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【07-05】7000人を越えた中国の弁理士資格者数~中国弁理士協会の馬連元 会長にインタビュー

2007年6月20日

外国出願もできる渉外専利代理事務所は170に増加

 中国の知財活動は急速に進展している。特許、実用新案、意匠、商標などの出願が増加を続けており、世界各国からの工場移転によって中国は世界の工場と言われるようになる。同時に中国の研究開発も活発化しており、その成果は知財権利として拡大する一方である。知財活動の中核に位置する中国弁理士協会・馬連元会長に中国の知財活動の現状を聞いた。

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―中国の知財の制度や弁理士活動についてお伺いしたい

 中国の専利法は日本の特許法とはちょっと違う。中国の専利法は特許、実用新案、意匠の3つの権利を包括した法律になっている。1984年に制定し、85年4月に施行されたばかりだから、まだ22年しか経過していない。これまで1992年と2000年の改正を経てかなり整備され、先進国と遜色ない法制度になってきた。

―弁理士会も専利法施行から活動しているのか

 その通りだ。法の施行と同時に専利代理人の制度も作られ、法律と同時に弁理士制度が動きだした。これにはエピソードがある。 

 私は1979年から80年にかけて、日本の特許庁で研修を受けた。そのときの特許庁の先生(審査官)からこう言われた。

「中国で特許制度を軌道に乗せるには特許法の施行、審査官の充実、特許文献の作成が重要なことだ。それと同時に大事なことは特許出願の代理人の養成だ。中国でも弁理士制度を作って機能するようにすることが重要だ」 

 この言葉が非常に印象深かった。中国に帰国してからも、知財制度を作る場合は、弁理士制度を作らないとだめだと折にふれて提案した。

 発明特許を創出しても、それを出願して権利化するにはどうしても弁理士の手助けが必要だ。弁理士が介在しないと、出願しても権利化するのが大変だからだ。

―現在、中国の弁理士制度はどのようになって運営されているのか

 弁理士試験は国家試験になっている。国家試験は2年に1回実施されていたが2006年から毎年実施されるようになった。

 合格者は、2年1回約300人だったが、2006年の合格者は一挙に700人以上になった。今後毎年、700人くらいの合格者になるだろう。いま中国では、知的財産権の出願数が年々増えている。2006年の特許、実用新案の3つの合計出願数は57万件以上になった。どうしても弁理士が必要になっている。

―弁理士の活動状況はどのような状況か

 06年末までに弁理士資格を取得している人は、7000人を超えている。このうち特許事務所で職業弁理士についている人は4700人以上となった。残りは企業の知財部などで活動するいわゆる社内弁理士である。 中国の特許事務所はいま630になった。このうち外国の出願ができる渉外専利代理事務所は170に増えた。将来は、内外の区別がなくすべての事務所が外国出願なども取り扱えるようになるだろう。

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―中国の弁理士活動と日本の弁理士活動は共通点があるか

 日本の弁理士活動との共通点が多い。違いがあるのはどちらかの法律の影響だけではないか。たとえば日本の弁理士は、試験を受けて合格すると訴訟代理人としては弁護士と法廷に出られるが、中国では弁理士は公民代理として出廷することができる。これは単に制度の違いである。

 また、中国の特許事務所は内外の出願で分けているが、これは諸外国と違う。中国知識産権局(中国特許庁)で審査官を7年勤めると弁理士資格が取得できるがこれは日本に習ったことである。

―企業内弁理士はどのような活動をしているのか

 社内弁理士の仕事は、出願して権利化することが第一であり、外国や他企業とのライセンス契約、侵害訴訟などを担当している。すべて弁理士たちがするとは限らないが、大きな役割をしている。

 社内弁理士の数も活動状況も会社の規模によってずいぶん違う。知財を重視している大手家電メーカーのハイアール(海爾)は、100人くらいの知財に携わるスタッフがいたと聞いているが今は分からない。いま一番多いのは、通信メーカーのファウエイ(華為)だろう。最近ファウエイの副総裁に会ったときに聞いた話では、社内で知財に携わっている社員は1000人を越えていると言っていた。 

 ファウエイの本社に数百人、世界各地にある研究開発拠点や子会社などを含めると1000人という数字になるようだ。 

―中国の弁理士の年齢層は?

 いまの受験者は若い人が多い。大学や大学院を出た人が多い。すでに事務所で働いていて数年たった人で合格した人もいる。合格率の高いのは、特許事務所などで数年間のキャリアを積んだ人だ。合格者では大学・大学院の新卒者は少ない。30歳前後が合格率が高い。

―日本では弁理士試験に合格しても、実務ができないので十分に活動できないという話を聞くが中国ではどうか。

 まったく同じだ。弁理士資格がなくても特許事務所で実務を担当してきた人の方が、仕事ができるということもある。特許事務所で実務ができても弁理士試験になかなか合格しない人もいる。これは日本も同じと聞いている。弁護士でも同じ事情と聞いている。 

 弁理士試験はペーパー試験だけではなく、実務もかねた試験制度の導入がいいのではないかといわれているが今後の課題だ。 

 弁理士試験合格者は国家知識産権局より弁理士資格者証明書を発給されるが、特許事務所で一年間実習をして、なおかつ中国弁理士協会が国家知識産権局に代って実施する職場内訓練(OJT)に参加した後でないと、職業弁理士資格証明書を取得することができない。この職業弁理士資格書がないと、アシスタント、助手として働くことしかできない。

―特許明細書に記述される文言に誤訳があって、権利を行使できないという問題が出ているようだ。誤訳問題について伺いたい。

 明細書に書かれている請求項の内容が、誤訳によって違ってくることは重大な問題だ。これは言葉の壁であり、日本企業や特許事務所の共通の悩みだ。翻訳だから、誤りをゼロにすることはかなり困難だ。極力少なくするのが共通の課題であり、努力している。日本企業も協会も同じ悩みだ。

 誤訳の問題は大変なことだと受け止めており、改善しなければならない。いくら仕事が忙しくても十分にチェックしないのは無責任だ。私たちは翻訳の時に必ず2人以上がチェックする。仕事が忙しくても質を落としてはいけない。事務所の責任でやるように徹底している。

―中国の特許事務所に出願を委託すると値段が高いという日本企業の不平を聞くことがあるが、この点はどうか。

 価格の問題は微妙な問題だ。特許事務所の費用の状況などを調べて価格のガイドラインを出したことがある。値段を下げてめちゃくちゃな価格破壊になると困る。過当競争を避けたい。価格は安ければいいというものではない。価格を落としても権利がとれないのでは困る。価格は合理的にやっている。

 昔は外国の企業の出願を扱える特許事務所が少なかった。数か所しかなかった時代もある。だから顧客は選択できなかった。今は170か所もあるので、選択してもらいたい。

―特に日本の中小企業は限られた予算で知財活動をしている。中小企業にとって中国での費用は大きな負担になっているようだ。

 日本の中小企業が中国で特許の権利化を図るということは大事なことだ。 日本の中小企業から相談を受けたことがある。特許を中国に5件出したいが費用の関係で3件にしたいという相談だった。

 話を聞いてみると、なかなかいい発明であり「これは出願しないとだめだ」と返事をし、費用の点も企業と十分に相談したことがある。

―日本の大学院生の中にも中国の特許事務所でインターンシップをしたいという人もいる。こうした人材を受け入れてもらえるか。

 これはいいことだと思う。彼らを受け入れる事務所はあると思う。日本人が翻訳をチャックするなら助かる部分もある。また大学生にも中国の知財の制度や現状を学んでもらえれば双方にとってメリットがある。

インタビューを終えて

 北京でインタビューを行った日、ちょうどドイツから知財代表団49人が北京を訪問しており、馬会長は対応の時間の合間を縫って会見に応じてくれた。「日本弁理士会からご紹介があったので時間をやりくりしてお会いしました」と率直に語った言葉が印象的だった。

馬会長は、日本の特許庁で研修をした経験があるので、知日家であり日本の弁理士にも知人が多い。率直で飾らない人柄という評判を聞いていたので、初対面とは思えない和やかな雰囲気で話を聞くことができた。

馬会長は、「日本と中国は一衣帯水の間であり交流の歴史は長く、文化も非常に深い関係だ」と語り、欧米より近い国なのでより深い交流があってもいいと語る。「知財の保護について両国の理解を深めることは、国民経済の発展、貿易でも非常に大事だ」と強調する。

この日は、ドイツからの代表団との応対スケジュールに追われており、あわただしい雰囲気だったが、また話を聞く機会を持つことで別れた。

(このインタビューは、5月14日に北京で行われた。会見したのは、馬場錬成・中国総合研究センター長、内野秀雄同フェロー、渡邊格・JST北京事務所代表である。)