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【07-03】中国科学技術協会斉譲副主席が語った、人材育成のための環境作りに取組む科技協会

2007年3月20日優秀人材の表彰や評価制度に独自の方針

馬場 錬成(中国総合研究センター センター長)、内野 秀雄(中国総合研究センター フェロー)

優秀人材の表彰や評価制度に独自の方針

 中国の自然科学、技術科学、工学技術または関連分野の167の全国的な学会を取り仕切り、科学技術の発展と普及の促進を目的とする31の省クラスの科学技術協会と多くの地方、下部組織、430万あまりの会員を擁する中国科学技術協会は、中国の科学技術行政と研究現場の中核に位置している。

 組織運営で活躍する斉譲副主席は、人材育成などでどのような考えと指導をしているのか。中国総合研究センターの馬場錬成センター長は、このほど北京で斉副主席と会見してその考えを伺った。二人は東京で一度会見しているが、十分に話を伺えなかった。今回は超多忙な斉副主席に貴重な時間を割いて頂き、再度インタビューの機会を持った。その報告をする。

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日本も中国も科学技術を発展させ、イノベーションを行うには、人材育成が重要だと思います。中国科技協会に7つあるミッションの内、「青少年に対する科学技術教育活動を展開し、全国民の科学的な教養を高める」「優秀な科学技術者を奨励し、人材を推薦する」「継続教育と育成訓練を行う」という3つのミッションが人材育成に関わっているのは、科技協会が人材育成を重要な戦略目標に据えていることを物語っています。科技協会がどのように人材育成に取り組んでいるかお聞かせください。

 「社会、経済の発展は科学技術に頼らねばならず、科学技術の発展はイノベーションに頼らねばならない。イノベーションを行うには人材が必要であり、人材を育成するには環境がなければならない。中国科技協会は科学技術者の組織であり、各分野における人材育成の重要性を認識している。次世代へとつなぐ青少年人材、各専門技術分野の人材、研究開発や技術移転を行う人材、そして中国は農業に大きく依存しているので、農業研究を行う人材、といった様々の人材を育てるための環境作りに、科技協会が推進している学術交流や科学技術普及活動が大きく貢献している」

 斉副主席によると、科技協会は176の全国学会、430万人の個人会員を持っている。一年に一回開催される中国科技協会年次総会は今や中国科技協会が行っている全国規模の最重要学術活動の一つとなっており、異分野、異業種、異なる地域の会員同士の交流を促進し、科学技術普及活動の場となり、人材育成のプラットフォームとなっているという。

 「中国科学技術協会2005年度学術年次総会は2005年8月新疆で開催され、全国から約7000人の関係者が総会に参加した。メイン会場と51の分科会会場で、分野を越える各種学術研究会、学術フォーラム、シンポジウム、博士年会、ポスドク学術年会といった全国規模の学術交流活動および科学技術普及活動が盛大に行われた。また新疆の発展をテーマとするいくつもの特別シンポジウムも同時に開催され、地元の産業振興発展にも大きく貢献している」

 2006年度中国科学技術協会年次総会は同年9月北京で開催されたが、6000人以上の関係者が参加した。こうした全国規模の年次総会とは別に、各省・市レベルの科技協会の年次総会や業界別の学会、年会、または「東北振興フォーラム」、「西部発展フォーラム」といった地域の学術交流活動も全国各地で活発に繰り広げられており、それぞれの地域における会員同士の学術交流を促し、科学知識の普及および人材育成のための環境作りに貢献しているという。

 「科技協会は他にも人材育成につながる様々な施策を講じている。2年に1回、突出した業績を上げた優秀な青年100人を表彰しているのもこうした優秀な人材がどんどん輩出することを奨励するのが目的だ。

 学術交流は人材育成にとっても大変重要である。科技協会は毎年各種国内外の科学技術会議を開催し、学術交流を推進している。863ハイテク研究や973重点基礎研究などのような国家重点プロジェクトに若くて有望な人を積極的に登用し、仕事を通じて勉強させ、人材を育てている」

 斉副主席によると、現在海外留学経験を持つ帰国者、所謂「海帰族」が多くなっている。以前は帰ってくれば皆仕事に就けたが、今は選ばれる側に立つケースがあり、採用されるのを待たなければならない、所謂「海待族」が現れている。また、留学の低年齢化が進んでいる。さらに、現在国内在学の大学生は約2300万人いるので、就職難の傾向が増している。そのため、継続教育と育成訓練を行うことが重要だと言う。

 「科学技術分野でも残念なことに、倫理・道徳に反する捏造や盗作などといった不正事件が発生している。不正を正し、学風を整えてこそ、科学技術に従事する人たちの合法的な権益を守ることが出来、真の人材育成につながるものだ。中国は全体としてまだまだ人材が不足している。中国科技協会は、人材が育つ環境を作るために、学術交流のプラットフォームを構築し、学風の規範化に取り組み、科学技術者の合法的な権益を守ることを自らの役目と自任している。日本は中国の参考となる良い経験をたくさん持っている。

 例えば、『科学未来館』の造り方が一般人を対象にして設計されており、国民の科学知識の普及・増進に大いに役立っていることが大変参考になる。科技協会としては、実務レベルで日本と科学技術分野での協力、交流を一層深めて行きたいと願っており、また協会に対する提案を歓迎する」

日本では、政府が年間約3.4兆円の研究費負担をしているが、研究成果に対する評価方法が議論されており、問題になっています。中国では研究者に対する評価はどのように行われているのでしょうか。

 「研究成果に対する評価は2つあると思う。1つ目が、研究プロジェクトの価値についての評価であり、2つ目が、研究者に対する評価だ。

 科技協会では、プロジェクトを批准した人にプロジェクトに対する評価に責任を持ってもらうことにしているが、評価する際、予め評価指標を定め、専門家チームに評点をつけてもらって、順位を決めてもらうことにしている。しかし、この場合、2つの問題がある。1つ目は、評価指標が適切かどうかであり、2つ目は、誰に評価してもらうかということである。人が変われば、点のつけ方が変わるという問題があるからだ」と斉副主席が指摘する。

 科技協会の下に12の専門委員会が設けられている。専門委員会の委員は殆ど科技協会の常務委員を務めており、プロジェクト毎に推薦を受けて総合評価委員会の評価メンバーを務めるので、外部の人に評価を頼むことはあまりない。評価メンバーには、公平、公正なプロジェクト評価を求められている。

 研究者の評価に関しては、違法行為について細かい罰則規定が定められ、一般に公表されている。違法行為の程度によって、研究費を取り戻したり、研究者を追放したりするケースがある。

 一方、科学技術の発展や経済・社会の進歩に寄与し、大きな市場価値をもたらす科学的発見や技術的発明をし、優れた研究成果を上げた研究者には報奨制度が適用されることがある。

 『国家最高科学技術賞』の賞金額は500万ドルである。そのうちの50万ドルは個人所得となり、残りの450万ドルは研究経費に当てられる。この他にも、経済・社会への貢献度に応じて、『技術発明賞』『科学技術進歩賞』『基礎研究賞』といった様々な表彰がある」

ホームページに紹介されている『科学技術進歩賞』などの募集要項によると、受賞するには関係機関または『国家最高科学技術賞』受賞者、科学院院士、工程院院士といった個人推薦人有資格者の推薦状および政府関係機関発行の科学技術成果鑑定証、科学技術成果登録証といった書類に受賞申告書を添えて応募することが必要だと言いますが...

 「受賞者の決定は総合評価委員会によって、審査基準に照らして、同業者の評価や推薦内容などを参考にしながら行われている。受賞に関する評価のほかに、職場での昇進、昇給に関する人事評価も行われており、その場合、被評価者の論文発表数、発表論文の被引用数、または受賞経験なども評価の参考とされる」

 中国では、大学に対する評価として順位がつけられているが、国がオーソライズしたものではなく、社会の評価が主体である。社会は何をもって大学を評価しているだろうか。その大学の卒業生の就職状況や卒業生の業績をもって評価するのも一つの指針になるのではないか。

 やはり公正な評価は難しい。中国も評価の方法を模索中である。一つの方面でよかったら、他の方面で不満が出ることがよくあるので、日本によいアイディアがあったら、是非紹介してほしい」

インタビューを終えて(馬場錬成記)

 斉譲副主席に初めてお目にかかったのは東京に来られた時だが、初対面の時からどこか親しみのあるお人柄を感じていた。2度目にお会いした北京では、10年の知己のように感じた。

 中国では、食卓を囲んで談論することで親交を深める文化がある。北京での斉副主席は、10人近くのスタッフを引き連れて歓迎の夕食会を開催してくれた。そのとき、さまざまな話題で話し合ったが、驚いたことにどのスタッフも副主席に遠慮しないで個人の意見を堂々と述べていることだった。

 科技協会は全国176の学会、430万人の個人会員を束ねる中国学術活動の最大の拠点である。そのトップの一角に座っているリーダーに対しても対等に意見を述べることができるのは、副主席が地位や権威から離れたお人柄だからではないか。温厚な表情には、人の意見に耳を傾ける雰囲気が出ている。

 しかしインタビューでは、厳しい言葉が飛び出した。科学者の間で倫理・道徳に反する捏造や盗作などといった不正事件が発生していることを語ったときである。「不正を正すことで真の人材が育つ」と発言した言葉の端には、斉副主席の公正で揺るがない姿勢がみなぎっているように感じた。

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斉譲副:

斉譲副主席は清華大学で無機化学非金属材料を専攻、中国科学技術大学大学院で管理科学を勉強された後、清華大学化学部で教えながら科学研究に従事。1981年、国家科学委員会に転任、工業技術局処長、工業科学技術司副司長、財務司長を歴任。1999年科技部発展計画司長、弁公庁主任。2004年科技日報社社長(副大臣クラス)。2005年中国科技協会書記処書記、2006年6月から現職に就任している。