で一定の影響力をもつ企業名称、社 会組織の名称、氏名を使用する行為、③無断で一定の影響力をもつ他人のドメイン名又は主体部分、ウェブサイト名、ホームページ等を使用する行為、及びその他の事由を補足する事項、④その他、他 人の商品であるかと誤認させ、又は他人と特定の関係があると誤認させる行為を禁止し、権利保護の範囲を拡大した。
また、混同行為を実施した場合の罰則として、不法経営額の5倍以下又は25万元以下の過料を課され、かつ、営業許可証を取り消される可能性がある(新法18条1項)。また、企 業が登記した企業名称が前記混同行為の規制に違反する場合、速やかに名称変更登記を申請しなければならないとされている(同条2項)。なお、不法経営額とは改正前の不正競争防止法に存在した概念であるが、今 回の改正では当該概念自体には特段の変更がなされていないため、従前どおりの計算方法が当てはまるものと思われる。
(2) 商業賄賂
次に、新法は、商業賄賂の受領側の範囲を「取引先たる企業等又は個人」から「取引先の従業員、取引先の委託を受けて関連業務を行う企業等又は個人、職 権又は影響力を利用して取引に影響を及ぼす企業等又は個人」まで拡大した(新法7条1項)。なお、商業賄賂とは、事業者が競争相手を退けることを目的として、取引機会を獲得するために、取 引相手の関係者及び取引に影響を与える人物に、財物若しくはその他の便宜を密かにはかる不正な競争行為をいい、公務員に対するものではないが、中国法上は賄賂の一種とされている。
また、事業者の従業員が贈賄を行った場合、当該従業員の行為を事業者の行為としてみなされることとされている。かかるみなし規定においては、贈賄と業務との関連性を何ら要件としていないにもかかわらず、従 業員の行為を事業者の行為とみなしていることが特徴的である。贈賄に関して事業者の責任逃れを防ぐ趣旨が読み取れる。ただし、上記規定の例外として、当 該従業員の行為が事業者の取引機会又は競争優位の獲得と無関係であることを事業者が証明した場合は認定の対象から除外されることとされている(同条3項)。その結果、新法により、従 業員の贈賄行為についても企業は原則として責任を負うことが明確になり、「従業員の勝手な行動」、「会社は知らない」等の言い分は、上記の例外に該当することの証明に成功しない限り、法 的責任を免れる根拠とはならないこととされた。
(3) 虚偽宣伝
また、新法は、虚偽宣伝に対する規制を強化した。ところが中国ではインターネットの急速な普及により、近年、オンラインショッピングが盛んになり、出店者は自らの評価やランクを上げるために、架 空の取引を行わせ、販売履歴やユーザレビューを偽造するという現象が多発している。
新法は、これに対応すべく、従来の(事業者による)「誤解を与える虚偽宣伝」という文言を「虚偽又は誤解を与える宣伝」という文言に改めて、禁止対象の範囲を広げ(新法8条1項)、さらに、事 業者の架空の取引等による宣伝を明確に禁止した(同条2項)。なお、違反した場合の罰則として、新法は、改正前の不正競争防止法より過料の金額を引き上げ、2 0万元以上200万元以下の過料を課すことを規定している(新法20条1項)。
(4) 商業秘密
さらに、新法は、商業秘密として保護される範囲を拡大した。従来、不正競争防止法において商業秘密は「公衆に知られておらず、権利者に経済利益をもたらすことができ、実用性を有し、かつ、権 利者が秘密保持措置を取った技術情報及び経営情報」として定義されていた。ただこれでは商業秘密に対する保護が不十分との指摘もあり、新法は、かかる定義を、「公衆に知られておらず、商業的価値を有し、且つ、権 利者が一定の秘密保持措置を取った技術情報及び経営情報」という文言に改正し(新法9条3項)、商業秘密の保護範囲を拡大した。
また、新法は、商業秘密の権利者の下で就労する従業員、元従業員又はその他の組織、個人等の第三者が、営業秘密を侵害することを知りながら又は知るべきにもかかわらず、当該営業秘密を獲得し、開示、使 用し、又は他人に使用を許諾した場合、営業秘密を侵害するとみなされると規定している(同条2項)。この点、例えば、他社において商業秘密を所持する従業員の転職を受け入れる場合、場 合によって他社の営業秘密を不法に取得したものとして規制の対象となるおそれもあり、注意が必要であろう。
なお、営業秘密を侵害した場合の罰則として、違法行為の停止乃至10万元以上300万元以下の過料を課される可能性があり(新法21条)、改正前の不正競争防止法より過料の金額を引き上げた。
(5) 信用毀損行為
新法は、事業者は虚偽の情報又は誤認を招く情報を捏造し、流布し、競争相手の商業上の信用又は商品の名声を損なってはならないと規定し、信用毀損行為を禁止している(新法11条)。改 正前も不正競争防止法は「虚偽の事実」を捏造、散布する行為を規制していたが、新法は、虚偽に至らなくても、公衆を惑わすような誤導的な情報を流布し競争相手の信用を毀損する行為も規制対象とした。
また、信用毀損行為について、新法では最大300万元の過料が課せられることとされた(新法23条)。
(6) インターネット上の不正競争行為
新法は、インターネット上の不正競争行為について新たに規定を設けた。すなわち、①他の事業者の同意を得ずに、他の事業者が適法に提供するインターネット商品又はサービスの中に、リ ンクや強制的な対象サイトへの移動機能を挿入する行為、②利用者に対し、他の事業者が適法に提供するインターネット商品又はサービスを変更、閉鎖、削除するよう誤導し、騙し、強要する行為、③ 悪意により他の事業者が適法に提供するインターネット商品又はサービスに対し、互換性がなくなるような措置を講じる行為、及び④その他事業者が適法に提供するインターネット商品又はサービスの正常な運行を妨害、破 壊する行為が規制対象とされた(新法12条)。
前記の規定に違反する場合、違法行為の停止が命じられ、さらに、10万元から300万元の過料を課される可能性がある(新法24条)。
(7) 調査手段
また、新法は、行政部門が保有する調査権限を強化している。すなわち、行政部門が不正競争防止法違反の嫌疑で調査する際に採り得る手段として、従来は、尋問、資料提出命令、資料の照会・複 写等の調査手段のみが規定されていたが、新法はこれに加え、①経営場所への立ち入り検査、②財物の差押え、押収、③事業者の銀行口座の照会等の調査手段を規定した(新法13条1項)。
もっとも、上記調査手段は強力な権限であり、濫用のおそれや事業者への影響が懸念されることから、これらの調査手段を用いる際には、調査担当者は行政部門の主要責任者に対して、書面により報告し、そ の承認を得なければならないとされている(同条2項)。
行政部門のかかる調査権限の行使を妨げたり拒否したりする場合には、是正命令が発令され、さらに(個人に対して)5000元以下の過料若しくは(企業に対して)5万元以下の過料を課すことができる( 新法28条)。
3.日系企業への影響
新法は20年以上にわたり改正されていなかった不正競争防止法を、現在の状況に合わせて改正するものである。しかしながら、その改正内容は規制行為の対象を拡大し、過料の金額を引き上げ、行 政部門が持つ調査権限を強化するというものであり、中国現地に子会社等を持つ日本企業としては、より一層注意を払う必要がある。特に、インターネット上の規制行為等、新 法において新たに規制対象とされた行為については、行政部門としても第一号案件として適切な事案がないか積極的に調査を進める可能性があるため、子会社に違反行為がないよう十分に留意するべきであると思われる。
以上