【18-021】外資による中国のファンドへの参入に関する法制度及び実務運用について-参入増加が予想される中国ファンド投資(その2)
2018年11月30日
野村 高志:西村あさひ法律事務所 上海事務所
パートナー弁護士 上海事務所代表
略歴
1998年弁護士登録。2001年より西村総合法律事務所に勤務。2004年より北京の対外経済貿易大学に留学。2005年よりフレッシュフィールズ法律事務所(上海)に勤務。2010年に現事務所復帰。2012-2014年 東京理科大学大学院客員教授(中国知財戦略担当)。2014年より再び上海に駐在。
専門は中国内外のM&A、契約交渉、知的財産権、訴訟・紛争、独占禁止法等。ネイティブレベルの中国語で、多国籍クロスボーダー型案件を多数手掛ける。
主要著作に「中国でのM&Aをいかに成功させるか」(M&A Review 2011年1月)、「模倣対策マニュアル(中国編)」(JETRO 2012年3月)、「中国現地法人の再編・撤退に関する最新実務」(「ジュリスト」(有斐閣)2016年6月号(No.1494))、「アジア進出・撤退の労務」(中央経済社 2017年6月)等多数。
郭 望:
西村あさひ法律事務所 フォーリンアトーニー
略歴
2012年中国律師登録。2009年より北京市世澤法律事務所および北京市大地法律事務所で勤務、2012年12月より現職。
専門は中国における外商投資、M&A、労務、会社法務等。
(その1よりつづき)
4. 外資による中国のファンドへの参入スキーム及び実務運用について
上記の各参入方法において、「公募証券投資ファンド」及びその管理会社(「公募証券投資ファンド管理会社」)、外商投資の投資性会社及びベンチャー投資企業、並びに「ファンドカストディアン」等(本稿第3部分の図表における青文字の参入方法)については、関連する許認可を取得する方法又は設立に関する制度が比較的明確ですので、本稿ではその紹介を省略します。
以下では、主に外資の注目を集めている(本稿第3部分の図表における赤文字の参入方法)、(1)QFLP制度における私募ファンドである「外商投資持分投資企業」及びその管理企業(「私募持分投資ファンド管理企業」)、及び(2)外商投資の「私募証券投資ファンド管理会社」(ファンド運営管理業者に属する)について、関連する制度及び設立スキーム等を紹介します。
(1) QFLP制度の概要及び投資スキーム
本稿第2部分において説明したとおり、QFLP制度は中国の多くの地域において施行されており、現時点では国レベルの全国統一の制度は公布されていないため、地方によってその制度内容も異なります。以下では、上海市のQFLP制度を例としてまとめて紹介します。
上海市のQFLP制度において、典型的な投資スキームを以下紹介いたします。
① 外資独資の私募持分投資ファンド及びそのファンド運営管理業者の設立スキーム
上海市のQFLP制度は、外商投資の持分投資企業及びその管理企業の外資比率についての制限はないため、100%外資の持分投資ファンド及びそのファンド運営管理業者を設立することができます。なお、持分投資管理企業の外国投資家に関して制限する要件も特にないため、既に中国国内に投資性会社が設立されている場合に、当該投資性会社を用いて持分投資管理会社を設立することも考えられます。
② 中外合弁の私募持分投資ファンド及びそのファンド運営管理業者の設立スキーム
中国の投資家と合弁で、私募持分投資ファンド及びそのファンド運営管理業者(「私募持分投資ファンド管理企業」)を設立する場合、以下のスキームが考えられます。
上記①と同様に、既に中国国内に投資性会社が設立されている場合、当該投資性会社を用いて、中国の投資家と合弁で持分投資管理会社を設立することも考えられます。
③ 日本企業によるQFLP制度の利用事例
上海市のQFLP制度が2010年末に公布された後、実際の日本企業(ここでは便宜上「X社」と記載させていただきます)による利用事例も現れています。その投資スキームの概要は以下の通りです。
X社は、中国国内に100%出資で設立された「X(中国)投資有限会社」を通じて、中国企業2社との合弁により、ファンド運営管理業者である「上海X持分投資管理有限会社」を設立しました。更に、当該ファンド運営管理業者を通じて、「上海X持分投資パートナーシップ企業」(持分投資ファンド)を設立しました(その他にも複数のパートナーシップ企業(持分投資ファンド)を設立しました)。具体的な投資スキームは以下の図をご参照ください。
(2) 外商投資の私募証券投資ファンド運営管理業者に関する制度及び実務
私募証券投資ファンドとは、その名の示すとおり、証券投資を目的とする非公開募集の方法で設立したファンドをいいます。「証券投資ファンド法」第89条及び「私募投資ファンド監督管理暫定弁法」第5条の規定内容によれば、私募証券投資ファンドの運営管理機構の設立には、行政審査認可手続きは設定されておらず、私募証券投資ファンド運営管理業者としてAMACにて登録すれば証券投資ファンドを募集することができます。
しかし、現時点では、外資による私募証券投資ファンド運営管理業者の設立、AMACへの登録等に関する正式な根拠法令はまだ公布されておらず、2016年に、AMACのホームページ において、外商投資私募証券投資ファンド運営管理業者の設立・登録に関する政策的規定である「私募ファンド登録届出関連問題回答(十)」(以下「私募ファンド関連QA(十)」という)が公表されたに止まっています。
外商投資の私募証券投資ファンド運営管理業者に関する制度は不明瞭ですが、以下では実務上よく見受けられる疑問点について解説します。
① 外資独資の私募証券投資ファンド運営管理業者を設立することができるのか
本稿第3部において説明したとおり、2018年の外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)において、「証券投資基金管理会社」(証券投資ファンド運営管理業者)の外資出資比率について「51%を超えない」という上限が設けられており(従前より緩和)、2021年には当該外資出資比率の制限が撤廃される予定です。しかし、当該ネガティブリストに言及されている証券投資ファンド運営管理業者は、特に「公募」と「私募」が明確に規定されていないため、私募証券投資ファンド運営管理業者が外資出資比率の制限を受けるか否かについては明らかではありません。
この点、2016年の「私募ファンド関連QA(十)」の回答において、外資独資の私募証券投資ファンド運営管理業者の設立ができることが明らかにされました。そして、2017年に初めて、外資独資企業の富達利泰投資管理(上海)有限公司が、外資独資の私募証券投資ファンド運営管理業者としてAMACにおいて登録されました。
以上から、証券投資ファンド運営管理業者に対する外資出資比率の制限は、公募証券投資ファンド運営管理業者のみを対象としており、私募証券投資ファンド運営管理業者はその制限の対象外であることが明らかになったといえます。
② 外商投資の私募証券投資ファンド運営管理業者の設立・登録条件
上記①で説明したとおり、外商投資の私募証券投資ファンド運営管理業者の設立・登録に関する正式の根拠法令は公布されていないものの、AMACが公布した「私募ファンド関連QA(十)」の回答内容によれば、その設立・登録条件及び遵守すべき規定は以下のとおりに整理できます。
③ 外資独資の私募証券投資ファンド運営管理業者の実例
AMACの開示情報 によれば、2015年9月に、外資として扱われる香港系企業「富達基金(香港)有限会社」は、独資で「富達利泰投資管理(上海)有限会社」を設立し、同社は、2017年1月に、外資独資の私募証券投資ファンド運営管理業者として、AMACにおいて登録されました。現時点で、当該ファンド運営管理業者は、3つの私募証券投資ファンドを募集し、AMACに届出を行っております。
5. おわりに
以上のとおり、外資による中国のファンドへの参入に関する法令・政策には不明瞭な部分も存在しているものの、近年、中国が金融改革を積極的に行い門戸を広げていることから、今後更に関連する法制度が明確化され、より多くの地域において外資によるファンドへの投資制度が整備されることが期待されます。前述の、2017年の初の外資独資の私募証券投資ファンド運営管理業者の誕生、及び2018年の初の外資銀行によるファンドカストディアン資格の取得申請受理といった、外資による中国ファンド事業への参入事例の増加から、今後より多くの外国投資家が中国のファンド投資分野で活躍されることが期待されます。
(おわり)
※本稿は「西村あさひ法律事務所中国ニュースレター」(2018年10月号)より転載したものである。
[1] http://www.amac.org.cn/xhdt/zxdt/390744.shtml
[2] http://gs.amac.org.cn/amac-infodisc/res/pof/manager/1610250945101521.html
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