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【19-001】2018年の中国における重要立法を振り返る(上)~会社法の改正、電子商務法の制定を中心に~

2019年1月31日

野村高志

野村 高志:西村あさひ法律事務所 上海事務所
パートナー弁護士 上海事務所代表

略歴

1998年弁護士登録。2001年より西村総合法律事務所に勤務。2004年より北京の対外経済貿易大学に留学。2005年よりフレッシュフィールズ法律事務所(上海)に勤務。2010年に現事務所復帰。2 012-2014年 東京理科大学大学院客員教授(中国知財戦略担当)。2014年より再び上海に駐在。
専門は中国内外のM&A、契約交渉、知的財産権、訴訟・紛争、独占禁止法等。ネイティブレベルの中国語で、多国籍クロスボーダー型案件を多数手掛ける。
主要著作に「中国でのM&Aをいかに成功させるか」(M&A Review 2011年1月)、「模倣対策マニュアル(中国編)」(JETRO 2012年3月)、「 中国現地法人の再編・撤退に関する最新実務」(「ジュリスト」(有斐閣)2016年6月号(No.1494))、「アジア進出・撤退の労務」(中央経済社 2017年6月)等多数。

志賀正帥

志賀 正帥:西村あさひ法律事務所 弁護士 北京事務所代表

略歴

1982年上海市生まれ。2006年中央大学法学部卒業、2008年中央大学法科大学院修了、2009年弁護士登録。2012-2016年弁護士法人瓜生・糸賀法律事務所に勤務、2013-2016年北京代表処 一般代表に就任(うち、2015-2016年上海駐在)。三井住友銀行総務部での勤務を経て、2017年西村あさひ法律事務所に参画。
専門は日本国内の会社法務全般、中国内外のM&A、中国現地法人の会社法務等。

福王広貴

福王 広貴:西村あさひ法律事務所 アソシエイト 弁護士

略歴

2012年慶應義塾大学法学部卒業。2014年早稲田大学法科大学院修了。2015年第二東京弁護士会登録。西村あさひ法律事務所に勤務。
専門はプロジェクトファイナンス、日本法における金融規制、中国法におけるジェネラルコーポレート等。

1. 2018年を振り返って

 2018年は、会社法の改正、「電子商務法」の制定その他の民商事法分野や環境分野等における実務的な内容の法改正が多数なされました。中国における法制度が日増しに増大・充実すると共に、様々な分野で規制や管理が強化される流れも見受けられます。2018年に新たに制定又は改正された法令のうち、日本企業の中国ビジネスにも関係が深いと思われる重要法令を、2回に分けて解説します。今回は、民商事法及びインターネット関連の重要改正・立法を取り上げます。

2. 民商事法

① 「中華人民共和国会社法」の改正に関する決定(全国人民代表大会常務委員会、2018年10月26日公布、同日施行)

(1) 背  景

 旧「会社法」第142条(以下「旧規定」といいます。)は、会社が自己株式を購入することを原則禁止とし、4つの法定事由に該当する場合に限り、自己株式の購入を認めてきました。しかし、上記法定事由は非常に限定されており、現在増加する会社による従業員等に対するストックオプションの付与や、転換社債の活用に関するニーズに対応できていませんでした。また、旧規定においては、自己株式購入は必ず株主総会の決議を必要としており、それが自己株式購入を行う際の1つの障害となっていました。

 そこで、2018年10月26日付に「『中華人民共和国会社法』の改正に関する決定」が採択され、新「会社法」が同日付で公布・施行されました。新「会社法」では、上記のストックオプションや転換社債のニーズに対応するために、これらを自己株式購入の法定事由として明記したことに加え、自己株式を取得した場合には、保有期間についても、1年から3年に緩和されました。

 また、一定の目的下においては、自己株式購入を行う際には、株主総会決議ではなく、董事会決議で足りるとされています。一方で、上場企業による自己株式購入を用いた市場操作を防止する観点から、自己株式購入の開示について新たに規定を置いていることも今回の改正のポイントの一つとなります。改正内容は以下の通りとなります。

(2) 改正内容

旧規定と改正後第142条の比較表
旧第142条 改正後第142条
第142条 会社は自己株式を購入してはならない。但し、次の各号のいずれかに該当する場合はこの限りではない。 第142条 会社は、次の各号のいずれかに該当する場合、自己株式を購入することができる。
(1) 会社の登録資本を減少する場合 (1) 会社の登録資本を減少する場合
(2) 自社株式を保有するその他の会社と合併する場合 (2) 自社株式を保有するその他の会社と合併する場合
(3) 株式を褒賞として自社の従業員に給付するとき。 (3) 従業員による株式所有計画又はストックオプションに用いる場合
(4) 株主が株主総会で行った会社合併又は分割の決議に異議を有し、会社にその株式の買取を求めるとき。 (4) 株主が株主総会で行った会社合併又は分割の決議に異議を有し、会社にその株式の買取を求めるとき。
  (5) 株式を上場会社の発行した株券に転換可能な会社債券の転換に用いること。
  (6) 上場会社が会社の価値及び株主の権益を守る必要がある場合
会社は、前項第1号から第3号までの原因により自己株式を購入する場合、株主総会の決議を経なければならない。
会社が前項の規定に従い自己株式を購入した場合で、第1号に該当するときは、購入から10日以内に消却しなければならない。第2号、第4号に該当するときは、6か月以内に譲渡又は消却しなければならない。
会社は、前項第1号、第2号の規定する事情により自己株式を購入する場合、株主総会の決議を経なければならない。会社が前項第3号、第5号、第6号の規定する事情により自己株式を購入する場合、会社定款の規定又は株主総会の授権に基づき、3分の2以上の董事が出席する董事会会議の決議を経ることができる。
会社が第1項の規定に従い自己株式を購入した場合で、第1号に該当するときは、購入から10日以内に消却しなければならない。第2号、第4号に該当するときは、6か月以内に譲渡又は消却しなければならない。
会社が第1項第3号の規定により購入する自己株式は、当該会社の発行済株式総額の5%を超えてはならない。購入に用いる資金は、会社の税引き後利益から支出しなければならず、購入した株式は1年以内に従業員に譲渡しなければならない。 第3号、第5号、第6号の事情に該当する場合、会社が合計で保有する自己株式数は当該会社の発行済株式総額の10%を超えてはならず、3年以内に譲渡又は抹消しなければならない。
  上場会社は、自己株式を購入する場合、「中華人民共和国証券法」の規定に従い情報開示義務を履行しなければならない。上場会社は、本条第1項第3号、第5号、第6号の規定により自己株式を購入する場合、取引を証券取引所に集中させ、公開的に実施しなければならない。
会社は、自己株式を質権の目的物として受け入れてはならない。 会社は、自己株式を質権の目的物として受け入れてはならない。

② 全国市場監督管理動産抵当登記業務システム応用テスト業務の展開に関する通知(国家市場監督管理総局(旧「工商行政管理総局」)、2018年7月25日発布)

 国家市場監督管理総局は、商事制度改革の一環として、動産抵当登記の情報化、規範化、便利化の更なる推進を目的として、2018年5月22日に「全国市場監督管理動産抵当登記業務システム応用テスト業務の展開に関する通知」を発布しました。一部の地区[1](以下「テスト地区」といいます。)において、企業又は個人経営者が動産抵当についてインターネット上で登記を行うことができ、国家市場監督管理総局での窓口登記手続を行う必要がありません。当該通知の要点は以下の通りとなります。

  1. 「インターネット+政務サービス」を推進し、全国市場監督管理動産抵当登記業務システム(以下「システム」という。)を通じて動産抵当登記のオンライン申請、オンライン審査、オンライン公示、オンライン検索の全プロセスをウェブサイト1つで実現する。テスト地区における運用を通じて、システムの応用を強化し、操作フローを完備させ、実務経験を豊かにすると共に、システム機能を最適化し、高効率かつ利便性の高い動産抵当登記を行う方法を検討し、全国において応用システムを普及するための基礎を築く。
  2. 応用システムを通じて動産抵当登記を行う場合、「物権法」の規定を厳格に遵守し、「動産抵当登記弁法」の要求に基づき、抵当権設定者の住所地管轄の工商、市場監督管理部門が当事者の提出すべき書類に対して審査、登記、公示を行う。システムを使用して登記を行うことは、より便利な方法であり、システムが審査して承認した「動産抵当登記書」等の文書は、窓口において受理された文書と同等の効力を有する。
  3. システムを全面的に応用し、申請者又はその委託した代理人は、オンライン記入→登記機関の受理・審査→審査通過で登記(審査不通過で却下)→関連情報の公示というフローに基づく動産抵当登記業務を行う。

③ 民法総則の訴訟時効の適用に係る若干の問題に関する司法解釈(最高人民法院、2018年7月18日公布、2018年7月23日施行)

 最高人民法院は2018年7月18日に「『中華人民共和国民法総則』の訴訟時効の適用に係る若干の問題に関する司法解釈」(以下「本解釈」といいます。)を公布しました(同月23日施行)。本解釈は、2017年10月1日に施行された中華人民共和国民法総則(以下「民法総則」といいます。)において、訴訟時効が3年間に延長されたものの、中華人民共和国民法通則(以下「民法通則」といいます。)において依然として訴訟時効を2年間とする規定が廃止されていないことを受け、これらの間の適用関係を明確にするために公布されたものとなります。民法総則の施行時点を基準に判断を行うと同時に、当事者間の意思の尊重や訴訟時効の満了に対する期待の保護を明確にすることにより、「民法総則」及び「民法通則」の間の適用関係を明確にしています。具体的な規定は、以下の通りとなります。

  1. 民法総則が施行された後に訴訟時効の計算が開始される場合、民法総則第188条の3年間の訴訟時効期間の規定を適用しなければならない。当事者が民法通則の2年間又は1年間の訴訟時効期間の規定の適用を主張する場合、人民法院はこれを支持しない。
  2. 民法総則の施行日までに、訴訟時効期間(民法通則の規定する2年間又は1年間)が満了せず、当事者が民法総則の3年間の訴訟時効期間の適用を主張する場合、人民法院はこれを支持する。
  3. 民法総則が施行される前に、民法通則の規定する2年間又は1年間の訴訟時効期間が既に満了し、当事者が民法総則の3年間の訴訟時効期間の規定の適用を主張する場合、人民法院はこれを支持しない。

 なお、民法総則の施行日までに時効中止の原因がなお解消されない場合、民法総則の訴訟時効の中止に関する規定を適用しなければならないとされています。また、本解釈の施行後、事件がなお第一審又は第二審にある場合には本解釈を適用するが、本解釈の施行前に既に結審した場合には、再審に付されても本解釈を適用しないとされています。

3. インターネット関連

「電子商務法」(中華人民共和国主席令第7号、2018年8月31日公布、2019年1月1日施行)

 2018年8月31日、審議を重ねてきた「電子商務法」は、その4つ目の草案をもって、中華人民共和国第十三回全国人民代表大会常務委員会第五次会議において可決かつ公布されました。2019年1月1日の施行を目前に控え、同法は、中国における初めての電子商取引(中国語では「電子商務」)に関する一般法としてだけではなく、多角化する中国における電子商取引の現状を意識した法令として注目されています。

 電子商務法は、「総則」、「電子商取引経営者」、「電子商取引契約の締結及び履行」、「電子商取引の紛争解決」、「電子商取引の促進」、「法的責任」及び「附則」の7つの章、合計89か条から構成されています。本稿では、主に同法の適用範囲・対象や電子商取引経営者の義務等について概説します。

(1) 適用範囲・対象

 電子商務法は、中国国内における電子商取引(インターネット等の情報ネットワークを通じて商品を販売し、又はサービスを提供する経営活動)に適用されると定められています(電子商務法第2条第1項、第2項)。

 電子商務法の規制対象は、インターネット等の情報ネットワークを通じて商品販売又はサービス提供に係る経営活動に従事する自然人、法人及び非法人組織であり、具体的には下表の①~③を指すとされています(同法第9条)。

電子商取引 インターネット等の情報ネットワークを通じて、商品を販売し、又はサービスを提供する経営活動
   但し、金融商品・サービス、コンテンツサービス(情報ネットワークを利用してニュース情報、音声・映像番組、出版、文化作品等を提供するサービス)を除く
電子商取引経営者 ①   電子商取引プラットフォーム経営者(例:amazon、天猫(Tmall)、京東商城、淘宝網)
②   プラットフォーム内経営者
③   自前のウェブサイトやその他のネットワークサービスを通じて商品を販売し、又はサービスを提供する電子商取引経営者(例:自社ウェブサイトでの販売を行う企業、ソーシャル・ネットワークを通じて販売を行う個人)

(2) 電子商取引経営者の義務

 電子商取引経営者は必要な行政認可を取得すると共に、市場主体登記[2](法人であれば営業許可証)を行い(電子商務法第10条、第12条)、そのホームページの目立つ場所にこれらの情報を表示しなければならないとされています(同法第15条第1項)。また、電子商取引経営者のうち、電子商取引プラットフォーム経営者は、当該プラットフォームに出店するプラットフォーム内経営者に個人・企業情報等を提出させるのみならず、これを記録し、かつ、当局に届け出なければならないとされています(同法第27条第1項、第28条第1項)。

 現在中国では、ソーシャル・ネットワーク(例:微信(WeChat))、ライブ放送(例:優酷(Youku)、微博(weibo))、C to C電子商取引プラットフォーム(例:淘宝網)等様々なプラットフォームを通じて電子商取引に従事している個人が非常に多く存在していますが、個人に対しては登記が義務付けられていないため、当局による監督管理や税務当局による捕捉が難しい状況にあります。しかし、電子商取引に従事する個人も「電子商取引経営者」として同法の規制対象となるため、これらの個人も原則として市場主体登記を義務付けられることになります[3]

 その他電子商取引経営者が負うべき主な義務は、下表の通りです。

消費者保護 <正確な情報の提供及び虚偽宣伝の禁止>
   商品・サービスの情報を全面的に、ありのまま、正確に、遅滞なく開示しなければならない(第17条)。
   虚偽の取引、ユーザーレビューの偽造等の方法による虚偽の、又は誤解を惹起する宣伝の禁止(同条)[4]
<価格差別の防止>
   消費者の趣味愛好、消費習慣等の特徴に基づき商品販売・サービス提供を行う場合、当該消費者の特徴と関係ない選択肢も同時に提供しなければならない(第18条第1項)[5]
<抱き合わせ販売に関する注意喚起>
   抱き合わせ販売を行う場合には、目立つ方法により消費者の注意を喚起し、抱き合わせ販売を黙示的に同意されるものとしてはならない(第19条)。
競争法関連    市場支配的地位[6]を有する電子商取引経営者は、当該地位を濫用し、競争を排除・制限してはならない(第22条)。
個人情報保護    ユーザー情報の照会、修正及び削除並びにユーザーアカウントの削除に関する方法・手続について不合理な条件を設けてはならない(第24条第1項)。
   上記照会、修正及び削除の申請を受けた場合、本人確認後遅滞なく対応しなければならず、ユーザーアカウントの削除の申請については直ちに対応しなければならない(同条第2項)。

(3) 電子商取引プラットフォーム経営者の義務

 電子商取引は、一般的に電子商取引プラットフォーム経営者を中心に展開されるため、電子商取引におけるその役割は非常に重要といえます。電子商務法は、電子商取引プラットフォーム経営者が電子商取引に及ぼす影響の重大さに鑑みて、(2)で述べた電子商取引経営者の義務のほか、電子商取引プラットフォーム経営者に対して更に様々な義務を課しています。

 主なものは下表の通りです。

プラットフォーム内経営者に対する監督義務    プラットフォーム内経営者に関する情報等の確認・届出(第27条第1項、第28条第1項。(2)参照)
   プラットフォーム内経営者による無許可経営及び違法商品販売・サービス提供の通報等(第29条)
ネットワーク安全保護義務[7]    ネットワークの安全及び安定的な稼働を保証し、ネットワーク違法犯罪活動を防止し、ネットワーク安全事件に有効に対応し、電子商取引の安全を保障しなければならない(第30条第1項)。
   ネットワーク安全事件に対する緊急時対応策を作成し、ネットワーク安全事件発生時には直ちに当該対応策を実施し、救済措置を採ると共に、当局に報告しなければならない(同条第2項)。
情報保存義務    プラットフォームにおける商品・サービスの情報、取引情報を、情報の完全性、秘密保持性及び利用可能性を維持し、3年以上保存しなければならない(第31条)。
   プラットフォーム内経営者が販売する商品又は提供するサービスに対する消費者の評価を削除してはならない(第39条第2項)。
競争法関連    (市場支配的地位の有無にかかわらず)サービス合意、取引規則、技術等の手段により、プラットフォーム内経営者のプラットフォーム内での取引、取引価格等に対し不合理な制限を加え、不合理な条件を付加し、又は不合理な費用を徴収してはならない(第35条)。
消費者保護    プラットフォーム内経営者が販売する商品又は提供するサービスが身体・財産の安全を保障するための要請に適合していないこと及びその他の消費者の適法な権益を侵害する行為があることを知り、又は知りうるべき場合において、必要な措置を講じなかったときは、法によりプラットフォーム内経営者と連帯して責任を負う(第38条第1項)。
   消費者の生命・健康に関する商品・サービスについて、プラットフォーム内経営者の資格に対する審査義務を尽くしておらず、又は消費者に対する安全保障義務を尽くしていない場合、消費者に生じた損害について法的責任を負う(同条第2項)。
   いわゆるリスティング広告については、「広告」である旨明示しなければならない(第40条)。

(4) 知的財産侵害に関するセーフハーバー

 権利侵害に関する免責を定めた措置(いわゆるセーフハーバー)について、「権利侵害法」(2010年7月1日施行)第36条第2項及び「情報ネットワーク伝達権[8]保護条例」(2013年3月1日改正施行)第14条等にも類似の規定が置かれていますが、前者は権利侵害一般に関するもの、後者は公衆送信権に関するものとなっています。電子商務法では、知的財産権全般に対する侵害に関するセーフハーバーに係る規定が置かれており、電子商取引プラットフォーム経営者は、次の手順を経ることで、知的財産権の侵害行為がある旨指摘されているプラットフォーム内経営者に対する必要な措置(後述)を講じなくても責任を免れることができます。

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① 知的財産権の侵害の存在を判断した権利者(以下「権利者」という。)は、電子商取引プラットフォーム経営者に対し、必要な措置(削除、ブロック、リンク切断、取引・サービスの終了等)を講じるよう通知することができる(電子商務法第42条第1項)[9]

② 上記通知を受領した電子商取引プラットフォーム経営者は、遅滞なく必要な措置を講じ、かつ、当該通知をプラットフォーム内経営者[10]に転送しなければならない(同条第2項)。

(遅滞なく必要な措置を講じなかった場合、損害の拡大部分につきプラットフォーム内経営者と連帯して責任を負う。)

③ 上記通知を受領したプラットフォーム内経営者は、権利侵害行為不存在の表明を提出することができる(同法第43条第1項)[11]

④ 上記表明を受領した電子商取引プラットフォーム経営者は、当該表明を権利者に転送し、かつ、関係主管部門に申し立て、又は人民法院に提訴することができる旨を権利者に知らせなければならない(同条第2項)。

⑤ 上記表明が権利者に到達してから15日以内に、権利者から申立済み又は提訴済みの通知を受領しなかった場合には、電子商取引プラットフォーム経営者は、必要な措置を遅滞なく終了させなければならない(同条項)。

 但し、安易な通知によりプラットフォーム内経営者の利益が損なわれることを防ぐため、通知の誤りによりプラットフォーム内経営者に損害を与えた場合には、権利者は、民事責任を負うとされています(電子商務法第42条第3項)。また、悪意をもって誤った通知を発送した場合には、権利者は、発生したプラットフォーム内経営者の損害について、倍の賠償責任を負うとされています(同条項)。


[1] 北京市、上海市、遼寧省、江蘇省、浙江省、広西チワン族自治区、陝西省及び武漢市となります。

[2] 但し、個人が自家製の農産物及びその副産物や家内工業製品を販売する場合、個人が自己の技能を利用して許可を取得する必要のない他人のための労務活動や零細少額取引活動に従事する場合等には、主体資格登記が不要とされています(電子商務法第10条)。

[3] 電子商取引経営者は、納税義務を履行しなければならないことも、電子商務法において明確にされています(同法第11条)。

[4] 2018年1月1日に施行された新「不正競争防止法」にもかかる宣伝行為を禁じる規定が置かれています(同法第8条)。

[5] ビッグデータを利用した価格差別行為を防止するための規定と考えられます。

[6] 「市場支配的地位」の判断要素として、「技術的優位、ユーザーの数量、関連業種に対する支配力その他電子商取引経営者に対する他の経営者の取引上の依頼程度」と定められています。

[7] 「インターネット安全法」においても、同様の規定が置かれています(第10条、第25条)。

[8] 日本の著作権法における「公衆送信権」に相当します。

[9] 但し、当該通知には、権利侵害を構成する初歩的な証拠が含まれていなければならないとされています。

[10] 条文上明らかではありませんが、権利者が①の通知において権利侵害者として指摘しているプラットフォーム内経営者を指すと思われます。

[11] 但し、当該表明には、権利侵害行為不存在に関する初歩的な証拠が含まれていなければならないとされています。

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