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【18-008】規制緩和:外商投資証券会社管理弁法について

2018年 6月22日

伊藤 ひなた(Ito Hinata)

 中国弁護士、アクトチャイナ(株)代表取締役社長。北京大学卒。長年、日本及び中国を拠点として、日本企業の中国進出・事業再編・撤退、危機管理・不祥事対応、労務紛争などの業務を取り扱っている。2 011年に中国ビジネス法務を専門とするアクトチャイナ(株)を設立し、現在に至る(会社ウェブサイト http://www.actchina.co.jp)。

 日本の証券取引等監視委員会に相当する中国証券監督管理委員会は、2018年4月28日付で「外商投資証券会社管理弁法」(以下「本弁法」という。)を公布し、本弁法は同日付で施行された。本弁法は、2002年6月より施行されていた「外資参入証券会社設立規則」(以下「旧規則」という。)に代わるものであり、本弁法の施行により旧規則は撤廃されることとされている。本弁法は、旧規則と比べて、外国投資者による証券会社の設立について規制を緩和するものであり、以下では、その主な改正内容を紹介したい。

1.改正の背景

 旧規則の下では、外国投資者は独資で証券会社(非上場のものを指し、以下特に断りない限り同様とする。)を設立することができず、必ず中国側との合弁会社という形態を取らなければならないこととされていた上、中国側の合弁会社に対する持分比率が過半数を超えることが要件とされていた。すなわち、旧規則の下においては、外商投資証券会社について、外国投資者が直接又は間接的に保有する持分比率が49%を超えることは認められていなかった。

 

 しかし、2017年11月に行われた米中首脳会談において、中国側は「外国投資者による証券、ファンド管理及び先物取引の会社への直接又は間接的な持分比率を51%まで緩和し、かつ、当該緩和措置が実施されてから3年後には、持分比率に対する制限を設けない。」という旨の発言をした。かかる発言を踏まえて、旧規則を撤廃し、本弁法を制定したとの趣旨説明が中国証券監督管理委員会からなされている。以下では、かかる改正の趣旨を踏まえつつ、個別の改正事項を説明することとする。

2.主な改正内容

(1)出資制限の緩和

 まず、前述のとおり、旧規則に基づき外商投資証券会社について中国側の持分比率が過半数を占めることが求められ、外国投資者の持分比率は49%までに制限されていたが、これに対して、本弁法は、外国投資者による持分比率の制限について具体的な規制を設けておらず、「外国投資者が累計で保有する(直接保有及び間接支配を含む。)証券会社の持分比率は、国による証券業対外開放に関する取決めに適合しなければならない。」とのみ規定している(本弁法7条2項)。かかる「国による証券業対外開放に関する取決め」が具体的にどのような内容となるのか、現時点では必ずしも明確ではないが、中国証券監督管理委員会の上記趣旨説明を踏まえれば、本弁法施行後、外国投資者による証券会社への持分比率は49%から51%まで引き上げられ、外国投資者も証券会社の支配株主になることができるものと解されている。

 

 なお、外国投資者が中国国内の上場証券会社に出資する場合には、旧規則によれば、単一の外国投資者が上場内資証券会社の株式を保有する(直接保有及び間接支配を含む)比率は20%を超えてはならず、外国投資者全体の当該保有比率は25%を超えてはならないとされていたが、これに対して本弁法は、当該保有比率に対する制限を削除している。中国証券監督管理委員会の上記趣旨説明を踏まえれば、この場合も、非上場外商投資証券会社と同じく、外国投資者全体の株式保有率が51%を超えないものと解される。これらについては、法令の文言のみからは必ずしも明らかではない点も多く存在するため、今後の明確な規則の制定や法実務の運用が期待されるところである。

(2)外商投資証券会社の定義の改正

 次に、本弁法では、外商投資証券会社の定義が改正された。すなわち、本弁法2条によれば、改正後は、以下の証券会社が、外商投資証券会社に該当することとされている。

① 外国投資者と中国出資者の共同出資により設立される証券会社

② 外国投資者が内資証券会社の持分を譲り受け又は引き受けたことにより、内資証券会社から変更された証券会社

③ 内資証券会社の出資者の実質的支配者が外国投資者へと変更したことにより、内資証券会社から変更された証券会社

 かかる定義のうち、③は旧規則には存在せず、本弁法において新設された類型であり、中国証券監督管理委員会の趣旨説明によれば、これは、内資証券会社の実質的支配者が外国籍になった場合を想定して新たに規定したものとのことである。

 

(3)外国投資者の資格要件の改正

 次に、本弁法では、外国投資者の資格要件が改正された。本弁法は、外商投資証券会社の外国投資者に対して以下の資格要件を課している(本弁法6条)。

① 外国投資者が所在する国又は地域において証券法律及び監督管理制度が整っており、関連金融監督管理機構が中国証券監督管理委員会又は当該委員会が認める機構と提携備忘録を締結しており、かつ、有効な提携関係を保持していること

② 外国投資者が所在する国又は地域において適法に設立された金融機構であり、かつ、直近3年間の各財務指標が当該所在国又は地域の法律規定及び監督管理機構の要求に適合していること

③ 外国投資者が、証券業務を5年以上継続して経営しており、直近3年間に外国投資者が所在する国又は地域の監督管理機構又は行政、司法機関から重大な処罰を受けておらず、重大な法律違反による疑いについて当局から調査を受けている状況も存在しないこと

④ 外国投資者が健全な内部統制を有していること

⑤ 外国投資者が良好な国際的信用及び経営業績を有し、直近3年の業務規模、収入、利益が国際的に上位に入り、かつ、直近3年の長期信用が高い水準を保っていること

 また、本弁法では、旧規則において存在した、外国投資者が3年以内に外商投資証券会社の持分を譲渡してはならないという旨の要件が削除されている。

(4)外商投資証券会社の業務内容の改正

 次に、本弁法では、外商投資証券会社の業務内容が改正された。すなわち、旧規則下において、外商投資証券会社の業務内容は、原則として、①株・債券の引受け及び保証推薦、②外資株の取次、③債券の取次と自己売買のみに制限されていた。これに対して、本弁法においては、上記の業務内容に関する規制を撤廃し、「外商投資証券会社の最初の業務範囲は、その支配株主又は筆頭株主の証券業務経験に適合するものでなければならない」とのみ規定しており(本弁法5条2号)、外商投資証券会社が従事できる業務を拡大したものと思われる。

3.まとめ

 本弁法の施行後、外国投資者が中国で証券会社を設立又は買収する場合、依然として完全子会社ではなく中国投資者と合弁会社を設立しなければならないという点については変わらないが、中国資本の持分比率が過半数を占めるという規制が廃止され、外国投資者が支配株主になる証券会社の設立が可能とされた。現在、日本を含む海外の複数の金融機関が中国証券監督委員会に外商投資証券会社の新規設立や既存会社の持分変更等について打診している動きが報道されており、今後の実務及び一連の規定の整備に引き続き注目していく必要があろう。

以上